前世でも、今生でもラディッツは子供であった
己が仕出かしてしまった責任の取り方を知らない子供であった。
自分の罪を胸に仕舞い、償う道を歩いていくのだと知るには人生で得るには何もかもの
経験が少なく、ましてなまじ正義感がある故に彼は己の罪の重さが怖くなった。
其れでは罪の償いにはならないと、ラディッツの-全て-を知る者が見たら叱責する
彼が己を穢れていると言うのであれば、彼が愛した人達全てを穢している事を指し示して。
彼を守らんと勝ち目の少ない・・・・全くない戦いに身を投じた父と母とその仲間達の想いに泥を塗っている事にすら気が付けない童であると・・・
だがここにはそんな都合のいい者はいない。
いないがラディッツなど足元にも及ばない人生経験を得て様々な事を学んだ孫悟飯がいた事が、ラディッツにとっての僥倖であったと言える。
悟飯は何かに怯えるように震えながらひれ伏すラディッツを、そっと持ち上げ横抱きにして共に椅子に座りなおし、驚いたラディッツは顔を上げて悟飯見た。
自分の勝手な想いの言葉を叱るでもなく、先ほど見た優しい笑みを浮かべる悟飯の顔にラディッツが戸惑う中、柔らかい声が落ちてきた。
「ラディッツ君、君の気持は分かった。」
この子供は確かに何かをしてしまったのかもしれない。
それでも、だからと言ってこの子供・ラディッツが己に課そうとしている事は間違っている。
「じゃがのう、-悟空-に折角兄がいると言うのに儂と二人っきりにして寂しい想いをさせるのはまた違うと、儂は思うのじゃが。」
自分が付けた悟空と名を出す事で、元よりカカロットとラディッツが呼ぶ赤子を孫にするという意思を再び示す。
その上で提案をする。
自分の言葉に涙を流して頭を振るラディッツは
「別れるのではなく、世界を見てきなさい。」
「せ・・・かい?」
「そうじゃ世界を見に行くのじゃ。世界は広大で果てしなく、-様々な者-がいる。
善良な者から訳ありな者、様々な事情を抱えてもそれでも前を向いて生きようとしている人々が大勢居る。」
「前向きに・・・・?」
このご老人は何を言っているのだと、ラディッツは分からずにきょとんとする。
自分はまさに、悟飯老の言う通りきちんと弟と暮らせるように外に出ると言っているのに、違う事を言われている気がして訳が分からずに混乱をする。
ラディッツが自分で言った事と、悟飯が言った言葉には天と地との差がある事に気が付けずに
ラディッツが言った事はいわば逃げにも等しい。
自分の罪を知られるのが怖くて、それを糊塗する為にしようとしている事に対して悟飯が言った事は
「君が何か途轍もない事をしてしまったのかもしれない。
それでも、其の事を-償いをする事-を許されても儂は良いと思っておる。」
「!!・・・それは・・・・だって!!」
自分がしてしまった全てを、償いきる事なんてできやしない・・・自分は・・・だって・・・
「罪を償いつつ、君自身が己の人生を謳歌しまっとうする事を、君が許してやれんで誰が許してやれるというのじゃ。」
そんな都合のいい事を・・・・許される筈がない・・・
冷え込んでいくラディッツの心に、悟飯は一条の光を差し込ませる。
「君はとても愛情深いように見えるがご両親が君を愛していたのかね?」
「はい・・・」
「そうか、ご両親はここにはおられん。君のジジィとなる儂が代わりに言わせてもらおうかのう。」
「・・・・悟飯・・・さん?」
このご老人は本当に何を言っているのだろう?
カカロットを孫として育てると言ってくれたが・・・・まさか!
「儂は悟空のジジィになるのじゃ。ならば君のジジィになるという事でもあるのじゃよ。」
「そんな・・・それは・・・」
口をはくはくさせて何かを言おうとするラディッツに、悟飯は言葉を贈る
「君が自分の事を許せず、世間が許せんでもラディッツと悟空のジジィである儂が許す。」
「あ・・・・・」
「君はきっといい子なのじゃろう。
何かの縁で昏い道を行ってしまったのならば、明るい道に戻って-笑って-生きる事を祖父である儂、孫悟飯が応援する。
君は一人ではない、弟悟空と儂がいる。
ご両親だとて、君と悟空が不幸になる事を望むはずがないと儂は思うのじゃがどうじゃろう?」
三日という短い時間で広い地球の中にて弟を探し当てる程の愛情深い君を育てたご両親も、きっと君と悟空の幸せを願うはずだから
「あ・・・」
「うむ」
「あ・・・うぁ・・・・ああああああああ!!!ああああああああ!!!」
親父!!母さん!!!ごめんなさい!ごめんなさい!!
悟飯の言葉に、ラディッツは今一度打ちのめされる。
自分がしようとした事は、愛情をもって育ててくれた父と母を否定する事にほかならず、そんな酷い事をする自分が弟を守ろうだなんてそれこそお門違いもいいところではないか
自分の罪から逃げようとした事を、優しくそして許しまで与えて教えてくれた悟飯の服を握りしめながら、この数日間の重すぎる思いを泣きながら吐き出す。
怖かった・・・一年という超長距離に弟とたった二人で飛ばされた挙句に惑星ベジータと大勢の同族達が滅んだ中で両親の行方も知れなくなってしまった事が・・・悲しくて痛くてそして怖くて・・・寄る辺なくなった自分は弟を守ると言ったが本当の意味でどう守って良いのか分からずに・・・弟からももしかしたら逃げようとしたのかもしれない弱い自分を、優しく諭してくれる偉大な人の服を握りしめながらラディッツは泣いて泣き縋ってそして・・・・
声が聞こえる
いつも、どんな時でも自信たっぷりな父と、自分達を愛情深く育ててくれた母の声が
なにうじうじメソメソしたんだよクソガキ、お前は弱いが弱虫でもあったのか?
うんごめん親父、俺弱虫になるところだった
ラディッツ、あんたとカカロットを私とバーダックはずっと愛してるわよ!その事忘れたら承知しないんだから!!
母さんもごめんなさい、俺も親父と母さんの事大好きだよ
もう・・・間違えない・・・・親父、母さん・・・・俺はこの地球で生きていく。
俺自身が犯してしまった罪はこれからたくさんの人を助ける事で償いながら、ちゃんとカカロットと一緒に笑って生きてく。
自分と弟に愛情を注いでくれた両親の為にも、そして出会って一時間もしない自分を優しく抱きしめてくれる-祖父-の為にも。
「悟飯・・・・お爺様・・・・」
「ん?どうしたラディッツや。」
「俺・・・・ちゃんと生きてく・・・・弟とこの地球で笑って生きていきたい・・」
「そうか、そうしてくれるかのぉ。」
逃げるのではない、罪の重さに押しつぶされるままに惰性で生きていくのでもない。
弟に寂しい想いをさせる兄なんて兄失格である。
「だから、世界を見てくる。
お爺様が言ってくれた通り広い世界に住む人々に出会って、もしも困っている事がある人がいれば助けられる人になれる様に。」
「うむ・・・うむ・・・」
自分をお爺様と呼んでくれたラディッツを、悟飯は愛おし気に抱きしめる。
必死な自分の言葉が、この後悔に押しつぶされそうになっていた子供・・・いや今はもう悟空と同じ孫になったラディッツに届いてくれた事が嬉しくて。
ラディッツが優しく諭してくれたと感じた言葉の全てに、悟飯は己の半生で得た全ての知恵を総動員して、このままでは誰もが不幸になるようん道を知らずに突き進もうとするラディッツを必死に押し留めていたのだ。
この子供ならば一度約した事を破るまいと、全ての事に疲れ切って寝息を立て始めているラディッツをそっと持ち上げ自分のベットに横たえる。
最期まで自分の服を離そうとしない小さな手を緩めて布団を掛けながらこれからの事を思案する。
「さて・・・男の子じゃから沢山食べるじゃろうな・・・・」
幸い悟空もよく眠っている
-孫二人-を食べさせるのにまだまだ歳をくってはおれんわいなぁと、笑みを浮かべながら悟飯は籠を背負って村に買い出しに行く。
武天老師様もかつて弟子達の面倒を見ていると歳とっている暇もないわいと言って笑っておられた気持ちが少しは分かりましたぞ。
さて、夕飯は何にするかのぅ~