アスタルテがディアボロス教団と接触する、数分前のこと。
「……師匠、どうしたんだろう。急に午後から出かけるなんて」
医療器具のメンテナンスをしながら、誰もいない医務室の中で私は一人呟く。
お昼休みに師匠——アスタルテさん——が「調査すべき事柄を見つけましたので、午後の業務は貴女に一任します」とだけ言い残して医務室を後にしたのだ。
「……調査すべきことってことだから、何か大きなことなんでしょうか……。……もしかして……恋愛関係とか……?」
なんて口にして、邪な考えを否定するかのように首を横にふる。
いやいや、それはあり得ない。あの師匠ですよ?無表情かつ無感情。他者に対してほぼ興味を持たないあの人が……。
なんて考えた時、あることを思い出した。
「師匠はずっと医学や魔力にお熱ですけど、人に関心を向けるとかはないんですか?」
我ながら酷い言い方だと今にして思う。
「
「ただし」、と付け加えた。——うん?
「――ゼノン・グリフィ。彼のことは気がかりだと伝えておきます」
……。
…………。
………………。
あの無感情かつ無口な師匠に春が!?
……はっ!いやいや落ち着くのよ私!もし本当なら喜ばしいことだわ!もしお相手が本当にゼノン先生だったらどうしましょう。あの人婚約者が居るって聞いたけど。
…………もしかして、三角関係!?禁断の恋!?!?あぁお師匠様!いけません!貴族の婚約は確かに政略的なことが多いですけど、それはいけません!誰も幸せになれません!!
こうしてはいられない!早く師匠に会って確かめなければ!
なんてことを考えながら支度しようとした時であった。
医務室の扉からノックがかかったので、「どうぞ」と答えると——
「――失礼します。アスタルテ医師の助手は居られますかな?」
——学園の騎士団の人らが入ってきた。パッと見たところ大きな怪我や病気を患った者は居ない。なら何の用だろうか。
「あの人の助手なら私ですが?」
笑顔を作りながら、騎士団らに対応する。彼らは何処が深刻な面持ち——のように見える表情を作りながら、あることを話す。
「――実は、アスタルテ医師に関してお話ししたいことがございまして。まだ内密にしておきたいため、場所を変えたいのですが……」
「………師匠に関して、ですか。わかりました。では場所を変えましょうか」
私は師匠に会いに行く支度を終えた後、騎士団に連れられるまま医務室を後にした。
「……ここは、人を避けるには良い場所ですね」
連れられた場所は、私と騎士団数名以外、人の気配がしない森の中。昼間ではあれば木の葉が風で揺れる音が心地良く聞こえるのだろうが、今は陽も落ちて暗闇から不気味に嗤うかのような音のように聞こえてしまう。
「……それで、師匠に関するお話とは?」
「あぁ、それでしたね……。それは……」
騎士団の一人がニヤリと笑うと、後ろから剣が振り下ろされる。
見向きもせずに避けるが、どうやら囲まれているようで、逃げ場を無くすように騎士団が私を囲んでいる。
「……何の真似でしょうか?」
「何の真似か?決まっているだろう。王女誘拐に加担した罪人アスタルテ。そしてその協力者である貴様を逮捕するためだ」
……王女誘拐への加担?意味が分からない。私たちにはアリバイがあるし、そもそもアレクシア王女が誘拐されたと思われる時刻には、師匠も私もその場には居ない。
「……証拠も無いのに決めつけですか。騎士団は随分焦っているんでしょうか」
「証拠ならあるぞ?そら……!」
相手が何かを飛ばしてくる。すかさずキャッチすると、誰かのブーツ。あ、これって……。
「おやおや助手様ぁ?魔力跡がばっちり残ってしまったなぁ?もう言い逃れは出来ないぜ?」
ブーツには
……あぁ、そういうことか。私は何処か納得した。焦っているのは騎士団ではなく、《お前たち》だったか。
「……随分と杜撰な計画ですね。騎士団。否――
「……っ!?お前、どうしてその名前を!?……いや、それなら余計にお前を生かして帰すわけには行かないなぁ!」
一瞬驚いた表情をしつつも、すぐに下卑た笑みに戻り、騎士団——もといディアボロス教団の狗たちは剣を抜く。
「おっと!下手に剣を抜いたら、お前の大事なお師匠様がどうなっても知らないぜ?」
狗の一人が、私が剣を抜こうとするのを静止するかのように叫ぶ。
「——師匠に何をした?」
「なにも?ただ向こうには『抵抗すれば弟子の命はない』って伝えてるからなぁ!そしてお前も抵抗しないことだ。もし剣を抜けば、あのホムンクルスは殺さないにしても、手足の一本や二本は切り落としちまうかもなぁ!!」
——……。私は今、どんな顔をしているんだろう。とにかく、あまりに呆れたと言わんばかりの表情が出ているのは確実なんだろうな、と心の中で呟く。
「……曲がりなりにも父が私の為に全てを犠牲にして奉仕した組織だから、目的は違えど信念を持った組織だと思いたかったわ。ただ——」
ゆっくりと剣を鞘から抜き、一歩足を進める。そして——
「こうも腐敗した掃き溜めに過ぎないとは……」
「オイ、動くんじゃねえ!動けばすぐにテメェんとこの師匠にいる部隊が——」
——その言葉を言い終わる前に、一人の騎士団の片腕を切り落とす。
「がっ、ぐあああああ!?!?俺の腕がぅあ!?」
叫んで怯んだ隙に、切り落とした腕から剣を奪い、そのまま真っ二つに切り伏せる。
「なっ!?き、貴様……!騎士団に楯突く気か……!?それに抵抗すれば、貴様の師匠とやらが——」
「二つ言っておきます。——師匠は私より強いので、人質には成りません。
もう一つは……」
右手に持った剣を的に向ける。自分では分からないけど、多分物凄く冷めた目をしてることだろう。
「……父を愚弄し、尊厳を踏み躙ったこと。そして、私の師匠を侮ったこと——地獄の底で懺悔することだ」
あ、皆さんこんばんは。アスタルテの肉体になってしまった人です。
いやぁ、まさか本当にディアボロス教団からやってくるとは思いませんでした。
ハハハ。……話が違うだろ。
何が『あなたに接触するという馬鹿なことはしませんよ(キリッ』だよ。思いっきり襲い掛かってきたんだけど。オイどういうことだこの野郎!
今度会ったら引っ叩いてやる!
とまぁそれはいいとして……。
「ば、ばかな……。この人数を、武器も無しに……」
コイツらどうしよ。
なんか襲い掛かってくるけど能力はお粗末なもので、
まぁいいか。
「……情報の開示を要求。誰の命令による襲撃か。そしてこれらが王女誘拐に繋がっているのか。それら全ての情報の開示を要求」
まぁ私が出るのを知っていて、尚且つ私が
「ふふふ、貴様は選択を間違えた。今頃お前の助手は、俺らの送った刺客によって無惨な姿にされているだろうな……。貴様が抵抗さえしなきゃ、あの助手は生きていられただろうになぁ……。もっとも、オレらのおもちゃにされる人生だろうが……!」
「…………。」
あの助手、剣術だけならゼノンとかいうクソイケメンと同格だと思うけど。魔力の扱い方に関しては徹底的に鍛えたから、それも含めたら学園内で助手に敵う相手居ないんじゃないかな。
というか情報聞き出したいのに何も言ってこない。腹立つな。
「情報の開示を要求。
「……へへ、誰が言うか……!」
……本当に困った。こういう時の拷問方法とか思い付かないんだよな。どうせ歯を折っても喋らないだろうし。……あ、めんどくさいから使うか。当てないけど、脅しにはなるだろうな。剣凪の巫女さん、こんなことに使ってごめんなさい。
「————」
ある言葉を呟く。――『
「『
シドの視点
困ったことになった。ある筋から招待状が送られてきて、その場所は林道の奥だという——のだが。
「……うん、誰もいないね」
誰もいない。人の気配も無いし、何より魔力の痕跡もない。……ポカされた?
「……シャドウ様。辺りにそれらしい気配はありません。……まさか、これは囮?シャドウ様を誘い、時間を稼ぐことが……?」
ベータが小難しそうな顔で何か呟いている。
成る程、囮。そういうものもあるのか。知る人ぞ知る実力者が、陰の実力者を警戒して遠巻きにさせる。
僕の中のポリシーには少し逸れてるけど、これもこれで趣がある。
最初はハブられてるのかと思ったけど、考え方か。これは面白いな。
「恐らく我々の動きに感づいて時間稼ぎをした可能性があります。直ぐに戻った方が——」
と、ベータが言い終わる前に大きなイベントが起きた。
「!!」
「!?」
異質な魔力。ベータは何か驚いていた。そうだった。まだ『この魔力』に出会うのは、僕がアルファ達に会う前だった。
いやぁ、僕にとっては「久しぶりに感じた魔力」だ。
「……
でも……
「夜は我らの世界。貴様らが足掻こうと、我らは貴様らのその瑣末な策すら砕く存在となろう。付いてこい、ベータ」
「は、はい!シャドウ様!」
シャドウの姿に変わり、それっぽいセリフを言ってみる。
――とは言ったものの、この後どうしよう。とりあえずあの魔力を追ってみようか。
この時シドってどうやってアレクシアのところまで行ったんやろ……。
感想、要望、誤字報告お待ちしております!
章ごとに幕間と本編分けてるけど、分けない方がいいかな。(さっき確認したら言ってることがおかしかったのでアンケート訂正)
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分けずに投稿しまくれ
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ソノーマーマーデイーイー