世界を救ったヒーローの元レッドですが、働く場所がありません。   作:仮乃英

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一次創作に挑戦してみます。
詰めが甘いところは多々あるかとは思いますが、暖かい目でご覧ください。


世界を救った元ヒーローのレッドですが、正体がバレそうです。

 

 ヒーロー。

 それは法の外から人々を守る正義の味方。そして、平和をこよなく愛する親愛なる隣人。

 

 201X年

 地球に悪の組織『シン人類』なるものが現れた。世界各地で人々を弄び、虐げ、悪逆非道の限りを尽くしていた。

 今まで創作としていたものが現実となったのだ。その事実は人々を混乱させ、恐怖を駆り立てた。

 既存の兵器も効かず、明確な対処療法が存在しない未曾有の危機に、人類は次第に絶望に染まっていった。犠牲者も日に日に増していき、人類滅亡の言論が後を立たなかった。

 

 そこに彗星の如く『創世戦隊テンメイジャー』なる五人組の戦隊が現れる。彼らは真に善なる心を持ち、破竹の勢いで次々と悪を討ち滅ぼしていった。

 そして瞬く間に、これら『シン人類』を撃滅。晴れて世界に平和が訪れたのだ。

 

 『シン人類』が現れ、そして世界に平和が訪れるまで実に三年の時間を要した。

 たった三年。被害を受けていた者からすれば一日ですら長く感じた事だろう。しかし、人類の長い歴史から考えれば、三年という月日はほんの一瞬の出来事にすぎない。

 そんな中で、彼ら『テンメイジャー』は人々の生活の一部として取り込まれていった。あるところでは世界を救う信仰の対象として。あるところでは彼らを許可なく商業に用いることで、経済の潤滑剤として。またあるところでは、メディアでその活躍を映像に収められ、茶の間での娯楽の一つとして。

 

 

 人々は感謝していた。脅威を取り去ってくれたヒーローたちに。

 しかし同時に恐れたのだ。あれほどの強大な悪をいとも容易く滅ぼししてしまう正義のヒーローに。

 

 そんな不安が人々の胸中に溢れている時に、事件が起こった。

 以下は、それを記した当時の『週刊 フライハイ』の一部を抜粋したものである。

 

 

 テンメイレッド、シン人類を庇う!?!?どうしたヒーロー!正義に明日は来ないのか!?

 

 東京都XX区。滅ぼされたはずの『シン人類』が一人、『通称:eVe(以下、イヴ)』が顕現。

 そこに居合わせた人々は混乱を極め、中にはかの存在に石などを投擲することで応戦する者もいた。

 シン人類には、今までそれらに一切の効果が見込まれなかったにも関わらず、どういう訳か人々の攻撃には僅かばかりの効果があった。

 その事実は人々に希望をもたらした。人々は一丸となり、イヴに攻撃を仕掛けた。

 しかし、イヴは依然として反撃の素振りを見せず、ただ人々の攻撃を甘んじて受け入れるのみであった。その様子はまるで、力無き人間を嘲笑うようであった、と当事者は皆一様に語った。

 そこにテンメイレッド(以下、レッド)現着。人々は正義の味方の登場に心から安堵した。しかし、彼の行いは人々が思い描いていたソレとは異なっていた。

 

 なんと、レッドはイヴを庇い始めたのだ。

 加えて「正義ってのは、無抵抗のガキに石を投げつけることか?」という、なんとも被害者のことを微塵も考えずに放たれた、配慮に欠けた一言が民衆の心を逆撫でした。

 そこからイヴおよびレッドへの攻撃が約一時間に渡り続いた。そしてその時、イヴの顔を覆う漆黒の仮面が割れようとしていた。

 しかし、レッドは自身の仮面を脱ぎ、あろうことかその仮面でイヴの顔を覆ったのだ。 

 レッドがイヴに何かを囁いたあと、イヴは逃走。次いで、レッドもその顔を隠すことなくその場から去った。

 

 一連の出来事は人々に大きな影響を与えた。人々に渦巻く不安が爆発し、今ではテンメイジャーグッズの不買運動や、デモが日夜問わず行われている。正義の味方の明日は暗い。

(担当記者:萩原)

 

 

 この事があり、さまざまな推論がメディアやネットで飛び交った。

 シン人類とテンメイジャーの戦いはマッチポンプであり、実は今までの全てが自作自演だったのではないか。シン人類は某国の生物兵器であり、それらが漏れ出てしまったことを悪の組織として祭り上げることで隠蔽していたのではないか。などといったものだ。

 

 そのどれもが噂の域を出ることはなかったが、それでもそういったオカルト好きには根強く、掲示板などではそれ専用のスレッドが建つことも珍しくはなかった。 

 

 加えて、今まで産業の一角を担っていたテンメイジャーが崩れ落ちたことで、当然経済も共倒れ。失業者を大量に排出することになる。良くも悪くも、人々の暮らしの根幹にテンメイジャーは入り込み過ぎていたのだ。

 そうなってしまえば、テンメイレッドが悪の代名詞として成り代わるのに、そう時間はかからなかった。

 

 テンメイジャーはもちろん解散。そしてテンメイレッドの人相と実名が世の中へと深く知れ渡ったのだ。

 

 

 

 そこから七年の時を経て。世界を救った戦隊のレッドは今───

 

「マスター。ウイスキーをロックで、もう一杯」

「赤司さん。もうやめときましょ?明日頭痛くなんで?」

 

 ......立派な呑んだくれとなっていた。

 

 街の喧騒からは程遠い郊外『恵殿町(えでんまち)』に位置し、間接照明のみが灯りの役割を果たす、薄暗く風情のあるバー『Adam's』のカウンター。

 そこでマスターを務める『源田(げんだ)』と元ヒーローのレッド『赤司(あかし)』の他に客はいない。

 それはひとえに週に一度の赤司が来る日を予め定休日としているからであって、普段から客がいないという訳ではない。決して。

 

 赤司の顔は既に赤く、その燃えるような紅い髪との境目すら危ういほどだ。

 長々と独自の『ヒーロー論』を語り明かしては、その都度枝葉のように話が飛んで管を巻く。それを源田はしみじみと聞き入れ、適切なタイミングで相槌をうつ。もちろん、相槌を打つだけでは終わらない。時には、赤司の話を遮らないよう細心の注意を払いながら、源田も話を投げかける。

 

「いやでも、他の仲間もちょっと薄情ちゃいます?全部赤司さんのせいにしてお咎めなしでしょ?ほんでそっからは顔すら見せへんって」

「......いくらアンタでも仲間の悪口だけは見過ごせねえな」

「せやけども......」

「そもそもオレが言ったんだよ。『全部オレのせいにしろ』ってな」

「はあ!?そんなん今初めて聞きましたわ!なんでそんな......」

「アイツらには未来があった。オレだって若けぇつもりだったけどよ、その可能性を奪うっつうのは大人の役目じゃねえからな」

「ホンマ人が良すぎですわ。まあ、せやからワシもこうして店来てもろうとるんですけどね」

 

 この源田という男も赤司に救われた一人である。ゆえに、赤司には返しきれないほどの恩があり、今でも足を向けて寝られない。が、その話はまたいつか。

 

 そんなこんなで夜はどんどんと更けていく。

 いつも通りなら、源田の制止も聞かず呑み狂って眠りこけるのだが、どうも今日は違ったらしい。

 

 

 ───からりからり

 

 扉のベルが来客を示した。

 入り口に立っていたのは、闇に溶け込むような美しい黒髪を後ろの一点に結え、パンツスタイルのレディーススーツを着こなした妙齢の女性であった。

 

 まさかの来客に、確かに扉を『closed』にしていたはずだと源田は思い悩む。

 とはいえ、入ってきてしまったものは仕方がない。不毛な思考を切り上げ、ここは大人しくお帰り願おうと、源田はなるたけ柔らかい表情を作り口を開いた。

 

「ごめんねお嬢ちゃん、今日は定休日なんよ〜」

「......お客さん、いらっしゃるようですけど?」

 

 売り言葉に買い言葉。まさかの返しに源田は面食らい、頬には一筋の汗が伝う。

 

 面倒なことが起きそうだ。

 そんな源田の想像を肯定するかのように、今度は赤司が声をかける。

 

「いいじゃねえかマスター。なあ嬢ちゃん、横座んな!」

「だ、そうですよ?それではおかまいなく......」

 

 これまた赤司のまさかの提案に源田は面食らった。しかも少女はあっさりとその提案に乗るではないか。

 これはまずい。なんとしてでも食い止めねばならない。ともすれば、赤司にかける言葉として最も適切なものを選び出すため、源田は脳みそをミキサーにかける勢いで回転させた。

 

 そして。

 

「いや赤司さん!!この事が知れてしもたらあんさん.....

 

 

 

 ───この先どこで酒呑む言うんですか!!!ワシの店潰れてまうかもしれへんねんで!?」

「......」

「......」

「......悪いな嬢ちゃん、やっぱり今日は閉店みたいだ」

「いや意志弱すぎでしょ。貴方それでも元レッドですか」

 

 赤司の言葉にほっと胸を撫で下ろす傍で、源田は少女が言った言葉の端を逃さなかった。今確かに目の前の少女はこの呑んだくれを見て『元レッド』と宣ったのだ。

 それはつまり、ここに赤司が通っている、そしてここにいる赤司がその元ヒーローだと確信する材料があるということ。

 これが世に出回ってしまえば、随分と厄介なことになる。源田の店はもちろんのこと、赤司自身の身も危うくなってしまうだろう。

 

 幸い、源田の咄嗟の機転と制止により、少女と赤司との距離はそれほど縮まっていない。

 予算をケチって雰囲気とは名ばかりの薄暗い店内にした事が功を奏した。最低限顔さえはっきりと視認されなければ、まだ勘違いでゴリ押せるかもしれない。

 

 赤司もすでに出来上がってしまっているし、口を滑らせるのも時間の問題だろう。とにかく長居させてはいけない、源田はそう判断した。

 とはいえ、情報が漏れているのなら防がなければならない。少し探りを入れてみるのも悪くない、帰ってもらうのはその後でも遅くはない。その算段で源田は少女に問いかけた。

 

「お嬢ちゃん、今なんて?」

「元テンメイジャーのレッド、と言いましたがなにか?私は今日、彼に会いたくてここを訪れました」

 

 やはり、バレている。しかし、それ以上のことは話すつもりがないというのが言葉の端々から滲み出ていて、掴みどころがない。

 恐らく、これ以上の問答は逆効果。ならば、少し強引にはなるがお帰りになってもらう必要がある。

 

「あんなぁお嬢ちゃん、あんま冗談言うもんやないで。それに、そういう事なら余計あかんわ。此処はあくまで、酒を楽しむとこや。呑まんなら帰ってもらおか......っ!?」

 

 突如として、刹那的な眩い光が二人を覆う。

 何事かと目を凝らすと、少女の手にはスマホが握られていた。

 

 状況証拠だけではなく、物的な証拠も押さえにきた。それもご丁寧にフラッシュまで焚いて。くっきりとまではいかずとも、大まかな顔だちは写ってしまっただろう。

 どんどんと状況は悪化の一途を辿っている。なにか解決策はないかと源田が思考を張り巡らせている最中に、勝ち誇ったような声色で、少女は告げる。

 

「これを流せば、どうなるでしょうね?」

「はっ!きょうびそんな与太話信じる奴なんて誰もおらへ───」

「信じる、信じないの問題ではありません。今もなおレッドを忌まわしく思う人たちは少なくない。反レッドの活動家のことは知っているでしょう、マスター?」

 

 反レッド。国や人種を問わず、世界中で『家族を奪われた』『家を返せ』『悪魔の権化』などと吐き散らかし、レッドを模った銅像に絵の具をぶちまけたり、赤いものを身につけている人間を攻撃したりと、中世の魔女狩りもかくやたる勢いでとにかくめちゃくちゃやっている集団である。

 

 逆恨みもいいところだ。恨む相手を間違えている。と源田は思う。しかし一方で、明確な悪がなくなった今、ヒーローが取りこぼしてしまったものを非難することは、特別不思議なことではないというのも頭では理解している。

 ましてや、あんな事件があったから尚のこと、そういった存在が生まれることを助長してしまったのだろう。

 

 そうして生まれた反レッドの集団は、時を経て沈静化するという事はなく、むしろ日に日に過激になっている。恐らく、インターネットが広く普及してしまったために、さらに注目を!さらに過激なものを!と、目的と手段とを履き違えてしまっているのだろう。

 

 推し量るに、今の奴らは下手すればかつてのシン人類よりもタチが悪い。そんなのに知られてしまえば、店どころか、命すら危ういかもしれない。

 源田は固唾を飲み込む。彼女の手に握られているスマホのタップ一つでこの生活は終わってしまうのだ。

  

 沈黙が場を満たす。

 今この女を近付けてしまえば、それこそ赤司がレッドである事がバレる。だがこれ以上追い払おうとすれば世界中に情報が出回り、反レッドの餌食となってしまう。

 究極のジレンマ。まさしく生と死の狭間。仄暗いこの空間には確かな緊張感が漂っていた。

 

 

 ただ一人を除いて。

 

「......いいぜ。呑もうじゃねえか、嬢ちゃん。生憎、サインなんかは書けねえが」

 

 この沈黙を打ち破ったのは赤司だった。泰然自若といった様子で、この空気を意にも介していない。それどころか、笑みすら浮かべているではないか。

 これが世界を救った者の余裕か、はたまた単に鈍いだけの大馬鹿者か。その真意は誰一人として知る由もない。

 

「ふふ、貴方ならそう言うと思いました。レッド......いや、赤司天生(あかしてんしょう)

 

 そこでやっと赤司の目が見開かれる。

 世間での赤司の名は『赤司(アダム)』で通っている。小中学校での卒業アルバムでは赤司男となっている為、その名が世間に広まったのだ。そのインパクトの強さと、イヴを助けたことも相まって浸透の早さはそれはそれは凄まじかった。

 

 ではなぜ、今目の前の少女は(アダム)ではなく天生(てんしょう)と呼んでいるのか。

 

 赤司は過去に一度、男から天生へと名を変えている。それはまだテンメイジャーが正義の味方と信じられていた頃のことであった。

 理由は本人曰く『なんか漢字がカッコいいから』とふざけたものであったが、もとよりキラキラネームに分類される類のものであったため、仲間の協力のもと改名したのだ。余談だが、このバーの名前はその名残を残すために『Adam's』と名付けられている。

 故に、下の、それも正確な名前まで知っているのはほんの数人。それこそ、すぐに思い浮かぶのは源田とかつての仲間くらいであった。

 

 

 それを、知り得ている。

 このことに、赤司は興味を隠せないでいた。

 

「ほぉ......?オマエさん、ナニモンだ?」

 

 カツリ、カツリ、とパンプスが奏でる音色が静かなバーの空間に木霊する。

 ついに少女はカウンターの前へと辿り着き、その輪郭がハッキリと捉えられるまで二人に接近した。

 

「なっ......アンタはっ......!?」

「........あん?マスター知り合いか?随分とべっぴんさんだが」

「赤司さんっ、アンタって人は......!コイツは───」

「......まさか仮面舞踏会で人の仮面を取るなんて無粋な真似は、なさらないわよね?」

 

 源田はいまいちピンときていない赤司に知らせようとしたが、少女から横槍が入る。

 

 その時、源田は声が出なかった。否、出せなかった。

 その身から溢れる圧倒的な強者の威厳。そして、肌を刺すのは罪という罪を煮詰めたような瘴気。

 

 間違いない。目の前の人物は赤司がその人生を捨ててまで救ったシン人類、

 

 ───『イヴ』その人である。源田がその確信を得るのはそう難しい話ではなかった。




備考:ちょっとしたキャラ紹介。

赤司 天生(34):ボサボサの赤髪、ほったらかしの芝のような無精髭、上下パジャマのようなスウェットに便所スリッパ。お日様の匂いがする。
源田 総一(45):バーテン姿がやけによく似合う糸目のバーテン。最近白髪と生え際に悩まされている。お好み焼きとご飯は一緒に食べないとムズムズする。
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