視点無し
「ぐっ……!魔力が無いと、こうも無力とはな……」
屈強そうな男が片膝をつき、肩で息をするほど疲弊していた。
「あーあ、つまんねえな。まぁしょうがねえよな。魔力がなきゃこんなもんだよなぁ?副団長の『グレン』さんよぉ」
剣を構えた男が、つまらなそうに言い放つ。
グレンと呼ばれた男は、隣で同じく疲弊している青年──マルコに目を向ける。
「……立てるか、マルコ」
「はい……、なんとか……」
グレンの問いにマルコは答えるが、戦闘ができる状態ではない。
このまま立ち向かえば二人とも相手に殺される。ならば……
「マルコ。俺が隙を作る。その間にお前はシェリー嬢を追え。流石に一人では危険だからな」
「そんな!副隊長だけでは危険です!オレも──」
「馬鹿者!無駄死にしたいのか⁉︎」
グレンの怒号に押し黙るマルコ。その様子を、黒い外装の男は眺めていたが……
「おしゃべりのところ悪いが、隙だらけだぜェ!!」
「っ⁉︎しまっ……」
痺れを切らしてグレンに斬り掛かる。防御がほんの少し遅れ、そのまま切り伏せられる。
「はっ!致命傷は避けたってか。大口叩くだけはあるじゃねえか」
倒れ込むグレンであるが、ギリギリのところで致命傷を避けていた。だが、このままでは追撃を喰らい、無駄になる。
「副隊長!っ、よくも……!」
「よせ、マルコ……!」
激情に任せて剣を振るうも、同じく容赦なく切り伏せられる。
「雑魚は呼んでねえよ」
そのまま吹き飛ばされて壁に激突し、気絶してしまう。
「くそッ……!」
苦虫を潰したような表情で、現状を悔やむグレン。
「じゃあな、紅の騎士の副隊長さん」
そうしてグレンにとどめを刺そうと、剣が振り下ろされる──ことはなかった。
「……?何が、起きたのだ……?」
いつまでもナイフが刺さる感触が来ないことに疑問を持ち、顔を上げると、誰かが攻撃を防いでいた。
「──間に合いました」
銀色の長い髪に碧眼が特徴的の、医務室の彼女とよく共にいた助手だった。
「あぁ?てめぇは──」
「悪いけど今はお前の相手してる暇はない」
そう言って相手の攻撃を剣で押し返してから、黒い外装の男に蹴りを入れる。
「なっ……!?」
その威力凄まじく、窓から乗り込んだ男をそのまま追い返すように、窓から吹き飛ばした。その蹴りから僅かに魔力が流れていたのを、グレンと外装の男は見逃さなかった。
「てめ、何で──」
そのまま吹き飛ばされた男は、最後まで言う前に窓から追い出されて、校舎の校庭に落ちていった。
「……今のは、魔力……。何故使えるのだ……」
地に付し、顔を上げたまま、驚愕するグレン。
「……師匠からの教えがあった、とだけ。今は詳しい説明をしている暇はありません。お二人に応急処置をした後に、外にいるアイリス王女と合流してください」
「待ってくれ。まだシェリー殿が居る。彼女を一人には……。それに、私たちが行ってしまったら、君一人で……」
「無駄死にしたいんですか」
助手が少し言葉を強める。
「……先程師匠と合流しました。彼女は師匠が保護しているでしょう。それに、酷なことを言いますが、この状態のあなた達では戦力になりません。今は中の現状を伝えに戻ってください」
冷静に伝えると、グレンは押し黙る。
騎士団副団長が、一介の医者の助手に助けられ、この体たらくだ。頷くしかない。それに、グレンは悟っていた。あの蹴りは魔力の有無関係無しに、自分では防げない。それだけ、目の前の女性は強いということだ。
「……分かった。だが、戻ろうにも学園のほとんどを占拠されている。見つからずに戻るのは難しいが、どうやって戻るつもりだ?」
その問いに、グレンの応急処置を終え、マルコの応急処置をしている助手は、グレンにある質問をした。
「魔力が戻るなら、ここからの高さ以上でも着地できますか?」
「む?……いや出来なくはない。現状では不安は残るが、出来ると思うが。……助手殿……?貴殿は何を考えて……」
その言葉を聞いて、少し安堵した表情になる助手。
ある程度動けるようになったグレンは、助手がこれからすることに冷や汗を流す。
「……待つのだ助手殿。いくら何でもそれは……」
「時間がありません。先の男もまた戻っています。それに、気絶してる彼もヘタをするとトドメを刺されます」
淡々と状況を説明する助手。
その言葉に「ぬぅ……」と言葉を濁しつつも、グレンは覚悟を決めるのだった。
「……分かった。俺も腹を括ろう」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
学園の外
アイリスたちが学園の入り口前で待機していた。
「……っ」
アイリスは苛立ちからか、拳を握り締める。その拳から血が滲まんほどに
「落ち着いてください、アイリス様!現状我々ではこの状態での突入はできません!」
「分かっています……!ですが……」
落ち着きがなく、今すぐにでも飛び出して突入しそうなくらいアイリスは苛立っていた。
その時だった。
「オイ!上空から何か来るぞ!」
隊員の一人が上空を指差すと、何かが飛んでくる。飛来する何かはそのままこちらに飛んでくる。
「アイリス様!上空から何かがこちらに飛来しています!!」
「何ですって⁉︎」
その報告に困惑しつつ、上空を見上げる。そしてこちらに近付くにつれ、その飛来する存在がはっきりとしてくる。
「あれは……グレン副隊長です!それと隣には、隊員のマルコです!シェリーバーネットの護衛担当の二人が、こちらに飛来してきます!」
その報告にさらに困惑するアイリスだが、その飛来する存在──グレンが、大声で叫んでいた。
「総員そこを退いてくれぬかぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
その声が聞こえたアイリスや他の隊員はすぐに離れると、グレンが魔力による身体強化で、床に激突するダメージを抑え、抱えているマルコに衝撃が来ないように不時着する。
「ぐ、グレン副隊長……⁉︎何故空から……」
「その事については、後で……報告します。今は、現状の……」
全員が焦りながら、グレンを救護班の場所まで運んで行ったのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
助手視点
「……上手くいったようで良かった」
窓から投げた二人の安否を確認してから、私は一呼吸して息を整えてから、背中に背負った剣を手に取って鞘から抜いた。
「……あっちは大丈夫かな。後は、師匠のことも……」
「──人の心配してるなんざ余裕だなぁ!」
踵を返した研究室の窓から、先程蹴り飛ばしたヤツが戻ってきた。
「……アレで死なないとは思っていたけど、頑丈だな。ディアボロス・チルドレンとやらは」
その言葉に、男は意外そうな顔をした。
「あァ?何でそのことを……あぁ、そうか。テメェ確かあの『ホムンクルス』と一緒にいるって言われてたやつか。名前は確か……まぁいいか。御目当ての奴さんが来てくれたんだからよォ」
……目当て?こいつは何を言っているんだ。
「教えてやるよ。俺らの目的はペンダント型のアーティファクトの回収。それと──青い髪のホムンクルスの生捕りか、死体を連れて行くことだ。お前はあのホムンクルスの連れらしいからな、お前が居るなら嬲ってからあのホムンクルスを誘き寄せる餌に──」
言い終える前に、私は剣を振るう。多分、今の私は酷く怒っているだろう。今にも爆発しそうなくらい、ブチ切れている。
「っと、とはいえ一筋縄じゃいかねえよな。何せ、《この状況下で魔力が使える》んだからな。……何しやがった?」
「……知りたいなら自分で言ったようにやってみるんだな。出来るものならな」
「そうかよ。なら……切り刻んで吐かせてやるよ」
相手を睨んだまま剣を構える。
「一応名乗っておくぜ。俺は叛逆遊戯のレックス。テメェが死ぬ前に聞く最後の名だ」
外装を脱ぎ、赤いバンダナを付けた男──レックスがショートソードとロングソードの二刀流の構えで、迎え撃たんとする。
「……教団にも名前を名乗る奴がいるのね」
「やっぱり教団のことを知ってやがったか。益々、テメエはこの場で逃すわけにはいかねえな」
一瞬の静寂。──そして、互いの武器がぶつかり合う。
こちらは触れる瞬間に魔力を解放するが、阻害されているからか、力負けする。
「……っ」
「どうしたァ?大口叩いた割にそんな程度かよ」
……やはり、魔力を阻害されたままだとやりづらい。
けど、その為に師匠が修行を付けてくれた。
こうなった時の為に。
『魔力を阻害された状態での戦い方』を。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
シェリー視点
研究に夢中になっていた私は、学園が襲撃されていることに遅れていた。研究所に現れた黒い外套の人たちに襲われそうになり、護衛の騎士さんたちが命懸けで逃がしてくれた。
けど、私に闘う力はない。もし見つかってしまったら、襲撃者たちに太刀打ちできないだろう。
「……敵勢力の制圧を完了」
目の前の人物が居なければ、私は無事に辿り着くことはできなかったと思う。
「あの、えっと……」
「……」
彼女──アスタルテさんがこちらを向き直る。剣も持たず、丸腰で数人はいたはずの襲撃者を全て制圧している姿は、僅かに恐怖すら感じた。
だが……。
「えっと、ありがとうございます……」
「……礼には及びません」
彼女が手を伸ばす。私はそっとその手を取り、彼女の後に続いていく。
「……敵の配置から、逃げ遅れた生徒や残っている騎士団の掃討に当たっていると推測。出入口付近は数名の騎士団を確認。但し、魔力の行使不能の状況下では突入できないから、待機していると推察」
アスタルテさんは廊下の窓から、外の様子を観察していた。
この人は、魔力が使えない状態かつ、素手で相手を制圧した。武芸に疎い私でも、この人がどれだけ凄いことをしているか分かった。だから……。
「……一先ず、私の仕事場に向かいます。戸締まりを行い、封鎖すれば時間稼ぎは──」
「あ、あの……!」
彼女の会話を遮って、あることを伝えないといけない。
「この原因について、もしかしたら解決できるかもしれません……!」
「……説明を要求します」
アスタルテさんの言葉を聞き、私はこの騒動に原因に説明する。
「……強欲の瞳」
「はい……。恐らく、襲撃した人たちの主犯はそれを持っていると思います。魔力が使えないのも、そのアーティファクトが原因ですなので、私の研究室でそのアーティファクトを制御するための研究をしていました。けど……」
「……襲撃に遭い、必要な道具と材料を残したまま、と推察」
アスタルテさんの言葉に、私は申し訳なさそうに頷く。
「……
そう言って、アスタルテ先生は──私を抱える。
「え、あの……!?」
「現状、Ms.バーネットを置いて戻るのは危険と判断。よって、貴女を連れて研究室への引き返しを行う方が合理的と判断しました。……それと警告。私から手を離さず、目を閉じているように」
「え……」
私が何か言い終わる前に、窓から飛び降りる。
「あ、え、えぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
あまりに突拍子なく窓から飛び降りたため、私は思わず叫び声を上げてしまう。
「─
「無茶言わないでくださいぃぃぃ!!!」
そうして私をお姫様抱っこをしたまま、アスタルテさんは最速で私の研究所まで引き返すのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
助手視点
「オラオラぁ!そんなもんかよォ!!」
赤いバンダナの男──レックスが、防戦一方の私に猛攻を仕掛けてくる。
「……っ」
手数も多く、加えて魔力を満足に使えない。使用するにはまた集中する必要があり、今攻撃を捌いている状態では難しくなる。
本当ならさっきの一撃で倒せればよかったと後悔しながらも、攻撃を回避し、剣で受け流しつつ戦いやすい場所まで移動する。
「逃げ回ってばかりじゃ俺は倒せねえぞ!!」
それでも捌き切れず、いくつか攻撃を受けてしまう。
「ぐっ……!」
致命傷を避けるが、それでもそろそろ捌くのも限界は来ていた。
「んだよ、あっけねえな。まぁ、あの副団長よりかはマシだがよ」
目の前の相手はがっかりしたかのような表情でこちらを見る。
「……」
「安心しろよ、まだお前は殺さねえ。あの人形の人質くらいにはできっからな」
人質、人質と。心底不愉快になる。
父が私のせいでこいつらの傀儡にされて、今度は師匠が、私のせいで傀儡になる。
こいつらの性根も。そんなことになってしまう自身の不甲斐なさも、本当に不愉快になる。
「……なら、見せてあげますよ」
呼吸を整え、剣を構え直す。師匠から教わったこと。魔力の使い方。魔力の効率。──そして、こういう状況での戦い方。
「……あ?何だ……」
相手の怪訝そうな呟きに意も介さず、深呼吸するかのように呼吸を繰り返す。
──再現しろ。師匠との修行を。
──イメージしろ。最強の自分を。
「……すぅぅぅぅぅ」
魔力を練り上げるイメージを強固に。
より精密に。より強大に。
息を吸って魔力を取り込むイメージを。
吐いて、血の巡りのごとく全身に巡らせるイメージを。
「……何しやがった、こいつ」
数秒警戒していたレックスが、何かを研ぎ澄ませている私に攻撃を仕掛けんとする。
「何しようとしてんのか知らねえが、隙だらけな状態を見過ごすわけねえだろ!!」
そう言って、レックスはまた連撃を放とうとした。
──その刹那。私は剣を振るった。
「──」
彼には見えなかっただろう。私が何をしたのかを。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
レックスの攻撃は、確実に目の前の相手を捉えたはずだった。だが、レックスの前にあの助手はおらず、後ろから剣が鞘に収まる音だけが聞こえるのみ。
「……なぁ、アンタ。ホントに一体何モンだ?」
レックスは振り返らず、真剣な声色で問いかける。
口元からゆっくり血が流れる。
「……ミリア。かつて私のためにお前たちの組織に足を踏み入れた私の父、オルバ子爵の娘」
レックスは嘲笑気味に笑みを浮かべる。
あの『痩騎士』のお膳立ても受け、尚且つ油断したつもりもなかった。だが、結果はこのザマだ。
「……ミリア、か。まぁ、地獄で覚えておくさ……」
そう言い残すと、彼の胴体から鮮血が飛び、そのまま地面に伏した。
薄れゆく意識の中で、レックスは悪くない最期だったと思いながら事切れていった。
感想、誤字脱字の指摘お待ちしております。
章ごとに幕間と本編分けてるけど、分けない方がいいかな。(さっき確認したら言ってることがおかしかったのでアンケート訂正)
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分けずに投稿しまくれ
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ソノーマーマーデイーイー