エイジ736 惑星ベジータ
惑星ベジータ内のフリーザ軍の施設の中を、面白くなさそうな一人の禿げたサイヤ人の男がのし歩いている。
「・・・・クソガキどもが・・・・知った風な口を叩きやがって。」
禿げた頭に青筋を立てながら苛立ちを口にしているサイヤ人はナッパという。
二年前に年端も行かない戦闘力たった二千にも満たない同族の小童に戦闘スーツと肋骨にひびを入れられ、あまつその小童の父親だとかいう見覚えのある下級戦士の男にボコボコにされ、以来同族それも同じ上級戦士からは情けない奴と目されハブられ、フリーザ軍の特に文官や小童としょっちゅう口をきいている武官達からは白眼視され、同族の場にも軍にも身の置き所がないという情けない目に遭わされている。
そこに来て、近頃は最前線にいた自分が訓練教官に回された。
フリーザ軍の武官としては勿論の事、戦闘民族サイヤ人は戦ってなんぼである。
より強い敵をぶちのめす、それ以外に価値なぞ無いという気風が確かに戦闘民族サイヤ人にはある、いや、あった筈なのだ。
然るに自分が面倒を見なければならなくなった六・七人のガキどもは、少し手荒にすれば自分一人ではなく徒党を平然と組んで向かってくる始末。
「お前らそれでも戦闘民族サイヤ人か!!!悔しければ腕磨いて俺を殺しに来る気概をもったらどうだ!!!!」
確かに自分達も徒党を組んで星を制圧ないし皆殺しにするが、それでも戦士同士の戦いは一対一が基本であり、心ゆくまで殺し合いを楽しむのがサイヤ人というものだとナッパは疑わずに生きていたのを
「仲間がやられそうなのに黙って見ている訳ないだろう!!!」
「そうよ!一人で駄目でも力を合わせればきっと勝てるわ!」
「体力回復するまで下がってろ!!円陣組んで教官の攻撃防ぐぞ!!!」
訓練にても実戦形式を、弱った仲間をおとりにしてでも自分を倒す機会を探らせることを身につけさせる。
同族だからと言う甘い意識なぞ幻想であることを徹底的に教え込む。
最優先事項は自分が生き延びつつ相手を倒す狡猾さを、そして戦いを純粋に楽しむ心を呼び起こしつつ、死にかけさて戦闘力を跳ねあがらせる。
それがナッパが知る実践訓練であるはずなのに
「お前等絶対に陣崩すなよ!!スーナ!攻撃まだ防げるか!!!」
「こんなの余裕!ガジャ!!防ぐ場所固くして!!!」
「分かってるよ!大勢で戦って-敵のボス-が弱るのを待つっていう-ラディッツ-の言葉忘れてねぇよ!!!」
ナッパの(一応きちんと手加減したうえでの)猛攻に耐えているのは、ラディッツのファイティングポーズ及びされている特戦隊の皆さんカッコいいよね・憧れるよねの同好の士一同であった。
腕や脚で、そして拳で一人、二人が防いでいる間に空いた背中や箇所に撃ち込まれる気功弾が効かないまでも煩わしい!
苛立つ教官役は益々暴力的になり一線を越えかけ殺しかけるが、子供達は必死に耐え抜き互いを庇い合う。
空中に活路を見い出し、あるいは地に這いながらも教官達の隙を狙って喰いつかんとする。
近頃はラディッツが特戦隊の皆さんから、集団での戦い方の基礎を仕入れて来ては、年が近くて同好の士達に-集団戦闘-の仕方をそっくりそのまま教えてくれるのだ。
サイヤ人も徒党は組むが戦いになれば個人プレーが近場で戦っているだけであり、連携も何もほとんどない。
殺れそうだから併せて気功弾を当てただとか、後ろから貫いたからそういう類であり、同族が死にかけても気にもしないのが当たり前なのを、ラディッツに感化され始めた子供達はその教えが鼻につき出す。
ラディッツはいつも楽しそうに集団戦闘の話をしてくれている。
仲間を助け合って難局を潜り抜けて一緒に酒を飲むような大人になろうぜと言うあの言葉は、間違っても味方を見捨ててでも敵を殺せというサイヤ人の大人達の・・・あの何とも言えない気持ちの悪さがこみ上げてくるような表情とは全く違う。
自分達はお金をもらって戦う傭兵であっても、仲間を見捨てても飯が美味いという奴だけにはなりたくないというラディッツの言葉の方が胸があったかくなる
そう、サイヤ人の教官は近頃は自分達にきつく辺り、メディカルポットに入らなければならない仲間が増え始め、それでも意識があれば執拗に攻撃をされる。
そして死にかけてメディカルポットで治療を受ければ戦闘力は確かに上がるが
俺のお陰でまた強くなったな、感謝しろよという言葉に、説明のつかないおぞ気が奔る。
大人はそれを虫唾が奔ると言って感情に対処するのだろうが、戦いと軍内の規律だけを教わる子供が知る言葉ではないがそれでも
嫌悪感が募るは当然の話
そして同族の大人がつらく当たるのに対し、メディカルポットで治療してくれる医療班の人や、フリーザ軍の教官達は近頃お前達の教官はやりすぎていると憤慨してくれる。
そして優しい言葉をかけて労わってくれる。
負傷者が多かった後だと知れば、座学の時間になって-集団戦闘-の利点から、不利になる時がある事を教えてくれる。
「いいか、助け合うにしても個々の力が弱ければ最後には必ず死ぬ。
お前達に俺は・・・フリーザ軍として死んでほしくない。
いいな、力をつけて戦い抜け。勝ち抜け。それで飯を食って育ってガキをこさえて今のお前達みたいにフリーザ軍や仲間を支えられるようにしろ。」
その言葉の裏に、死ねば手駒が減るから死ぬなという思惑も知らず、ましてや永久的に自分達に逆らわぬ集団を、一民族を長期的に作り上げようというフリーザの思惑も知らず、子供達は甘い言葉にからめとられるのを、サイヤ人の最古参達は苦々しく思う。
そもそもが、サイヤ人の教官の訓練が過酷なのはフリーザ直々の命であり、命令通りにしているだけなのに、同じフリーザ軍の教官が自分達の訓練を非道だと子供達相手に話している事が、訓練を担当しているサイヤ人達の心にフリーザと軍に対する元々あった不満や反発心を増幅させつつある。
そしてナッパの様に、-ラディッツ-個人が絡んだだけでも苦々しく思う度合いが強くなる輩がちらほらと出てきている。
同族の癖に、フリーザ軍に身も心も売って尻尾を振っている最低なサイヤ人の出来損ない。
それが古いサイヤ人のラディッツへの評価であり、フリーザ軍のいないところで公然と口にされている言葉を、子供達は直接は知らずとも慕うラディッツを不愉快で見ている大人達に対し、子供達の心は益々離れる。
訓練の時でも日常の場面であっても、ラディッツと仲の良い者達程-古いサイヤ人-に対して敬意を持つ事は無くなりつつある。
廊下ですれ違えば頭を下げるが、フリーザ軍の顔見知りの人達に対するような人懐っこい笑みを浮かべる事言うまでも無く、挨拶すら態度だけで済まして無言である事が増えつつあり、元来同族どころか他者への情がどこの星の者達よりも薄いサイヤ人がそんな状態にあって子供達を思う心が生まれようはずもなく、-ラディッツ-という起爆剤を織り込んだ古いサイヤ人と新しく生まれつつある次世代のサイヤ人との間を、フリーザの意図した通り分断されつつある日
「・・・・・親父・・・・・俺なんもしてねぇよ・・・」
「・・・・・そうか・・」
「なんもしてねぇんだよ・・」
「そうか・・・」
惑星ベジータの王族と選ばれた上級戦士しか入れない一角に、一目で下級戦士と分かるボロボロに使い込まれた戦闘スーツを着た男と、其の背丈の漸く半分行った長髪の文官が着るタイプの肌を全て包み込んだスーツの上に、簡易的な戦闘スーツを着て泣きべそをかきそうな男児が歩いているのを、王族に仕える侍従・侍女たちがあちこちでひそひそと話しながら見ている。
のしのしと、不機嫌そうに歩くバーダックの後ろを、親父に置いて行かれたくないとラディッツが懸命に歩いている様は滑稽かもしれない。
どう考えても薄汚れた下級戦士の男からして場違いだという言葉は当然二人の耳に入るが、聞こえてもどうとも思わない父と違い、ラディッツはその通り!俺場違いですと叫びそうになるのをぐっとこらえる。
俺が何したってんだよ、ラディッツは心の中で泣きながら、謁見の間とやらでベジータ王に会うように、何故かナナバ文官長から突然昨日命じられたラディッツの心の中は疑問符だらけになった。
何で俺がそんな偉い人に急に会う事になったんですか!会う理由説明してくださいと言っても、けんもほろろに命令だの一点張りで言いつけられ、丁度父親バーダックも仕事から帰ってきているので一緒に行くように命令書まで出されたのだから仕方がない・・・・
「・・・・親父、これ・・・・」
「あん!!??・・・・なんだこれ?何の冗談だ?面白くもなんともないぞガキ。」
案の定ナナバの命令書を帰宅早々出会った父に渡せば、不機嫌度マックスになった。
それもマジ殺気付きで
それでもラディッツは頑張った。
自分はこの命令書を果たす事で給料をもらっている身で、父バーダックも母ギネも、言ってしまえば働くサイヤ人は皆そうなっているのだから仕事しようよと。
「・・・・ち!お前も一端の口叩くようになったな・・・分かったよ!付き添うだけだぞ。」
「うん・・・・ありがとう親父・・」
嫌がっても仕事とはいえ自分の行動を縛られるのを嫌う父が曲がってくれた事に、ラディッツがお礼を言うのをバーダックはふんと鼻を鳴らして居間の椅子にドカリと座って酒を飲むのを、ラディッツはなんだか嬉しくなった昨日に戻りたいと、王宮特有の威圧に負けそうなラディッツは心底願う。
うぅぅぅ・・・場違い感半端ないよ。
人の視線が痛いよ。
俺なんで-ベジータ王-に呼ばれたんだと泣きが入ったが・・・・
「ほッほっほ、やっと噂の-らしくないサイヤ人-の坊やに会えましたね。」
「ッ!!」
「おっと、貴方の噂も聞いてますよ-ハネッかえり-のバーダックさん。
聞くところによると貴方は上官の制止を聞かずに戦場に真っ先に飛び込んで手柄を上げる代わりに死にかけて、遂には下級戦士とは思えない戦闘力を身につけたとか。」
我が軍の層が益々厚くなって何よりですと、惑星ベジータの王であるベジータ王を下座の席に座らせ中央にいる人物を見た時、バーダックは一流戦士としての心得、即ち表情を相手に読ませないという事を崩してしまい、フリーザを愉しませてしまった事に腹の底が煮えくりかえりそうになるのを堪える。
バーダックからすれば戦闘できれば何でもいいと感じるが、常日頃から感じる自分達への侮蔑を隠そうともしないフリーザ軍とその軍のトップであるフリーザを嫌い抜いている。
自分達のような下級の底辺が王に呼ばれるのはおかしいと思っていたが、更にフリーザがいる事でそのおかしさに輪をかける。
そしてフリーザが自分・・・というよりも横で同族の王どころか軍のトップであり圧倒的強さを誇る絶対の王者の突如の出現に固まっている息子を、興味深げに見ているのが気に食わず、警戒心が起こる。
フリーザの左右には側近であるドドリアとザーボンがおり、その二人も愉快気にこの状況とそして矢張りフリーザと同じようにラディッツを興味深げに見ている。
そんな不可解な状況の中、己の縄張りの中であるはずなのに、完全に添え物どころか空気扱いされているベジータ王は、内心でバーダック同様怒り狂っている。
星の地上げのビジネスで手を結んだはずが、フリーザと特戦隊を始めとした戦力的な彼我の差によって、今や家臣同然の扱いを受けつつある事を自尊心が高いベジータ王が許せる筈も無く、王としても独立心の強い戦闘民族サイヤ人の男としても許せない、許せる訳がない!!
そんな状況の中、ラディッツは周りの怒気も威圧も観察されているという事実すらもどうでもよい程に、見た事も無い一人の人物を見続けている。
ベジータ王は知っている。
よく式典で何か・・・退屈なので無視している演説を言っているので嫌でも覚える。
ドドリアとザーボンも書類を渡しに行く事がごく稀にあるので知っている。
だがその中央に、浮いている小型の乗り物に乗っている人物は知らない。
知らないが、圧倒的な何かを感じ、そして・・・心臓が高鳴った
この人、圧倒的に強くとも、頭脳を駆使して戦いを挑み、負けも潔く認める孤高の美しさを持つウルトラマンに出てきた初代のメフィラス星人みたいだ。
強くてそして・・・・怖いのに目が離せない・・・挨拶の一つも言わなければいけない状況なのに、口の中も喉もカラカラで言えなくなって・・・
それはまるで恋をした少年の様な憧憬の眼差しを、ラディッツはフリーザに向け、フリーザはラディッツの想いに気が付いたのか益々笑みを深めてそして見染めた。
これはいい、分断の起爆剤となりつつ者としてもそして-ペット-としての価値も、ラディッツは見出されてしまった瞬間であり、浅からぬ因縁が、ラディッツとフリーザの間に生まれた瞬間であり
誰かが知る-原作-とこの世界の乖離が加速した瞬間であった
それは物語としても、そして戦闘民族サイヤ人の間としても