気が付かなければ何も感じはしなかった・・・
大勢の敵がいるとはいえ、兄の幼馴染だと教わっていたサイヤ人達の気も周りの敵達の気もそれぞれが違う事を認識できるほどに気を感じる力を高めたと悟空は少しばかりの自負があった。
そうでなければ乱戦になり、仲間の気が低下して危機に陥った時に助けに行く事を目標の一つにして修行したから・・・・だが・・・先程まで、兄が上空を見上げてフリーザ様と言うまで確かに感じられなかった気が!今は冷たく怖ろしく感じる!!
見てくれは小型ポッドという者に乗っていてもわかるほど小柄で、兄を見る瞳はいっそ優しいとも思える程柔らかいのに・・・・悪寒が止まらない・・・背筋に寒気が奔って尻尾の付け根から先っぽまでビリビリとして・・・
あれはいたらいけない者だ
この世界に存在するだけで悪なのだと、自分の中の何かが必死にさけんでいるのに・・
「お久しぶりでございます、フリーザ様。」
隣にいるクリリンだってジュニアだって、周りにいる者達の大半が自分と同じように警戒し怖れている相手に、兄は優しい声で挨拶をしたのが信じられない・・・
悟空を始めとした全員が、フリーザがもつ帝王としての力を敏感に感じ取り怯えを見せた。
実力が高い故に、相手の強さをダイレクトに感じられるようになってしまったのかもしれないが、ラディッツにとってフリーザの気配は十二分に肌に馴染んでいる者であった。
あの幼き日、毒だと本能で感じ取ってもそれでも焦がれたのは自分・・・
毒杯の全てを溢さずに飲み干したのは自分の意思で・・・
だからこそ分かっていた
この地球の大気圏内に一番に降りてきたのがフリーザ様達だと
恐らくレズンとラカセイが作ったようなステルスシールドを覆いながら降りてきて、それを見届けてから古参達と上級戦士達、そして宇宙側から敵がこないと確認をしてリーキュ達が降りてきた事を。
主の背後を取らせないのが親衛隊の仕事の一つなのだから、恐らく自分の予想は当たっているだろう。
しかし、なぜフリーザ様がご自身の姿を現しながら堂々と現れなかったのか?
その答えに辿り着いた時、ラディッツは思わずクスリと笑ってしまったのを、目敏く見付けるのがいつも一番はフリーザ様で
「おや?何か面白い事がありましたかラディッツ?」
「えぇ・・・フリーザ様は人を驚かせるのがお好きなところが全く変わっていないなと思いまして。」
まるで・・・・十八年という歳月なぞ無かったようになってしまう
・・・それが怖ろしい・・・
自分の周りでフリーザ様と親しく話している自分に不安を覚える気配が沸き立つのを感じても、隣のジュニアの形相が怖ろしい者になって馬鹿父と内心で罵っているのが分かっても・・・止められないでいる・・・
どこまでいっても・・・・俺がフリーザ様を慕う事がやめられない・・・・
これから始まってしまう事が分かっていても、あの方の本質がスラッグ以上の冷酷な悪である事が分かっていても、決してそれだけでは無いのを知ってしまっているから・・・
その優しさの中で俺は幼少期を過ごしたから・・・・絶対的な力の庇護の下、文句を言いながらも父は軍で働きそのお金で俺たち一家は一家団欒の食事をして、珍しい甘いものを貰ってみんなで食べて、見た事も無い花を時にいただいて自室の窓辺に飾って・・・確かに幸せだったんだ・・・・たとえそれが周りの星々の見知らぬ人達の犠牲の上に成り立っていると分かっていてもそれでも
だが、この地球にいる人達は見知らない誰かではなくて・・・・・だから・・・堪えなければいけない・・・
ともすればフリーザ様のお側によりそうになる体を、心を・・・・
柔らかく話しているようにしているラディッツのその実を知るようにフリーザはそれを微笑ましく見つめる。
あの子も変わらない
たとえ自分の心が悲鳴を上げていても、それを表に出すまいと必死になる時の-癖-が出ているのを、きっと気が付いているのは自分だけであろう。
ラディッツは自分の本当の心を隠した時は、-尻尾-を腰に力を込めて巻き付けさせる。
普段、其れこそ先程マトマとスーナが加減もせずにラディッツに抱き着こうとして逃げ回っていた時ですら尻尾を巻かずにいた。
戦闘民族サイヤ人の戦士達にとって尻尾は自分達の民族の証の一つであり、月を見て大猿になってパワーアップをさせる重要器官であり、あの自由奔放なスーナだとて年頃になった頃には誰に言われなくとも尻尾を腰に巻いて保護しているというのに、ラディッツは-普段であれば揺れるに任せているのは変わらないのに、今は己を戒めるかの如く力を込めて尻尾を腰に巻き付けている。
例えば初めて住んでいる原住民を殲滅させることを決定したのを傍らで聞いていた時
例えば表立って殺すと後が面倒なので暗殺部隊を送り込みその準備を命じた時
そのどれも本当はしたくないと心が泣いていただろう事は長い事傍らに置いていたから分かると言うのに、押し隠して畏まりましたと淡い笑みを浮かべる顔と震える体に尻尾を巻きつける様がいじらしく・・・今もそう・・・・
きっと本当は自分の下に来たいであろうに、情深き優しいあの子はこの星で出来た大切な者達を思ってそれを拒絶しようと懸命になって・・・・愛らしい・・・
だから安心しなさい
「ラディッツ、-五百-でどうです?」
貴方が私の下に帰ってきやすいようにして差し上げますよ。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
五百でどうですか?・・・・なんだそれは?
フリーザが発した奇妙な一言に悟空を始めとした地球勢のみならず、フリーザ軍の大半も主が何を言い出すのかとポカンとした。
開戦の言葉でもなく、ましてラディッツに戻ってきなさいと説得するでもなくいきなり五百とは・・・・
だが、その言葉を聞いたザーボンとドドリアは驚き、リーキュ達は目を細めて喜ぶのを見た時、寸前まで隠していた甲斐がありましたねとフリーザは微笑んだ。
絶対に生かさない態度を崩さない裏で、ラディッツと子供達の心とやらを考えた甲斐がある様で、そして提案をされたラディッツの体はわなわなと震えていた。
何故・・・・・貴方はいつだって不意に俺の心をかき乱すのです・・・・
初めての出会い方からいつだってフリーザに振り回される自分の心・・・
地球の為、この星に住む愛する人達の為に必死に押し殺そうとしている想いを揺らさないでほしい!!!
眼を見開き震え始めたラディッツに、自分の心が届いた事にフリーザは満足げに微笑み
「覚えていたようですね~。
貴方以外の子供達が初陣で見事な功績を上げた時、私はその褒賞として-一人ずつに奴隷百人-を所有する事を認めたのを。」
ラディッツはフリーザの言葉を頭の中で反芻する。
・・・忘れもしない・・・・あの時は戦闘力がトップだったゲンインが隊長を務めて宙域を五つ荒らしまわるほどの大海軍団をものの半日で取りこぼす事無く殲滅させたという大金星を挙げた事で、当時自分の幼馴染達だから依怙贔屓されていたのだと言う噂を自分達の力で払しょくせしめた事も喜んだフリーザが、破格の褒賞を渡した。
当時軍内において専属の奴隷を所有しているのがステータスの一種であり、その奴隷たちの能力や教養が高ければ高い程良いとされていた時期があった。
それは軍の中でこの者達が最重要なのだと、荒くれ者達にも分かりやすく教え込む意味合いもあった。
その時はゲンイン達はまだ子供で奴隷がいても持て余すだろうからいつか持てばいいと保留され、其の時は金一封と大量のお菓子で渡されたのだが・・・
「ゲンイン達が貴方の為に、この星の住民を五百人奴隷にしたいと言って来たのですよ。」
「!!!・・・・あぁ・・・」
討伐を決められては殲滅しかなかったフリーザが子供達の願いを聞き届けた
「フリーザ様!あいつはきっと地球で絆を結んだ者達が全て死ぬ事になんて絶対に耐えられません!!」
「あいつ直ぐに仲良くなるし!絆されるし!!馬鹿ですからゲンインの言う通りです!!」
「・・・・フリーザ様・・・・・似たような事をバーダックおじさんにも言われたんですが・・・・どうすれば・・」
「あいつ弱虫で泣き虫絶対に治ってませんよ・・・」
地球人殲滅を視野に入れていたフリーザに、リーキュが付き添いゲンイン達が直訴した
昔、必ず叶えてもらえる褒賞の約束をゲンインが引っ張り出しお願いをされた時は苦笑した。
仕方がない・・・あの子にずっと泣かれているのは本意ではない
全てが救えなかったと一時は泣くだろうが、生き残った者達の為にとまた再び立ち上がる事だろう
バーダックとギネと同じ立ち位置で残してやっても五百位はいいだろうと、フリーザとしては破格の許しを出した
ラディッツ程でなくとも、この五人の親衛隊が可愛いから
自分の為になら、躊躇いも無く命を投げ出す可愛い子供達に少しばかり報いてやるのも悪くわないだろう
そしてその中でも一番に可愛い子に、さぁこれでいいでしょうとフリーザは笑みを深めるのを見たラディッツは苦しかった・・・
殲滅されるしか道がないから・・・・だから抗おうと決めたのに・・・・幾ばくかを助けられる道を提示されてしまった事で、ラディッツの心が激しく揺すぶられてしまった・・・・
負ければ全滅は必至だが・・・・今・・・あの方の手を取れば・・・・・俺が戻れば・・・・・弟達は・・・・
悪魔のような誘惑は確実にラディッツの決意にひびを入れたのだ