古本屋の錬金術師   作:吾妻原昌孝

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明けましておめでとうございます(大遅刻)。
今回、本作の方向性が提示されることになると思います。


第2話 任侠

「よお、いるかい」

 そう言って江田島庵に入ってきたのは、明らかにカタギではない人間だった。

「おや、本日は何をご所望で?」

 しかし、秋月は普段の態度を崩さない。明らかに、「慣れている」のだ。

「ショバ代を払ってもらおうと思ってな」

「・・・・・・本日は、どのようなご用向きで?」

「まァ落ち着け。そんなに殺気立つなよ、世間話でもしようや。・・・・・・ただまあ、俺の名が轟いているおかげで、そう余裕ぶっていられんのも事実だが」

「大柿組の若頭、宮ノ原切串ともあろう者が、呑気に世間話なぞできるはずもありませんからね」

「皮肉か?」

「まさか」

 緊張が、二人の間に走る。

 しかし、それを打ち破る声が聞こえてきた。

「はわわわわ・・・・・・。一体、何が起こっているでアリマスか!?」

 エルザである。

「ン? お前の店に女はいないはずだが・・・・・・」

「ついこの間雇ったんですよ。複雑で折り入った事情を抱えた根無草だったモノですから、衣食住と引き換えに」

「ほォ・・・・・・」

 そこに、ミラアルクとヴァネッサも顔を出した。

「えーと、誰?」

「少なくとも、カタギ・・・・・・には見えないゼ」

「ああ、彼はこの辺のヤクザの若頭だ。君らには──というより、この店に手を出す事は無いから安心してくれていい」

「・・・・・・若頭?」

「そう、若頭。次期組長──カシラ、だから棟梁といった方がいいのかな? ねぇ、切串君?」

「その辺は、まあどうでもいい。呼び方がどうあれ、カタギにゃ全部同じだろ」

「でも、なぜこんな人と知り合いに?」

 ヴァネッサが、当然の疑問を口にする。確かに、警察関係者だとか裏社会の人間でもない限り、暴力団と知り合いになることなどあり得ないだろう。

「ああ、それはだな」「それはですね」

「・・・・・・おっと」

「・・・・・・おっとっと」

 秋月と切串が、同時に反応した。

「おっと、脈アリみたいだゼ?」

「昔、何かあったのでアリマスか?」

「そう、色々あったんだよ」

「10年以上前の話か・・・・・・。懐かしィな」

「じゃあ、私から話させてもらおうかね」

「手前から話されるのは癪だが、確かに手前の方が伝わりやすそうだしな」

「決まりだね。それじゃあ、回想スタート」

『そんなシステムある(の)(んだゼ)(でアリマスか)!?』

 総ツッコミが入った。

 

***

 

 そう、その因縁が始まったのは、小学校の入学式でのことである。

 切串が、偶然秋月の足を踏んづけてしまったのである。

 当時から、秋月は「やられたら等倍でやり返す」と言う思考を持っていた。ギヴアンドテイクの思考である。

 そんなわけで、入学式で登校した直後に足を踏まれた秋月は、帰宅直前に切串の足を強く踏んだのだ。秋月は、切串の左足に、右足を膝の高さから容赦なく垂直に落としたのである。ズゴォ! と言う音が響いた。

「あ゛! ・・・・・・痛ッてェなコノヤロー!」

「やられたらやり返す。倍返しだ!」

「銀行マンか!」

 その日は、それで終わった。だが、翌日。江田島庵は、裏に住居入り口がある。その呼び鈴が、鳴った。

「ん? 誰か客人ならむや。何の用ならむや」

 飛渡瀬津久茂。秋月の父親である。文語で話す癖がある。たとえそれが家庭訪問や三者面談であろうと、文語を崩すことはない。

 戸を開けると、そこには、明らかにカタギではない人間がいた。その名は、宮ノ原深江。切串の父親である。

「いきなりすまんな。お前さん、息子はいるか?」

「息子がなにかせるや?」

 深江は、面食らった。

「おう、独特な喋り方よな・・・・・・。まあいい。逆だ、逆。うちの倅だよ」

「といふと?」

「いや、昨日、倅がお宅の息子に足を踏まれたと喚きやがってな。話を聞くと、どうも口火を切ったのは倅らしい。だから、こうして詫びを入れに来た次第というわけだ」

「げに、さりきや。では、秋月に伝へ・・・・・・」

「いや、いるのなら呼んでくれ。直接言わなければ意味がない」

 深江は制止した。津久茂としては、秋月も切串の足を踏んだのだから喧嘩両成敗と思っている。だが、深江は、「先にやったほうが悪い」という思考を持っているのだ。先にやったならば、後から何をやられても文句を言ってはならない。抗争も、基本的に受け身で行っている。「先に手ェ出したのは手前らだ、覚悟はできてんだろうなァああ!?」というのが、大柿組の常套句である。

「げに、わかれり。さいふことならば・・・・・・。秋月ィー!」

 津久茂は、秋月を呼んだ。ちょうどそのころ、秋月は自室で漫画を読んでいた。

「どしたのー?」

 大声で訊き返す。

「なんぢに謝らばやといふ人あり! すなはち玄関に来たまへ!」

「それって誰ー?」

「宮ノ原なり! 昨日息子がなんぢの足を踏みしためし謝罪しに来たり!」

「そんなぁー!? 俺だって踏んだのに!」

「ならばなんぢも謝りたまへ! さて万事落居ならむ!」

「わかったよ、今行く!」

 そう言うと、秋月は駆け足で玄関に降りた。

 そこには、明らかにカタギではない人間と、ボコボコにされた同い年の少年が立っていた。少年は、髪の毛を掴まれている。立派な児童虐待である。

「え、えーと、これは・・・・・・」

「昨日、うちの倅がお前さんの足を踏んだことの謝罪に来た。本当に、申し訳ない。・・・切串、お前も謝れ!」

 そう言って、深江は、切串に強引に頭を下げさせた。

「いやいやいやいや、そんな、謝らないでください! 僕だって足を踏んだんですから! こちらこそごめんなさい!」

 秋月も、頭を深く下げた。 

 こうして、この場はおさまった。そして、この日より、津久茂と深江、秋月と切串の交流が始まったのだ。

 最悪な出会い方である。

 この日以来、秋月と切串は悪友と言える関係性を形成した。二人揃ってイタズラを仕掛け、その結果津久茂&深江に叱られ、簀巻きにされて庭の木に吊るされると言う事態も一度や二度ではない。

 深江が──というより、宮ノ原家がヤクザであることを知ったのは、秋月・切串が中学に上がった頃のことである。もっとも、津久茂は出会って数日後、深江がヤクザであることを看破したが。

 津久茂が亡くなったのは、丁度彼らの成人式の日である。偶然、大柿組と敵対する暴力団・早瀬組との抗争に巻き込まれ、早瀬組の若い衆を謎の身体能力で数人血祭りに上げたのだが、完全に殺していたわけではなかったために後ろから大量のドスで刺され、そのまま出血多量で亡くなってしまったのだ。

 それを知った深江は、秋月を差し置いて津久茂の葬式の喪主を務め、何かあったら自分に頼るように伝えたのだ。

 切串としても、家族ぐるみで親交のあったおじさんが死んでしまったことには多少の負い目を抱えているが、秋月は「負い目を感じる必要はない」という趣旨の発言をした。

 秋月は、「父はいつ死んでもおかしくなさそうな人間だった」と振り返っている。そのため、父が死んでも「ああ、そうなったか」以上の感想が出てこないのだ。

 故に現在、宮ノ原親子はあまり津久茂の死についてどうこう言うことはない。流石に5年も経っているのだ、引きずりすぎるのも故人に失礼というものだと考えているのである。

 

***

 

「だいぶ端折ってんな手前」

「だってそうでしょう。アルバムを見ながらじゃないんですから、克明に思い出せるわけじゃない」

「それもそうか」

 納得する切串。

「・・・・・・しょーもない切っ掛けだゼ」

「・・・・・・そうでアリマス」

「何が切っ掛けかわからないものね」

 三者三様・・・いや、似たような反応を見せるノーブルレッド。日本育ちでも、このようなしょーもない切っ掛けでヤクザと親交を持つなど考えられないだろう。

「ところで、ショバ代ってなんなの?」

「ああ、基本的にはヤクザに払う上納金みたいなものなのだけど」

「俺らの間では、依頼の隠語ってことになってんのよ」

「依頼・・・・・・? ヤクザから・・・・・・でアリマスか?」

 エルザが、耳と首を同時に傾けた。

「・・・・・・この耳って、モノホンか?」

「モノホンですから、おさわり厳禁ですよ」

 切串に、秋月は釘を刺す。江田島庵は、そういう店ではないのだ。

「わかってるさ。で、依頼についてだが」

 仕事の目になる。秋月も、それを感じ取る。ノーブルレッドの三人には、少し離れた本棚で待機させている。

「最近、俺らのシマの路地で悪霊騒ぎが起こっているんだ。若い衆に調査をさせてはみたんだが、芳しい成果が得られなくてな。そこそこの知識と人脈を持つお前なら、何かわかるんじゃないかってことで、依頼に馳せ参じたという次第だ」

「なるほど。その悪霊の特徴は?」

「どうもな、竹なんだそうだ」

「竹?」

「正確には、ひとりでに動く竹馬というべきか。本当にそんな感じの姿なんだと」

「そんな珍妙な・・・・・・」

 そう思いながらノーブルレッドに視線を向けると、心当たりのありそうな顔をしていた。

「すまないが、少し彼女らに相談したい。思い当たる節がありそうなのでね」

「おう、わかった。なるたけ手短にな」

「もちろん。三人とも、ちょっと」

 そう言って、カウンターの奥にヴァネッサたちを手招きした。

 

「さて、何か心当たりがあるようだけど」

「ええ。竹馬で、しかも動いているのよね? なら、それはおそらくケミーの一体、バンバンブーと見て間違いなさそうね」

「ふむ」

「と言っても、それ以上のことは──何が好物かとか、主な習性とか、そういうのはわからないけど」

「いや、それだけわかってれば十分だよ。錬金術に関わりがあるということが分かっただけで、十分だ」

 秋月は、カウンターに戻った。

「そういうわけで、依頼は受けさせてもらいましょう。なんだか、悪霊大捕物と洒落込むようですね」

「それもそうだな。・・・・・・うちのシマに被害があったわけじゃねェから、捕まえたらそりゃあお前の好きにすればいい」

 もし、大柿組に被害が及んでいたら──。その時切串は、間違いなくバンバンブーを焼くなり切るなりしていたであろう。もしそんなことになれば、ノーブルレッドの目的は、永遠に達せられないままになる。そういう意味では、バンバンブーはよくやったというべきだろう。自分が死ぬこと自体は免れたのだから。

「ま、捕まえたら一言報告をくれ。手付金の二万は置いといた。報酬は弾むぜ」

 そう言って、切串は店を出た。古本は一冊も手にとらなかった。

「せめて、本の一冊でもついでに買って欲しいところだけど。まあ、その代わりにどえらい額を報酬で落としていってくれるから、複雑なところだ」

 秋月は、そう言ってため息をついた。

 

***

 

 翌日。

 どう見ても平日の日中に出歩いてはいけない見かけのエルザとミラアルクに店番を任せ、秋月とヴァネッサは、目撃情報のあった路地に繰り出していた。

「切串殿が手付金と一緒に置いた地図がなければ、本当に暗中模索だったから助かったよ」

「でも、本当にこんなところに出たのかしら?」

「少なくとも、人の目につく場所には出ないと思うけど。なんたって相手は、通常の生物とは趣が異なる人工生命体。意表をつく何かを警戒せねば」

「それもそうね。いざという時には、ロケットパンチを打つから安心してね」

「・・・・・・爆発とかはしないよな?」

「・・・・・・さあ?」

「聞くからに不安だ・・・・・・」

 そう言いながら、秋月はカードを二枚、懐から取り出した。スタッグバインとジェットスワローだ。

「ケミーはケミーに惹かれ合う、とかそういうのがあれば楽なのだけど」

 すると、ジェットスワローが実体化した。

「!?」

「そういえば、ケミーって実体化できるのよね。ケミーによっては、電車とかそれくらいの大きさになるみたい」

「先に言ってくれそういうのは・・・・・・。心臓に悪いから・・・・・・」

 ともかく。

「ジェットスワロー。バンバンブーを探すことはできるかい?」

「ジェット!」

 頭を下げて、強烈に否定した。

「面識がないのか・・・・・・?」

「そうね。あくまで同じ場所にいたってだけだもの」

「確かに。私も、高校の同級生で顔と名前が結びつかない人間が何人もいたなぁ・・・・・・」

 続いて、スタッグバインを取り出した。

「スタッグバイン、君は?」

「スタッグ・・・・・・」

 こちらは、申し訳なさそうである。

「うーむ、まいったな・・・・・・」

「足で探すしかない、わね・・・・・・」

 二人は、町を手分けしてバンバンブーを捜索した。

 探索すること数時間。レストランのゴミ箱の中を覗いたり、マンホールの中に落ちたり、明らかに正常でない雰囲気を持つ裏路地を走ったりしたが、しかし成果はなかった。

『つ、疲れた・・・・・・!』

 秋月とヴァネッサは、公園のベンチでため息をついた。

 子供が何人も元気に遊んでいる、昨今珍しい場所である。

「この辺全域を探してみたけれど、まさかここまでとは・・・・・・!」

「こんなに難航するなんて・・・・・・!」

 秋月は、無言で自販機のコーヒーを差し出した。ヴァネッサは無言で受け取り、一気に飲み干した。

「・・・・・・スッキリしたわ」

「それはよかった」

 静寂が訪れる。子供が元気に遊んでいるのを眺めているのだ。

「・・・・・・いいものね」

「?」

「こうやって、平和に遊んでいられるってこと」

「・・・・・・そうだな」

 ノーブルレッド、特にエルザは、本来ならば遊びたい盛りだろうに、その経験を許されなかったのだ。だからこそ、この景色に羨望を覚えるのだ。

 と、ノスタルジーめいたものに浸っていると。

 どこからか、カッポラ、カッポラと音が聞こえてきた。

「・・・・・・竹?」

「こんな都会で珍しいな。まさか、竹馬で遊ぶ子供でもいる・・・・・・」

 音のするほうを見ると、そこには。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

『いたーーー』

 竹馬ならぬ、さしずめ竹ホッピングに乗っている、竹人間。まちがいなく、バンバンブーだ。

 秋月は、無言で駆けだした。

 数秒後、見失って帰ってきた。

「ダメだった」

「ダメだったのね・・・・・・」

 この日は、江田島庵に帰ることにした。

──もしかして、ああいう場所に現れるのか・・・・・・?

──私が追いかけたら、すぐに消えた・・・・・・。

──子供か? 子供を求めているというのか・・・・・・?

 秋月の驚異的な、ご都合主義ともいえる洞察力は、ある仮説を導き出した。

──これは、少し遠出する必要がありそうだ・・・・・・




いかがでしたか?
本作は、あまりシンフォギア、仮面ライダーの二次創作らしくない作品であると自負しております。
ただし、マルガムの要素も出し、かつケミーゲットに説得力を持たせる。
秋月がやるのではなく、ノーブルレッドの誰かと心を通わせる。
そんな感じの話にしたいと思っています。
今回登場したヤクザの切串は、これまた江田島市の地名が由来です。
というより、本作のオリジナルキャラクターは、大抵の場合江田島市・・・だけだとネタ切れが心配になるので、江田島市と呉市の地名を名前の由来としています。
感想、評価をよろしくお願いします。
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