「ねぇターレス・・」
「ん?どうしたお嬢さん?」
「お兄ちゃんさ・・・・ちゃんと元気になった?」
今年の終わりごろに地球の存亡をかけた危機が来る
そんな大変な中で地球を、ひいては己の愛した者達を守れるようにとラディッツの息子セルがジュニアに己の全てを託して同化してしまった。
その事があって一か月が経ち、周りの者達はセルの想いを無駄にしないようにと修行に精を出し前を向いて走り出しているが、優しい兄の心がブルマには心配で堪らず兄の側にいる事が多くなっているターレスに尋ねてみれば
「難しいな。
ラディ坊ちゃんは隠し事に長けているから俺でも坊ちゃんの本当のところはわからん。」
「そう・・・・私もずっとお兄ちゃんの側にいられればいいのに・・・」
ターレスも首を傾げるほどラディッツの様子は謎であったようで、お兄ちゃんの悪い癖が出たんだと、ブルマはため息をつく。
今ブルマはカプセルコーポレーションの自室におり、遊びに来ているターレスにアイスコーヒーを出して兄達の近況を聞いている。
ジュニアがスラッグの他にセルと同化した事で、兄達にとっては悲しくはあるがジュニアの戦闘力はターレス達が知っているギニュー特戦隊の隊長を上回り、更にその上を言っているので悟空達を一斉に相手をして仲間達の戦闘力を伸ばす方に回っている。
悟空達は朝早くから夕暮れまでジュニアや他の者達と総当たり戦の組手や重力室で百倍に耐える修行をしており、兄ラディッツは専ら瞑想をして己の気の限界の底の底まで潜っているとか。
気が発せられないだけで仲間内では気の総量と使い方は断トツだというターレスの評価に、流石はお兄ちゃんと聞いているブルマは嬉しく思うが
「・・・・私もチチちゃんやモンブランちゃん達みたいにずっとずっと皆といられたらいいのにな。」
悟空とクリリンの妻の二人の名前を出したブルマは、少しお行儀が悪いがアイスティーを飲んでいたストローを口にくわえながらガラスで出来た丸テーブルの上に顔を横向けにして突っ伏す。
自分もメカなどで兄達の修行のサポートをしている自負はあるのだが、それでも蚊帳の外にいるような一抹の寂しさを覚え、何よりもお兄ちゃんを慰めてあげられていないと歯痒さに胸が苦しくなる。
チチとモンブランは二人の妻だからずっとそばにいていい関係だが・・・・自分は孫悟雲の妹だと山村で認識してもらえても-世間-はそうはとってくれないところがある・・・・主に-ゴシップ雑誌の記者-とか・・・
-未だに結婚をしていないカプセルコーポレーションの令嬢と警備会社サイヤンℱのオーナーはふしだらに遊んでいる関係か?-
などという破廉恥な生地が出ようものなら、間違いなく出版した会社は兄と自分達の顧問弁護士によって名誉棄損で訴えられて破滅してくれるだろうが世間、特にカプセルコーポレーションの地位を引きずり下ろしたいライバル会社にわざわざ攻撃材料を与える事になりかねない。
・・・・・・自分はもう二十五歳でお兄ちゃんは三十歳・・・・もうとっくに結婚をしていてもおかしくない年齢だ。
お兄ちゃんがどうして誰ともお付き合いもしないで結婚もしないのかは分からない
でも最近は、フリーザ様達っていう人達の事があるからおちおち結婚も出来ないのかな?
「ターレス・・・・フリーザ軍ていうところに居たお兄ちゃんは・・・・そのね・・誰かと・・・」
向こうでお付き合いをして将来結婚する約束をした人がいたのだろうか?
だとしたらその人を忘れられなくて・・・
「はっはっは!なんだお嬢さんはそんな心配をしていたのか。」
「な!笑わなくてもいいじゃないの!!!」
人が真剣に悩んでいるのにと、顔を真っ赤にして上げた頭を向かい側に座っているターレスに優しく撫でられた。
「安心しろっていうのも変だろうがな、あの坊ちゃんがフリーザ軍にいたのは六歳から十二歳のガキの頃だぞ?」
こんな平和な地球ならばともかく、軍やましてサイヤ人は繁殖する為に関係をもつか王族や名家のように絆を結ぶ政略結婚をするのであって、バーダックとギネの様に好意を持って結婚する方が稀であり、恋愛結婚なぞという概念は全くない・・・筈なのだが・・・
「あら?今度はターレスの方が難しい顔になっちゃった・・」
「あ・・・あぁ・・・あのよ、ラディ坊ちゃんの事考えてたらな、余計にあいつの事が分からなくなっちまってよ・・・」
「へ?」
「カカロットの奴が物心ってのがついたのが地球に住み始めた時で、その上で地球の教育を受けたから恋愛結婚だとか道徳心だとか倫理だのを身につけたのは理解できる。」
「そうね~、地球で育った悟空は兎も角としてターレスの話だと生粋の戦闘民族サイヤ人の人達はそういうのはちょっとね・・・・。
でもそれがどうかしたの?」
過酷な環境で、強さしか売りがない種族なのであれば自然と生業と生き方は武力に関した者しかなくなるのは自明の理であり、恵まれている地球に住んでいる自分が同行言える事ではないのでブルマはなるべくその話題をターレスにも出さないようにしているのだが、珍しくターレスの方から話題に出して首を傾げているので自分も突っ込んで聞いてみれば
「カカロットは地球の教育ってやつのたまものかもしれないが、そしたら生粋の戦闘民族サイヤ人の中で生まれ育ったラディ坊ちゃんのあの優しさはどっから来たのか不思議になったんだよ。」
「お兄ちゃんて、惑星ベジータにいた時からあんなに優しい人だったの!?」
軍隊で侵略をしていたというから!てっきり地球に住むうちに悟飯お爺ちゃんやおじいちゃん先生のおかげ培われたものだと考えていたブルマは驚いてターレスに兄の過去を深く聞いてみれば茶化さずにきちんと教えてくれた。
「俺も軍にいた時は遠目からしか見て無いが、雰囲気も周りの評判も今と全く変わってないな。」
戦闘民族の中で育ち、戦闘プログラミングも教育カプセルで受けていた筈なのにだ
こうやって口に出しながら考えれば考える程に、ラディッツという男は不可思議な男だ
戦闘民族サイヤ人にしては優しすぎて闘争心が欠如しているとみなされる反面、地球人というにはカカロットよりも酷薄な考えを持っている。
その評価をブルマにすれば、ブルマはどういう事と首を傾げるのでターレスは具体例を出した。
「例えばな、お嬢さんは仕事の為に他所の星を攻めて侵略したり、治療法がなく爆発的な感染力を持った脅威的な病気に惑星全土が掛かっているからって即座に惑星の生命全部を巻き込んだ破壊を命じることが出来るか?」
「!!・・そ・・・それは!!!・・・・それは・・」
「ちなみに俺は出来る。フリーザ軍の奴等はもとより、サイヤ人の奴等も躊躇いなくするのが普通なんだが・・・・あの坊ちゃんは泣いたそうだ・・」
「へ?」
「宇宙ペストにかかった惑星とフリーザ軍の一部隊の中に同族がいて、消滅させるしか手段がなくて命じた後に、ボロボロと泣いたんだってよ・・・・」
クラッシャーターレス軍団がラディッツの懐に潜り込める様にするにはラディッツの事を理解する必要があった。
相手の快・不快を知らなければ立ち回る事なぞ出来ないのだから。
その為にネズミがラディッツの人となり知るには重要なエピソードだと教えてくれた中の一つを聞いた時、そいつ本当にサイヤ人なのかと自分も含めた全員が耳を疑ったものだ。
しかし本人に出会ってそれなりに付き合って、ネズミが言っていたエピソードが本物だと知って心底呆れた・・・甘い奴、こいつ本当にフリーザ様が来たら戦えるのかよと今でも危惧している。
そして憐れにもなった
サイヤ人として生きるには甘すぎて、それが大人の中でも武闘派で古くからの考えにしがみついていた大人のサイヤ人から目の仇の様に嫌われ幾度も殺されかけたというのに、地球人として生きるにはあまりにも力がありすぎて考え方が地球人としてはともすれば悪と呼ばれるほどに苛烈に映り、ではフリーザの下で生きていくにはちょうどいいかというとそれも違う。
他の星と住民達がどうなろうとも知った事ではないが、ラディッツを間近で見ていればそんな事をするのも本当は苦痛であったのだろう事が伺い知れた。
仕事だからと割り切っていただけで、本当はしたくはなかっただろう事が・・・
サイヤ人として又フリーザ軍として生きていくには優しすぎて、地球人として生きていくにも今後を考えればどうなるのだろうか・・・
何が言いたいかというとラディッツという男はどちらで生きていくにも中途半端なのだ
なのにどちらの陣営にも慕う者達がいて宇宙全域を巻き込む戦争の発端になっている。
これ程ふざけた話は無いだろうが、事実で近々その戦争の幕が上がる
「・・・・恋人って奴はいなかったがな、確実にあいつの幼馴染のサイヤ人達は来るだろうな。」
「そんな!!・・・・そんな・・・」
其れじゃあお兄ちゃんの心が益々傷ついちゃうじゃないのと泣くブルマの頭を、ターレスは黙って撫でる事しか出来なかった。
ブルマが言った事はきっと当たっていて、フリーザと幼馴染達が来る事なんてラディッツはとっくに気が付いて・・・・その上あの紛い物が勝手に同化とやらでジュニアと融合して消えたのがラディッツの心の傷の追い打ちになっていると思うと、ターレスの胸が勝手にチリチリとする。
・・・・別にラディ坊ちゃんが本当はどうにかなっても知らないと・・・嘯くには情が生まれすぎていて・・・・自分もこのぬるま湯のような地球の考えに毒されて来たのだろか?
「戦場で・・・」
「・・・ふぇ?」
「ラディ坊ちゃんが戦場で死にそうになっても俺が助けてやる・・・」
きっとラディッツは生きたまま捕獲されるだろうが、万が一もあるだろうしカカロット達にも死なれたら寝覚めの悪い事この上ない・・・
フリーザ軍が来る寸前に地球から逃げようと思っていたのに・・・
「お嬢さんと爺さんとあいつの為に残ってやるよ。」
「ターレス・・・・」
「あぁもう!そんなにべしょべしょと泣くな・・・・まったく・・・」
いい女が台無しだぞと、無意識に突き出されているブルマの唇を吸ってやりたくてたまらないが
「ふが!!」
ブルマの鼻をつまんで誤魔化す
「ちょ!!・・・もぅ・・・」
「はは!そうそう、お嬢さんは元気に怒って笑っていりゃあいいんだよ。」
人が真剣に悩んで泣いているのに何すんのよとプンプンとするブルマに、ターレスは嬉しくなって笑いだす。
泣いて弱っているブルマに口付けをして言いくるめてもなんだか虚しい・・・
百万が一フリーザ軍とフリーザに勝つことが出来れば・・・・ジュニアの脅威的なパワーアップと、悟空達のあり得ない程の戦闘力の伸びと、何よりも地球の気を借りて戦えると言う反則的なラディッツがいれば或いは・・・奇跡が起きないとも限らねえじゃねえか。
その奇跡を生む為にダイーズとアモンドとレズン達戦士がカカロット達を殺す勢いで相手をしており、レズンとラカセイは特訓で死にかけるカカロット達の為に八卦炉温泉近くで育てられている仙豆とやらを大量に作れるように地球人トニーと日々頑張りながら重力室の特訓の質上げをしている。
そして自分もブルマと会う以外は専ら力を上げる為に・・・・今までの自分だったら頭が狂ったかと言われるような修行をしているのだから笑える・・・全部ブルマと爺さんとこの星で今後も暮らせるようにというちっぽけな願いの為に、怠惰で身勝手に好き勝手生きていた己の生き方すら変えられたのだから笑えもしないだろうが
勝てる様に俺様達も力貸しているんだ
だから、勝ってブルマに相応しいのはどっちかをブルマが選べる様な未来を作る為に、気張ってくれよラディ坊ちゃん