「手前のせいで俺まで不安になってきちまったじゃねえか!!どうしてくれんだよクソガキが!!」
「俺は母さんと生まれてくる子が心配だっただけだぞ!!てか今頃になって心配し始めるなんてそっちの方が驚きだぞ馬鹿親父!!!」
・・・・・・
「他の出産中の者がいるのに騒がないの二人共。叩きだされたいのかいバーダック、ラディッツも。」
怒れるバーダック相手に、サイヤ人であるのに白衣を着た細目の狐面をした男が、ゆったりとしながら叱責してくるのを、バーダックは苛立ちぶつける相手見つけたとばかりに噛みつく。
「はん!俺をどうこうするって?やって見ろよ!その瞬間手前ミンチに・・・」
「馬鹿か親父!!すみませんトンミさん・・・・母さんの出産予定よりも大分遅れてるのが心配で・・・」
「け・・・・藪が!見立て違いか取り上げてるやつが下手なのかどっちだ?」
「・・・・・ラディッツ・・・君よくこんな口の悪すぎる親持ってぐれなかったね。ギネさんのお陰か・・・・バラガキで悪たれで手の付けられなかったどうしようもない君が、一丁前に親父してると思うと感慨深いよバーダック。」
「うるせぇ!!!馬鹿言ってねぇでギネとガキの容態教えろ藪!!」
「ちょ親父!!!!」
・・・・・・バーダックも変われば変わるもんだ・・・・ガキの頃から悪たれで大人さえ避けて通るような男が、産まれようとしている自分の子が予定を過ぎても生まれずに、お産に苦しむ妻を心配する。
実にサイヤ人らしくない男になった事に、サイヤ人でありながらフリーザ軍の軍事力や戦闘特化技術に目を向けずに医療に惹かれたラディッツ同様のサイヤ人の変わり種、ミントは出産で九つになる息子と共に右往左往している姿に、明日は惑星ベジータ滅亡かとか・・・・・こいつ未来予知してやがるのかと言いたいが違う。
それほどまでに目の前で右往左往している男の代わり様に、-バーダックの腐れ縁-であるトンミは目を細めて在りし日を思う
▲▲▲
腹が減って死にそうで、飢え死にしない為にサイヤ人のガキどもは毎日どう食って生き延びるかを考える者が溢れていた。
戦闘民族サイヤ人
その名の通り戦闘が好きで殺し合いで勝つ事が何よりも愉快でたまらなく、勝利の後の酒を飲む事が何よりも大事である・・・・・イカレタ民族ともいえる。
だが勝つ者がいるという事は負けると言うものがいるのは必定であり、サイヤ人の負けるというのは逃亡して生き延びるか死ぬかのどちらかしかない。
間違っても見逃してもらえることなぞ無い。
そんな弱肉強食を体現した民族の敗者側のガキの行く末なぞ気にも留める奇特な者なぞ存在しなかった。
故に、戦闘で両親を失い住むところは別の強者に奪われ追い出された者は、惨めったらしく死ぬか抗って生き延びようとして殺されるか生き延びるかの三つしかない中、敗者側のガキでありながらも大人も避けて通るような悪童が頭角を現す。
ゴミ屑捨て場から拾ったような少しばかり子供には大きい汚れ切った服を身に着けながらも、目には卑屈な色は一切なく、俺が強者だとばかりにのし歩く姿に下級戦士達は目を合わせないようともしない有様を誰も笑わない。
悪童・バーダックはそれほどまでにサイヤ人の下層から怖れられている。
齢十にも満たないガキ相手にだ
悪童が頭角を現し始めたのは、二年前に下層の吹き溜まりに現れたその日の内であった。
ふらりと現れた痩せながらも目だけが異様にギラリと光らせていたその姿に、生意気だと軽くからもうとした下級戦士崩れの男のどてっぱらを、にやつきながら手刀で刺し貫いた時から始まっていた。
下級戦士崩れは、新人が来れば下層スラムの洗礼という名の暴力を施し上下関係をきっちりと仕込んで新人が舐めた真似をする気を起こす心を瞬時にへし折る役目をスラムの上役から任されている。
其れなりの強さを有しているからこそ与えられた役目を負った男を、やせっぽっちのガキが瞬殺、それも嗤いながら殺した異常事態にスラム内は静寂が降り注ぐのを興味が失せた悪童はくだらないと鼻を鳴らしてスラムの奥に姿を消し、数分後スラムの上役とその家族と取り巻き達を皆殺しにして家を乗っ取った。
「俺はバーダック、俺に余計な事しなけりゃ今まで通り好きに生きてろ。お前等の事なぞ俺の知った事じゃねぇ。」
スラムの上役を殺した者が其のスラムの実質的支配者になるという掟は、一人の悪童バーダックによって意味消失され、スラムは威張り散らしながらも他のスラムの侵攻からスラムを守る者はいなくなり、無秩序となり崩壊した。
その中にあってもバーダックだけは、寄ってくる馬鹿を小さな体で大の大人達を殺し続け、特に多対一の戦いを好んで同士討ちになる状況を誘発し、混乱した敵のどてっぱらを貫く時、にやつく姿はまさしく悪鬼。
戦闘民族サイヤ人を体現したような申し子とも言える悪童に、ヒョイと近づく馬鹿もいた
「ねぇ、またご飯無いからちょうだいよ~。」
「・・・・また手前か、頭いかれてんのか?
何で俺が手前に食いもんやんなきゃなんねぇんだよ。」
「ふっふ、近々またドンパチしたい馬鹿の話いらない?」
「は!情報貰って餌が欲しいってか?」
「餌でもなんでもいいから食べ物御くれよバーダック。」
「・・・・話聞いてから考えてやる。」
「そう来なくっちゃ!ねぇそれとさ、そこそこ使える奴等の話もいらないかい?
ドンパチする馬鹿追い出すにしても返り討ちに皆殺しにするにしてもそろそろ一人だときついんじゃない?」
「弱い奴等は群れたがんだな~。」
スラムが攻め滅ぼされ他のスラムに組み込まれながらも、バーダックはみかじめ料だの面倒な物を取り立てられたことはなく(しようとすれば殺されるし・・)大量の獲物をとってきても上前跳ねられることも無く下層スラム内での豪勢な家に(普通に住める家程度)普通に住んでいるバーダックを避ける者がいる中、情報上げるからご飯ちょうだいという・・・・・こいつ本当にサイヤ人かと疑われるような変人が現れた。
名はトンミというサイヤ人の中では少し変わった名であるが、見た目は糸目の狐面以外はこれと言ってみるところも無いガキであった。
だが、持ってくる情報は鮮度が新鮮であった。
誰がこのスラムを再び狙ってドンパチしに押しかけるのか、食料を積んだ商人がいつ通るのかなど、バーダックが生き延びるための有益情報を持ってくるのでその度にバーダックは-餌-を与えた。
最初はその情報に偽りがないか事が済んでから与えていたが、内容に偽りないし誤差も少ないので情報を持ってくるたびに餌をやる程にバーダックはトンミの持ってくる情報をそこそこ信用するくらいにはなったのを、トンミは投げられた肉を受け取りながらとっく理と目の前に座っている悪童を見る。
数十と少なくない数の大人達が攻めに来ると言っても欠伸をしている暢気な悪童は、きっと悪辣な手を使ってまたいきのびるんだろうな~としみじみ思う。
そちらの方が、自分も食っていけるからその方が助かる。
「たくさん死ぬね~。」
これまた暢気に言い放つトンミの言葉こそ、バーダックからすれば暢気に聞こえる。
ドンパチに巻き込まれるつもりは端から無く、高みの見物決め込むつもりの目の前の狐のガキにイラっとするのを通り越してあきれ果てて呟く。
自殺にしに来る奴等が悪いんだろ
自身が敗れる事を一切考慮しない傲慢な程の自信に、トンミこそ呆れたが結果は二人の予想通り。
多勢に無勢だと高を括っていたならず者たちは、バーダックに路地裏に誘い込まれて気功弾に半分が爆殺された。
まさか十を越したばかりのガキが、気功弾を使うとは考えてもいなかった能天気野郎どもが狼狽えるのを、月明かりを頼りにバーダックは獲物を食らう狼よろしく、獲物のどてっぱらに手刀を貫く。
偉そうにしながらも鍛えたであろう体を貫かれた時、間抜けな顔を晒す馬鹿どもを思うだけで笑みが零れてしまうのはしょうがないかと愉しみながら
悪童はやがて大人になり、その間サイヤ人の下級戦士として公的に認められる程の実力を兼ね備える。
王宮の軍に入り込みバーダックの強さに惹かれた者達が自然集まり、バーダックも情が薄いとはいえども悪い気はしなかった。
どこぞの惑星の代理戦争だとか、金持ちが一つの惑星欲しさに住民皆殺しを依頼してきてもバーダックは上辺の事なぞ気にもせず、その戦場に強者がいて戦いが楽しめるかだけが目的であり
「はぁ~食った食った!バーダック!!お前まだ食うのかよ!」
「うるせぇな・・・・あの野郎死に際に最後っ屁で自爆かけてくるから振りほどくのに手間かけやがって・・・」
「油断したお前が悪ぃだろう。」
仲間とそれなりに楽しく過ごす余裕も育っていた。
群れは嫌いだとガキの頃は思っていたが、どでかい戦場には気心の知れた仲間と暴れまわる楽しさというのもあるのを理解した辺りが大人となった証(?)
暴れまわられた方は堪ったものではないが、命令違反すれすれの行為もバーダックの戦績で黙らせ上官の手を焼き、ある程度好き勝手している傍らに一人の女サイヤ人の姿が目に付くようになった。
戦場で強い女がいるというので見にいったトンミが、この娘いると楽しそうだから連れてきちゃったと連れ帰って来たと言われた時、バーダックは呆れ果て連れてこられたギネという娘はえへへと照れ笑いをしたのがバーダック仲間からすれば印象深かった。
情報だけ持ってきてはするりと消えるトンミが、珍しく他人を連れてきた事もだが、トンミが連れてきた娘を追い出す事無く役に立つならいて良いというバーダックにも驚いた。
自分達はいて良いと言われているのではなく、腕っぷしが強いのはさることながら、大規模戦場であっても仲間内に死人を出さない戦い方をしてくれる頭の切れる強いリーダーを打算付きながらも慕う心は其れなりにあり、離れようとしない事に呆れられて現状纏まったが、ギネという娘はトンミが連れてきたという一点だけでバーダックの側にいる事を良しとされた唯一であり
「ギネに俺のガキが出来たからそのまま番になる。」
ギネが来て数年もしない内にそんな事を宣ったバーダックにはさらに驚かされた。
こいつ絶対に仲間内で唯一の独身男で通すだろうと何度も仲間内で酒の肴の俎上に上がっていたのがひっくり返されたのだから無理もない。
色恋とは無縁だろうというバーダックを射止めたギネにはマジで尊敬の念が湧いたマート達は、その日はありったけの給料をはたき合って飲めや歌えやのどんちゃん騒ぎするのを、飯も酒も良いが俺がギネと番になった事の何が嬉しんだこいつらと見ていたが、隣に座っているギネが嬉しそうにしている姿にバーダックの胸は鼓動を強く打った・・・・-種-が蒔かれた瞬間とこれが言えるだろうか
そしてサイヤ人にとって、フリーザ軍にとって・・・・・この世界全体の命運を変えると言っても過言でない一人の男児が戦闘力千という高数値を叩きだしながら生まれ出て、元来愛情深いギネはもとより、情の薄かったバーダックの心を瞬く間に変えていった。
親父!家に帰った時はただいまって言ってくれよ!そうじゃないとお帰りなさいって言えないじゃないかよ!
・・・言ってそれが何だって言うんだよクソガキ
へ?自分の家に帰ってくるんだからただいまだろ?
母さん!親父!!文官になっても俺ちゃんと強くなるよ!いつか親父を超えて俺が守ってやるぜ!
・・・・・お前みたいに弱っちいクソガキが何言ってんだ?
う・・・毎日訓練欠かさずに強くなってやる!見てろよ馬鹿親父!!
親父!!
・・・・・うるせぇぞクソガキ・・・
やかましくよくしゃべるクソガキはよく笑い、どんな話も楽しそうに話すのを聞きながら食べる飯は、ギネの飯を更に美味くしていった。
何があってどうしてと、一日に起きた事を笑って話すクソガキ・・・俺を超えて強く成って守るんだと、夢を見ている馬鹿なガキは・・・
「バーダック最近変わったね。」
「・・・・そうか?」
「そうよ、さっきだって何にも話さずにご飯をかきこんでたあの子に、バーダックから今日何かあったかって言ってたじゃないの。」
「・・・・・・たんにフリーザ軍と周辺情報欲しいだけだ。」
そのつもり・・・だったのに・・
「へぇ~マトマやスーナ達とのファイティングポーズ研究も重要情報なのかい?」
「・・・・勝手にあいつがぺちゃくちゃ話して来ただけだろう。」
秘かに楽しい時間だとしていたのをギネに見抜かれたのが釈然としない。
それでもクソガキが嬉しそうにくそったれのフリーザの事を話す方が万倍も腹が立つ。
嫉妬とは違う、あいつがラディッツを見る目は完全にペットへの上位者としての目だ
俺とギネの息子を舐め腐ったあいつはいつか殺してやる。
腹の底でそんな事を考えていたら月日はあっという間に経ち、ギネのお腹の子供が生まれる日が来てラディッツが職場から有給もぎ取ってサイヤ人の出産病棟に駆け込んできた。
「親父!まだ生まれてないか!!??」
「・・・・仕事おっぽり出して来たのかお前は?」
「はぁ!!??有給申請したらフリーザ様が聞きつけて理由話したら速攻でいって良しって言ってくれたの!」
またあのくそ野郎かよ!
だが、こいつと一緒にガキが生まれるのを待つのも悪くないと二人で椅子に座って待つ。
名前なんにするか親父考えてるのかなどとりとめもない話をするラディッツも、数時間たっても産声が聞こえない事に次第に不安になってオロオロする姿に、バーダックも生まれるのが遅すぎないかと不安がうつって苛つき、そして様々な意味でバーダックとギネとひいては二人を出会わせた事で生まれたラディッツと摩訶不思議な縁を持つトンミが二人を宥めようとした時、産声が上がった。
「お・・・親父・・」
「あぁ・・・ようやく生まれたようだな・・」
「トンミさん!!!」
「いいよ、会いに行こうか生まれた赤ちゃんに。」
「・・・・なんでお前も来る勘定に入ってくんだよトンミ・・・」
「いいじゃないかバーダック。」
だってラディッツ取り上げたの僕だし
そう言って飄々と笑って分娩室に入る、何ともサイヤ人らしくない男と、その男の後を追うこれまたサイヤ人らしくないクソガキの後を、家族を守ると誓ってサイヤ人らしく無くなった男を、出産を終えて疲労しながらも、産湯につけられ綺麗になった赤子を抱いているギネが、笑って迎え入れる。
「見て、元気な男の子よ。」
優しい笑みを浮かべた、サイヤ人らしくない母の手の中には、バーダックの髪型と同じ赤子が安らいで眠っている姿に、三人のサイヤ人らしくない男達の顔にも優しい笑みが浮かぶのを、ギネは目を細め嬉しくなる。
いつまでも温かいこの幸せの中で揺蕩っていたいと思う程に