孫悟飯という老人は、見た目の通りに優しい人でありそれ以上に篤実の人であった。
自分という身内が現れなければそのまま自分の孫として生涯手元で育てる気であったと
同族の人間どころか空から未知の乗り物に乗って空から降ってきて、しかも尻尾が会えており普通の赤子ならば死んでいてもおかしくない傷がたったの一夜で治る異常な生命力を見たというのに・・・
「孫悟飯さん、本当に何と言ってお礼をすればいいのか・・・」
「ほっほっほ、困ったときは相見互うもんじゃ。偶々儂が見つけて助けたので縁が出来た、ただそれだけの事じゃよ。
良かったの、弟を見つける事が出来て。」
「はい、本当にありがとうございます。」
何の事も無い、困った時はお互い様じゃろうと笑って自分をもいたわってくれる優しい人に、もう少し甘えさせていただく。
「私は・・・私達は遠い星から事故によって飛ばされて来たのですが、失礼ですがこの星に名前はありますか?」
情報を貰えればと思い、自分達が宇宙人であることをラディッツはあっさりと告白をする。
空からカカロットが来たことはもう見られているのであらかたは目の前の老人、孫悟飯は察しているだろう。
柔らかい瞳で自分の一挙手一投足を見ている節がありながらも、決して見ている相手を不快にさせない柔らかい雰囲気は、空手の師範代のおじじ先生を思い起こさせる。
普段は優しいが、いざ組手をすれば小さな体が何倍に見も映った怖ろしくも尊敬していた人と、孫悟飯が重なる。
先程気配が感じられなかったのも何かの武術の達人だとラディッツは見てそして人柄を見込んで自分達の素性を話してみれば
「そうか・・・・広大な宇宙には人や其れに類する者達が居るのじゃな。
いやぁ~長生きはして盛るもんじゃのぅ。まさか宇宙からのお客人にお茶を振舞える日がこようとは。」
愉快な事が起こる者だと、事も無げに笑って自分達を怖れる事をしなかった。
懐がとてつもなく広い優しい人に助けられた弟は本当に運がいいと、ラディッツは心が温まる中とんでもない言葉が孫悟飯の口から飛び出した。
儂等は済んでいるこの星を地球と呼んでおる
・・・・・・・・はぁ!!!!!!
「そんな・・・・悟飯さん!!地球って!!ここは地球という星なのですか!!??地球とかいてちたまと読むとかそういう地球ですか!!??」
「いや・・・ラディッツ君が何に驚いているのか儂には分からんが、ここは地球と書いてちきゅうであっとるよ。」
「・・・・そんな・・・・」
余りの事に驚いて衝撃を受けたラディッツは、身を乗り出して悟飯に迫ろうとして危うくカカロットを落としそうになり、慌てて眠っている弟を先程寝ていた籐の籠に返しながら、今得た譲歩に頭の中をぐるぐるに掻きまわされる。
▲▲▲
地球って・・・地球ってこれじゃない!!!!!
・・・・・これじゃない感がラディッツの理性を食い破りかける
何で地球に人間と恐竜が生存し合っている!!!どうしてプテラノドンが飛んでいる半径十キロ圏内に人間が居を構えてのんびりまったりとした様子でお茶がしばける!もうどこから突っ込んでいいのか分かんないよ!!!
自分達をここに追いやりながらも、言語習得させるとか親切設計な陰謀仕掛けられた以上に訳分らんと、椅子に座りなおして頭を抱えるラディッツはいっその事と思考を突き抜けさせた!
もうここは地球という名の一大テーマパークと捉えて!ジュラシックワールドあり!中華風や洋風やそのうちに和風な人も出てきて!何なら狼人間やヴァンパイアや人魚とかファンタジー系も取り揃えてある一大アミューズメントパークであると・・・割と的を射ているところが凄いのだがそれは兎も角
「この星にはいくつの国に分かれているのですか?」
これの方が大事である。
ここがこの星で安全な国の中にあるのか、それとも戦の最中か或いはきな臭くなる国なのか。
もしも後者であったれば・・・先程は気配の無さに驚いたが落ち着いてみれば恐らくこの老人と対峙しても自分が・・・・負けたらそれは嘘になる。
恐らく戦闘力百も無い・・・精々が三十行くか行かないと見積もったラディッツは、この星の住人相手であればドンパチになった時に自分が守れるようにして恩を返せばいいと算段を付ける。
置いてもらっても自分は掘っ立て小屋を少し内装をよくした家を建てさせてもらおうと。
見回せばこの家は自分まで入ったら生活空間がきつすぎる。
図々しいだろうがカカロットをここに置かせてもらい、自分は表で自活させてもらう。
幸いカカロットはまだ乳幼児であり然程食べない。
種は・・・仕方がないので悟飯さんに先行投資として買ってもらって費えは働く場所を確保できた時に一気に変えさせてもらう。
その代りに用心棒をする。
地球というからにはどこかの国が平和であっても国同士が争わない場所ゼロと言事はあるまい。
戦闘民族サイヤ人の家業は傭兵、自分もそれに倣うかと案を纏めて提案をしようとしたその前に、ラディッツの、文字通りすべてが打ちひしがれる言葉が孫悟飯の口から放たれた
「国というがの、この星は国王様お一人を戴いた星じゃよ。昔は大小さまざまな国があって戦争とやらをしていたそうじゃが、儂の知る限りそんな国と国とに分かれて人同士が争うなどという酷い事が起こった事は無いのう。」
それは・・・・そんな事が・・・
「戦争を・・・したことが無い?」
何かに動揺したラディッツに、どうかしたのかと思いながらも悟飯はラディッツの質問にきちんと答える。
「儂のお師匠様の若かりし頃、邪悪な魔の存在が現れ人間が一致団結をして打ち払って以来、その様な非道な事をする者はおらんかったそうじゃ。」
今から数百年も前の話であり、それ以降地球は平和を謳歌し個人や犯罪は別としてその様な強大な悪が出たことも無い良い星じゃと、悟飯は明るい声でラディッツに教える。
遠くからどのような経緯で飛ばされて来たかは知らないが、この地球は平和であり良い所、だから安心していいのだと伝える為に。
だが・・・・悟飯が優しく教えてくれればくれる程に、ラディッツの心にひびが入り打ちひしがれる。
自分は・・・・
「悟飯さん、沢山の事を教えてくださりありがとうございます。」
「うん?・・・うむ・・・・」
「今度は俺達の事を、話さなければなりませんね・・・」
打ちひしがれた心で、ラディッツは覚悟を決めて自分達の事を話そうとするのを、悟飯は先程の痛ましげな気配を再び纏ってしまったラディッツを思いやり無理に話さずとも良いよと、努めて明るい声で止めようとしたが、ラディッツは頭を振ってそのまま話し出す。
自分達は遠い星の、惑星ベジータという星に住んでいたサイヤ人であることを。
特徴として戦闘に特化した戦闘民族と称して周囲の惑星からも認められた傭兵集団に近い存在であり、簡単な傷であれば一夜で治り、死にかければ死にかける程に戦闘力が跳ね上がる、まさに戦闘をする為だけに生まれたような一族であることを。
自分とカカロットに尻尾が生えているのは、満月を見ればこの家の倍ほどにもなる大猿に変化をする為のものであり、恐らく自分とカカロットが変化してしまえば理性は無くなり周辺を破壊する危険性があるので絶対に満月を見せてはいけない事も。
そしてラディッツは自分の一切を告白するつもりであった。
カカロットは兎も角、自分と両親と他のサイヤ人達とフリーザ様達がしてきた-仕事-の話を
先程悟飯が言った以上の非道を成して来たのだと・・・・言おうと、したのだが・・
「ラディッツ君・・・・そんな辛そうな顔をするのならば儂は聞こうとは思わんよ。
無理をせんでいいのじゃよ。」
「あ・・・あぁ・・・・」
言おうとしても、ラディッツは言えなかった・・・・この素晴らしい老人に、優しい人に己が成した非道を知られて蔑みの瞳を向けられるのが怖くて!!!
散々人々を殺す手伝いをしてきた輩が、何を都合のいい事をしようとしているのだと己を叱責しようとも、口からは何の意味もない呻き声が上がるだけで、遂には泣き声すら喚き散らす情けない自分・・・
何と自分は意気地のない情けなく穢らわしいものなのだとラディッツは自分に失望し絶望すらした。
だが言わなければならない、こんな素晴らしい世界に住まうこの優しい人の傍らに自分の様なものがいてはいけない事を知ってもらう為にも
こんな平和な場所に自分の様な穢れた者がいていいはずがない!!
こんな平和な惑星を!自分は・・・フリーザ軍は、フリーザ様は商売の為、お金の為だけに攻め滅ぼし星を時には住民達を売りさばいていた!!
散々人の人生を踏み躙りながらも家族と仲間とそして・・・尊敬しているフリーザ様達と同僚達と楽しく生きてきた自分・・・・大規模な遠征を組み終えた祝いに自分は何をした?
料理作って振る舞い、フリーザ様達と美味しく食べたのだ!!
大規模遠征の意味するところはたった一つしかない・・・・惑星の住民を襲い奴隷として捉えて売り払う事だ・・・・何の罪とがも無い人々を
自分は其れでもよかった、死んだらきっと自分は地獄に行くか碌な死に方をしない、それこそいつか正義のヒーローが現れて無様に殺される未来が待っている。
それでも家族も仲間もフリーザ様達もそうやって生きてきた、変えようと思っていても其れは-いつか-の話であり、現状を良しとしたのだ・・・・フリーザ様達が受ける仕事の中に、宙域海賊や魔獣や時には惑星のがんと呼ばれるような支配者たちを討伐する依頼があるのだから、自分達はお金で請け負っているに過ぎないと、己の心を欺瞞で満たして現実逃避をして血塗られた道を歩いている事から目を背けて生きていた。
其の事に後悔がない事に質が悪くなる・・・・・今もしも目の前にフリーザ様が現れこの星の住人達を奴隷にする侵略作戦を敢行しようとすれば・・・・止めようと思わない自分はきっと狂っている。
恩よりも、慕いしフリーザ様の命令を最優先とする自分・・・・あのお方の毒に侵されそれを良しとして馴染ませたのは自分で・・・・家族・同族とフリーザ様達以外がどうなってもわらっいた自分は・・・・きっと壊れている・・・・
そんな穢れた輩が、自分を案じて背中を撫でてくれている人の側にいていいはずがない・・・・
自分はいい・・・・最早罪に塗れて血塗られた果てにきっと何かしらの罰が待っているだろうから・・・・だが・・
「孫・・・悟飯さん・・・・」
「何かの、ラディッツ君・・・・」
「弟を・・・・カカロットを・・・・貴方の孫の-孫悟空-として側においていただきたいのです・・」
「うんむ?それはそのつもりじゃったから何も問題は無いがの・・・」
悟飯は泣くのをやめて顔を上げて自分を見上げるラディッツに嫌な予感を覚える。
この子供の言葉の続きを言わせてはいけないという焦りが何かを言おうとしてもうまくいかない其の隙を縫うように
「俺は弟の側を離れます。」
身を切るような痛みを堪えながら、ラディッツは苦渋の決断をする。
▲▲▲
この子は何を言っておるのじゃ?
自分の唯一となった弟を置いてどこに行こうというのか!!
孫悟飯は人生の中で一番の焦りと衝撃を受けた。
目の前の子供の歳がいくつかは分からないが、それでも十五よりも下の子がとてつもない何かを身の内に抱えて苦しむなど尋常一様なものではない。
若い頃は武の達人を目指した。
幸いにも師に恵まれ武だけが全てでないと教えられ、ギラギラとした野心は周りの楽しい事を指し示されたとあっては何やら馬鹿らしくなって、そして在野におり畑を耕し時折盗賊や恐竜の討伐をしながら近隣住民と交流しながら穏やかに年と取ることが出来た。
若い頃に出会った師もまた野心家であったればきっと道を踏み外していたかもしれない・・・・そんな事を思いながら数多の者達に出会った。
心優しいものから野心的な者、欲望にぎらついた者や本当に非道を成した醜い犯罪者にも会って、話して少しするうちにその者の為人を大体は分かるくらいにはなれたかと思っていた・・・・今日この時までは・・・
目の前で身も世も無く悶え苦しみながら泣くラディッツという子供は、邪気がまるでないのに何故か・・ほのかにだが血の匂いが漏れ出ている・・・・こんな子供から感じられる筈も無い事なのに・・・・儂が今までであってきた者達の誰よりも濃い血の匂いがふらりと・・・あり得ない・・・
弟を抱き上げ安堵した姿に、お茶を飲んだ時の柔らかい笑顔の時には確かに感じられなかった血の匂いが・・・・
ラディッツの矛盾を体現したような者に出会った事のない悟飯は戸惑いながらも、それでもラディッツの背中をゆっくりとさすっている。
こうでもしなければ己の悲痛な叫びに心を壊されラディッツが砕けそうなのが怖ろしくて・・・
そんなラディッツが、先程魂の叫びをあげるような誓いを己自身で反故にしようとしている。
一体どういう訳だと聞く前に、ラディッツの口からその答えが紡がれる。
「安心してくださいと言ってもおかしい事だとは分かっています。
俺は弟を捨てる気は毛頭ありません・・・・それでも-今の俺-が、貴方とカカロットの側にはいられないのです・・・・いては・・・いけないのです・・・」
▲▲▲
自分で納得をして穢れた道を行く分にはまだいい、だが弟はまだ何もしていない・・文字通り何も悪事を行っていないのだ!
他所の星を攻めいる事も、奴隷として捉えて商人達に渡す事も何もしていない・・
綺麗なままで生きて行ける弟の邪魔を、兄である俺がしていいはずがない・・・
「悟飯さん・・・・俺は直ぐに仕事を探しに行きます。
ここから離れたところには村があるとか・・・・俺の様な子供でも力仕事をさせてもらえる場所はありますか?」
無ければ、荒野で見た恐竜を捌いて肉にして売り歩くなどをしてもいいのだが・・
「・・・許可を得れば土建屋などは力仕事をするものを歓迎するが・・」
自分が言っている事に戸惑いながらも答えてくれる良い人・・・弟を頼むにこれ以上の人はきっといない・・・
「何年かかってでも、俺はこの地で-きちんと-生きて行けるようになります。」
他者を食い物にしたお金ではないもので弟を守るのだと再度誓えるような者にならなければ、きっと弟もいつか・・・それ以前に、毒に侵され世間一般の常識も良識も無くなった俺の側にいては、カカロットも歪んでしまう・・・・それだけは決して許せない・・・
だから
「いつかきっと弟に会いに来ます。
お前の兄だと、恥を感じる事無く言える者になって。」
甘えていることは承知しています、都合がいい事を言っている事は分かっていますがどうかこの願いをお聞き届けくださりますよう、伏して願います
ラディッツは己の言った言葉の通り、椅子から降りて床に伏して孫悟飯に伏して願う
穢れた己がせめて今生で弟と生きていても許されるほどには真っ当になるまで離れる事を
そして
己の誓いは必ず果たすから許して欲しいと誓った両親に心の中で侘びながら
儂は・・・・この子供の決意に対して何と答えればよいのですか・・・・
貴方なればどう受け止めて上げるのですか・・・・武天老師様・・・・どうか儂に知恵をお与えを
この可哀そうな子等が離れ離れにならない為の、決意を反意させることが出来るお知恵をどうか・・