ナインボール・イン・ア・ヴォイド 作:その辺の残骸
ジェネレーター――――グリーン
アクチュエーター複雑系――――グリーン
火器管制システム――――グリーン
ブースター複合体――――グリーン
センサ及びレーダーユニット――――グリーン
生命維持装置――――グリーン
兵装――――グリーン 弾薬残量、イエロー
装甲――――AP85% リペアキット残数3
――――作戦続行可能
ほんの僅かな小休止を終え、レイヴンはLOADER 4に作戦再開を命じた。
作戦目標である中枢を目指す過程に先の二機のAC以降、新たな敵影はない。
ACのブースト速度をもってしても、長いと感じるほどの通路を進みながら、レイヴンは今回の一件の始まりを想い返した。
アーキバス、ベイラムの私設軍を撤退に追いやり、一応のルビコン解放を成し遂げた直後、巨大な航宙艦が中央氷原に墜落してきたのだ。
それからすぐにパニックと破壊がやってきた。
ルビコン解放戦線が墜落艦とのコンタクトを確立しようと試みていた頃、艦を漁ろうと接近したドーザーの一派に反応したのか、艦内から戦闘MTの大部隊が現れた。
所属不明艦の艦載機は、エアがルビコンに進駐していた各勢力から収集したデータにさえ存在しない未知の機種で構成されており、高い戦闘能力を備えていた。
襲撃者を殲滅するだけに留まらず、MTの大群はルビコンへの無差別攻撃を開始した。
それはルビコンの民が勝ち取った未来を否定し、世界から排除するような苛烈な攻撃であった。
敵は交戦した者の一切の生存を許しておらず、コクピットを破壊していた。
飛行型の機種による侵攻や長距離ミサイル攻撃も起きている。
そのため、艦から離れた拠点やグリッドにまで被害が及び非戦闘員の死傷者が出ていた。
現在は本ミッションの依頼人であるルビコン解放戦線の部隊が展開して侵攻を防いでいる。
MTは艦中枢からの指令信号で制御されていた。
そこでルビコン解放戦線の部隊が突破口を開き、レイヴンが駆るACが突入、艦中枢コンピューターを破壊する作戦が決行されることになった。
各地での戦闘の状況はエアの「交信」を介して把握していた。やはり、戦況は芳しくはない。
数の上での主力であるBAWS製の軽MTでは歯が立たず、ACや重MTを中心にどうにか抗戦している。
レイヴンは煩わしく感じ始めた隔壁をアサルトブーストで十分に加速をつけてのブーストキックで蹴破った。
『目標はこの縦穴の最下層から続く通路の先にあります』
エアの声が脳に響く。レイヴンは前方に向かってクイックブーストをかけ、乗機を降下させる。
風を切りながら縦穴の底を目指す。
機体と神経直結している灰色の髪の少女は、白い肌に冷たい風を感じた。
実際に、密着型パイロットスーツの下の肌に寒さを感じているわけではない。冷たいという情報だけを知覚している。
『敵襲です! 回避を!』
「――――っ!」
エアの警告とレイヴンの回避運動は同時に行われた。
三分の一を降りた時、白い光条が幾つも閃いたのだ。
高速で降下しながら中量二脚ACは鋼鉄の巨体を躍らせ、攻撃を避ける。
上昇してくる高熱源体は二つ。レイヴンは黒いボディスーツが包む、繊細な白い肢体に力を漲らせ、カメラアイ越しに敵を睨む。
回避しながらも、レイヴンは右手に握ったライフルでバースト射撃を行う。
主力戦車の装甲を易々と打ち抜く大口径、高初速の砲弾だが、その威力は敵が連射しているレーザーに比べれば遥かに非力だった。
同時に左腕の重ショットガンを一発だけ発射。その後、ハンガーのパルスブレードと切り替える。
赤と黒のツートンカラーの装甲が砲弾を弾く。
大口径の散弾を浴びて僅かに損傷しながら、構えた大型レーザーライフルの連射を続けている。
レーザーキャノン並みの熱量を発するそれは、手持ちの兵装による攻撃だった。
『先ほどの二機と同型です! それにあれは飛行型の特殊兵器……でしょうか?』
赤く塗装された、流線形のフロート推進式タンクの上部に赤と黒のACが載っている。
エアはデータベース照合を続け、コンバットリグと呼ばれる兵器を類型として提示した。
しかし、ACを搭載可能な機種は存在しておらず、推力及び熱源反応から推定される出力は桁違いだ。
『敵兵装は高出力レーザーライフル、及びグレネードキャノン。極めて高火力のようです』
機動をコンバットリグに任せた重火力アセンブルだった。背中には先に交戦したACと同型のグレネードキャノンを二門背負っている。
それが前方に展開して、レイヴンを狙った。
轟音よりも速く飛ぶ砲撃とレーザーの嵐を少しでも浴びればACSに深刻な負担がかかり、スタッガーに陥る。
そうなれば、瞬く間に消し飛ばされてしまう。
レイヴンは敵を視界に捉えながら、降下による加速を最大限利用して敵をこちらの間合いに取り込もうと試みる。
飛んでくるグレネード弾は迎撃して炸裂させている。
爆炎はレイヴンに対してもACを制御している人工知能に対しても目くらましになっていない。
只人が立ち入ることのできない世界で両者は戦っていた。
敵ACを載せた特殊兵器はターボファンジェットの轟音を響かせながら、急上昇している。
レイヴンは苛烈な砲撃を切り抜け、至近距離で交差する位置にきた。
一発だけレーザーライフルを喰らったが、ダメージの対価としてLOADER 4を望む位置に持ってくることができた。
赤と黒のACの左腕が水平に振りかぶられ、レーザーブレードを発振した。
左腕が高速で振るわれた。処刑の刃だ。LOADER 4は人体同然の動きで身を捻り、三回に渡る致命の斬撃を切り抜けた。
四撃目が繰り出される前に機動に必要な最低限を残してエネルギーをパルスブレードに回し、刀身を展開。
交差すると反転して敵機に向き直った。一回分だけ残したエネルギーによるクイックブーストで距離を詰める。
極限まで出力を高められた高周波振動パルスの刃が敵ACをコンバットリグごと切り裂く。装甲の内側にまで届く、必殺の斬撃だった。
しかし、赤と黒のACとコンバットリグは甚大な損傷を負いながら、上昇を続けていた。
機体を載せたコンバットリグが旋回。赤と黒のACがグレネードキャノンとレーザーライフルを乱れ撃とうとする。
レイヴンは即座に対処した。
LOADER 4は右背部にマウントしている巨大な砲を敵に向けた。
ニードル状の砲弾が発射され、敵の攻撃よりも前に赤色の装甲に突き刺さる。
ニードル弾から解放された稲妻の嵐がACとコンバットリグを呑み込み、電子機器を完全に破壊。爆発が起きた。
レイヴンは砲弾の入手が不可能なことから、温存していたアーキバス製スタンニードルランチャーの一発を使ったのだ。
薄闇を照らす爆炎を背景にLOADER 4は急速に降下していく。
縦穴の底部が近くなった。中枢への到達を速めるべく加速をキープしながら機体を引き起す。
レイヴンは強烈なGに歯を食いしばって耐えていた。
パイロットスーツから浮き彫りになっている、しなやかで繊細な肢体に対して、物理法則は一切の容赦も手加減もしない。
厚さ0.01mmにも満たないデータスキンと、少女の曲線美を強調するためにあるような局部装甲で構成されたスーツは、灰髪の少女の肉体をよく守っている。
だが、レイヴンが繰り広げる戦闘機動にはスーツの優れた耐G性能でも打ち消しきれない過酷さが常にあった。
着地することなく、機体を通路に向け直して突入。
最高速度で駆け抜け、エアのナビゲートを受けて中枢部に侵入する。