「あれ?
ココどこだっけ?」
ナミはミカン畑にいた
「そっか、今日の分の収穫をしてゲンさんの所へ届けるんだった」
背中に背負ったカゴに育ったミカンを詰め
ノジコの待つ家へと向かった
通りがかりに昔アーロン達に渡すお金を埋めていた場所を見る、今はそこにもミカンの木が植えられていてまだ小さいがすくすくと育っている
その場所はナミにとっては特別な場所なのか、そこに生える数本の若枝を伸ばすミカンを特に可愛がっている
「早く大っきくなるんだぞ~」
お気に入りのミカンの木に声をかけ、家に戻る
「ただいまぁ~!」
「「おかえり」」
2つの声がナミを迎える
家の中で迎えたのは、義理の姉であるノジコ
そしてもう1人…
テーブルに置いてあるミカンを食べながら笑顔を向ける女性、ナミはその顔を知っている…
いや、ナミの知っている顔より少し歳をとった顔をしている
昔のファンキーな髪型をやめてベリーショートにバンダナをした女性
「おかえり…ナミ」
ナミとノジコの母親、義理ではあるが2人にとっては間違いなくこの世でただ1人の母親である
「ただいま、ベルメールさん、ノジコ」
ナミは背負ったカゴを机に置きながらベルメール達に笑顔を向ける
「今日の収穫は?」
そう言いながらノジコがカゴを覗きこむ
「まぁまぁじゃない
これくらいをジャムにして…
この辺は綺麗だからそのまま持っていけるわね
コレは、ウチで食べる分で」
ノジコはナミが取ってきたミカンを大きさや、傷のあるなしなどで仕分ける
最後に形が良く、香りもいいが、あちこちに傷がついたミカンを3個袋に入れた
「コレはゲンさんの分
ホラ!この傷、ゲンさんそっくり
アハハ」
「どれどれ?」
ベルメールが袋を覗き込む
「ホントだ
ナミ、これゲンさんに届けてあげて」
ナミはうんと頷き袋を受け取り、笑顔で家を出た
村を歩くナミは、村の人達の笑顔を見ながらゲンのところへと向かう
アーロンに支配された村、その悪魔に魂を売り海賊達を相手に泥棒をして必死にお金を貯めた
そして村を解放してくれた…
………
………
「海軍だっけ?誰が私達をアーロン達から解放してくれたんだっけ?」
そんなあやふやな記憶を手繰りながら歩いているうちにゲンのいる駐在所に着いた
「ゲンさーん!」
ナミはゲンを呼びながら駐在所に入っていく
「おぉ、ナミか…
今日はどうした?」
ゲンは相変わらずで、帽子の風車をカラカラと回しながら奥から出てきた
「ゲンさんにそっくりなミカンがあったから届けにきたの」
ナミは袋を開けてゲンに見せる
傷ついたミカンを見てゲンは少し不満な顔をする
「こんなに傷だらけか?」
不満そうな顔をするゲンを見てナミは笑い、ミカンの傷を指差しながらゲンの顔の傷をなぞる
「ココがホラっ!この辺の傷で、こっちがアゴのところ、でこっちのミカンの傷が左のほっぺで…」
ナミに顔の傷をなぞられ、少し照れながらもういいと少し強引にミカンの入った袋を奪い取る
「ノジコとベルメールは?」
「あれ?私だけじゃ物足りなかった?
ゲンさんも好きね~」
ナミにからかわれ顔をゲンは顔を真っ赤にする
「そういう事を言っているんじゃない!
まったく、大人をからかうものじゃないぞ
ああ…その、…まぁ、礼は言っておく…」
ゲンはそう言ってミカンの袋を持って奥へと入っていった
ゲンの照れた姿を見て満足したのか、ナミはまた来ると言って駐在所を出て家へと戻る
家へと帰る途中、港の方で大きな音がなる
ドーンと大きな音が響き渡る
帰ろうとするナミと、周りの村の人々は港の方を見る
家の中まで聞こえたのか、家の中からも外へ様子を見に出てくる人もいる
しばらくすると、大きな声で海賊が来たと叫びながら村人に避難を促す男性が走って来た
全員が一瞬静かになる
時間にして1,2秒の事
おそらく、その一瞬に過去のアーロン達の事を思い出していただろう
そして動き出す
大人の男性は、家の中から武器になりそうなものを手に取り、女性は最低限の荷物を持ち子供達を連れて避難を始める
「みんな、落ち着けー!
まずは、女子供の避難が優先だ
ゴザの町に助けを求め、出られるなら船で避難をさせるぞ!!
海軍への連絡も忘れるな!」
村の中心の方からゲンと思われる声が響く
「ゲンさん!」
ナミは、ゲンの声のする方へ走り出す
村から逃げようとする人波を掻い潜り、村の中心あたりで武器を手に集まる男の集団を見つけた
近づくとゲンが剣を何人かの若者に渡していた
「ゲンさん…」
心配そうにナミは声をかけた
「…ナミ?
何をしている!
早く、ベルメールやノジコと共に避難を!!」
声をかけられ、ナミがいる事に驚いたゲンは少し声を荒げながら避難を促す
「でも、ゲンさん達が!」
ナミはゲンに駆け寄り服を掴み、港へ向かおうとするのを止める
ゲンは、服を掴むナミの手を力強く掴む
「せっかく、あの若者達が取り戻してくれた平和を、海賊なんかに奪わせるわけにはいかんのだ
あの事件を知らない子供達には、あんな恐怖を知らずに育ててやりたいのだ
彼らのもたらしてくれた平和は、私達が守り受け継ぐ!」
その言葉を聞いた瞬間、ナミの頭にノイズの様なものが走り、ナミは片手で頭を抑えた
「ナミ…?
大丈夫か?」
ナミの様子を見たゲンは、声をかけるが大丈夫とナミはすぐに気丈な顔を向けた
「ならば、早く逃げなさいっ‼︎」
ゲンは少し強めにナミに避難を促した
ナミは、こみ上げる思いを堪え、ベルメールのいる家へと走った
バンッ!!!
扉を勢いよく開けて自宅に入ったナミは大きな声で2人を呼ぶ
「ノジコ!ベルメールさん!」
2人とも自分の部屋で、持って行く荷物を準備し終えたところだった
「ナミ!あんたも必要な物だけ持って逃げるよ」
ノジコに言われ頷き、すぐに自分の部屋へ飛び込む
ベルメールは、ベッドの下から昔使っていた銃を出しホコリを払い、銃が使えるか確認していた
ナミが準備を終え3人で家を出ようとした
「あんた達は、ゴザの町の港から海へ逃げな」
「「えっ?」」
ベルメールの言葉に2人は驚く
「ベルメールさんも一緒に逃げようよ」
「ゲンさん達だけに戦わせるわけにはいかないさ
私も、元海兵だからね
その辺の男よりは戦えるつもりさ」
ベルメールは、手に持つ銃を肩に背負い力強い目線を送る
「でも、ベルメールさん!」
ナミとノジコはベルメールを止めようとするが、ベルメールは静かに首を横に振る
「もう、そんなに若くないよ…」
「確かに…」
ガツン
ナミの言葉とノジコの相槌を聞き、ゲンコツをナミとノジコの頭に振り下ろす
「うるさい!
私はまだイケてるっ!」
少し困った顔をしていたベルメールは2人にゲンコツを降ろした後フッと笑顔になる
「たまには、母親の言う事を聞くもんだよ…
まぁ、あんたらは昔ほど手がかからなくなったし…
いつも家の事とかも手伝ってくれたし…」
「「働かざるもの食うべからず」」
2人は声を揃える
「そうだね
私が教えたんだっけ?」
ハハッと軽く笑うベルメールは真剣な顔をして2人に話す
「あの時もそうだった…」
ベルメールのその言葉で、ナミの頭の中にノイズが走る
ノジコは少し苦い顔をしながら荷物をしっかりと持ち直し、ナミの左手を掴んで家を出る
「ちょっ!ノジコ!!
待ってよ!」
急に引っ張られたナミは、まだ話が終わっていないと引っ張られる左手を振り払う
「ベルメールさん…」
少し怒った様な、いじける様な顔をして見つめるナミにゆっくりと近づき、ベルメールはナミの頭に手を置き、まるで小さな子供をあやす用に頭をクシャクシャと撫でる
「ナミ、ノジコ、あんた達2人はそりゃ手のかかる子供だった…
村に行っては物を盗んだり、男の子と喧嘩したり、家出をすれば村まで迎えに行って…機嫌を取るために少し贅沢なご飯を準備したり
でも、そんな手のかかる事が私の幸せだった…
確かに、血は繋がってない…
私と、あんた達2人も…
でも…、一度だって私はあんた達の事を自分の子供じゃないなんて、私の子供じゃなかったらなんて考えた事はなかった
あんた達はもう大人だ…
私がいなくても、この村を出てもなんとかやっていけるさ
だから、私はあんた達の母親として2人の未来を守る為に戦う事を選ぶの」
「ベルメールさん…」
玄関で立ち尽くしていたノジコは静かに涙を流した
ナミはその場に崩れる様にうずくまり泣き始める
その姿を見たベルメールは壁にかかっている麦わら帽子をナミにかぶせる
いつからそこに掛かっていたのか、ずっとあった様な、今急に出てきた様な不思議な感覚がする麦わら帽子
「みんなが待ってるよ」
ベルメールは軽くナミを抱きしめ優しく声をかける
そして、そのまま玄関の方まで歩きノジコを優しく抱きしめる
「ナミの事、よろしくね」
ノジコは涙を拭き、笑顔を作り頷く
ノジコの笑顔を見て、満足した笑顔を見せるベルメールは家の中のナミを振り返る
「ナミ…」
ナミは泣き崩れたままだった
「…最後まで、手ぇ焼かせないでよ…」
必死で涙を堪え、笑顔を作るベルメールがこぼした言葉
その言葉がナミの耳に届く
自分がワガママを言っている事も、ベルメールの覚悟も分かっている
泣いたところで何も変わらない事も理解は出来ている
でも、心がそれを理解させようとしない
それが子供の様な行動を取らせてしまう
「あんたには行くところがあるだろ?」
ナミはかぶせられた麦わら帽子を触る
その瞬間、ナミは思い出す
昔、魚人海賊団に村を襲われた事、村を救う為に泥棒家業でお金を貯めた事、ルフィ達がアーロン達から村を救ってくれた事、すでにベルメールはアーロン達に殺された事…
「ベルメールさん…」
全てを思い出し、振り返りベルメールを見る
「本当に、手がかかるんだから…」
ベルメールは、爽やかな笑顔をナミに向ける
その笑顔を見たナミは、涙を拭い立ち上がる
「ゴメンね、ベルメールさん…
いつまでも子供みたいな姿を見せちゃって」
「いいのよ
あんた達は、私の子供なんだから…」
ナミは外に向けて歩きだす
すれ違い様にベルメールに小さく呟く…
それは、初めて言う言葉
小さい頃から血が繋がっていない事を知っていて、ある程度成長してからは名前で呼ぶ事が慣れてしまい呼ぶ事のなかったその言葉
「ありがとう…」
「お母さん……」
外へ出たナミは真っ白な光に包まれた