【#とある20th企画】鎌池和馬☆平成主人公VS令和主人公 チームサバイバル勃発!! 作:白滝
【平成ヒロイン達の応援コメント①】
インデックス「勝って豪華料理をたくさん頼んでね、とうま!またお金なくなる前に、365日分のごはんをちゃんと頼んでおくんだよ!」
美琴「…この期に及んでその本人の安否よりそっちの欲望が優先されるの、本当に不幸ね…」
ミリンダ「死なないでね、クウェンサー。……え、ヘイヴィア?うん、ヘイヴィアも一応がんばって」
ジャック「ぼくも参加したい!行かせて!」
縁「え、また忍死ぬんじゃないのこれ?大丈夫な理由が見当たらないんだけど…」
空圧クナイの最後の一本を投げ放つ。
足元へ投げ込まれたクナイをぶーぶーが踏んづけてしまい、爆圧で足の裏が数ミリ浮いて踏ん張りが効かなくなる。
片足で重心が偏った隙に総覇がその懐へ潜り込み、
「ぶー!?」
巴投げ。大剣『善悪無用』を軸にして自分の体に一切の負荷をかけない、見事なまでの体捌きで、その数百キロもの巨体を転がしてビル壁に激突させる。
『
そう思って総覇が後ろへ振り返り走り出そうとした時、
「ぶー!やっぱりそうだ!」
上空より総覇の頭部目がけてコンクリート片が飛来する。ゴツン!とコンクリート片が直撃し、ダメージそのものよりも体内に埋め込まれたボルトが軋み無数の古傷が悲鳴を上げる。
「ぁ、がァ……!!」
思わず膝をつき足が止まった。
そう。ぶーぶーは知性に乏しいものの情報処理能力は高く、戦況への対応能力も高い。
総覇の体術が相手の重心をコントロールして利用するものだと看破した瞬間から、自分の重心が傾いた時こそ敵のカウンター攻撃が来るのだと判断し、即座に瓦礫を拾い上げて頭上に投げるようにしていた。そうすれば、例え自分が総覇の攻撃を受けようとも、頭上から落ちてくる瓦礫が時間差で彼を狙い撃ちしてくれる。
ぶーぶーを野生動物だと侮ったのが総覇の敗因だった。イベリコオークは高度な知能を持ち進化する戦闘種族である。
転んで起き上がれないぶーぶーが、咄嗟に手にした大剣『善悪無用』を投げる。
一直線に突き進む槍と化したそれを、痛みで体を硬直させた総覇は回避することができず、
―――――横から突っ込んで来たミントグリーンの車が大剣を跳ね飛ばした。
「ギリギリ間に合ったってとこかな?タクシー来たよ」
「……遅っせーよ、ったく。あと一秒遅れたら死んでたぜ」
カナメの運転するクーペに飛び乗った総覇が、助手席に立てかけてあった日本刀を手に取る。
忍刀『
総覇が忍者稼業を引退する前の現役時代に使用していた装備がこれだ。刀だけで八・七キロはあるので重量制限のハンディキャップを持つ彼は衣服以外の全ての装備を捨てる必要に迫れられるが、その性能は破格である。そもそも空圧クナイ『
「…こいつがあれば撤退戦ではなく、迎撃ができる。ミヤビがルシフェルホーンを召喚したようだし、オークはここで俺達が足止めするぜ」
「足止め?違うだろ?ここで僕らは、」
カナメはドリフトしてクーペをUターンさせた。
「あいつを仕留めるぞ」
後方より、大剣を拾い直して追ってくるぶーぶー。それに対して、今度はこっちから迫る。
カナメは左手でハンドルを掴みながら、右手に消音器と銃身が一体化した四五口径の短距離狙撃銃『ショートスピア』を構える。アクセルを思いっきり踏み時速一四〇キロまで加速した。
対面するぶーぶーが驚いた表情を浮かべる。
「ッ!?おいおいおい、大丈夫かこの速度!?」
「チキンレースといこうじゃないか」
余裕の笑みだった。
しかしそれも当然。蘇芳カナメは『ゾディアックチャイルド』と呼ばれる特殊体質の人間だ。これは共感覚に近いものだが、彼は自身に迫る危機を嗅覚で感知する事ができる。
世界で一二人しかいないゾディアックチャイルドの中でもこの体質は『獅子の嗅覚』と名付けられており、ほぼ未来予知に近い精度の第六感として自身の危機を鼻の痛みが知らせてくれる。
これは裏を返せば、鼻に痛みが走るまでは何をやっても危機は訪れず、自分は失敗しない未来が担保されているという事でもある。
訪れる結果は、カナメからすれば予定調和だった。
音速の怪物と時速一四〇キロのクーペの正面交差。
直前で急ブレーキをかけギャリギャリギャリと車体を滑らせたのは、避けるためではなくぶーぶーの体感速度を狂わせるため。この速度域の〇・一秒のズレは数メートルのズレとなる。ぶーぶーが衝突タイミングの目測を誤り大剣を一拍早く振り下ろしてしまい、遅れて車体を滑らせながら衝突したクーペがぶーぶーと大剣の上に乗り上げる。座席がぶーぶーの顔面のすぐ傍まで乗り上げた。
そして、どんな生物も眼球を保護する瞼の筋肉は分厚くない。鼻孔の穴を塞ぐ筋肉も存在しない。
カチャリと、右手の『ショートスピア』を構え容赦なく笑うカナメに、
「ぶーーーーーー!?」
思わず恐怖したぶーぶーが車体の下敷きになった大剣を投げ捨て、顔を抑えながら慌てて後ろへ転がって距離を取る。そのまま頭部への銃撃を両腕でガードした。
得物を取り落としリーチを失う。慌てて道路標識を引っこ抜いて武器にしようとするが、ぶーぶーの握力が強すぎてくしゃっと潰れて真っ二つに割れてしまった。ビックリして顔を青ざめさせながらすぐさま近くのガイドレールも引っこ抜いたが、こちらもくしゃっと折り紙みたいに折れてしまった。
「ぶーーーーーー!???!?!?!」
あたふたするぶーぶー。どこにも武器になるものがない。
現代社会の文明は、イベリコオークには脆すぎる。触れる全てがガラス細工のように繊細で、地面すらも一歩一歩ゆっくり動かさないと穴が空いて落ちてしまうようだった。
仕方なく覚悟を決めて拳を握ったぶーぶーに対し、総覇は忍刀を構えた。そのやたらと長い飾り布を解く。
(こいつをまた手にする時が来るとはな…)
かつての
しかし、『
覚悟を決めて目を見開き、その鞘を作動させる。
スバン!と杉宿総覇が飛んだ。
忍刀『
つまり、忍刀『
一直線に飛んだ総覇が、空中をジグザグに曲がりぶーぶーの死角に潜り込む。鳥でもなく獣でものなく、その動きは空を泳ぐ蛇そのものだ。慣れない機動についていけず、ぶーぶーの振り回す腕が空振りに終わる。
総覇はすれ違いさまにぶーぶーの筋肉の薄い首筋、脇下などを斬りつけていく。クナイの投擲では刺さらなかった硬い肌と分厚い脂肪も、加速した慣性を伴うタングステン鋼の刃なら通る。
逃げるぶーぶーを総覇は逃がさない。追う側と追われる側が逆転した。
そして、総覇の猛攻の間隙を縫うようにカナメが銃撃を行うことで、ぶーぶーは急所を守ることで完全に手一杯になってしまった。捨て身の突進で轢き倒そうとしても、空を舞う総覇は捉えられず、『獅子の嗅覚』を持つカナメは危機を察知し事前に回避行動を取る。
攻め手がない。
ぶーぶーの足元に、少しずつ血だまりが広がっていく。
「形勢逆転だな。怪物狩りの時間だ」
(……ぶー。まずい。勝てない。こうなったら、)
急旋回して空を舞う総覇とクーペで迫るカナメ。
しかし、カナメの鼻の先に、突如として強烈な痛みが走った。『獅子の嗅覚』による危機感知。しかもこの痛み方は即死レベルのリスクが伴う。
「―――――まずい!?止まれ杉宿!!」
しかし空戦機動中の総覇にブレーキはない。そのままの慣性を纏って忍者刀でぶーぶーの体を斬り裂いた瞬間、
「ぶーーーーーーーーーーーー!!!!!」
バリバリバリバリ!!!とぶーぶーの体表に高圧電流が走った。
「が、ァ……ッッ!!?」
総覇とぶーぶーが双方とも、感電して地面を転がった。特に総覇のダメージは大きく、地面に墜落した衝撃で背骨に埋め込まれたボルトに強烈な負荷がかかった。
「な、なんじゃあれ!?」
ツェリカの疑問も当然。
イベリコオークに発電能力はない。これはぶーぶーの先祖が過去に交配して取り込んだ電気ウナギのようなモンスターの特性。眠れる遺伝子の発露。他個体のイベリコオークは有さない、ぶーぶーという個体専用の遺伝形質である。
しかしこの電撃の鎧は捨て身の技で、自分自身も感電する。表皮組織で発電するため脂肪の厚いぶーぶーも即死はしないが、内臓にも当然大きなダメージが入る。
捨て身のカウンターで総覇を戦闘不能に追い込んだものの、ぶーぶーは筋肉が感電してまともに体を動かせない。
(……くそ!!)
カナメの『ショートスピア』がぶーぶーに直撃し、バタリとぶーぶーが倒れた。
頭上よりサイレンが響き渡り、可憐のアナウンスが響いてきた。
『杉宿総覇様、戦闘不能、リタイアです!続いて、ぶーぶー様もリタイアとなりました!いやー、続けざまの両チームのリタイアになりました!』
二人が空気に溶けるように消失した。可憐の不条理パワーとやらかもしれない。
「くそ……勝てる勝負だったのに、してやられたな」
「このまま負けるなら、せめて自滅覚悟の技で道ずれにしようと考えたんじゃろうな。残念ながら旦那様の無敵の『獅子の嗅覚』には通用せんが。それに、平成チームの主力たるヴァルトラウテ・ぶーぶーの内の片方を落とせたのなら大成果じゃろう」
チーム戦力としては一対一交換の損失だが、戦力の核たるぶーぶーを本体から引き離して一対多の構図に持ち込んで撃破した令和チームが優勢であり、見事な作戦勝ちとも言える。
ただし、
「……そう素直に喜べたらよかったけどね。やっぱり、何回やっても仲間を失うのは辛いね」
「またドローンだ!伏せろ!!!」
上条がクウェンサーを押し倒してうつ伏せになる。頭上を機銃の掃射が突き抜けていき、ヘイヴィアの銃撃が通路先のドローンを撃ち落とす。
地下通路はドローンの残骸で溢れていた。既に五機。
通路の前後を挟撃するように挟み込まれ、咄嗟にクウェンサーがプラスチック爆弾で片方の道を瓦礫で崩して塞がなければ前後から掃射されて三人共とっくに死んでいた。
後ろに逃げ道はない。自分達で塞いだ。けれど、前方も次から次へとドローンが飛び出してきて迂闊に進めない。
「畜生!
「でも曲がり角から出たら絶対に狙い撃ちされる!クウェンサー、また爆弾で壁を壊してくれ!そこから脱出しよう!」
「……ちょっと待ってくれ。どうして敵はドローンだけしか使ってこないんだ?」
「は?だってそれだけで十分だからだろ?逃げ道なんて塞がれてるんだし」
「逃げ道のない袋小路なら、なおさら爆弾でも投げ込めば俺達は全滅だよ。貴重なドローンを消費する必要なんてない。……多分、敵はこっちに接近してない。俺達をここに縫い止められれば目的達成なんだ。どうせ後で上空のルシフェルホーンが俺達を爆撃してくれるから、さっさと自分は爆撃範囲から退避してるんだと思う」
「じゃあやっぱ逃げないと駄目じゃねえか!早く壁壊せ!逃げるぞ!」
「……いや、違う。クウェンサーの言いたい事が分かった。壁にも爆弾が仕掛けてあるんだろ、おそらく」
「はぁ!?いや、そこまで逃げ道を読まれるか普通!?さすがに考えすぎだろ!?」
「俺もそう思いたいけど、地下通路に事前に罠を仕掛けていた相手だぞ。こっちの動きは掌握されてる。出口が塞がれてるなら壁を壊して進む、なんて常套手段すぎる」
「じゃあどんすんだよ!城山達が助けに来るのを大人しく待ってんのか!?電波悪くてスマホ繋がらねーんだぞ、場所を知らせられねえ!」
「…壁も出口も塞がれてる。だったらもう逃げ道は一つしかない」
クウェンサーは上を指差し、
「天井だ。俺の『ハンドアックス』で天井を崩して、瓦礫を積み上げて階段を作ろう。地上へ逃げるしか生き残る道はない。悪いけど、地下の相手は俺達三人じゃ分が悪い。多分勝てない」
「…城山達はどうする?」
「…助けに戻るにしても、やっぱり爆撃機ルシフェルホーンを潰さないと俺達も城山達も生き残る術はない。最速でミヤビを討って制御剣を破壊しよう。城山達の救出はそれからだ」
方針が決まれば動きは早い。
天井をプラスチック爆弾で吹き飛ばし、崩れた瓦礫を三人がかりで並べ、積み上げ、肩車したりしながら、ようやく天井の外、道路のアスファルトへしがみついた。
先に地上へ登った上条が近くのコンビニから放水用ホースを拝借してきて手綱にし、二人を引っ張り上げる。
「うへーー、クソ疲れた……絶対に明日は筋肉痛だぜ」
「ここでへばってられないだろ。急ぐぞ、まだ令和チームのスタート地点まで距離がある」
「上条ほんとどんな体力してんのお前?軍人のヘイヴィアより体力ない?」
「こちとら徒歩とヒッチハイクで欧州からロシアまで渡りましたからね」
「え、お前頭おかしくない?…え、頭おかしくない???」
ヘロヘロな体で歩を進める三人の遥か遠くで、巨大な魔導兵器と二人が空中戦を繰り広げていた。
「爆撃機ルシフェルホーンはやっぱ召喚済みか」
「でもヴァルキリーのお姉さんが上手く囮になってくれてるみたいだな。俺様達への砲撃は後回しって感じだ。助かるぜ」
「でももう一人空を飛びながら攻撃してる子がいるぞ……あれが歌貝カルタの水晶魔法ってやつか?」
「魔法なら、もう一つあるぜ」
「「「!?」」」
背後からの声と同時、さすがの判断の速さで咄嗟に物影に飛び込むクウェンサーとヘイヴィアとは対照的に、上条だけはただ無防備に振り返って右手を体の前に構えた。
直後、上条の体へ炎の塊が突っ込み、バキン!と不自然な破砕音を立てて炎が消失する。
消火でも風化でもない。
破壊だ。魔法の炎弾が、その事象そのものを砕かれた。
「へー……驚いた、それが噂の『
声の主は、金髪でレモンイエローのセーラー服を着た少年。手にした伸縮式警棒の先端からは、先程放った炎弾の残り火がチラついている。
飛び級で宇宙飛行士になった天才児だったが、ロケット打ち上げ実験の事故にて次元の狭間に落ち、魔女の異世界へと墜落事故を起こし瀕死の重傷に陥った。
それでも異世界へ迷い込んだ時と同じように重力を振り切れば元の世界に戻れると信じ、ロケットと同じ速度の飛行魔法を実現するため独力で猛勉強した結果、魔女の異世界では史上初の男性での魔法習得を達成した、まさに『勉強の天才』だ。
最強の力に生まれ持って適性がある、という訳ではなく。
最強へと至るための努力の仕方・人生の歩み方に適性があるタイプ。
可憐の自己紹介で彼を知ってから、上条には彼の生き方に既視感を感じていた。
アレイスター=クロウリー。どこまでも人間として学問を追及する奴の生き方は、足掻き続ける彼の生き様にも面影を感じていた。
だから、
「二人とも、ここは俺に任せろ。
「自信あるんだな。でも魔法じゃなきゃその右手も通じないんだろ?」
矢頃の声がブレた。
一瞬で彼の体が上条の目前まで迫る。音速とは言わないまでも、時速八〇キロは優に超えている高速移動だ。目で反応してからでは防御の対応が間に合わない。
それを、
バチン!と、その前兆を感知した上条の右手がカウンターを決める。
正中線の急所を狙われる事を予測した上条が、ガードの構えを取るよりも"触る"こと優先して右手を眼前で振り回し、指が矢頃の体を掠めたことで高速移動の魔法が解けて体勢を崩したのだ。
「…くっ!」
「いくら速く動こうったって、その移動術式自体も魔術なんだろ?だったら『
自分のいた世界の魔術師の術式と矢頃の住む魔女の世界の魔法。仕組み自体は異なっても、これは『
魔術戦ならば、後手には回らない。年三冊刊行を二〇年間、走り続けて来た経験値が彼にはある。
「早く行け!大丈夫だ、俺はこの手の奴とやり合う経験がある。少なくとも地下のトラップ野郎とやり合うより勝算はある。急げ!!」
上条を信じ、クウェンサーとヘイヴィアが物影の裏から別方向へ去っていく。追うかどうか一瞬悩んだ矢頃だったが、脅威度は上条の方が高いと判断してこの場に留まった。
クウェンサーとヘイヴィアは正規軍人であれど、異能者が集まる平成・令和チームの中では戦力的価値は低い。彼らを逃がしたところで、ミヤビや巨大魔導兵器ルシフェルホーンが破壊される確率は低いだろう。
それよりも、触れただけで問答無用で異能を消失させる上条当麻の『
互いに臨戦態勢。
右手を握った上条は、膝を屈めて地を駆ける溜めを作った。
「悪いが簡単にはいかないぞ。お前のその油断まみれな幻想、この右手でぶち殺させてもらう」
「油断はそっちじゃねえの?無敵に見えるその右手だって、勉強するだけで答えは出せるはずだが」
『うん、こっちにも杉宿君が敗退したアナウンスは聞こえてるよ。歌貝君も気を付けて』
通信を切ったハーランド・ディフェンスは溜息をついた。
「まさか天井を崩して地上へ逃げるなんてね。すごい発想をする連中だ」
てっきり壁に仕込んだ地雷で爆死するかと思っていたが、予想外の動きで上条班はハーランドの魔の手から脱出した。ハーランドが急いで矢頃へと応援要請をかけなければ、取り逃がしていたかもしれない。
あの場面で壁に爆弾がある状況証拠はなかったはずだ。ほぼ推測のみでこちらの罠を看破し、初見殺しの即死トラップを見事に避けている。個々人の戦闘力はともかく、やはり主人公だけあって危機回避能力が高い。主人公だから生き残るのではなく、この危機回避スキルがあるからこそ数多の死線を超えて命を繋ぎ続け主人公として立ち回れる、と言い換えてもいいのかもしれない。
(……とはいえ、もう片方の城山班は催眠ガスで全員昏倒済み。手柄ゼロって訳ではないからチームのみんなには許してもらえるかな)
溜息をつきつつ、手元の携帯端末に視線を落とし、
――――背後から珪素性伸縮式棍棒を突き出す城山恭介の一閃を躱してハンドガンで応射。
しかし彼の持つドローンの残骸を盾にされ、銃撃が弾かれる。
両者の間合いは五メートル。
銃の間合いだが、先手を仕損じれば懐に潜り込まれて棍棒のリーチに入る。
「よく躱せたね。音は立てなかったつもりだけど」
「私は常に背後を視認している。例えば、携帯端末の画面を鏡にしたりしてね」
「なるほど。ついでに、どうして僕達が昏倒していないのかも解説しようか?」
「必要ないさ……ダミー映像か。私が仲間へ通信するために電磁波妨害を解いた瞬間に、天津君のマクスウェルが僕の端末にカウンターハックしたのか」
恭介の背後に、陣内忍と天津サトリが少し距離を置いて控えていた。三人とも無傷で生存している。
(……おかしい。軍人二人がいる上条班と違って、城山班は三人とも何の異能力も持たないただの学生だ。配置したドローンは七機、設置した地雷も六箇所、おまけに上条班とは違って通気口から無味無臭の催眠ガスまで追加で流していたのに。どうやって対処したんだ…!?)
当然、忍とサトリには罠を回避するスキルはない。恭介が全て対処したのだ。
ドローン相手には、小石を棍棒で弾いて当て、機銃の射線をズラすことでドローン同士を相打ちさせた。
地雷に関しては、イルカのエコーローケーションよろしく棍棒でカンカンと床を叩いて反響音の差異を聞き分けただけだ。地雷の感圧板を作動させないよう繊細な手首のスナップが必要となるが、召喚師としての経験も相まって、棒術の器用な扱いにはとある研究一族よりも優れている自信があった。
ワイヤーに関しても、下水に浸して水を滴らせた棍棒を振って飛沫を前に飛ばせば、薄っすらとワイヤーが浮かび上がる。忍やサトリにも発見させてやれる。
催眠ガスに至っては、逆に恭介から「眠った振りして仲間に連絡させることで電磁波妨害を解かせよう」と罠を提案したほどだ。
恭介は棍棒を振り回す中で、空を裂く感触に人間には気付けない程度の微差があり、空気に密度の違いがあることに気付いていた。そこで通気口から漏れ出る空気が三人の頭部に近付かないよう、迫り来るトラップの相手をしながら同時並行で棍棒を振って気流の流れを作り頭部周辺の呼吸域を守っていた。
そして通路に仕込まれた小さなカメラを発見したタイミングで、全員で昏倒した振りをし、ハーランドに電磁波妨害を解かせる油断を誘った。
実際にはそれより早く、上条班の機転で地上へ脱出した彼らを追うためにハーランドは電磁波妨害を解いて令和チームへ応援要請していたため、忍とサトリが息止め我慢勝負を行う必要はなかったが。
「……全く、世の中広いね。まさかあれだけのトラップを棍棒一本で対処する一般人の学生さんがいるなんて。新しいリスクレアリティの認定が必要だと思うよ、ほんと」
「リューさんには散々煮え湯を飲まされたからね。『イリーガル』流の相手は僕も痛みで覚えさせられたってだけだよ」
「通信はもうさせないぞ!その端末は既にマクスウェルにハックさせた。制御はこっちにあるんだからな!」
サトリの発言通り、手元の端末には『いえ~い、オタク君見てる~?今、あなたの端末は俺の支配下に落ちてま~す』という煽り文がマクスウェルから届いたままフリーズして動かない。
敵側を孤立無援に追い込んだはずが、逆にこちらが孤立無援に追い込まれていた。
「いや、参った。降参だ。リタイアするよ」
「はぁ?オッサン、何言ってんだ?」
「三対一だ、私だって自分の命は惜しい。武装解除してここで居残るよ。君達を追わないし、攻撃もしない」
「だったら両手を上げて、手に持ってる物を全て捨ててくれ!」
「いいよ。はい、」
「――――全員、目を瞑れ!!」
両手を上げて銃を捨てたと同時、背中からスタングレネードを落としたハーランドにより、地下一帯が爆音と閃光に包まれた。
恭介の声も間に合わず、目と耳を両方やられた忍が絶叫してのたうち回り、目を塞ぐのは間に合ったが耳を潰されたサトリは音響攻撃による頭痛で倒れている。
ハーランドに降参の意思はない。
そうだ、絶体絶命ではない。
一対三とはいえ、後ろの二人は戦闘能力のない一般人。武装もなく戦闘支援もできない。
ならば眼前の城山恭介との一対一だと思ってよいだろう。
どころか、銃を持つこちらに対し恭介は後ろの二人を庇ってのハンデ戦となる。
有利なのはハーランド側だ。
落とした銃が床に着く前に足で蹴り上げ、キャッチする。
そのまま恭介を銃撃する。
しかし、恭介は手にしたドローンの残骸を構えて銃撃を弾いた。
数歩離れて今度は胴体ではなく足元への射撃を行うが、恭介は足元にドローンの残骸を構え直してそちらも防ぐ。舌打ちしたハーランドは昏倒している忍へナイフを投擲したが、恭介の棍棒が瓦礫を弾いて飛ばし、ナイフをピンポイントで撃ち落とした。
「なっ……!?どういうことだ!?目と耳を潰したはずなのに、何故攻撃に対処できるんだ…!?」
当然だが、恭介はスタングレネードをまともに喰らっている。恭介側からは見えない背中からスタングレネードを落とす手品じみたハーランドの手際は完璧だった。
したがって、恭介は目と耳を使わずに迎撃していただけなのだ。
スタングレネード炸裂寸前に、互いの位置取り、地形、武装を全て記憶し、床の振動からハーランドの挙動を予測し攻撃パターンを割り出す。
目も見えず音も聞こえず、白色に塗りつぶされた無音の世界の中で、恭介は自分の計算だけで世界を観測していた。
それどころか攻勢にも出る。
スタングレネード炸裂後に移動を繰り返しているハーランドの位置へ迷いなく直進し、手にした棍棒を首へ目がけて突き込んでくる。
咄嗟に盾にした銃を棍棒ではたき落とされ、組み付いて関節技で締め落とそうとしたハーランドの手をするりと抜けてまた間合いを取られ直す。
銃を失い、ナイフを構え直す。
(…どう考えてもおかしい!?人間技じゃない!?目と耳を潰されて五感がまともに機能せ……いや、触感か?床の振動で検知しているのか?ならば、)
スッ、とハーランドが歩みを変える。
途端、恭介の動きがピタッと止まる。
「対応が速いね。さすがは世界最強のヒットマン」
床にほとんど振動を与えないように抜き足で移動する。この技術に関しては元忍者である杉宿総覇の方が上手いが、それでもハーランドも衣擦れさえ一切起こさないほどの無音に身を溶け込ますことができる域にある。
さすがの城山恭介も、計算だけではどうしようもない。目も耳も回復にはもう一、二分かかる。
だが、その数分は殺し屋ハーランド=ディフェンスには長すぎる。
あえて死角からは狙わず、正面からナイフを構えてその胸へ目がけて突き立てようとして、
ズガガガガッ!!といきなりドローンの残骸の機銃が動いてハーランドが傷を負った。
左肩を撃たれて血が滲む。
困惑する。残骸を手にする恭介にドローンの操縦権はない。そして操縦端末は先ほどマクスウェルに乗っ取られて動かせな―――――
「なるほどね……君か」
背後を振り返る。
スタングレネードの音響攻撃により頭痛でヨロヨロになっているサトリが、しかし手にしたスマホをしっかり握り込んでハーランドを睨みつけていた。
マクスウェルにドローンをハッキングさせ、機銃部分を遠隔操縦したのだ。
ただしハーランド・ディフェンスに同じ手は二度通じない。
城山恭介にさえ不用意に近づかなければ、手にしたドローンの残骸の機銃の射角には入らない。
まずはサトリを潰せばいい。
(天津サトリを殺して、陣内忍を人質に取り、城山恭介から撤退する)
ハーランドに狙いを定められたことがわかる。
冷や汗と共に、サトリはポケットから眼鏡を取り出してかける。
「マクスウェル、スマートグラスと同期!奴の行動を予測演算してAR表示しろ!」
『シュア。ハーランド・ディフェンスの六秒後までの行動を予測表示します』
それは機械による未来予知。
サトリのかけた眼鏡にARビジョンを重ね合わせ、数秒後にハーランドが取る行動を映像として風景に重ねる。これによる未来予知にてサトリはハーランドの攻撃を寸での所で回避していく。
(くっ……スパコンの演算能力で私の攻撃パターンを解析されたか。まずいな……)
サトリの動きは素人同然だが、しかし的確に致命傷をやり過ごして殺し屋ハーランドの必死の攻め手をやり過ごす。
殺せなくはないが、時間がかかる。そうなると恭介の目と耳が回復してしまう。
標的変更だ。
ハーランドはサトリから目を離し、未だスタングレネードで昏倒し呻いている忍へ向き直る。
「しまっ…!!マクスウェル、陣内を助ける防衛ルートを表示!」
『間に合いません。回避ルートを優先表示いたします』
マクスウェルの表示した陣内忍の防衛ルートは、人間のサトリには実行不可能なルートだった。吸血鬼の姉やゾンビの妹ならまだしも、人間のサトリでは逃げることはできても腕力でハーランドを抑え込めない。どんなに機械による未来予知が完璧でも、それを実行する天津サトリ本人は何の能力もないただの学生なのだ。
マクスウェルが回避ルートを推奨し、防衛ルートを消して回避ルートを上書き表示する。この道を進めば、自分の命は助かる。
一瞬の迷い。
そして、
「ご、ぱ。ぁ……!」
頭で決断するより早く、体が先に動いていた。いつも自分はこうだった。
サトリはマクスウェルの未来予知を逆らい、忍を守るためにハーランドの凶刃の前に自分の体を滑り込ませていた。攻撃を抑え込む腕力がないのなら、自分が肉壁となれば良い。
その胸部に深々とナイフが突き刺さっている。
「ちゃん、と…ま、まもった、ぜ……しろ、やま……」
バタリと床に倒れるサトリがそのまま絶命する。
背後から恭介の棍棒が飛来し、ハーランドは床を転がって躱す。そのまま忍を人質に取って向き合った。
「くそ……!!!間に合わなかった……!天津君…!!」
「……こういうやり口は私も好きじゃないけど、見苦しい言い訳はしないさ。陣内君が人質だ。私が地下通路を抜けるまで、後ろへ下がってもらおうか」
恭介が苦虫を噛み締める。せっかく目と耳が回復しても、これでは手出しができない。特に、敵でも味方でも問答無用で強制的に救済する『フリーダム』アワード九〇二の召喚師『
ハーランドを警戒しながら棍棒を拾い直す恭介が次の一手に悩んでいると、
「くくくくく……ははははははーーーー!!」
意外にも、ハーランドの脅迫に応えたのは恭介ではなく忍の笑い声だった。
「……何がおかしい?」
「いやぁね。どいつもこいつも俺を見くびりやがってよ。超能力者だか軍人だか殺し屋だか忍者だかオークだか天使だか知らねえが、あんまり陣内忍を舐めんじゃねえぞ」
「この状況を分かっているのかい?」
「もちろんさ」
そう言って、首を絞められながらも忍はポケットから何かを取り出した。それはヘアスプレー缶のような円柱形で、レバーとピンで信管を固定された、
「……手榴弾ッッ!?しまっ」
「覚悟なんてな、もうとっくに俺は決まっちまってんだよ!!一緒に死ね、殺し屋ハーランド・ディフェンス!!!」
忍がまるで自死に慣れているかのような躊躇の無さで手榴弾のピンを抜いた。慌ててハーランドは彼を突き飛ばし、爆風の盾とする。そのまま爆風の有効殺傷圏から距離を取ろうと後ろへ飛び退いた。
しかし、ガツン!と背後の壁にぶつかった。
困惑する。何故に背後に物がある。後ろに壁はないはずだ。
振り返ってさらに困惑する。
不透明な、青白く輝く壁が地下通路を塞いでいた。
いや、そうじゃない。
一辺二〇メートルの立方体の結界が、ハーランドを閉じ込めたのだ。
周囲一帯に、闇を凝縮したような黒点が無数に現れ、ハーランドの頭上に真っ赤なガラス球のようなものが浮かび上がる。
いつの間にか、忍が恭介の傍に移動していた。
遅れて気付く。いつまで経っても爆風は生じない。炸裂地点から生まれたのは床に広がる魔法陣のような文様と、火薬の代わりに辺りに漂う
この現象を、ハーランドは知らない。おそらく説明されても理解できないだろう。
しかし、全て悟って、その手に握るナイフを静かに手放した。
「なるほど。私の負けか。自爆に見せかけたハッタリとはね」
「潔いじゃないか。一応、
「時間制限付きの能力か。出し惜しみする訳だ。本来ならこちらのチームの要であるミヤビ君に相対してから起爆させる予定だったんだろう?…しかし疑問も残る。君の能力は契約する依代がいなければ行使できないはずだ。どうして陣内君が依代となれているのか」
「簡単な事実さ。俺は『妖怪好かれ体質』だからな」
声に応じるように、恭介は眼前に浮かぶ謎の白球をビリヤードのように棍棒で突き飛ばし、頭上の赤色ガラス球を砕く。飛び散ったガラス片が闇の黒点に吸い込まれた直後、忍の体がぐにゃりと歪んで変質した。
最初はスライムような不定形だった姿が次々と歪み、白い着物を纏う淡く薄い蒼い髪の少女へと変わる。
規定級の音域『中音』、コスト8『
「彼は規定級
「……つまりこういうことか。平成チームの切り札は、ヴァルトラウテとぶーぶーではなく、実は城山恭介が本領発揮できるという事実の方か」
答えを聞くことはできなかった。
雪女の吐き出す息が絶対零度の吹雪となってハーランドの体を包み、心臓と脳を含む全ての臓器がその機能を停止させた。
【もし○○シリーズが参加してたら~~となってた妄想②】
・Nシリーズ
俺(主人公)
能力『ポゼッション=ボディ』。
契約しているサキュバスの能力を主人公も借りて行使できる。
自分と相手の同じ身体の部位に同時に呪いをかけ、同期して操るスキル。NARUTOのシカマルの影真似の術みたいなもの。
自分と相手に同時に呪いをかけるので自分にもダメージがある。
平成チームに参加していたら、『ポゼッション=ボディ』により敵チームの攪乱に貢献。
総覇の足と同期して転ばせて後遺症で自滅させたり、カナメの右手を乗っ取って銃を味方へ誤射させたり、『N』の右手と同期した次元貫通巨大パンチでルシフェルホーンを墜落させたり等、破竹の快進撃を見せたかもしれなかった。