七海建人は暇がない   作:七海さんの腕時計が欲しい

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 感想、誤字脱字方向ありがとうございます。

 本編が進まないので、閑話を挟みます。



閑話 観光業

 

 

「新しい収入源の確保?」

「はい、【ロキ・ファミリア】の潜在能力(ポテンシャル)ならば十分に可能だと考えました。企画書はこちらに」

 

 

 それは少年――ベル・クラネルが強くなる理由を知り、七海に助けられた運命の日。

 

 七海は機嫌良く『黄昏の館(ホーム)』に戻って自室で仮眠を取り、そして自身の仕事に着手した。

 しかし書類整理が思いのほか早く片付いてしまったため、暇を持て余した七海はファミリアの財政悪化を立て直すための計画を考えた。

 

 そして―――悪魔的閃きが舞い降りた。

 

 

「なになに? 面白そうな話してるやん。ウチも混ぜてぇな〜」

「新しい収入源か……そう簡単に思いつくものでもないが、ナナミからの提案だ。聞く価値はあるだろう」

「儂も聞いておこうかのぉ。今回の『遠征』の赤字は馬鹿にできんし、次の『遠征』のための資金も集めんといかん」

 

 

 執務室にはフィン、ロキ、リヴェリア、ガレスのファミリアを指揮するトップ勢が集まった。

 

 七海は軽くスーツのネクタイを整え、一般企業で鍛えられた企画紹介(プレゼン)能力を発揮する。

 

 

「では結論を述べます。私たちの新しい収入源、それは『観光業』です」

「『観光業』、か。主に、オラリオの外から来た観光客を対象とした市場活動。ギルドが主導となって見所案内図(ガイドマップ)などを作成し、娯楽施設(カジノ)を中心に現在広まっている経済政策の一つ……と、こんなところだったかな?」

「流石は【勇者(ブレイバー)】、説明の手間が省けて助かります」

「褒めても何も出ないよ」

「ほーん、それで? 『観光業』なんて、探索系派閥(ウチら)には関係なさそうやけど?」

 

 

 ロキはそう言うが、その瞳は「面白そうだ」と言葉に出さずとも伝わってくるほど爛々と輝いている。

 神々は『未知』に飢えている。初めての試みというのは、悪戯神(ロキ)には退屈を潰すいい玩具なのだ。

 

 

「それは誤りです。というより、私たち【ロキ・ファミリア】の本拠(ホーム)、『黄昏の館』は既に観光地として有名です。毎日多くの人が、外からこの城を見物に来ています」

「それは知っている。しかし、それだけで金を請求するのか? 外から見物する分には、金銭など払わなくていいだろう。なにより、そんなことで金を取っていては、こちらの品格にも差し障る」

 

 

 リヴェリアは問題点を淡々と述べる。

 

 確かに、門の外から建物を見ているだけで「金払え」と言われても、「なんで?」となるだけだろう。そんな横暴は下界で罷り通らない。

 

 

「えぇ、リヴェリアさんの言う通り、それだけで『観光業(ビジネス)』は成り立ちません。だから、()()()()()()()()()()

「ふむ、随分と前置きが長いな。つまり、どうやって儂らはその『観光業』で利益を得るのだ?」

「それは―――」

 

 

 

◼️

 

 

 

 ここは『黄昏の館』。オラリオの有名な観光地であり、最強のファミリアの一角である【ロキ・ファミリア】の本拠。

 

 その人気は凄まじく、都市内外を問わず多くの応援者(ファン)を抱える、言わば有名人(スター)の巣窟。

 

 そこには現在―――とんでもない行列が出来ていた。

 

 

「ぁぁ……あんなに可愛い顔して、商人より何倍も早く書類仕事してるフィン様の横顔、カッコ可愛い……」

 

「り、リヴェリア様と同じ空間に……! ここが桃源郷、というものでしょうか?」

 

「ほ、本物のアイズ・ヴァレンシュタイン! その鍛錬が見れるなんて、最高かよぉ!」

 

 

 現在、『黄昏の館』には見学(ツアー)に訪れた多くの人で溢れていた。

 

 それは七海が提案した『観光業』―――その名も、【ドキッ! 憧れのあの人に会える!? 『黄昏の館』ツアー!】。※命名ロキ

 

 

「外から眺めるのは無料(タダ)ですが、内に入るのには金をかける。そして、入りたがる人は間違いなく多い」

 

「私たちは『観光業』を直接運営する必要はありません。そこまでの労力を使うよりも、どこかと業務提携(パートナー)契約を結んだ方が早い」

 

「契約先の候補としては、【セベク・ファミリア】。ここは信用と実績、そして『観光業』の先駆者(パイオニア)という点から選びました」

 

「というわけで、本格的に始めるかどうかのテストをしたいと思います。用意はできていますので、早速今日から始めます」

 

 

 そんな仕事が早すぎる男が始め、即日即断に定評のある玩具大好き神(ロキ)が許可した『観光業』。

 

 それは凄まじい金を生んだ。

 

 特に人気のあるツアーは、やはり【中年小人(フィン)をただ眺めよう!】、【高貴妖精(リヴェリア)の休憩はなんかエロい…】、そして【剣の少女(アイズたん)の鍛錬はグフフッ! ええなぁ!】である。※命名&発案ロキ

 

 次に人気なのは【ツンデレ狼(ベート)に罵られたいか?】や【一途アマゾネス(ティオネ)の前でフィン大好きって言ってみよう!(※女性限定)】などだ。※命名&発案ロキ

 

 

「ガッハッハッハー! おもろい程儲かるやんけー! 『観光業』、ばんざーい!!」

「既に私の試算結果を上回るほどの収益……凄まじい人気ですね、流石は【ロキ・ファミリア】」

「ナナミィ〜、これは最高の不労所得(ビジネス)やでーッ! ウチらはいつも通り過ごすだけで、金がタンマリ手に入る……! 今日は宴やー! ウチ神酒(ソーマ)買ってくる〜」

 

 

 意気揚々と出かけるロキ。ただ酒を飲みたいだけでしょう、と七海は考えているがそれは当たっている。

 

 その後も順調に客が訪れ、【ロキ・ファミリア】の財政は潤い、まさにうはうは状態の絶好調―――

 

 ―――だったのだが……

 

 

「団長をイヤらしい目で見てんじゃねェッ! この雌豚(メスブタ)共がァァァアアアアアアッ!!」

 

「グルルルルルッ………ガァァァアアアアアアッ!!」

 

「あの(ヒューマン)、リヴェリア様を舐め回すように見ていた不敬者を捕えなさい! 我らエルフの誇りにかけてッ!!」

 

「アイズさん親衛隊、ファイヤアアアアアァァァッ!!」

 

 

 それがまさかの急転直下!

 

 想い人(フィン)(メス)が近づいたことでキレる狂戦士乙女(ティオネ)

 

 多すぎる煽りを受けまくり、言葉による罵倒ではなく手が出る人語喪失狼(ベート)

 

 王族(リヴェリア)憧憬の眼差し(イヤらしい目)で見ていた男を誅罰すべく動く王の兵隊(エルフ)

 

 推し(アイズ)が大衆に見られて困っているのを見過ごさないオタクの鏡(親衛隊)

 

 一瞬にして、『黄昏の館』はカオスになる!

 

 

「なぜ……なぜ、彼らは大人しくできないのですか……ッ!」

「ははっ、それが【ロキ・ファミリア(ボクたち)】だから、かな?」

「笑っている場合かッ! あの騒動を止めるぞ、お前たち!」

「やれやれ、そう上手くはいかんのぉ……」

 

 

 七海、フィン、リヴェリア、ガレスが騒動の鎮圧に駆り出され、収まったのは日が沈んだ夕方だった。

 

 七海は今回の費用と収益を算出し、黒字だったことに安堵を覚える。

 

 しかし、ロキが高値で大量に買ってきた神酒(ソーマ)のせいでプラマイゼロになったことにキレた。

 

 

「次はアイズさんやレフィーヤさんをプロデュースして偶像(アイドル)を創立……いえ、むしろフィンさんを偶像(アイドル)とした方が新しいかもしれません」

 

 

 七海は諦めない。

 

 その生真面目さが故に、自身が担当している財務(仕事)が赤字という問題を解決するため、これからもファミリアのため働きまくるだろう。

 

 この時、微かにフィンの親指が疼いた。

 

 

「嫌な予感がする……どうか、杞憂であって欲しいね」

 

 

 オラリオ初偶像(アイドル)、『フィンたん♡』の幕開けは近いのかもしれない。

 

 

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