古本屋の錬金術師   作:吾妻原昌孝

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お待たせしました、第3話です。
地元PRが含まれていますが、ご了承ください。あと、字数がアホみたいに多いです(と言っても、ハーメルン全体では少ない方ではありますが・・・)。なぜこうなったのか? 内容を詰め込みすぎたからです。
イレギュラーな時間での投稿ですが、まだ第二日曜日なので許してください。


第3話 竹馬

「フンフフフー、フフフーンフー、フーンフフフー」

 妙な鼻歌を歌いながらアクセルを踏んでいるのは、秋月である。

「一体何の歌なの? 聞いたことがないのだけど」

 助手席に座るのは、ヴァネッサだ。

「地味に上手いのがイラつくゼ・・・・・・!」

「同感であります・・・・・・」

 中腹の席には、ミラアルクとエルザが仲良く座っている。

 江田島庵御一行様は現在、ワゴン車で広島県に向かっている。秋月いわく、「今回の解決の鍵は、そこで手に入る」とのことである。店を留守にすることになるが、その間の店番は、友人の才ノ木(サイノキ)須川(スガワ)(由々しきことに、ニートに両足突っ込んでいるニートである)という青年に任せている。

 幸い、高速道路で渋滞に逢う事は無くなかったが、超長距離移動のため、休憩をはさみつつ約二日で到着した。東広島呉道路(トークレ)終点、阿賀インターチェンジである。二日目に入ってからは、鼻歌をやめ、秋月が好んでいる作品のCDを流していた。

「長かったゼ・・・・・・」

「座ってるだけなのに、疲れたであります・・・・・・」

「お姉ちゃん休ませて・・・・・・」

「うぐぬ・・・・・・。流石にバッキバキだこれは・・・・・・」

 運良く信号が赤だったので、小休止を挟むことができた。

 目の前には、スーパーマーケットと釣具屋、右側にはカー用品店が見える。

「それじゃあ、少し回り道することにはなるけれど、そこのスーパーで買い物をしていこうか。食料調達だ」

 秋月は、工業専門学校付近で左折し、スーパーマーケットに駐車した。

「三十分後には、戻っていること」

 そう注意して、しばしの解散。一人二千円の食費を持っている。

「地方のスーパーだが、品ぞろえは良さそうだ。・・・・・・ポイントカードがあるのか。作っておこう。・・・・・・東京じゃ見たことないけれど、また中国地方に来るかもしれないし、損はないだろう。・・・・・・へぇ。これが安いのか。でもまあ、クーラーボックスは持ってきていないし、錬金術を食品の冷凍保存(こんなこと)に使うのは気が引けるし、諦めよう・・・・・・。・・・・・・できるのかな?」

 そう呟きながら、店内を物色する。

 このスーパーは、日用品も販売している(多くのスーパーがそうだが)。遠出のついでに、せっかくだからと不足している品をメモしておいたのだ。

 結局秋月は、トイレットペーパーとチリ紙と弁当とペットボトルのお茶を買った。

 ヴァネッサは、同じく弁当とお茶。

 ミラアルクは、菓子パンとトマトジュース。

 エルザは、菓子パン、サンドイッチ、オレンジジュースを、それぞれ購入した。

「それじゃあ、目的地までノンストップと行こうか」

 そう言って、秋月は再びエンジンをかけた。

 先ほどの交差点を左折し、直進する。左には工業専門学校が、右には特別支援学校や高等専門学校などの教育施設がある。この阿賀という街は、なんと七つもの教育施設が密集しており、その気になれば小中高大全てをこの町で完結させることが可能なのだ。阿賀とアカデミアを掛け合わせた、アガデミアと呼ばれる集団で、学校同士の交流も盛んだ。

 無論、彼らはそんなことは気にも留めない。

 マリノ大橋には、数分もかからずに到達する。大きなアーチを描いており、自転車で渡る人間もいる。

「ねえ、そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?」

「そうであります! 私めらは、『広島県に行く』としか伝えられていないであります!」

「いい加減、ウチらにも教えてほしいもんだゼ」

「そうだね、そろそろ頃合いか」

 一行は、マリノ大橋をこえ、大入地区に入った。立ち寄る予定の店はないため、素通りする。

「我々は、倉橋島の知り合いの元へ行く」

「知り合い?」

「・・・・・・もしかして、ヤクザでありますか!?」

「流石に違う。彼は、高校時代の同級生でね」

 エルザの言葉を即座に否定し、その為人を話す。

「馬木宗近と言ってね。わざわざ倉橋から、東京の高校に進学してきたんだよ。それで、クラスでも注目の的。田舎の生活なんて、『ポツンと一軒家』で見るくらいしかないからね。快活な人物で、体育会系というやつだったな。そのくせ、定期テストでも模試でもそこそこの成績を収めてた。だから、彼に勉強を教えてほしい! という人間は後を絶たなかった記憶が残ってる。で、彼の実家付近には竹藪がある。金さえ払えば、快く譲ってくれるだろうね」

 法定速度は遵守しているものの、やはり田舎だからか、通行量は少ない。スムースに進み、冠崎に到達した。阿賀の、情島を除いた最南端である。

 ワゴン車は峠を下り、海岸に出た。進行方向から見て左には、瀬戸内海が広がっている。しかし、少し進めば、また見えなくなってしまう。

「あっ、海が・・・・・・」

「瀬戸内海、お気に召したのかな? 大丈夫、目的地に着けばいくらでも見ることができる。・・・・・・ここからの眺めとはまた違う、いい景色だ」

「前にも行ったことがあるの?」

「そう、宗近に呼ばれてね。当時通ったのがこの道だったのもあって、かなり印象に残ってるんだ」

「へー。なんだか田舎くさいゼ」

「そりゃあそうだ、ここは田舎だから」

 警固屋に入ってしばらくすると、船を売っている店がある。あまり人はいないように見えるが、それに反比例するかのように大量の船がある。

「船か・・・・・・。買ってみるのも良さそうだな」

「いつ使うでありますか・・・?」

「そーなんだよなー、内陸だからあまり使う機会がないんだ」

 ちなみに、秋月は、船舶免許を取得していない。そのため、たとえモーターボートを買おうと、宝の持ち腐れになるだけだ。ついでに言えば、購入した後の維持費や燃料代など、馬鹿にならない金額を要するため、一介の古書店の店主には縁遠い趣味といえよう。作者の父もボートを所有しているが、やはり維持は大変なようである。

 さらに少し車を飛ばせば、そこにはゴルフセンターがある。田舎ゆえの宿命か、ここも客足は遠ざかっている。

「それにしても、ずいぶん走ったような気がするわね」

「いや、まだまだだ。あと一、二時間くらいかな、馬木の住居まで」

「うへえ、そんなにかかるなんて聞いてないゼ・・・・・・」

「流石に疲れてきたであります・・・・・・」

 エルザは、わかりやすく耳を垂らした。ぐでー、と溶けてしまいそうである。

「確かに、私も運転は疲れてきたな。よし、音戸の瀬戸で少し休もう」

 曲がりくねった山沿いの道路を潜り抜け、旧音戸渡船の船着場(本州側)に到着した。

「確か、左だったかな・・・・・・」

 信号が青になり、ワゴン車は交差点を右折した。

「どうしてこんな変な渦なんだゼ!?」

「そりゃあ、私が聞きたい!」

「降りる時はどうなの?」

「そっちは普通の渦だよ」

「益々謎であります!」

 そう叫びつつ、ワゴン車は音戸大橋の手前で左折した。

「・・・・・・? こっちには行かないでありますか?」

「そっちは、所謂第一音戸大橋といって、古い方なんだ。我々が今向かっているのは、『ひまねきテラス』のある第二音戸大橋なんだ」

 第二音戸大橋とは、西暦2016年に落成した橋である。倉橋町へのアクセスが、とても早くなったので大変便利だ。

 本州と倉橋島を結んでおり、倉橋島側に「ひまねきテラス」が存在しているのだ。

「その『ひまねきテラス』ってーのは、なんでまたそんな名前なんだぜ?」

「確か、平清盛の『日招き伝説』と言うものにちなんだそうだ。温度の瀬戸を拓く時、日が暮れそうになったので扇を振って・・・・・・だったか、ちょっとぶっ飛んだ伝説だね」

「ま、あくまで伝説だしね。・・・・・・私たちが言えたことじゃないけれど」

「あー、そう言えばそっか、サイボーグ、バンパイア、ワーウルフ・・・・・・」

 そうこう喋っているうちに、一向は第二音戸大橋付近の丁字路にたどり着いた。道中は、特筆するような景色はなかったので割愛する。興味のある方は、是非訪れてほしい。

 信号があったが、青だったので1秒も待つことなく進むことができた。

「広いんだぜ・・・・・・」

「まあ、歩道があるからね」

「確かに、車線の数自体は変わってないのね・・・・・・」

「海が綺麗であります!」

 平清盛が開いたとされる音戸の瀬戸。倉橋島と本州の海峡は、山や太陽との効果も相まって非常に美しいものである。南には音戸の町が、北には呉市街が広がっているのがわかる。

 第二音戸大橋は、見かけは第一音戸大橋よりも広い。だが、それは、歩道があるからだ。さらに、進行方向の左側には、使途不明の謎のスペースが存在している。作者は、何度も両親の車でここを通っているのだが、未だにこれが何なのかわからない。ともかく、このスペースや歩道のおかげで、とても大きく見えるわけだ。

 音戸大橋を抜け、付近の駐車場にワゴンを停める。ここからひまねきテラスに向かうには、第三音戸大橋を通らなければならない。

「これが第三って・・・・・・」

「・・・・・・ヤケにスケールが小さい気がするゼ」

「・・・・・・同感であります・・・・・・」

 それは、一言で言うと歩道橋である。何の変哲もない、強いて言うならば音戸大橋の形をしているだけの歩道橋である。螺旋階段は、どことなく第一音戸大橋を想起させる。

 一向は、ひまねきテラスの付近にあるベンチに腰掛けた。周囲に人がいないのもあって、ベンチは二人で一つ使うことができた。

『いただきます』

 秋月とミラアルク、ヴァネッサとエルザの組み合わせでベンチに座り、各々購入した昼食を開封する。

「んー、うまいゼ。トマトジュース、血の代わりとして最適解すぎるんだゼ!」

「まあ、藤子 不二雄Ⓐ先生の時代から認知されているからね。ドラキュラが血の代わりにチューチュー吸ってた」

「ま、ウチは知らなかったけどな。日本の漫画ってのも、あんまり読んだことなかったから」

「そりゃあ勿体無い。素晴らしい文化だよ、あれは」

「へー。吸血鬼の話もあったりするのぜ?」

「ある。HELLSINGは・・・・・・初心者向けじゃないけど、そうだね、帰ったら調べてみよう」

 ミラアルクは、ヴァンバイアである。正確にはちょっとややこしく、色々難しいことがあるのだが、そんなことを語っている暇はないし、公式サイトを見れば事足りるであろうから、そちらを参照していただきたい。

 エルザは、もっもっとサンドイッチを頬張っている。所謂癒し系である。その隣では、ヴァネッサがお淑やかに弁当を食べている。箸の使い方は、来日してから完璧にマスターした。なお、マスターするにあたって10膳の箸をへし折ってしまったという黒歴史が存在するのは内緒だ。

 二十分ほどで、全員が食事を終えた。

『ごちそうさまでした』

 ワゴン車に乗り込み、再び倉橋を目指す。

 しばらく──といっても、数秒ほどだが──の間、森林とコンクリートの変わり映えしない景色が続いた。

 すぐに、トンネルに入る。抜けるとそこには、音戸の田舎町が広がっていた。渡子地域である。山には段々畑が広がっている。

「あそこは、何を育てていたのでありますか?」

「うーむ、この辺だからな。蜜柑とかそういうものなのかな? 今度調べてみるとしよう」

 この地域を抜けると、いよいよ海岸線を通ることになる。

「道がクネってるから、酔いそうだゼ・・・・・・!」

「我慢してくれ、これが田舎だ!」

 事実、音戸・・・・・・というより、島嶼部の道路というものはかなり曲がりくねっている印象を受ける。特に、海岸が顕著だ。その理由として考えられるのは、道路を海岸線に沿って造ったからであろう。それでも、作者の私見にはなるが、まだまだマイルドな道であるといえる。気になる方は、ぜひ秋月の通ったルートを実際に通ってみてほしい。

 さて、田原に入った。

「おっと、ガソリンが少なくなってきたな。補給していかないと」

 造船所の看板を通り過ぎた先には、ガソリンスタンドが存在している。ENEOSだ。

「・・・・・・ここでご飯を食べても良かったかもしれない」

「どう言うお店なの?」

「よくは知らないけど、多分飲食店」

 付近には、『ごはんやCAFE 蔵屋敷』なる店があった。作者も利用したことがないが、いつか行ってみたい場所の一つである。秋月は、少し後悔した。

 ここはセルフで給油する形式のガソリンスタンドである。そのため、ヴァネッサは確定で使用ができない。なぜなら、ふとした瞬間に火花を起こされようものなら、最悪ガソリンスタンドとその付近一体が焼け野原になってもおかしくないからだ。

 秋月は、静電気除去シートに触れ、給油を開始した。

「Tカードも使えるというのがいい。セルフなのは・・・・・・んーまあいいか、田舎だと犯罪も少なそうだし」

「あまり人がいないのね」

「正直、あまり人を見かけないし、みたとしても年寄りばっかりだからね・・・・・・。こればっかりは、どうしようもないかもしれない」

「嫌な現実であります・・・・・・」

 島嶼部の人口は、確実に減少している。考えられる要因としては、老年人口の増加、交通の不便、商業施設の少なさなどが挙げられるだろう。要するに、不便なのだ。なにせ、図書館はあるが本屋はない。作者が見た限りでは、模型店もない。あるのは人情くらいのものである。本を買いに行くだけでも、本土に遠出せねばならないのだ。何もしなければ、人口は減少する一方である。だからこそ、今回秋月が目的とする宗近のような人物は、かなり貴重なのだ。

「よし、満タン」

 ガコン、と音が鳴った。給油が完了した音である。これ以上入れた場合は、ガソリンが溢れ出ることになり、資源や金が無駄になるだけでなく、事故の危険性が高まってしまうため、絶対にやってはいけない(そうならないための仕掛けがきちんと整備してあるのだろうが・・・・・・)。

 料金を支払って、再びワゴン車は出発した。

 再び、道は海岸線を通る。その直前には、小学校が見えた。

 少し走ると、再び海が見えるようになる。

「筏がいっぱいであります!」

「あれは、牡蠣筏だね。確か、呉の特産品だったはず。お土産に買って帰ろうかな」

 そう、牡蠣は、呉の特産品である「カタチ」の一角である。タは太刀魚、チはちりめんを意味している。複雑な瀬戸内海の海岸線は、牡蠣を養殖するのに都合がいいのだ。それに、瀬戸内海では黒鯛、地元ではチヌと呼ばれる魚も獲れる。本州と四国に挟まれた瀬戸内海は、比較的波も少なく漁がしやすいのである。

 さらに走ると、早瀬大橋が見えてくる。左側には、かつてコンビニだった台湾料理店が見えた。ここは、かつてポプラというコンビニだったのだが、色々な大人の事情によって現在のようになったのである。

 早瀬大橋の先には、大きな島が見える。

「あれはなんなんだゼ? 他の島と比べて大きいけど・・・・・・」

「あれは、江田島だね。何が有名かはよく知らないけど」

 江田島市。男塾塾長を想起させるが、名前の由来となったかどうかは定かではない。江田島市も人口減少に悩まされており、呉市と合併する案もあるという。ちなみに、特産品の一つにはオリーブがあるのだとか。

「ウチらはまだ真っ直ぐに行くんだよな?」

「その通り。馬木は、室尾に住んでいるからね。でもまあ、ここまでくればあともう少しってところかな」

 その時、秋月の携帯に電話がかかってきた。幸い、信号が赤だったため、対応はできる。だが、歩行者用が点滅しているため、長くはもたない。秋月は、ヴァネッサに携帯を持ってもらうことにした。こうすれば、法に触れない程度に電話に対応できるというわけである。

 今、信号が青になり、アクセルを踏み込んだ。

「もしもし」

『おお秋月、今われどこにおるんじゃ』

「早瀬大橋を出たところだよ。何かあったかい?」

『いやあ、えっと釣れたけぇ、なんぼか分けちゃろうゆぅて思うての」

「おお、それはありがたい。・・・・・・といいたいところではあるのだが、生物を自分で運ぶのは少し難しいので、郵送してもらえると助かる」

『そーゆやぁ、東京から来たんじゃったか。そりゃあいたしいよの。わかった、いんじゃらまた連絡してくれ、冷凍しとくから』

 そう言って、彼は通話を切った。

「誰だったの?」

「彼こそが、馬木宗近だ。私が今回会おうとしている人物だね」

「・・・・・・やけに、訛りが強かった気がするのだけど」

「そりゃあそうだ。彼は、生粋の広島県民だからね。しかも、田舎育ちな分広島弁はもうドギツイのは是非もない」

「というか、理解できるのがすごいんだゼ・・・・・・」

「ハハハ、慣れてるからね。それに、津軽弁や薩摩弁じゃないだけまだマシというものさ。あの二言語が本気を出せば、地元民以外誰も理解できないだろうさ」

 笑いながら、分岐路を左に曲がる。

「右には行かないのでありますか?」

「行ってもいいんだけど、時間がかかるよ?」

 山をくり抜いたトンネルは、倉橋町への近道だ。藤脇には海沿いにも道があるのだが、そちらは所謂旧道というやつだ。新道の方が、山をくり抜いている分距離が短い。

 山を降りると、再び海沿いだ。宇和木に入った。

「そうだ、何か買っていってやろうかな。すまないヴァネッサ、携帯から電話をかけて欲しい。相手はさっきかけてきた人だ」

「了解。ええと、これね」

 果たして、宗近は二コールで電話に出た。

「もしもし、宗近? 今宇和木なのだけど、何か買ってきて欲しいものはあるかい?」

『そうじゃのぉ・・・・・・。そーゆやぁ、今醤油と野菜を切らしょぉったところじゃったけぇ、それを頼むわ。レシートがありゃぁ、代金も払うけぇのぉ。よろしゅう頼むわ』

「わかった。それじゃあ、今から藤三に寄るから」

『わざわざ悪いのう。ありがとさん』

「いいってことよ。それじゃあ」

『おう』

 通話が終了した。ワゴン車は、藤三というスーパーマーケットに入った。田舎だというのに、駐車場は広い。品揃えもそこそこ良く、倉橋島の生命線と言って過言ではあるまい。秋月は、醤油を一本、野菜を適当にいくつか見繕って購入した。

「よし、それじゃあ行こう。ここまでくれば、もうあと僅かだ。ただ、道が入り組んでいるからね、酔わないようにだけ注意してくれ」

「わかったゼ」

「了解であります!」

「それじゃあ、出発進行〜」

 ワゴン車は、藤三を出て、山の中に入っていった。左右は、見渡す限り畑、畑、畑! 農地しか存在しないと言っても過言ではないくらい、緑が広がっている。

「あ^〜、心が癒されるんだゼ〜」

「すっかり心がぴょんぴょんしている、だと・・・」

 その風景に、思わずミラアルクも心がぴょんぴょんしてしまったようだ。顔が蕩けている。思わず、秋月は驚愕した。エルザは、すでに癒しの力で眠りについている。

 その間に、車はトンネルに近づいている。木で隠れていてわかりにくいが、遣唐使船が描かれている。

「あれは何?」

「遣唐使船。どうやら、倉橋で造られた、という説があるみたいだ」

「・・・・・・というか、そもそも唐って?」

「そうか、日本の義務教育を受けて・・・・・・って、シルクロード関連で話題に出ないはずがないんだけどな・・・。ひょっとして、発音の問題か?」

「そうね、私も『(Tang)』なら知っているけれど」

「多分それだ。そうか、発音が違うことを念頭におくべきだった・・・!」

 事実、日本語の発音と英語などでの発音が異なることは、中国の名前にはよくあることだ。例えば、三国志の劉備も、日本では「リュウビ」と発音するが、英語圏では「リウベイ」と発音するという。Google翻訳はそう言っていた。

 それはさておき、実際に倉橋で遣唐使船が造られたのかについての議論は、ここではすまい。

 トンネルを抜けると、そこはいよいよ倉橋町だ。出迎えるのは、やはり緑だ。眼下には、瀬戸内海が見える。山を下るにつれて、建物が増えていくのがわかる。麓には、かつて支所だった場所があった。今では、駐車場になってしまっている。そこを右折すると農協の店などがあるのだが、彼らの目的地はそこではない。少し進んで左折すると、一本道が広がっている。左側には、畑と民家が混在している。右側には瀬戸内海があり、それに合わせたかのように水産業者が存在している。さらに、船着場もある、ここには、主に趣味で使用するモーターボートなどが着けてある。

 少し進むと、桂浜、桂浜温泉館などが見える。温泉館は、この街で最大の施設であり、付近には温水プールもある。室内なので、雨でも練習ができるのが強みである。ここを過ぎると、またもや緑が増えることになる。その直前には、長門の造船歴史館という施設がある。ここには、遣唐使船のおそらくレプリカ(もしかすると本物かもしれない)がある。さらに、どのようにして遣唐使船を造ったのか、などさまざまなことを学べるので、一見の価値アリだ。類似施設には、大和ミュージアムが挙げられる。この施設には、戦艦大和の模型が置いてあり、軍港都市・呉の歴史を感じることができる。

 話が脱線してしまったが、反対側には小中一貫校も見える。

 さて、トンネルを抜けると、今度は緑が出迎えてくれる。

「やっぱり茂ってるか・・・・・・。かといって除草するとなると、それはそれで面倒くさそうだしな・・・・・・」

 向かって右側は、例によって畑と見られる土地だ。

 少し進むと、今度はビーチである。今はシーズンではないので人はいないが、時期がくればそこそこの人数がやってくる。貴重な観光資源といえよう。

 道路は、海岸線と山を通っている。だが、どちらにせよグネグネしているのは仕方がない。山をぶち抜こうにも、そうはいかない事情があったのだろう。

 畑の見える地帯を抜けると、しばらくの間は海と山しか見えなくなる。手付かずの自然は、時に雄大な景色を演出してくれる。人によっては、垂涎モノであろう。

「これだけ行っても、まだまだ青い。ヴァネッサ、どう思う?」

「そうね、やっぱり珍しいと思うわね。ニホンにこんな景色があったなんて・・・・・・」

「まあ、あそこまで発展してるのは、それこそ政令指定都市とか県庁所在地とかそこらあたりだろうからな・・・・・・。どんどん自然との比率がひっくり返されていく」

 かつて種田山頭火は、「分け入つても 分け入つても 青い山」と詠んだことがある。無論、倉橋島の風景を詠んだわけではないだろう。だが、この句がぴったり当てはまる場所の一つとなりうるのではないだろうか。

 だが、その青い景色は、十数分ほどで終わりを迎える。そう、ついに尾立の町にたどり着いたのである。港町で、建物はそれなりにある。だが、外側がさびれているように見受けられるものもある。

「寂しい町ね・・・・・・」

「そうかねぇ。僕は、まだ生きていると思う」

「どうして? こんなにさびれているのよ?」

「シュレディンガーの猫じゃないけれど、中を見ていないからね。外だけで判断してはいけないよ。本も同じで、一見面白くなさそうでも読むと面白い! ということはザラにある」

 秋月は、同年代の中で頭一つ抜きん出て本を読んでいた。実家とは別の古本屋に寄って、適当に本を探していると、当然さまざまな作品が見つかる。ぱっと見で興味を惹かれ、買ったはいいもののよく見ると面白くなさそう。もしくは、難しそう。そう思ったことは、一度や二度ではない。しかし、実際に読んでみると、なんと面白いことか。多少難しくても、それは些事だ。

 どうしてもっと早く出会わなかったんだ!

 後悔することも、多くあった。もっと早くにその本を見つけておけばよかったという、後悔を。

 ちなみに、シュレディンガーの猫とは、簡単に言えば「完全に閉じられ、蓋を開けなければ中が見えない箱の中の猫が生きているか死んでいるかは、蓋を開けてみるまでわからない」という、量子力学の難しそうで難しい理論である。

「さて、ここからラストスパートだ。エルザ、ミラアルク、そろそろ起きなさい」

「ん、んぅ・・・・・・。もう着いたでありますか・・・・・・?」

「むにゃむにゃ・・・・・・。トマトジュースは鼻よりも耳からぶち込んだほうが美味いんだゼ・・・」

「寝ぼけてるわね」

「完ッ全に寝ぼけてるな、ミラアルク」

 二股に分岐した道の、左側を通る。Uの字にぐるりと回ると、トンネルが見えた。目的地までの、最後のトンネルである。

 抜けると、またしても畑である。右側には、相変わらず森が広がっていた。一部の枝は、道路に迫り出している。幸い、車の高さではないため、擦れて傷がつくというようなことはない。

 山を降りてJA前までたどり着いたら、付近の丁字路を今度は右に曲がる。坂の左側には、重機が駐車してある広場のような場所があった。

「よし、到着だ! 九千字近く使ってしまったけれど、ようやく到着だ!」

 カーブの近くの駐車場にバンを停め、エンジンを切る。

「おーい宗近、久しぶりだね」

「おお秋月、やっと来たか! 待ちくたびれたで!」

 男二人は、ガッシと握手をした。

「それでわれら、宿はあるんか?」

「いや、ない。泊めてもらう気満々だったよ。連日の車中泊で、体が痛いんだ」

「ほうか。それじゃあ、食事なんかは作っちゃるから、離れを使うゆい」

「ありがとう」

 宗近の自宅は、母屋と離れに分かれている。離れには風呂がついているので、入浴のためだけにわざわざ移動しているのである。冬は、とてつもなく寒い。

「そういえば、馬木さんは何をしているのでありますか?」

 エルザが訊く。

「ん? 見ない顔じゃの。まあええや。普段わしゃぁ、農家と小説家をやっとるんじゃ。山の方に蜜柑畑があるゆぅて思うが、あれがわしの畑なんで」

「そうだったの・・・・・・。でも、馬木なんて聞いたこともないけれど・・・」

「それはそうだ。本名で活動するのはかなり珍しいからね。宗近は、確か『鹿老渡(カロウト)早瀬(ハヤセ)』という名前で活動していたはずだ」

「そうそう。一応今まで三冊ほど出版しとるんよ」

「で、売れ行きはどうなんだゼ?」

「まあ、大ヒットとまじゃぁいかんがそこそこ売れとるよ。一応シリーズ化されとるしのぉ」

「印税で食っていけるというわけではないけど、いい感じの稼ぎはあるみたいだね」

 江田島庵御一行は、離れに荷物を置いた。

「確か、竹が欲しいんじゃったか。別に、タダでやるがなんにするんじゃ?」

「竹馬を作りたくてね。本当は群馬あたりで済まそうかと考えていたんだけど、相場がよくわからないので、心当たりを尋ねたという次第だよ」

「だかろぉてここまで来るか普通。遠かったんじゃろうに」

「もちろん。で、だ。できればここで竹馬を作っていきたいのだが、構わないね?」

「まあそりゃぁええんじゃが、作り方はわかるんか? わしゃぁ知らんぞ」

「大丈夫。すでに印刷してあるから」

 というわけで、一行と宗近は、所有している土地の竹藪に入った。家の真正面にある。

「流石に、素人に竹の伐採をやらせるわけにゃぁいかんけぇ、ほいで見ょぉってくれんさい。ええと、人数分じゃったか?」

「いや、七人分頼む」

「それじゃったら、まあ一、二本で足りるじゃろう」

「いや、失敗する可能性も考慮したいので、少し多めに切って欲しい。なに、余ったならご飯でも炊けばいい」

「気楽に言ぅてくれるなわれ。竹を伐採するんがどれだけ大変か、われ知らんじゃろう」

 文句を言いながらも、およそ一五米ほどの竹を伐採していく宗近。作業の様子は手慣れている。

「よいしょっと。これでええんか?」

「ありがとう。それじゃあ、鉈と鋸とメジャーを用意して、と」

 秋月は、ワゴン車を離れ側の駐車場に移動させた。先ほど駐車した方は、作業をするのにもちょうど良い広さなのである。

 細めの竹と、太めの竹。さらに、縄と針金。これらが、主な材料である。

 太めの竹は、足を乗せるのに使う。鉈で割れ目をいれ、そこに二米ほどにカットした細い竹を差し込む、そうしたら、あらかじめ水分を含ませておいた縄でふんじばるのである。なぜ水分を含ませるのかというと、そうすることによって縄が乾いた時、より強く縛ることができるからだ。パネルを水張りするのと同じ考え方である。

「初めてだからどうなることかと思ったけど、うまくいってよかったよ」

「ウチもできたゼ!」

「私もであります!」

「・・・・・・う〜ん、力加減が難しいわね・・・・・・」

 エルザ、ミラアルクも、何事もなく完成させることができた。しかし、ヴァネッサは、そのサーボーグボディが災いし、三回ほど失敗した。

 制作開始からおよそ二時間後、ヴァネッサも完成させた。

「ごめんなさいね、遅くなってしまって」

「いや、大丈夫」

「それに、幾つも無駄にしてしまったし・・・・・・」

「大丈夫。これで、竹細工を作ることができる」

 秋月がバンバンブー確保のために建てた作戦を、ここで説明しておこう。バンバンブーは、竹のケミーである。そして、子どもたちが遊んでいる声に反応していた。すなわち、竹馬で遊んでいればバンバンブーは誘き寄せられるはずである、という魂胆だ。さらに、バンバンブーの興味を引くために、竹細工を利用した罠も作ろうと考えている。肉などを置いて籠を紐を結んでおいた枝に立てかけ、獲物が肉におびき寄せられたら紐を引いて退路が断たれるという罠だ。まあ、これは保険。本命は、竹馬で遊ぶことである。

『おお〜』

 秋月は、器用な手先で竹細工を作った。およそ三時間かけて作り上げたランプシェードである。

 さらに、捕獲用(トラップ)とするための籠も作り上げた。

 そうしている間に、夜になった。夕食は、宗近作の焼きそばに舌鼓を打った。

 入浴し、全員が床についたのは二二時のことだった。

 翌日。

 一行が起床したのは、午前七時のことである。宗近はすでに、蜜柑畑の世話をしていた。

「おはよう宗近。やっぱり蜜柑農家は朝が早いみたいだね」

「何を当たり前のことを言ぅとるんじゃわりゃぁ。っちゅうか、漁師の方がもっと早いに決まっとるじゃろう。それで、今日東京にいぬるんじゃったの」

「そうなるね。まあ、三日ほどかかるけど」

「ようもまあげにわれ、こがぁなところまで車で来ようゆぅて思うたよな・・・」

「はっはっは」

 男二人がこうして談笑していると。

「やっと見つけたぞ」

 と、第三者の声が響いた。

「誰だわれ? 蜜柑泥棒か何かか? じゃったらわしゃぁ容赦せんぞ」

「いいや違う。用があるのは、そこの和服だ」

「ということは、江田島庵に興味があると、そういうことかな?」

「それも違う。白を切るな、グレイム。ケミーを寄越せ」

「グレイム? ケミー? わりゃぁ一体何を言ぅとるんじゃ?」

 あくまで一般人の宗近は、戸惑いを隠さない。一方の秋月は、警戒心を隠さない。

「・・・・・・名乗りもせで一方的に要求すとは、いかなることなり? 常識ぞとてあらざらずや? あと宗近、君は母屋に帰りたりたまへ。あらごとになる予感す」

「ひょっとして、われ怒っとるんか? まあ、あがぁな失礼な態度を取られたらそりゃぁそうなんじゃが・・・。まあわかった、解決したら呼んでくれ」

 そう言って、宗近は母屋に駆けて行った。

「さて、なんぢは何人なり? かくて、何狙ひなり?」

「とぼけるな! 貴様がケミーを所持していることは、そしてベルトを所持しているということは、調べがついているんだぞ!」

「まづは名乗れと言へり! それすらもえぬ猿と話すつもりは毛頭無し!」

「まあいい。どうせ貴様はここで私が殺すのだから、冥土の土産に教えてやろう。私は北欧系錬金術師が一人、部屋瀬戸(ヘヤセト)瀬木戸(セキド)! まずは非力であろう貴様から、ベルトとカードを奪ってやろうという魂胆だ!」

 錬金術師の男は、そう名乗った。

 まだ、アルカ・ノイズは実用化されていないため、彼は文字通り一人で来襲したことになる。

 秋月は、黙ってベルトを腰に巻いた。

 瀬木戸は、銃のようなものを取り出した。

『スタッグバイン!』

 秋月は、二枚のカードをベルトにセットする。

『ジェットスワロー!』

 瀬木戸は、銃のようなアイテム──ムスペライザーのハンマー部分を操作し、引鉄に指をかけた。

「変身!」

「装填!」

『ガッチャーンコ! ジェットスタッグ!』

『シューティング! ムスペル・スルト!』

 秋月はグレイムに、瀬木戸はムスペルトに、それぞれ姿を変えた。

「話し合いより前に得物を取り出すとは・・・・・・。血の気が多いようだな」

「ほざけ。ケミーを狙へばいはば、遅かれ早かれかくならむと聞けり。先手を打つはむべならむ」

 今ここに、古本屋主人と錬金術師の戦いが始まろうとしていた。

 その様子を、離れからノーブルレッドは見ていた。

「まさか、こんなところにまで追っ手がいるとは・・・」

「でも、ウチらと違って怪物ってわけじゃなさそうだぜ」

「神話などもっと読んでおくべきだったであります・・・。帰ったら、探してみよう」

 そこに、秋月が声をかける。

「三人とも! 長丁場にならむ、先に荷物まとめ東京に向かひおけ! 後よりワイルドかたちに追ひかく!」

「了解! エルザちゃん、ミラアルクちゃん、帰るわよ!」

「ガンス!」

「わかった、ぜ!」

「うる限りとく合流す!」

 この時秋月は、帰りにがんすを買って帰ろうと思った。がんすというのは、呉市・広町で主に販売されている、魚の揚げ物の一種である。

「さて、話し合いは済んだか。では、始めるかッ!」

 先手を討ったのは、ムスペルトだ。回転式弾倉(シリンダー)を丸ごと交換し、銃をグレイムに向けた。

"灼熱の炎の剣"

 それを意味するルーンを、彼は己の血で地面に刻み、そして撃ち抜いた。

 すると、その箇所から黒黒とした炎が、グレイムに向けて吹き出した。

「!」

「どうだ、避けられまい!」

「されど、風に吹き消さばなにともなる!」

 グレイムはそう叫び、腕のジェットエンジンから強風を送り出した。鷹の爪で踏ん張り、反動の対策もばっちりである。

 だが。確かに、炎は掻き消えた。だが、考えてみてほしい。スルトとは、北欧神話において炎の巨人とされ、ラグナロクのキーパーソンでもある。そんな彼の武具の名は、レヴァンテイン(もしくは、レーバテインなど多様な発音が存在する)である。様々な解釈が存在するこの武具であるが、本作ではメジャーなものに従って、炎の剣とする。ムスペルトも、その解釈を採っている。

 数行前のことではあるが、思い出してほしい。先ほど刻んだルーンは、"灼熱の炎の剣"である。

 すなわち、この炎はむしろ鞘と言って過言ではないのである。

「ははは、囮作戦というには些か雑だったか」

「面妖なる剣持ちいだししものかな。スルトといふところより、おおよそその剣のはかりはつけど・・・。何を換へにいだしき?」

「安心しろ、これはあくまで劣化版。聖遺物なんて持っちゃいないんだから」

 当人は劣化版と称するそれは、紅紅と、そして赤赤と燃えていた。

「これぞ、レヴァンテイン。スルトが使ったとされる武具だ。まあ、モノホンだったら抜いた瞬間にそこの竹藪も全部燃えているのかもしれんが、生憎偽物なので、せいぜい空気を熱する程度しかできん」

 そう言いながら、確りと鋒はこちらに向けている。

「さて、実は戦闘でこれを使うのは初めてなのだ。試し切りの相手になってもらおうか!」

「ふざけたりや!? 試し切りほどとてから来!」

「ふざけてなどいないさ! 何せ、このムスペライザーは、君を発見した時点で作成を始めたのだから! それ以前に設計自体は終わらせていたが、目指すべきものがあればすぐにできるな!」

「・・・・・・なんと適当な・・・・・・」

 グレイムは、完全に拍子抜けした。礼儀を失したことに対する怒りが、完全に霧散してしまったのだ。

「なんというかこう・・・・・・。かなり特殊なのだね」

「まあ、な。我が錬金術も、どちらかといえば魔術師的なものだしな。神話の要素を再現しようと試みる錬金術など、そうそう聞きはしないだろう」

「確かに。・・・・・・待て、北欧神話で金・・・・・・? もしや、到達点はファーブニルか?」

 ファーブニル。ファフニール、ファフナーなどともいうそれは、簡単に言えば黄金を守る竜である。と言っても、元から竜だったわけではない。概ね、黄金に目が眩んだ男が、その呪いによって竜に変貌してしまった、という経緯である。

「あそこまで行こうとは思っていないがね。まあ、それに近しいものに到達するというのが我が命題よ」

「だいぶとんでもないものを目指しているのだな・・・・・・」

「お前は?」

「?」

「お前の命題はなんだ?」

「・・・・・・!」

 グレイムは、答えることができなかった。成り行きでベルトを巻いて変身し、ケミーを蒐集する。だがそれは、むしろノーブルレッドの命題を達成するためのものであろう。彼自身の探求すべき命題は、何一つとして無いのである。

「ふうむ、返答に窮すか。まあ仕方がない。色々身辺を洗ってみたが、反射か勢力と繋がりがある以外はごくごく普通の人生を歩んでいたようだからな」

「それはそれで失礼な物言いだ」

 グレイムは、腕のエンジンをムスペルトに向けた。

「吹き飛べ!」

 そして、エンジンを作動させる。超高速の風が吹き、ムスペルトを襲う。だがそれは、レヴァンテインを強化するだけだった。

「ま、さか・・・」

「そう。レヴァンテインは炎だ。そして、炎は酸素を燃焼させることで発生する場合が多い。そうやって風を送るというのは、酸素を送る、すなわち我がレヴァンテインに燃料を与えると同義!」

「そんな伝承があったのか・・・?」

「これは科学だ!」

「ガバガバにも程がある・・・・・・!」

 グレイムは、送風を止めた。直後、ムスペルトはレヴァンテインを振り下ろした。

「くらえ!」

「それならば、こうするまで!」

 グレイムは、倒立した。そして、右足の爪でレヴァンテインを固定した。

「何!?」

「今から、飛ぶ!」

 そう言って、再びエンジンを点火した。ムスペルトは、思わずレヴァンテインから手を離してしまった。グレイムは高速で飛び上がり、室尾の街並みを一望できるほどの標高に至った。

「こんなに危ないものは、海に捨ててしまうか・・・。いや、不法投棄はダメだから、こうか!」

 グレイムは、瀬戸内海に向けて急降下した。そのままダイブし、レヴァンテインの消化を試みる。

「消えない、か・・・!」

 しかし、紛い物とはいえレヴァンテイン。海水程度で消えるような炎ではないのだ。

「せめて、液体窒素があれば・・・・・・!」

 そう呟きつつ、海上に上がった。

「さて、ムスペルトは・・・・・・」

「私はここだ! 再装填!」

『リ・シューティング! アスガルド・オーディーン!』

 ムスペルトは、ラグナライザーを操作し、オーディンフォルムに姿を変えた。

"神槍"

 これを意味するルーンを刻み、撃ち抜いた。すると、レヴァンテインが変形し、グングニル(もしくはガングニール)の形をとった。

「そういうタイプなのか・・・・・・」

「その通り。もっとも、あまりフォルムチェンジはしたくないがね。弾丸には全て血でルーンを刻んである。無駄弾を撃ちたくはないのだ」

「そちらの事情など、知ったことではないがねぇ!」

「なんとでも言え。だが、このグングニルを私が投げたなら、お前は確実に敗北する。なぜならば、確実にお前を貫くからだ!」

「そういえば、そんな伝承があったねぇ・・・・・・! 初めて知ったのは鎌池先生の『ヴァルトラウテさんの婚活事情』だったけど!」

 ヴァルトラウテさんの婚活事情。わかりやすくいうと、北欧神話の世界観を舞台としたラブコメである。北欧神話入門に最適なので、ぜひ読んでいただきたい。

 ところで、何か違和感に気づかないだろうか。どこか? それは、ムスペルトのセリフだ。彼は、「グングニルを投げたなら、それは確実にグレイムを貫くため自分が勝利する」という旨の内容だ。

 そう、別に槍で貫いたからといって致命傷となるとは限らないのである。

 また、仮にこのグングニルを自動追尾式の槍であると仮定しよう。つまり、グレイムを貫くまで追い続けるという傍迷惑なストーカーだ。

 ここまで言えば、この後グレイムがどうしたかの想像がつくだろう。

「くらえ、グングニルッ!」

 ムスペルトの手によって、グングニルは投擲された。真っ直ぐに、グレイムに向かう。

「ワイルド形態!」 

 グレイムは燕と鍬形虫、そしてジェット機が融合したかのような姿となり、グングニルから逃げた。だが、当然グングニルは彼を追う。グレイムは、無茶苦茶な軌道で飛び続けた。

「・・・・・・あれは一体、何をしているんだ?」

 思わず、ムスペルトは呆けてしまった。そして、グレイムはそれを見逃さなかった。

「今だ!」

 グレイムは、ムスペルトに向けて一直線に突撃した。そして、わずか数センチのところで上空に向かった。グングニルは、勢いを殺しきれず、ムスペルトを貫いた。

「ぐ、がっは・・・・・・!」

「私の、勝ちだ」

 こうして、戦いは終わった。ムスペルトの変身が解けると同時に、グングニルも消失した。

「負けた、か・・・・・・」

 瀬木戸は、ルーンで貫かれた傷を治療した。

「そうだね、なかなかいい勝負だったと思っているけれど」

 秋月も、変身を解除した。

「まあ、私のムスペライザーは未完成だからな。今のはいわば試作1号機、GPシリーズで言えばゼフィランサスよ!」

「ということは、2号機は私が奪っても問題ないということだね?」

「4号機も強奪されるということか・・・。しかも、見た目まで大きく変えられる」

「それは災難だね。そこまでされたなら、著作人格権侵害などで訴えてもいいんじゃないかい?」

「考えさせてもらおう。・・・・・・さて。私が負けたなら、お前のいうことを一つきくという約束だったな」

「そうだったね。うーむ、それじゃあ・・・・・・」

 秋月は、一つの提案を口にした。

 

***

 

 三日後。江田島庵付近の公園では、子供達を集めた催しが開かれていた。江田島庵は、近所の大人や学校からの信頼も篤く、出前授業を頼まれる時もある。

「おにーさん、これは?」

「ああこれはね、竹馬、というんだよ。昔の人は、これで遊んでいたそうだ」

「どうやって使うの?」

「それを、今から説明しよう」

 これは、バンバンブーを誘き寄せるための罠である。子供を集め、楽しく竹で遊ばせる。そうすれば、竹のケミーであるバンバンブーも近寄ってくるんじゃないかと考えたのだ。

「エルザ、実演してあげなさい」

「ガンス!」

 ガンスといえば、呉市名物・がんすは、きちんと購入して帰った。

 エルザに実演役を任せたのは、ノーブルレッドの中で一番、近所の子供と年齢が近いからである。基本的に、エルザは末っ子ポジションに収まっている。

「ねーおにーさん、他にはないの?」

「もちろんあるとも。竹蜻蛉だとか、水鉄砲もあるよ。好きなもので、遊んで行くといい」

「ありがとー!」

 秋月は、子供達が遊んでいるのを、微笑ましげに眺めていた。

 すると、数分後。江田島庵の隅っこに、見慣れない人影を見た。

「まさか・・・・・・。やはり、来たみたいだね」

 それは、バンバンブーだった。どうやら、遊びに加わりたいようである。

「バンブー・・・・・・」

「そうか、人間の言葉は話せないのか・・・・・・。でも、心配はいらない。子供達は、君がどんな存在であれ受け入れてくれるさ。私もね」

「バンブー!」

 バンバンブーは、嬉しそうに、遊びの輪に加わった。そして、クタクタになるまで、子供たちとの交流を楽しんだ。

「成功みたいね」

「ああ、ここまでうまくいくとは思わなかった」

「無理に追いかけなくても、寄ってくるものなのね」

「誘蛾灯のようなものだね。もっとも、彼・・・・・・彼? まあいいか、彼を害虫扱いする気はないけれどね。ちょっと汚いが、マスコットキャラクターの獲得もできた」

「マスコット・・・・・・。確かに、いいわね。竹の妖精がいる本屋・・・。とっても魅力的だわ」

「ははは、そう言ってもらえると助かるよ」

 こうして、バンバンブーは秋月の手中に収まった。

 その頃、瀬木戸はというと。

「なぜ私はこんなことをやっているんだ・・・・・・」

 秋月の依頼をなんでも一つ聞くと言ってしまったがために、小説を書いていた。

「確かに、なんでも一つ言うことを聞くとは言ったが! 言ったがさあ! 北欧神話を完全オリジナルの解釈で、しかも京極夏彦級の分厚さで書けとか、錬金術師の本分じゃないだろうがああああああ!!!!!!!」

 北欧神話について書かれた本を片っ端から読み込み、それを元に自分なりの解釈を形成する。そして、さらに言語化する。対象年齢にブッ刺さるような表現で。締切は、3ヶ月後。

 無茶である。

「もう、名乗らずに襲撃なんてするもんか!」

 瀬木戸は、後悔した。だが、3ヶ月後に、本当に作品を完成させたあたり、さすが北欧神話系の錬金術師といえよう。

 その後、瀬木戸は、五年ほど修行してくると言い、フィンランドに旅立った。




いかがでしたか?
秋月のキャラは、初期設定というやつです。
部屋瀬戸瀬木戸は、使い捨てキャラです。なぜ彼を出したのかと言いますと、どうもシンフォギア本編の錬金術師は全員、何かしらの命題を持っています。では、秋月の命題は何か? 一切考えておりませんでした。それを考えるきっかけづくりのために、すでに命題を持っているキャラを出したということです。彼の変身体であるムスペルトは、ケミーを一切使用していないため、劣化版ヴァルバラドといえます。もし再登場するとするならば、その時はケミーのパチモンデミ・ケミー、略してデミーを使った擬似ライダーにするかもしれません。ちなみに、他にもゲストキャラの引き出しはいくつかあります。全員、1〜2話限りですが。
今考えている終着点としては、本編のアントレスラー戦、つまり秋月敗北エンドです。
感想、評価、ご指摘などお願いします。

しかし、この時点で本編からかなり乖離している気がする・・・。

追記 どうも、自分の中では、秋月は「中庸」よりの人物な気がします。シャーマンキングでいうところの、ガンダーラ。まあ、彼は熱心な仏教徒というわけではありませんが。
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