古本屋の錬金術師   作:吾妻原昌孝

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お待たせしました、第4話です。
今回から次回にかけて、ちょっとしたクロスオーバーを展開させていただきます。
カンのいい方ならサブタイトルでわかるかと思います。


第4話 池袋

「それにしてもよ、お前、竹を取りに行くためだけに倉橋に行くとか、まじでお前バカか? いや、バカだろ?」

「いやはや、そう言われても仕方がないね」

「認めるなよ」

 江田島庵で世間話に興じるのは、店主の秋月と若頭の切串だ。小学生の頃から続く縁である。

「お前なあ、こういう時は届け屋を使えよ。そうすればよ、結構早くこないだのイベントもできたんじゃねえか」

「それはそうなのだけどねえ。ちょこーっと人には言いづらい事情があってね」

「・・・・・・ま、詮索はしないけどよ」

 そういうと、切串はスマホを取り出し、ある記事を表示した。

「なんだいこれは?」

「最近噂になってるんだよ。優しいゴリラが」

「・・・・・・これが? 私には、霊長類ヒト科ヒト属のホモ・サピエンスにしか見えないのだけれど」

「そういうとは思っていたよ。まあ、これはあくまで渾名なんだがな。どうも、ゴリラ並みに筋肉があるらしい」

「・・・・・・そんな人間が実在するのかい?」

「だから、あくまで噂。もっといえば、都市伝説だ」

 その記事には、「ゴリラの如き怪力、またもや人助け!?」という見出しが載っていた。

 すると、江田島庵に、一人の青年が入ってきた。

「やあ、宮ノ原切串さん。お久しぶりです」

 その人物は、明らかに日本人の見た目ではなかった。白人だろうか。少々幼い顔立ちで、眼鏡をかけている。

「おおこれは、フィーロさんではありませんか。どうしてこちらに?」

「いえね、ちょっと家族サービスで。それで、ついでに一度やり合ったあなた方と顔を合わせておこうと思いましてね」

「・・・・・・切串、彼は一体?」

 秋月が、疑問を呈す。

「ああ、この人は、アメリカのカモッラ、マルティージョ・ファミリーの出納係(コンタユオーロ)、フィーロ・プロシェンツォさんだ。こう見えて、かなりご長寿らしいんだが、どうもよくわからんのだよ。ああ、フィーロさん。こちらは、私の友人の飛渡瀬秋月と申します」

「秋月です。呼び捨てにしていただいても構いませんが、カモッラ・・・・・・? どうも私は不勉強なもので、よくわからないんです」

 フィーロは、微笑む。

「そうですね、カモッラというのは、なんと言いますか。まあ、マフィアの亜種のようなものと思っていただければ、カタギの人には十分かと」

「なるほど・・・・・・。コンタユオーロ、というのは?」

「組織の出納を担当しています。まあ、日本の家庭で言えば、家計簿をつけている、と言ったところでしょうが」

「でも、その金はクリーンとは言い切れない、と。これはとんでもない家計簿だ」

「おい、秋月・・・・・・! 下手な物言いで、東京が戦場になったらどうする!」

 切串が、嗜める。マルティージョ・ファミリーは、巨大組織とは言えないが、主要な構成員は皆、特殊な経歴を持っている。フィーロは、タメ口やちょっとした皮肉程度でキレるほど器が小さいわけではない。だが、どこが逆鱗なのかわからない。だからこそ、切串は必要以上に警戒しているのだ。

「ところでフィーロさん。一体どういう経緯で、この店をご存知に? あまり海外の方に知られるような店ではないのですが・・・・・・」

「ああそれはですね、そちらの切串さんに聞いたんですよ。宴会の席で、酔っ払った彼が話していたのですが、かなり印象に残っていまして」

 瞬間、切串は「ドゴスギアッ!」と妙な声を上げた。秋月に、鳩尾を殴られたのだ。

「ねえ切串。君はいかで、堅気ならぬ人にうちの店を広むやな? 此度のフィーロのごとく一見せば堅気なる人ならばいまだしも、明らかに裏世の人がやりきて、そのすゑまらうど足の遠のきしなどことにならば君はいかが責めをとるやな?」

「すまん、俺の口が軽かった・・・・・・」

「次うたてきこといで禁にすればぞ?」

「それだけは勘弁!」

「仲がいいんですね、お二人は」

「まあ、小学生からの・・・・・・英語で言えば、エレメンタリースクールからの仲ですからね」

 すると、フィーロは、店内を見渡し始めた。

「どうしたんです?」

「いやあ、さっき家族サービスって言ったじゃないですか。私の妻、エニスというんですがね、彼女と私とで何かお土産を買っていこうという話になりまして。要するに、プレゼントですね。それで、別行動をとっているんですが・・・・・・。どんな本なら喜んでくれるかな」

「なるほど、伴侶の方へ・・・・・・。どのような方かお聞きしても?」

「そりゃあもちろん」

 そう言って、フィーロはエニスとの馴れ初めなどを話した。

「なるほど、それは波瀾万丈でしたね。しかし、不死の酒とは・・・・・・。にわかには信じ難いですが、まあ何せ私もそういうものを見ておりますから、信じましょう」

「そういうもの?」

「口の軽い切串君の前では話せませんがね」

 うっ、いや、ゔっ、と切串がうめいた。盛大な皮肉の刃が、彼を襲ったのである。

「ハハハ、そうですね」

「それで、エニスさんは、聞いた感じでは、まず寡黙。それで、長年生きているが非現実に興味を持っている。さらに言えば果てない知識欲を持っている・・・・・・。ならばまず広辞苑かな。でも、それじゃあプレゼントとしてあまり面白くない。そうですね、最近のエニスさんのマイブームは?」

「そういえば、中国の小説に興味あるみたいだったな。それと、日本語そのものにも。話せても、読むのが難しいみたいで。まあ、それは私もなんですけどね。うちのトップが日本人なもので、話せるようになったのは比較的早かったんですが・・・・・・」

「でしたら、封神演義なんかはどうでしょう。後は、西遊記に三国志演義。どれも創作物ではありますが、時代ごとの中国の風俗なんかも再現してあって、知識を身につけるのに大いに役立ちます。個人的には、三国志演義がおすすめです」

 そう言って、秋月は本棚を漁る。

「ええと、どこだっけな・・・・・・。作者がたくさんいるけれど、まあここは私のバイブルを・・・・・・。えーと、『わ』はどこだっけな・・・・・・。それに、日本語の読み書きがまだ難しいとなると、ルビも振ってあったほうがいいだろう。二十歳を大幅に過ぎてはいるが、まあこの厚さならいけるだろう。総勢約一二〇〇ページ、お、あった、これだこれだ。三国志に封神演義、そして西遊記。計十冊、こんな感じでどうでしょう。後は、和英辞典もいかがです?」

「お、おお・・・・・・」

 フィーロは、その分厚さに絶句した。

 その後、フィーロは、辞典含め十一冊の本を購入して、江田島庵を後にした。会計は、ハードカバーなのもあって一冊五百円、辞典も同価格であるため、計五五〇〇円(税抜)。まさに、大人買いであった。

 

 その日の午後。異変は、唐突に訪れた。

「・・・・・・? グハッ!」

「ヴァネッサ? 一体、どうしたというんだい!?」

 ヴァネッサが、吐血したのだ。それだけではない。ミラアルク、エルザも同様の症状を見せた。

「出自が出自だから、まあ普通の医者に診せるわけには行かないだろうね。確か、池袋に腕のいい闇医者がいたはずだ。彼の手を借りられれば、あるいは・・・・・・!」

 即断即決。彼女らをワゴンに乗せて、安全運転で池袋に向かった。もっとも、現在の池袋では、スピード違反をた時に追いかけてくる、首なしライダーと互角の勝負を見せたあの白バイ警官は、すでに高齢となって引退しているが。

「このマンションだったはず・・・・・・」

 しかし、闇医者の住むマンションは、合鍵がなければそもそも中に入ることのできない仕様であった。部屋番号さえわかれば、通話のできる機械に打ち込んで内側から解錠してもらうことができるのだが、それもわからない。

「糞・・・・・・! 一刻を争うというのに・・・・・・ッ!」

 秋月は、つい毒を吐いた。そう、下手を打てば、ノーブルレッドの三人はほぼ確実に命を落とすだろう。それは、彼にとって望むところではない。

 途方に暮れていると、突如声をかけられた。

「あー、あんた、なんかここに用でもあんのか?」

 振り返ると、そこには金髪のバーテンダー風の男がいた。

「貴方は・・・・・・?」

「オイオイ、質問に質問を返すなよ。・・・・・・ってアンタ、池袋じゃ見ねえ顔だな・・・・・・」

「ええ、私は墨田区近郊在住ですから。私は飛渡瀬秋月。江田島庵の店主でして、現在同居人の三人が謎の吐血を起こしたんです。普通の医者に見せるわけには行かない事情がありまして、その時噂を思い出したんです。池袋には、凄腕の闇医者がいるという噂を」

 それを聞いたバーテンダーは、一瞬目を丸くした。そして、頭を掻きむしり、

「切羽詰まってたのに引き止めて悪かった。俺は平和島静雄、その闇医者の知り合いだ。今は家にいるだろうから、俺が開けてやろうか?」

「なんと・・・・・・! それはかたじけない。頼みます」

「わかった。にしても、ずいぶん古風な格好なんだな・・・・・・」

 静雄と名乗った男は、親切なことに知り合いの闇医者──このマンションに住んでいる者であろう──にとりなしてくれた。

「彼が・・・・・・」

「ああ、コイツがその凄腕の闇医者、岸谷新羅だ。正直、アイツは凄腕ってか変態の方が合ってるとは思うんだが・・・・・・」

「酷いねえ静雄君!? まあ、それは後で問い詰めるとして、君が患者かい?」

「いや、コイツの同居人だと。今下の車の中にいるみたいだ」

「・・・・・・換気は?」

「流石にしています」

「わかった、すぐに運んでくれ! 静雄君も、協力してもらうよ!」

 新羅と呼ばれた闇医者は、担架を人数分持ち出し、ワゴンに向かった。三人を運ぶ最中、新羅がヴァネッサを「人間とは思えない重さ」と評してへばったので、静雄が抱えるというアクシデントもあったが、無事に新羅の部屋に三人を送り届けられた。

「さて、念のために採血させてもら・・・・・・って、なんなんだい彼女は!? 注射針が通らないぞ!?」

「なんだって!? ・・・本当だ、やはりサイボーグ故の弊害か・・・」

「どういうことだい!?」

「ヴァネッサは・・・・・・というか、この三人は人には言えない事情を抱えているんですがね。その一つが、人間から逸脱した肉体なんです。話を聞いた感じでは、ヴァネッサがサイボーグ、ミラアルクが吸血鬼、エルザがワーウルフらしい」

「吸血鬼・・・・・・?」

 その単語に、静雄と新羅は反応した。彼らは、実際に吸血鬼の知り合いを持っている。名を、聖辺ルリ。大人気アイドルであり、同じく大人気俳優の羽島幽平との熱愛が報道されたこともある。ちなみに、この羽島幽平と言う男、あの平和島静雄の実弟である。聖辺ルリは、吸血鬼の末裔である。ミラアルクのような芸当はできないが、それは混血であることも影響しているのかもしれない。まあ、殺人鬼ハリウッドとして明らかに人間業ではない犯行を行なっておいてそんなことを言うのは傲慢かもしれないが。

「いや、なんでもない」

「ああ、ちょっとあってな」

 それはともかく、注射針が刺さらないと言うのは、かなり致命的である。ヴァネッサの生身の部分といえば、それはもう頭部くらいしかないだろう。

「・・・・・・仕方ない。ちょっとどころかかなり痛いけど・・・・・・」

 医師として掟破りの採決を強行した。

 ミラアルク、エルザは問題なく採血できた。

 それを軽く調べた結果、恐るべきことが明らかになった。

「・・・・・・どうなっているんだ、これは!? 既存の人間には絶対に当てはまらないような症状だ、薬を処方しようにも何をすればいいのかわからない! 念の為に、精密な機械にもかけておこう。しかし、どうすればいいんだ、こんな時にセルティがいてくれたら・・・・・・」

「セルティ?」

「ああそうか、アンタは池袋じゃないから知らないのか。秋田の方まで広がって・・・いや、もう三十年も経ってるんだから当然っちゃあ当然か・・・・・・」

 セルティ。本名、セルティ・ストゥルルソン。今更言うまでもないことだが、彼女こそが、かつて池袋の都市伝説として名を馳せた"首なしライダー"その人である。その正体は、北欧の伝説に登場する、デュラハンである。影を自由自在に操ることができ、これは愛馬シューターにも共通する。無論、首は無い。

 セルティが都市伝説のヴェールを脱ぎ、池袋にその姿を知らしめたのは、どれだけ遅くても二〇一四年と仮定する。本作はツヴァイウイングのライブ以前、すなわちシンフォギア本編以前である二〇四一年を想定している。どちらにしろ、当時一六歳の少年だった竜ヶ峰帝人が四十路に突入するには、十分な時間が流れているのである。当時二十三歳だった闇医者(変態)、バーテンダー(最強)、情報屋(胡散臭い)もジャスト五十歳だ。新羅の目下の悩みは、同じくらい変態な(同族嫌悪している)父親、岸谷森厳に似てきてしまっていると言うことである(主に顔つき)。一方の静雄は、タバコを吸っていてもなんら違和感のない、渋い男になっている。年齢が年齢なので無茶はしにくくなっているが、それでもまだ池袋最強格の人物である。

「うん、ふしぎ発見も終わってしまったからね・・・・・・。時の流れは、残酷だよ・・・・・・」

 そう、世界ふしぎ発見! とは、セルティと新羅が大好きなテレビ番組である(自分自身が不思議な存在であることには目を瞑っておくべきである)。だが、この番組は、二〇二四年にレギュラー放送を終えてしまった。その時の悲しみと、深い喪失感を、二人はよく覚えている。

「だが、セルティも忙しいんだろ? まだ運び屋の仕事が残ってるはずだが・・・・・・」

「いや、今日は大丈夫だ。量が少なめだったからね」

 そう言って、新羅はLINEを起動した。電話をかけると言う手段が使えないのは、先述した通り、彼女に首がないからである。

《もしもしセルティ、今大丈夫かい?》

《ああ、今ちょうど一区切りついたところだが・・・・・・何かあったのか?》

《そうなんだよ、ちょっと未知の症状の患者が現れてね。しかもどうやら吸血鬼にワーウルフ、サイボーグとどう考えても君の得意分野であろう感じだったからね。こうして連絡したと言うわけさ》

《わかった、すぐに戻る》

「・・・・・・と言うわけで、もうすぐセルティが戻ってくるよ」

「何から何まで、ありがとうございます」

「いやいや、そんなに畏まることでもないさ。闇医者とはいえ、医者は医者。粟楠会と敵対してるとこでもない限り、その本分は全うさせてもらうよ」

「粟楠会、というと・・・・・・。ああ、切串君が一番恐れているヤクザか。と言うことは、岸谷さんはその関係者なんですか?」

「関係者といえばそうなんだけど、どちらかというと、僕は御用達の闇医者と言ったところかな。それより、切串?」

「ええ、私の友人です。腐れ縁とも言いますが、大柿組の若頭です」

「ふうむ・・・・・・」

 新羅は、顎に手を当てた。

「確か、茜ちゃんが言ってたな・・・・・・。最近、傘下の暴力団ができたって・・・・・・。それが確か、大柿だった・・・・・・。うん、それなら大丈夫だ、怖いおじさんたちに殺される心配はない」

「ああ、敵対組織に与するようなことをしたら、そりゃあ殺されてもおかしくないですもんね・・・・・・」

「あと、実は麻薬もアウトなんだよね」

「そうだったんですか! 切串君にも教えておこう」

 セルティの帰りを待っている間、今まで意識を失っていたノーブルレッドの三人がついに目を覚ました。

「ここは・・・・・・?」

「ようやく目が覚めたみたいだね。ここは、岸谷新羅闇医者(せんせい)のクリニックだよ。・・・で、あってますよね?」

「うーん、まあ、そうだね。非合法で運営していると言うことを除けば、だけど」

「非合法、って・・・・・・。恒例の、ヤクザ関係者かよ・・・・・・」

「ミラアルク、君は私を一体なんだと思っているんだい?」

「表向き善人だけど裏では違法スレスレの行為を平気でやらかすヤベー奴」

「うん、君がとんでもない偏見を持っているということはよーくわかったよ」

「ですが、こうして闇医者にお世話になっている時点で、ミラアルクのセリフは正しいと言える気もするでありますが・・・・・・」

「うっ」

 何気ないエルザの一言が、秋月にダメージを与えた。

「それに、ヤクザの知り合いがいる時点で、あまり健全とはいえない気もするであります。自分たちもそうといえばそうではありますが・・・・・・」

「うっうっ」

 さらに、秋月はダメージを負った。彼を倒すまで、あともう一息である。

「それもそうよね。それに、どこ産かわからないカニを仕入れてくることもあるし、一般人とは言えそうにないわよね・・・・・・」

「あべしっ!」

 秋月、撃沈! 奇しくも、味方に刃を向けられることになってしまった。

 と、そんな寸劇を繰り広げていると。

 ヒルル、と嗎が聞こえてきた。

「こんなところに馬・・・・・・?」

「ああ、セルティが帰ってきたんだ」

 数分して、部屋の扉が開いた。

「セールティゴハ!?」

《客人がいると言うのに、いつものノリで出迎えるな》

 セルティにダイブした新羅だが、即座に轟沈された。秋月は、一瞬フリーズしつつも挨拶する。

「お初にお目にかかります、飛渡瀬秋月です。あなたが、セルティさん・・・・・・ですね?」

《ああ、初めまして。私は、セルティ・ストゥルルソン。見てもらえればわかる通り、運び屋をやっている》

「これはこれは、どうもご丁寧に・・・・・・」

《長年、日本で暮らしていますから》

 セルティは、ノーブルレッドの方に顔(というよりヘルメットのバイザー?)を向けた。

《新羅、彼女らが患者なんだな?》

「うん、そうだ。彼女たちは、いくらなんでも特殊すぎるからね。君なら、何かわかるんじゃないか、と思ってね」

《わかった。ちょっと失礼して・・・・・・》

 セルティは、影を巧みに操ってノーブルレッドらの体を調べた。

《・・・・・・なんだこれ!? 何をどうすればこんなことになるんだ!?》

「どうかしたのかい、セルティ!?」

《新羅、今すぐそこの子達の採血をして、検査をしてくれ。明らかに自然のものじゃないものが入ってるかもしれない》

「・・・・・・すでに採血してあるよ。もうすぐ、結果が出るはずだ」

 その言葉通り、程なくして検査結果が出た。専門の機器を使っているため(しかも、二〇三九年製である。二〇二四年(執筆当時)のものより性能は格段に上がっているだろう)、詳細に検査ができるのだ

「・・・・・・なんだこれ!? こんなの、血が濁りすぎている! どんな食生活をしたらこうなるっていうんだ・・・! それ以外にも言いたいことは山ほどあるけれど・・・・・・。とりあえず、人工透析をさせてもらおう。後で、料金は請求するけどね」

「わかりました。ああ、料金・・・・・・。保険適用は当然できないし、どれくらいかかるんだろう・・・・・・」

「ハハ、そんなにかまえなくても大丈夫。初回サービスはさせてもらうからね。それより、透析している間は暇だろう。静夫君と一緒に、池袋を回ってみるといい。終わり次第連絡するよ」

《彼女らについては、私が色々聞いてみる。同性だから話せる、ということもあるだろうしな》

 というわけで、秋月は、静雄と共に池袋を散策することになった。

 

「ええと、静雄さん、でいいですか?」

「ああ、別に構わねえよ。・・・・・・しっかしまあ、アンタもある意味池袋の人間なんだよな」

 彼らは、池袋を行くあてもなくふらふらと歩いていた。

 秋月は、静雄の言葉に引っ掛かりを覚える。

 彼は、人生で一度も池袋に死んだことはない。

「・・・・・・? 私が、池袋の・・・・・・?」

「ああ。池袋(ここ)も昔は、カラーギャングとかいろんなのがいたもんだ。喧嘩もそこら中で起きてたし、俺に喧嘩売ってくるのもいたな。そん時は、道路標識で返り討ちにしたりとか、ひでえ時には自販機もぶん投げてたな」

「・・・・・・んん?」

 秋月は、耳を疑った。人間が、道路標識で返り討ちにする? まして、自販機を投げる? 普通に考えると、絶対に不可能な芸当である。きっと場を和ませるためのジョークなのだろう。そう思うことにした。

「でもよ、じゃあ池袋は喧嘩しっぱなしだったのかっつったら、そんなことはない。露西亜寿司のサイモンとか、クルリにマイル、いろんな奴がいる。で、だ。そんな奴らには、ちょっとした共通点みたいなのがある。ま、上澄みたいなもんなんだが、どいつもこいつもどこかしらに何かを抱えてるんだ。それは例えば、家族のことだったり、過去だったり、自分の体のことだったり、色々だ。アンタも、そうなんだろ?」

「・・・・・・確かに、そうかもしれません。私も、ちょっと数奇な出来事に巻き込まれましたし、それ以前から、普通から少し離れた人生を歩んでましたから。ですが、なんと言いましょうか。そう言っていただけるほどの人物では・・・・・・」

 ありません。そう言いかけた時、秋月の目の前に、大柄な男たちが立ち塞がった。見るからにごろつきであり、関わってはいけないタイプの人間であることを実感させてくれる。

「・・・・・・どちら様ですか?」

「ちょ、お前マジかよ。法螺田さんを知らねえとかおい、ありえねーぞ!」

「そうそう。池袋じゃあ、法螺田さんは名の知れた男なんだよ! んで、今日めでたく出所したんで、そのパーティーをやるって話だ」

「・・・・・・静雄さん、これは無視して構わないですね?」

「ああ、ほっとけ。碌なことにゃならねーからな」

 秋月と静雄は、法螺田と呼ばれる男の集団から、足早に離れようとする。

 しかし、当然彼らは、それを見逃さなかった。いつの間にか、集団で囲まれてしまったのだ。

「おい、オメーよ、無視すんじゃねえぞ。おい、わかってんのかコラ」

「やっぱりさ、俺らお金がないわけよ。出所したばっかだから、ウン、だからね、ちょっと、六桁ほどくんねーかなーって話。わかる?」

 それでも、無視を決め込む。秋月は、この自分に全く利のない局面をどう切り抜けるか思考を始めていた。

「ってかさ、このバーテン、コスプレか? おっさんがやったって似合わねーよ! とっとと脱げコラ!」

 チンピラの一人が、静雄のバーテン服に水をかけた。

 それが、静雄の逆鱗に触れた。

「おーおーおー、なんとか言えよ・・・・・・っつ?」

 静雄は、そのチンピラの頭を掴んだ。頭蓋骨が砕けるか砕けないかの絶妙な力加減で、握っている。

「おい、手前よ。それが人にものを頼む態度なのか? それだけじゃねえ。人として、ンなことが許されると思ってんのか?」

「あ、ああ・・・・・・。もしかして・・・・・・」

「それともう一つ。水ぶっかけられただけでも、人間ってのはショック死しちまうらしい。しかも、俺はもう五十路に突入してっからよ、些細なことで死ぬ確率は上がってきてるってわけだ。認めたくはねえがな。ともかく、だ。今、俺はお前に殺されててもおかしくなかったわけだ。ってことはよ、俺がお前を殺しても、文句は言えねえよなあ!」

 そう言った直後、静雄はそのチンピラを思いっきりブン投げた。

「ああああああ・・・・・・! やっぱりだ、あいつ、平和島静雄!」

「静雄だと!?」

 法螺田は、その名前に反応した。服役中、長い間彼の顔を見ていなかったため、どんな人物だったか忘れていたのだ。しかし、彼のやらかしによって鉄槌が下された数々の記憶は、いまだに忘れられていない。

「ちょっと静雄さん!? 一体何が起こったんですか!? というか、え!? ちょっと待ってください、脳が理解を拒んでます!」

「あー、そうだった。アンタは、池袋初めてだもんな。しっかしまあ、こうして暴れんのも久しぶりだな。いつぶりだっけな・・・・・・」

──数年越しでこれ!? 全盛期は・・・・・・ひょっとして、あれはマジだった!?

 秋月は、驚きで何も言えなかった。

「チッ、静雄か・・・・・・。だが! 今の俺にゃあ、これがある!」

 そう言って法螺田が取り出したのは、

「あれは・・・・・・!」

 カマンティスのケミーカードであった。

「各地に散らばっていたとは聞いたけど、まさかこんなチンピラにまで・・・!」

「こいつさえあれば、無敵だ!」

 法螺田は、カマンティスを取り込み、マンティスマルガムに変貌した。

「・・・は?」

 静雄は、思わず呆けてしまった。セルティ──デュラハンと交流を持つ彼だが、流石にこんなものは予想もしていなかったのだ。

「静雄さん! あれは、私が引き受けるべき案件です。万一のことがあった時のために、ここから離れてください!」

 秋月は、静雄に避難を促す。ここで、「逃げてください」とか「避難してください」とか、そのように言わなかったのは、静雄はおそらくそういう表現を嫌っているんだろうなという彼の憶測に基づいたからである。

 秋月は、袖の下からベルトを取り出した。

「な、んだそりゃ」

「私の、三つ目の顔ですよ」

 ベルトを装着し、二枚のカードを取り出す。ジェットスワローと、スタッグバインだ。

『ジェットスワロー!』『スタッグバイン!』

 二枚のカードを、今回は同時に装填した。

「いまだ定まらぬ命題、その手がかりとしてみせよう・・・・・・。変身!」

『ガッチャーンコ! ジェットスタッグ!』

 秋月は、グレイムに変身した。

「お前も、あれと同じ・・・・・・? 何がどうなってやがる!」

 静雄は、完全に動揺している。目の前で、突然人間が変な姿になったのだ、当然の反応だろう。・・・彼自身、身体能力に関しては仮面ライダー以上と考えられるため、それについてだけ言えば、あまり人のことを言えないが。

「多分、彼がケミーを縛り付けているという感じか・・・。ならば、撃破するまで!」

 グレイムは、いつものようにワイルドモードに変身した。

──見たところ、あのケミーはカマキリ・・・・・・。だが、いくらカマキリといえども、甲虫と鳥のセットに勝てる道理はあるものか・・・・・・!

「おわっ、おい、何しやがる!?」

 マンティスマルガムを足で掴み、そのまま廃工場まで運んでいく。できる限り被害を抑えるためだ。というわけで、すでに池袋は離れている。

「よいしょっと!」

「くそぼ!?」

 グレイムは、勢いよくマンティスマルガム(以下、MMと表記する)を廃工場内に叩き落とした。

「見たところ、狼藉者のようだ。そういう者は、特にマナーを弁えぬ者は──つまり、ただのチンピラは大嫌いなのでね。懲らしめさせていただこうか!」

「ほざけぇ!」

 両者は、互いに向き合った。今、古本屋主人と池袋のチンピラとの戦いが、始まろうとしていた。




いかがでしたか?
というわけで、デュラララ!!とバッカーノ!との軽いクロスオーバーです。どちらも、裏社会の人間が出るんですよ。そんな安直な理由で、やらせていただきました。・・・というのは、あくまで建前。本音は、どちらにも超常の存在が登場する、ということです。デュラララ!!ならデュラハンのセルティ、バッカーノ!なら不死者たちと錬金術師、という具合に。そういった理由から、今回のクロスオーバーを行わせていただきました。
そして、マンティスマルガムについて。今回と次回の話で、マンティスバンバのカードを収集する、という流れにしたいと考えていました。で、せっかくならマルガムを出したい。でも、野生の犯罪者が思いつかない。・・・そういえば、ピッタリなやつがいたな。そんなわけで、法螺田にマルガム化してもらいました。
デュラララ!!の登場人物については、本編でも触れていますが、大半が三十路を越していると考えています。だって、どれだけ最近にとらえても、あの出来事が起こるには二〇一四年くらいが限界なんですもん。帝人も、もうオジサンになってしまっているということです。来良組を出さないのは、単純に何年も時が経った彼らを書ける自信がないからです。
次回、マンティスマルガムとの決着です。
感想、評価、ご指摘などお願いします。
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