七海建人は暇がない 作:七海さんの腕時計が欲しい
感想、誤字脱字報告ありがとうございます。
善人と悪人。
呪術師、または冒険者として活動していく中で気づいたことがある。
ほとんどの人間は、善人でも悪人でもない。
善人ほど綺麗でもなければ、悪人ほど穢れてもいない。
現実ではそんな人間がほとんどだ。
だが、偶にその『どちらか』がいる。
私の知る中で善人とは灰原や虎杖くんのような人間で、悪人とは呪詛師や宿儺のような人間だ。
「――強くなりたいッ!」
そして私の目の前にいる、白く燃える魂を持つ少年は、間違いなく
「あの人みたいにッ、あの人の隣に立てるぐらいに! もっと強くッッ!!」
……やられた。
こちらの不手際で精神的に傷つけてしまった少年を見つけて、謝罪をして終わりだろうと考えていた。
金銭を要求されれば「結果論とはいえ傷一つつかなかった」、「ダンジョンでは全て自己責任だ」と言って納得させ、それで終わらせるつもりだった。
間違っても、その冒険者の面倒を見ようなどとは考えていなかった。
「ぐッ!?」
少年はモンスターに殴られ、気を失ってしまった。
いや、あんな装備で、あんなにも無鉄砲に突き進んでここまで来られたことが凄まじいのか。
若さとは、恐ろしいものだ。
「ウォオオオッ」
「すみませんが、その子供を死なせるわけにはいきません」
呪力で強化せずとも、上層のモンスターならば素手で倒せる。
手早く数体を灰にして、倒れた少年を横抱きに抱える。
「取り敢えず、地上まで運びますか」
………本当に、若さとは恐ろしい。
私にも、その熱を伝播させてしまうのだから。
◾️
寂れた教会、それが少年――ベル・クラネルの
意識が戻ったベルは助けてくれた恩人である七海に感謝を伝え帰ろうとしたが、「疲れ切った子供を1人にはできません。送ります」と言われ一緒にホームまで歩いてきた。
戻ったベルは外でずっと、こんな朝になるまで待ち続けていた
その後、やっとヘスティアは七海に視線を向ける。
「それで、君は誰なのかな?」
「初めまして、私は【ロキ・ファミリア】所属の冒険者、七海建人と申します」
「ロキ………そうか、ボクはヘスティアだ。それで、ロキの子供がなんでベルくんと一緒にいるんだい?」
「私たちが逃したミノタウロスに彼が襲われた件と酒場での彼が受けた暴言について、謝罪しに参りました」
―――その瞬間、ヘスティアの『神威』が漏れ出す。
ベルは初めて見た、己の女神の『怒り』を。
「――そうか、君たちだったのか。ボクのベルくんが死にそうになった原因は……」
「はい、その節は誠に申し訳ございませんでした。あの件は我々の油断が招いた事態です。深く、謝罪致します」
ヘスティアの『神威』を真っ向から受ける七海は、しかし何の驚きもなく、腰を折り心からの謝罪をする。
ヘスティアはロキが嫌いだ。
しかし、
だからここまで真摯に謝罪され、毒気を抜かれたヘスティアは素直に謝罪を受け取る。
「ふぅ……謝罪ならボクじゃなくて、ベルくんにやっておくれ」
「はい、では改めて謝罪させていただきます。ベル・クラネルさん、今回は本当に申し訳ございませんでした」
「い、いえッ! むしろ僕の方こそダンジョンで2回も助けてもらいましたし、あの、ありがとうございました!」
「……君が礼をする必要はないでしょう。ですが、謝罪は受け取って貰えたようで安心しました」
七海はふぅ、と息を吐き切り替える。
相手が謝罪を受け取ったのだから、この件はこれで終わり。もう自分は帰ってもいい。
……と、当初は考えていたようだが、気が変わった。
端的に言うと、何故か七海はベルのことが気に入った。
「しかし、結果的に助かったと言えども、我々のした行いは本来罰せられるべきものです。罰がないのならば、せめて貴方たちに……いえ、クラネルくんに利のある提案を一つ」
「利のある、提案?」
「えぇ、期限付きですが――私も君の探索に同行しましょう。言い換えると、
普段の七海ならばしないだろう、相手に甘い提案。それだけベルのことを気に入ったと言うことだろうか。
七海の提案に、ベルよりも先にヘスティアが驚愕した。
「え、えぇえええええッ!? い、いいのかい? そんなことしてもらってッ?」
「構いません。私も別件でお断りする場合もあるかもしれませんし、長めに見積もって一ヶ月程度のダンジョンへの同行でいかがでしょう? 勿論、代価は必要ありませんよ」
「も、勿論頼むよ! ベルくんは独学で、しかもいつもソロで潜っているから心配で心配で堪らないんだ!」
「それは……中々危険なことをしていますね、クラネルくん」
ベルは頭にクエスチョンが浮かんだ。
―――危険? ダンジョンは危険な場所だけど、そんなこと今更じゃあ……
ベルのその顔を見た七海は、ドスの効いた声で話す。
「基本的にダンジョンは複数人、出来れば
し、死にたがり……とベルは七海の言葉に、ずぅぅぅんと落ち込む。可哀想な兎である。ヘスティアは兎の頭をヨシヨシと撫でる。
ダンジョンは危険である。『未知』や
しかし、だからといって安全を心掛けない冒険者はほぼいない。誰でも安全に、金や名誉を手に入れたいからだ。
七海の言いたいことは、つまり危険な場所に潜るならば安全マージンをしっかりとれ。そういう、当たり前のことである。
「私は今日非番ですが、クラネルくんはダンジョンに行くのですか?」
「い、いえ、今日はやめておきます。徹夜でロクな装備も無しに、ダンジョンに潜っていたわけですから」
「そうですか、では明日からの探索に同行しましょう」
そのあと3人は具体的な予定を立て、別れた。
無事、当初の目的である先方への謝罪は済んだ七海は、何故自分がこんなにもベルを気に入っているのか考えていた。
若く頑張っているベルを見て応援したくなった?
それならば【ロキ・ファミリア】に同じような者が沢山いるだろう。
罪悪感というフィルターがかかった?
無くはない、しかしそれだけで自分が気にいることはない。
ウサギみたいで可愛かった?
確かに中性的な容姿で可愛らしいといえる容貌だが……違う。
七海はベルの魂を思い出す。あの白く燃える、穢れのない炎のような魂を。
突然だが、七海は人間の魂をぼんやりとだが“視る”ことができる。
なぜ視えるかは分からない。“死”を経験したことで獲得した能力なのか、呪霊の真人が原因なのか、はたまたもっと別の理由か。
間違いのない事実は、七海がぼんやりとだが魂を観測できるようになったということ。これのおかげで呪術師としても急成長を遂げたのだが、その話はまた今度。
「あぁ……なるほど」
七海はようやく気づいた。なぜ、自分がこんなにもベルを好意的に見ているか。
「――彼に、灰原や虎杖くんが重なって見えたから、か……」
何のことはない。七海がベルを一目で気に入った理由は、ベルが粉うことなき善人だからだ。
七海はこう見えて、昔から情に厚い人間だ。呪術師に戻った理由も合理的なものでは無く、仕事に『やりがい』を求めていた自分に気づき、一般企業を辞めて呪術界に出戻った。
そんな七海は、善人に弱い。
何故なら彼らは穢れていないから。綺麗な存在だから。
―――善人は、生きるべきだと思うから。
「おはようございます! ナナミさん!」
「おはようございます。門番、お疲れ様です」
「いえ、これが俺の仕事ですから」
門番はホームの扉を開く。
そしてもう一度七海を振り返って、まるで珍しいものを見たかのような驚いた顔をする。
「何かいい事でもありましたか?」
「どういうことですか?」
「いえ……………ナナミさんが笑っているところを、俺は久しぶりに見ましたから」
―――笑っている?
頬に手を当てる。確かに口角がいつもより上を向いて、目元は優しげに垂れている。
どうやら自分は、ベルと会ってからずっと笑っていたようだ。
―――年を取ると、後進育成が楽しくなってきますね。私ももう、立派な『おじさん』ということでしょうか。
「――えぇ、懐かしい気持ちにさせられた、とある人物に会えました。今日は気分がいい」
「そうですか……それはもしかして、【ガネーシャ・ファミリア】のシャクティ殿ですか?」
「? いえ、シャクティさんではありませんが」
「あ、そうですか。ならいいです……ナナ×シャクじゃなかったか〜」
七海は今日も非番と言いながら、仕事をするだろう。新たな収入源を確保する策を、資産・書類の作成を、他にも後輩たちの手伝い、呪術の鍛錬……やることは多岐に渡る。
これにベルの探索への同行が新たに加わったのだから、七海はさらに忙しくなる。
「久しぶりに、アリーゼさんたちに手紙を書きましょうか」
七海建人は暇がない。
完結みたいな終わり方ですが、まだ続きます。作者のネタとやる気が尽きるまでは。
あと、今更ですが七海さんのステータスです。作るのがとても楽しかったです。
ステータス
七海健人 Lv.4
《基本アビリティ》
力:A870
耐久:B785
器用:D563
敏捷:D521
呪力:S919
《発展アビリティ》
呪術:F
耐異常:H
破砕:I
《術式》
【十劃呪法】
・対象の長さを線分した時に7:3の比率の点に強制的に弱点を作り出す術式。
《スキル》
【
・呪術の
・呪術
・下界
【
・
・体力を消費し、『力』に高補正 & 体内時間加速