眷獣を宿したホムンクルスになりまして。   作:黒色ぬーめん

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久々の投稿。

そろそろタイトルが思い付かなくなってきました。


23話 善と悪との歯車が行く

それは、アスタルテが教団に気付く数分前のこと。

 

シド視点

 

午前中最後の授業が少し早く終わった。

 

 

「今から生徒会の候補者と応援の生徒会長の演説があるので、みんなまだ席を立たないように」

 

 

先生が先走る生徒に言った。

 

 

「どうでもいいけど、今3年ってどこに行ってんだ?」

 

「さぁ?」

 

 

隣のヒョロ(僕のモブらしい振る舞いにちょうどいいモブの友達)の適当な問いに、僕は欠伸をしながら答えた。

 

 

「3年生はですねぇ、今週は課外授業で……」

 

 

と、前の隣の席のジャガ(僕のモブらしい振る舞いにちょうどいいモブの友達その2)が振り返って話し始めたとき、先生と入れ替わりで2人の生徒が入ってきた。そのうち1人は知っている顔、先日のブシン祭で僕が戦った相手こと、ローズ・オリアナ生徒会長である。

 

普通の制服姿なのにオシャレな人が着ると何でオシャレなオーラが出るんだろうか。僕は度々疑問に思う。

 

そこでふと、ローズ会長と目が合った。彼女とはブシン祭の学生枠をかけての戦いの1回戦で戦ったが、ものの見事に負けた(ように見せるモブらしい場面を演出した)んだけど、無様に負けたモブのことを覚えているとしたら大したものだ。

 

なんて考えつつ、ヒョロやジャガの話し声に適当に相槌を打っていた。そのときふと、魔力の違和感に気付く。

 

 

「あれ?」

 

「どうした?シド」

 

 

僕は常に微細な魔力を体内で操り制御しているのだが、その魔力が突然練れなくなったのだ。魔力の流れを何かが阻害しているのだろうか。強引にこじ開けるか、より細くすれば練られるかも。

 

なんて考えていると、何かが近づく気配がした。

 

 

「来るッ……」

 

 

僕はなんとなく言ってみた。

 

その瞬間。轟音が響き、抜剣した黒づくめの男たちが乗り込んでくる。

 

 

「動くな!我らは『シャドウガーデン』!この学園を占拠する!」

 

 

そう言って彼らは出口を固める。

 

 

「すっげえ……」

 

 

僕は思わず声を漏らしたが、その声は周囲のどよめきにかき消された。

 

 

「席を立つな。そのまま手を上げろ」

 

 

少しずつ動き始めた生徒たちを剣で威圧する。

 

 

「ここがどういう場所か分かっていないようですね」

 

 

その中で、凛とした声が響いた。ローズ先輩ただ1人が、細剣を構えて男たちに対峙する。

 

 

「学園を占拠する?正気の沙汰とは思えません」

 

「武器を捨てろ、と言ったはずだ小娘」

 

「お断りします」

 

「そうか。なら貴様が見せしめになるか」

 

 

いけない。ローズ先輩は魔力が使えないことに気付いていない。

 

 

「……!?魔力が、どうして……」

 

 

ローズ先輩が魔力を練ろうとして、阻害されたことに動揺する。

 

 

「やっと状況が理解できたようだな。だがもう遅い」

 

 

男がローズ先輩に斬りかかろうと剣を振るわんとした。

僕の処理能力が加速し、世界が緩やかになる。

このままじゃ、確実にあの男に斬られてしまう。そして最初の犠牲者1号になってしまう。

僕の胸の中には、果てしない焦燥と怒りに満ちた。

 

その役目は……。その役目は……!

 

 

「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」

 

 

モブである僕の役目だ!!!

 

その魂の咆哮とともに、僕は二人の間に割り込み、見事に背中から斬られたのだった。痛い。

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

視点無し

 

シドに突き飛ばされ、刃を受けることなく、代わりに目の前の少年が黒装束の男に斬り伏せられた。

 

 

「そ、そんな……」

 

 

目の前には、血まみれで力なく横たわるシドの姿。

 

ローズは血まみれになるのも構わずシドを抱きしめた。ブシン祭で戦った彼の姿が、なぜか今、鮮烈に胸を刺した。

 

 

「なんで、私を……」

 

 

うっすら目を開けたシドは、ローズが無事なのを確認し、やり遂げたような表情で……息を引き取った。

 

 

「なんで……ッ」

 

 

自分の身を挺して守ってくれた少年を抱きしめ、嗚咽を堪えながら涙を流す。

 

 

「いい見せしめになったな」

 

 

その重苦しい空気を切り裂くように、シドを斬った男がローズの前に立ちはだかり、剣を突きつけた。

 

 

「……ッ!」

 

 

ローズは唇を噛み、男を睨み上げる。

 

 

「まだ歯向かう気か?」

 

「ッ……従います」

 

 

魔力も使えない中、シドが身を挺して自分を守ってくれた。この想いを、衝動で無駄にはできない。……今は、耐えて、必ず生き延びる。

 

ローズは心の中で怒りを沈める。

 

 

「ふん、今から大聖堂に移動する。ついて来ることだ」

 

 

黒装束の男たちはローズや他の生徒を大聖堂に連れて行く。教室を出る前、ローズはシドを振り返る。

 

自分を守ってくれた、その姿を。

 

 

「早く行け」

 

 

黒装束に急かされ、教室を後にする。

 

静寂に包まれた教室で、死んだはずの少年の指が、わずかに動いた。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

シド視点

 

僕は誰もいなくなったことを確認し終えると、拳で自分の胸を叩いた。

 

(動け、動けッ!)

 

何度も何度も叩き、強引に呼吸する。

 

(動けぇぇぇぇぇぇぇ‼︎)

 

そして、ついに。

 

 

「ゲホ、ゴホ、ゴホッ!」

 

 

動いた。止まっていた心臓が動いたのだ。

 

『モブ式奥義・十分間の臨死体験(ハート・ブレーク・モブ)

 

心停止から微細や魔力により脳血流を保ち、通常ではあり得ない長時間の心肺停止状態を後遺症なく達成する奥義である。

一歩間違えればあの世逝きのハイリスク奥義だが、命を懸けてでもやらねばならぬときがあるのだ。それが今日だった。ただそれだけの話だ。

それにしても、アレはすごかった。まさか、世の何万何億という人が妄想したであろうこと。

 

『学校にテロリストが攻めに来る』

 

ということが起きるとは。

あまりのことに「すっげえ…」と僕は感嘆の声を漏らしたほどだ。

その後にローズ先輩──僕がブシン祭の学園枠で負けた相手──がテロリストと戦おうとして、魔力が練れない状況に動揺し、テロリストが先輩に斬り掛かった時は焦ったけど。あのままだと、ローズ先輩がテロリストに殺される犠牲者1号になるところだった。その犠牲者になるのは、いつだってモブの役目。──つまり、今モブを演じてる僕の役目なのだ。

 

とはいえ、だ。

 

 

「いってぇ……」

 

 

斬られた傷を確認する。背中から斬られている。ブシン祭でモブ式奥義を見せる際の血糊を吐き出す行為とは異なり、今回はそんなことしようとすれば間近で見られる可能性があったため、本当に斬られなきゃならなかった。無論致命傷は避けたものの、リアリティを出すために深く斬られるよう調節した。

 

けど、痛いものは痛い。

自分で応急処置を試みる。魔力は細分化することで使えることは確認した。それか強引に圧力をかければ阻害を壊していけるかもしれない。

 

 

「終わったらアスタルテ先生に診てもらうか……」

 

 

あの人、僕が見る中で医者としても実力者としてもかなり上。さすがは一度は僕に勝った人だ。上には上がいると、あの人に負けてからより一層痛感した。僕も陰の実力者としても、モブとしても精進しないと。

 

なんて考えていた時、外からガラスが割れる音がした。

 

 

「おっ、さすがテロリスト。演出も凝ってるね」

 

 

そう思いつつ、僕は背中の傷の応急処置を終え、深呼吸をしてから一言つぶやいた。

 

 

「……ふぅ。さて、行くか」

 

 

血痕と乱れた机と椅子だけの教室を後にして、誰もいない静かな廊下を歩き出した。

 

 

 

 

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 

 

 

 

視点無し

 

シドが動き出す数分前。教室に乗り込んだ教団と別れ、数名がアスタルテがいるはずの医務室の扉前に集まっていた。

 

彼らの任務は『ホムンクルスの確保』だった。

 

 

 

 

〜〜〜回想〜〜〜

 

 

「そのホムンクルスを確保する件だが、どうすんだ? 並の相手じゃねえってことは確かだぜ。オレやアンタが真正面からやり合っても、確保は無理だな。策でもあんのか?」

 

 

赤いバンダナの男――レックスが痩騎士に問いかける。

 

 

「策はある。コイツを使う」

 

 

痩騎士は丸いアーティファクトを取り出す。

 

 

「コイツはある範囲の魔力を吸い上げる効果がある。あのホムンクルスは並外れた魔力があるとゼノンが言っていた。ならば、魔力さえ封じればお前たちでも制圧できる」

 

「そりゃいいが、オレらも魔力を封じられたらおしまいだぞ」

 

 

レックスの問いに、痩騎士が呆れながら答える。

 

 

「話は最後まで聞け。これに予め私とお前たちの魔力を記憶しておく。同じ系統なら魔力の阻害を受けずに済む」

 

 

レックスはニヤリと笑う。

 

 

「用意周到だな、痩騎士さんよ。そんだけあのお人形が怖いのかァ?」

 

「……くだらん事を聞いてどうする? お前たちは自分たちの仕事をしろ。――それと、本来の目的も忘れるな」

 

 

〜〜〜回想終了〜〜〜

 

 

 

 

「……準備はいいか」

 

 

団員の一人が全員に合図を出す。

 

警戒を高め、剣を構えながら、扉を蹴破る。医務室はカーテンが閉まり、光も入らないもぬけの殻だった。

 

 

「……いない? 気付かれたのか?」

 

 

そんなはずはない、と男が否定する。決行日が漏れるヘマはしていない。

 

ではなぜいない? 思考を巡らせた――その瞬間。

 

足元にコロコロと何かが転がる。暗がりでよく見えないが、扉から漏れる光に照らされ、その姿が露わになる。

 

団員全員の思考が一瞬、1秒にも満たない時間、止まった。

 

――それが致命的な過ちだった。

 

転がった物体が爆発音とともに眩い光を放った。

 

 

「ぐっ、何だ……!?」

 

 

暗闇の中で視界を奪う爆薬が、団員たちの目を一瞬で焼き潰した。連携が崩れ、悲鳴が上がる。

 

 

「むぐっ……!?」

 

 

一人がくぐもった声を上げ、ドサリと倒れる。続けて一人、また一人と、床に伏す音だけが響く。

 

最後に残った団員は震えていた。自分たちは何を相手にしたんだ? こんな化け物に、勝てると思ったのか……!?

 

背中にトンと小さな手が触れる。――ホムンクルス、アスタルテだ。

 

 

「ひ、ひひ……見つけたぜ! 隙ありだぁぁ!!」

 

 

剣を振り上げた男の手が、ピタリと止まる。彼女の三本の指が、軽く剣を押さえていた。

 

 

「ぅ、あ……!?」

 

 

力が抜け、魔力が吸い取られる感覚に襲われ、男は床に崩れ落ちる。

 

もしこの男が逃げ出すか、命乞いをして戦意を失えば、アスタルテは追撃をやめたかもしれない。だが、剣を振り上げた愚か者に、彼女は容赦しなかった。

 

彼女は無言で白衣の埃を払い、倒れた男をまるで実験体を観察するように冷たく見下ろした。

 

 

「……ば、けもの……」

 

 

その無機質な瞳に底知れぬ恐怖を感じながら、男は己の末路を噛み締めた。

 

 

「……制圧完了」

 

 

その無機質な声が、男が最後に聞いた音だった。

 

 

 




感想、誤字脱字、要望等お待ちしております。

章ごとに幕間と本編分けてるけど、分けない方がいいかな。(さっき確認したら言ってることがおかしかったのでアンケート訂正)

  • 分けずに投稿しまくれ
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