9話 流線形の現実
私――アレクシア・ミドガルは今、ある場所へ向かうべく、学園の廊下を歩いている。別に大したことではないのだが、
「……大袈裟だっての。たかだか手首を痛めたくらいだっていうのに」
彼の心配は最もなのだが、どうにも私はアイツを好かない。非の打ち所がない性格に、真っ当な地位と戦闘力。どれをとっても完璧な男。そんな奴と婚約できるなら、願ってもない話だと思うだろう。普通なら。
「欠点が無さ過ぎて気持ちが悪いったらありゃしないもの」
考えれば考えるほど不愉快になっていく中、ついにある扉の前で足を止める。そう、あの婚約者に関しても不愉快だが、それとはまた別の意味で苦手な相手と顔を合わせなくてはいけなかった。
「……苦手なのよね、あの人」
一瞬ためらうかのように、扉に伸ばした手を引っ込めかけるも、意を決して、表札に『医務室』と書かれた扉にノックをする。
コンコン
「どうぞ」
医務室にいるであろう人物の返事を聞いてから、扉を開けたのだった。
「失礼します。こんにちわ、――アスタルテ先生」
「こんにちは、アレクシア・ミドガル王女」
私を『アレクシア・ミドカル』と丁寧なフルネームで呼ぶ医師——アスタルテ先生は、相変わらず無表情に返事をする。青い髪を靡かせ、その碧眼と幼さの残る顔立ちは、同性である私も一瞬目を奪われる。あの髪色は昔、肉体の色素がどーのこーのって先生が言っていたけれど、私は生憎その専門ではないので詳しくは知らない。
今はそんなことより、ここに用があって来たのだ。
「もう先生ったら、いつも言っているじゃありませんか。学生の私には呼び捨てで構わないって」
本当にそうして欲しい。確かに、本来私はこのミドガル王国の第二王女という立場である。が、それは本来の立場として、だ。今の私は貴族学校に居るとはいえ、例に漏れず一介の学生なのだ。そう畏れてはこちらがむず痒くなる。なのに……
「受諾拒否。仮にも王族の皇女に無礼を働くことは出来ませんので」
……これだ。これがあるからこの人にはほんの少し苦手意識がある。敬う気持ちが無いわけではない、というのは分かるが、彼女は本心からそんなことを考えているとは思えない。そもそも表情が変わらな過ぎて、感情が読み取れない。
「……それで、用は何でしょうか」
そうだ、忘れるところだった。
「大した怪我ではないと思うんですが、先ほど剣術の稽古をしていた時に手首を痛めてしまって……。軽い怪我だと思うんですが、一応診て欲しくて」
「
言われるがまま、私は痛めた方の腕を先生に見せる。無表情のまま、先生は指から手、手首を伝って腕の診察を行う。
「……ッ」
先生が私の手首を指圧で少し押したところに痛みが走る。先生はその都度私の方を見つつ、診察を続けていた。
「
数分による診察の結果を淡々と伝えてくる先生。
「……ほっ、良かったわ。剣が振るえなくなるとか言われたらどうしようかと思いましたよ……」
けどしばらく安静に、かぁ。体力には自信があったけど、疲労で手をやられるとは思わなかったわ。これでも身体は丈夫だと自負していたのだけれど。
「……疲労による捻挫や骨折の悪化の多くは、本人が自覚をしていない。もしくは軽視している点です。今回捻挫で済んだのは、早期発見があったから、というのをお忘れなく。」
「……うっ、以後気をつけますよ先生……」
まるで心を読んだかのように、私の手首に湿布を貼りながら、釘を刺すかのように淡々と説明する先生。表情が変わらないから感情が読みづらいけど、今のは何となく呆れてるのは分かった。
「……」
「……」
……気まずいわ。さっきも言ったかもしれないけど、私はこの人のことが苦手だ。嫌いではなく、「苦手」なのだ。
表情は変わらないし、口数は少ない。人間味、というものなんだろうか。そういうのが一切見えないのが何とも不気味だった。
「……何か?」
「あ、えっと……診てくれてありがとうございます。それじゃあ、私はそろそろ……」
と言いかけたところで、出入口の扉から、ノックする音がした。
「ゼノン・グリフィです。アレクシアの様子を見に来たのですが」
……よりによってもっと会いたくないやつが来た。
アスタルテ先生は「どうぞ」と声をかけると、扉が開き、彼が入ってくる。
「おや、医務室に運ばれたから何事かと思っていたが、元気そうで何よりだ」
「それはどうも、ゼノン先生。仮にも婚約者の私がこうなっているのに、随分とのんびりしていたんですものね」
「これは手厳しいね。これでも急いで来たつもりなんだが。私も忙しい身なんだ」
何処かわざとらしく苦笑した表情のゼノン。
そう、こいつはこの学園の剣術指南役で、私の婚約者候補だ。けど、私はコイツを嫌っている。そこの無表情の青髪の医師の方がまだ可愛げがあるくらいに嫌いだ。
「そうなんですね。剣術指南役は大変そうで、婚約どころではないのではありませんか?破棄した方がよろしいのではありませんこと?」
「それとこれとは話は別だよアレクシア。君もそのくらいわかって言っているんじゃないか?」
嫌味をにこやかに躱すゼノンに、少し苛立ちを覚える。が、ここで私よりも苛立ちを覚えているかのような声で、彼女が割って入るかのように制する。
「……痴話喧嘩をするのでしたら他所へ行くことを推奨。ここは医務室なので、用は済みましたら退出を要求します」
『痴話喧嘩』という単語に思わず反論しそうになるが、何となく冷ややかな視線を感じ、ゼノンと共に一言謝罪してから、医務室を後にする。
「それで、この後はどうするんだい?そのまま寮へ帰るなら送るけど」
「あら、いつになく優しいんですね。でも結構。自分で帰れるもの」
「……やれやれ。僕を嫌うのは構わないが、これでは王女というより子供だな」
「えぇ、まだ子供ですもの。だから——大人の事情なんざ知ったことではありませんから」
そう言って、アレクシアは寮へ戻っていった。何とまぁ毎回可愛げのないガキだと感じるが、これも私がラウンズに上がるための糧だと思えば気ほどもストレスにはならないな。それに、本題はこっちだ。
私は先程出た医務室へ目を向ける。——正確には、医務室の中に居るあの女を。
ルブラン副学長が珍しく取り乱し、アレに対して並々ならぬ警戒をしていたが、対峙してみたらどうだ。ただ無感情に話すだけで覇気も何もなく、常に仏頂面で機械的な口調以外は、何処にでもいる医師と大差ない。
試しに何回かシミュレートしてみたが、どうにもあの無感情な小娘が計画の邪魔になるとは思えなかった。
「……全く。元ラウンズも、あんな子供に臆するとは。老害はさっさと隠居して黙ってて欲しいものだが、警戒はしておくか」
——そう、全てはオレが次期ラウンズに上がるため。世界の高みへ登るために。
それを考えると笑みが溢れそうになるが、今はまだその時じゃない。
「……まぁ、アイツについてもいずれ分かるさ。所詮警戒すべきでもないただの小娘だと」
にやけた口元を隠すように手で抑え、表の顔に戻しながら、稽古場へ戻るのだった。
どうも、皆さん。アスタルテになった者です。……何と私、ミドガルとかいう国の学校でお医者さんをやっております。
て?こんなアスタルテの姿とはいえ、頭脳とか同じとは限らないのに治療やら出来るのかって?私を舐めちゃいけませんぜ皆さま方。なんと、スペックもちゃんと本来のアスタルテと同じなのです。だから、医療系なんて、現実世界の名医と同レベル!……まぁ、今まで分からなかったのに急に理解できるのはちょっと気持ち悪い感覚だけど。やっと面倒な王女様を追っ払って待機状態になりましたので、執務しつつ、窓から見える空を眺めております。
澄んだ空気、広がる青空。青々しい草原。うぅん、空気が美味しい!
月明かりだけを照らす夜空も好きだけど、やはり全てを照らす太陽の下でのんびりするのが私は一番好きですねぇ。こうして空を眺めていると、何というか……。
ガシャン!
「先生!失礼します!!ボク、実は病に侵されたんです!!」
「……何か?」
……人が感傷に耽ってる時に何だ急に。ノックもしないで入ってきやがって教えはどうなってんだ教えは!!そこの
ガキが、舐めてると潰すぞ。と、心の中でグラサンをかけます。
「ひぃ!?あの、アスタルテ先生、怒ってます……?」
「肯定。断りもなく立ち入り、医務室で騒ぐのは、医師として看過する余地がありません。……その上でお聞きします。――要件は?」
「す、すみません……!何か先生と話していたら治りました!!ありがとうございます!!……あの鋭い目つきをした先生も素敵だった……!!」
……キモ。聞こえてるからな貴様。
おっと失礼、話が脱線事故を起こしてしまいました。
こうして空を眺めていると、昔のことを思い出しますね。
……思い返すと本当に大変なことがたくさんありました。
そんなわけであれから私も色々と経験して、もうあれから10年ほど経ちました。
10年経てば人も考えも変わるってどっかの不殺のおろおろ侍も言ってましたし。まぁでもそれに影響された、というわけではないですが、私もこの10年で一つの目標というか、行動理念が出来ました。え?
何かって?それはね……。
――ディアボロス教団、根絶やしにしてやるぞ~。
ゼノンとアレクシアのやり取りを見てるアスタルテ(オリ主)「はよ出ていけ」
ちょっと外伝というか、本編で言っていた「色々あった」という部分を書きたいので、そっちを次は書くかもしれません。
感想、要望等お待ちしております。
追記:アンケート見たら「魔改造しろ」というのが多くて驚きました。良いのか!?やるぞ!?!?魔改造しちゃうぞ!?!?!?!?
章ごとに幕間と本編分けてるけど、分けない方がいいかな。(さっき確認したら言ってることがおかしかったのでアンケート訂正)
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分けずに投稿しまくれ
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ソノーマーマーデイーイー