世界を救ったヒーローの元レッドですが、働く場所がありません。 作:仮乃英
ここまでで、疑問に思わなかっただろうか。
───赤司天生は一体どうやって生活しているのか?
その謎を解明するため、赤司の一週間を見てみよう。
月曜日
赤司天生の一日は早い。
朝の七時、赤司はとあるアパートの一室で目を覚ます。このアパートは『天音不動産』が所有している、赤司以外は誰も住んでいないアパートだ。まあ、そのことを赤司は知る由もないのだが。
さて、話を戻そう。
昨夜まで『Adam's』にて眠るまで酒を飲んでいたのだが、存外起きるのは早いのだ。
というのも、その原因は二日酔いの頭痛によるものであり、決して赤司の寝覚めが良いという訳ではない。
「あーくそ......また呑みすぎた」
赤司はそう言って、なぜかご丁寧に枕元に
初めこそ警戒したものの、今はもう随分と慣れたものだ。
「しっかし、なんでこうも都合よく色々とあるかね。ちと怖いが......まあ、いいか。今んとこ何もねえし、家がなかった時に比べりゃ随分といい」
もともと、赤司はつい一年ほど前まで家が無かったのだ。
あの事件以来、東京から逃げるようにその場を去った赤司は、仲間に解散の旨と「全て自分のせいにしろ」と告げた。
そして、その辺に落ちていたボロ布を体に巻き、日本全国津々浦々を転々としながら野宿をしていた。
少しの小銭もなければ明日のパンツすらありもしない、そんな状況で日々を凌いでいたのだ。
草や虫、そしてひどい時は土などを食うこともあれば、ドブのようなため池の水を飲むことだってあった。
とにかく、あの事件以来、これ以上の混乱を避けるために『人前に出ないこと』を赤司は心に決め、俗世とは切り離された状況で約六年ほどの月日を過ごしていた。
そこを
それが、このアパートでの生活の始まり。
そしてこの月曜日は、二日酔いで一日が潰れる。よって特に見どころもないので次の日を見よう。
火曜日
赤司は昼頃に起き、玄関の扉を開け、周囲を少し見回す。
「お、あったあった」
赤司は目的のものを見つけ、拾い上げる。それは、漫画雑誌であった。
火曜日には、こうして
そして三ヶ月ほどに一度、同著作のサイン入りの単行本も赤司の部屋の前に
まったく、ファンの風上にも置けない。と思う一方で、「捨てられてるなら貰ってもいいか」のマインドで赤司はいつもありがたく頂戴している。
『ときめきオルタネイト!』の内容としては、漫画家を目指していた地味な少女が、夢を諦め高校デビューでギャルへと転身。高校で出会った男子達との奇想天外な恋愛模様を描いた作品だ。
ゴーカートに乗りながら意味不明なラップを披露するキャラがいたり*1、四肢に輪っかを取り付けた男が『ヤラシー神拳は......無敵だ!』というよくわからない格闘技を駆使したギャグを盛り込んだり*2、ラブコメにも関わらず数々の迷言や迷シーンを残した稀代の問題作である。
そして、主人公の相手役が悉くギャグに振り切っており、読者からは『もうこれラブコメじゃないだろ』『ラブ.....どこ?』『そこに愛はあるんか?』と様々な意見を寄せられている。
そして、なによりも。
「相変わらず主人公の親父に力入れすぎじゃねえかな、この漫画。どのキャラよりも男前じゃねえか。やけに登場回数も多いし」
そう、この作品ではどういうわけか、やたらと作画に力の入った主人公の父親が毎話必ず脈絡もなく登場するのだ。もはやお約束となったソレに『もはやヒロインは親父なのでは?』と言った声もあるようだ。
そこで、赤司は思い返す。かつての『テンメイイエロー』であり、その派手な金髪が特徴的な女子高生『
「黄海のやつも、漫画家目指してたっけ。そういやこの作者の名前、今まで読めた試しがねえが、見ようと思えばイエローに見えなくも......はっ!まさかな!」
......この様子では、今後もその作者が黄海であることに気がつくことはないだろう。
水曜日
この日もまた、赤司は玄関前に訪れる。
水曜日は多種多様な雑誌が捨てられている。どの雑誌にもピンク色の付箋が貼られており、なぜかはわからないがそのページには必ず『
「桃ちゃんも頑張ってんなあ......」
出会った時はまだ十二歳かそこらだったか。その頃からかなり名を馳せていたようだが、その人気を落とすことなくことなく今でもこうして雑誌などで取り上げられている。そのことに赤司は心から感心していた。
そんな彼女ももう二十二歳だという。時の流れを感じながら、赤司はページを捲る。するとそこには『桃星輪の私服コーナー』という記事があるではないか。
どれどれどんなもんかと目を通すと、桃星の写真の頭部に、あとから書き足されたような不自然な赤丸があった。
その丸の中には、二十代の女性がつけるにはあまりに子供っぽく、着ている清純な服装とは明らかなミスマッチを起こしている髪留めがあった。
やけに見覚えがある髪留めに、赤司は思い出そうと頭をひねる。
そして、一つの答えが頭に浮かんだ。
「こりゃあ確か......俺があげたヘアピンか?......いや、んなことねえか。そもそも、あれあげたの九年前とかだしな」
思い出したのは、桃星の誕生日、そして中学の入学祝いに赤司が渡した、星の意匠が施されているヘアピン。
当時、桃星に何をあげたら良いかわからないが、わからないなりに赤司が街を駆け回って探した一品だ。
だが、赤司が言ったようにそれも九年前の出来事。
そんなものを後生大事に取っておくかと聞かれれば、まあそんなこともないだろう。と赤司は結論づけた。
木曜日
段ボールを開封すると、金色の板が届いていた。
赤司の部屋にはこのような、数多くのトロフィーが飾られている。
そのどれもがゲームの大会のトロフィーであり、大きな大会のものから果ては小さな街の大会のものまで、様々なトロフィーが毎週のように届くのだ。
しかし今回は今までのそれらとはどうも違うようで、その金の板にはよくわからない英語の羅列と『1,000,000』の文字が刻まれていた。
それがどう言った数字で、何を表しているのかはわからなかったが、まあなんとなく凄いものなのだろう、金色だし。ぐらいの認識は赤司もあった。
ゲームといえば、と赤司はまた一人の人物を思い出す。かつての『テンメイグリーン』、『
桃星と同じく、戦隊の最年少であった彼は、まさしくゲームの天才であった。コンピューターゲームだけではなく、ボードゲームなど何から何までを得意としていた。
「緑山のやつも元気にしてっかな。アイツにはまだ一回もゲームで勝ったことねえしな。今もどっかでゲームやってんのかな」
そんな緑山に、赤司は一度も勝ったためしがない。
テンメイジャーとして活動していた頃はほぼ毎日緑山に勝負を挑み、そして負け越していた。戦績としては千戦零勝零引分。完膚なきまでの敗北だった。
「......あー思い出したらなんかムカついてきたわ。今度会ったら絶対負かしてやる」
果たして、その『今度会ったら』が実現する日があるのかは不明だが、やはり負けっぱなしというのも中々心に来るようで、その日はふて寝して一日が終わった。
金曜日
何気に赤司が最も楽しみなのは、この金曜日である。
備え付けの冷蔵庫の中を見るといつも一週間分の食料が入っているからだ。
なぜか去年のクリスマスには大量のシャケが入っていたりしたが、大体は栄養バランスが考えられていそうな弁当であったり、冷凍食だったりである。
今までの野宿ではまともなご飯にありつけることがなかったため、赤司にとってある意味もっとも貰って嬉しいものが『食料』である。
最初こそ警戒したものの、源田に相談すると『ま、ええんとちゃいます?赤司さんの胃袋やったら病気ならんでしょ』と返ってきた。その認識を喜んで良いのか赤司は迷ったが、そろそろ限界が来ていたので口をつけることにしてみたのだ。
赤司は、その日食べたハンバーグ弁当をこの先忘れはしないだろう。一口食べた瞬間、脳細胞が踊り出したのがわかった。
どうにかなってしまいそうだった。脳内麻薬が溢れ出して止まらなかったのだ。それほどまでに、赤司は食というものを知らず知らずうちに渇望していたのだ。
そして、その歓びと同時に、今まで食べていたものに深く絶望した。
人前に出ないと決めて六年。その長い月日を、自分はなんて無駄にしてしまったのだろうと。仕方がないとは言え、もう少し食に気を使うべきであったと。
気がつけば弁当は空になっており、赤司は今までの人生で一番の『ごちそうさま』を言った。その『ごちそうさま』の儀に丸一日を費やしたほど、赤司は感動していた。食というもののありがたさに、調理というものの素晴らしさに、そしてこの世の全ての食材に。
それ以来、赤司は感謝を忘れない。極限までに精神を研ぎ澄ませた『いただきます』に始まり、同様に『ごちそうさま』の儀を毎食行っている。それはさながら神に祈りを捧げる敬虔な司祭のようであった。
土曜日
この日は特別何かあるというわけではない。
今までに来た漫画や雑誌などを消費して、あとは筋トレや昼寝などで一日を潰している。
もちろん外には出ない。
人前に出ないという赤司の決心は未だ変わっていなかった。
日曜日
この日も日中は特に予定がない。
なので、なぜ外に出ない赤司が『Adam's』に行くことが出来るのかについて話そう。
この部屋にて目を覚ました赤司はいの一番に、ある紙を見つけた。
それはどんなバカでもわかるように書かれた、部屋を出て、人と会わずに『Adam's』に行く方法。が記されている紙だった。
テンメイジャーの頭脳、青森始により、どんな人間が読んでもわかるように書かれていたため、おつむが残念な赤司でも無事にたどり着くことができたのだ。
それ以来、源田が店を開けてくれる日曜日の夜のみ、赤司は外出をしている。この一年、赤司はまだ人っ子一人すら見つけたことがない。
だが、これでも『妙だな.....?』と微塵にも思わないのが赤司の頭脳のクオリティなのだ。その類まれなる鈍感力によって、赤司の保護に関わっている人間がバレることなく、こうして赤司を支えることができているというわけだ。
さあ、夜も更けてきたところで、赤司に視点を戻そう。
着る服はいつも同じで、最低限顔を隠すことができるフード付きのパーカー、下には履き慣れたスウェット、そして便所スリッパだ。
だが、今日はいつもとは違う点が一つ。
それは、この私『カイル』が彼に接触するという事だ。
◆◇◆
「うっし、そろそろ行くか」
赤司はスリッパに足を滑り込ませ、ドアノブを握る。
その時、赤司の背後から声がした。
『───久しぶりだね、天生』
先程まで気配を感じなかった。赤司は勢いよく振り向き、臨戦体制をとる。
するとそこにいたのは、荘厳なバリトンボイスを響かせる、空中にゆらめくモヤのような存在だった。
赤司はその存在を、知っていた。
「アンタまさか.....おやっさん、なのか?」
赤司はこのモヤを『おやっさん』と呼んだ。これは、言葉の通りである。
早くに両親を亡くした赤司を拾い、育て上げた親のような存在。そして、テンメイジャーのメンバーを全国から集め、世界を救う力を与えた張本人。
テンメイジャーの影の功労者。救済の導き手『カイル』がそこにいた。
『あまり長くは話せない。しかし、よく聞いてくれ』
相変わらず表情はわからない。が、赤司も長い付き合いだ。大体の感情は察することができる。
それ故に、赤司は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。カイルが、何を言わんとしているかが、直感で分かったのだ。
その、内容は......
『新たにシン人類が現れた。
───また君の力を貸してくれ、赤司天生』
戦隊といえば、こういった人外の味方キャラがいるイメージがあります。
よろしければ評価等をしてくれれば励みになります。よろしくお願いします。
【12/1:追記】
感想についてなんですが、私にはどうにも長ったらしく返信してしまうきらいがあるようです。皆様の感想欄を私の返信で埋めてしまうのは本意ではないため、返信は控えさせていただきます。
なので、感想を見て補足が必要だと感じた部分はこれから後書きで記載します。引き続き、感想は楽しく読ませていただきます。
そして、日間9位ありがとうございます。正直、戦々恐々としています。
ご期待に沿えるかは分かりませんが、残り八話ほどで終わる構想なので、頑張って完結を目指します。
あと、誤字報告ありがとうございます。大変助かります。