(俺は…
何してたんだっけ?)
ぼーっとしていたチョッパーを正気に戻したのは、よく怒られたあの声だった
「チョッパー!
何ボサッとしてんだい
サッサと薬の用意をしな!!」
怒られたチョッパーは慌てて薬の用意をする
「ドクトリーヌ…
ごめん、これ…」
チョッパーは薬を取り出し、くれはに渡す
薬を受け取ったくれはは、極太の注射器でその薬を患者に注射した
ギャーっと患者の悲鳴が診療所の中に響き渡る
「五月蝿いよ!
大の大人が注射ごときでガタガタわめくんじゃないよ!
次ぃ!!」
くれはは、いつもの様に手荒い治療をして、次々と来る患者の対応をする
チョッパーは、くれはと共に診療所で患者の治療をしていた
「料金は、1,000ベリーお願いします」
チョッパーは、小さな声で治療費を伝える
『えっ!?
1.000ベリー?』
金額を聞いた患者は注射を打たれた患部を押さえながら驚く
それはそうだ
Dr.くれはと言えば、法外な金額をふっかけるので有名だ
それが真っ当な、むしろ良心的な金額で治療をしてくれたのだ
後で何かあるのだろうと、疑う患者の方が多いくらいだ
患者が聞き返すと、チョッパーは患者の口を押さえ、シーっと大きな声を出すなとジェスチャーで伝える
治療費の金額を真っ当な金額にしているのはチョッパーの独断である
昔はくれはに言われた通りにしていたが、今では薬の材料調達、調合、受付も任されている
だから、少しの利益…
3人が食べていける金額だけを請求するようにしていた
もちろん、くれはがそれを知らない訳はない…
「チョッパー!
何やってんだい!?
さっさと次の薬を持ってきな!」
くれはに怒鳴られチョッパーは、慌てて薬を取りに行く
薬を渡そうとくれはの診察室に入ると、隣の診察室の会話が聞こえた
「じゃあ、この薬を毎食後に飲ませてやってくれ」
『おい、この薬はDr.チョッパーの薬だろうな?』
「お大事にぃ」
『おいっ!
聞いてるのか?
おいっ!目をそらすなっ!!
この薬、アンタは何もしてないんだろうな?』
患者と思われる男の声が少し荒げたところで診療所の扉が勢いよく開けられた
『薬を飲んだ子供が気分が悪くなった様なんだが、急いで診てくれないか!』
「薬を?
先にこの子を診るよ
急患だからね」
くれはが診察室から出てきて、抱えられた男の子を椅子に寝かせて、症状を確認する
「瞳孔に異常はない…
脈は…ちょっと速いね…
熱は…微熱…」
確認し終えたくれはは、立ち上がって腕を組み、連れてきた父親の方を向く
「薬をもらったのは?」
『昨日です…』
「あんた、酒は飲むかい?」
『それが…何の関係が…』
関係のなさそうな質問をされて子供の父親は早く治療をとくれはにつかみかかろうとする
その父親の頭を片手で掴み、顔を近づけ凄みのある声で
「アタシが質問をしているんだ!
さっさと答えな!」
ビクッとした、父親は酒は飲まないと答える
父親の答えを聞いてふー、と小さくため息をつく
「チョッパー!
百薬草の粉末を持っておいで!」
チョッパーは、言われた薬を薬棚に取りに行き、薬を探しながら考える
百薬草の粉末といえば、使い道は二日酔いの症状を抑えるもの
薬を飲んで気分が悪くなった子供に飲ませるようなものではない…
しかし、くれはの見立てである
間違っているとも思えない
そうなると答えは一つ
チョッパーが答えにたどり着いたのと同時にくれはが叫ぶ
「ヤブ医者ぁ!!」
くれはの大声で診療所の全員がビクッとする
少し間をあけてもう一つの扉がゆっくりと開いた
扉からトレードマークの長い帽子が覗く
その下には白髪で髭面の強面の顔が現れた
「………」
バツの悪そうな顔をした男は、チョッパーの恩人ヒルルクである
「ヤブ医者、アタシは言ったはずだよ?
雇ってやってもいいが、余計な事はするなと…」
くれはが詰め寄る
「いや、今度こそ自信があったんだ
ラパーンのフンから抽出したエキスとこの酒を混ぜればこの病気はたちまち治っちまう
実験ではウィルスは3時間で死滅した」
薬の材料を聞き、静まり返っていた患者達の顔が青くなる
帰ろうとしていた男は薬の袋を落とした
「はぁ〜〜〜、チョッパー…」
呆れ果てたくれはは大きなため息をつきチョッパーの名前を呼んだ
呼ばれたチョッパーは持っていた薬の袋を子供の父親に渡した
『こ、コレは本当に大丈夫な薬なんだろうな!』
父親は心配そうにチョッパーに尋ねる
コクリと頷き、袋から薬を出し言葉を添える
「コレは百薬草の粉末で今のこの子の症状に効く薬だ
今すぐ飲ませてあげてくれ」
そう言ってチョッパーはコップに入った水を一緒に渡した
薬を飲ませ少しすると、子供の呼吸が落ち着いてきた
その様子を見てくれはが後は家で安静にと伝える
男は子供を抱き上げお礼を言いながら帰って行った
静まり返って様子を伺っていた他の患者も、親子が診療所から出て行って扉の閉まる音でハッとなり我先にと走って帰って行った
病気よりもヒルルクが勝手に処方する薬(実験薬)の方が心配になったのだ
誰もいなくなった待ち合いを見てくれはが呟く
「全く、商売上がったりだよ…」
患者がいなくなり、くれはは待ち合いのイスにどかっと座りどこからともなくお酒を出し、瓶のまま飲み始めた
「ドクトリーヌ…
まだ、午後の診察があるから…」
いつもの事だか、チョッパーは声をかける
「わかってるさチョッパー
一仕事終わって、喉を潤しているだけさね…」
二口ほど飲んだ酒瓶に栓をしながらくれはは答える
それを確認したチョッパーは、ヒルルクの方を向いて少し強めの言葉をかける
「ドクター!
薬は俺が調合したものを使うって約束だろ!
なんで、勝手なものを入れたんだよ!」
「エッエッエッ
また、失敗しちまったなぁ…」
そう言いながら、いつもの笑顔で自分の診察室へと戻っていった
チョッパーは、薬の知識ではヒルルクよりも上だ
ましてや患者の具合を悪くするものを許せるわけもない
ヒルルクの後を追い診察室へ入る
診察室へ入った瞬間にチョッパーの中でノイズが走る
「………」
急に立ち止まったチョッパーを不思議そうに見ながらヒルルクが大丈夫かと声をかける
「何でもない…
そんな事よりも薬!」
チョッパーが説教をしようとすると、ヒルルクは笑顔で話し出す
「確かに、今チョッパーやくれは婆さんがやっている治療は有効だ…
だが、子供にあんな注射を打つのは酷な話だろ?
だから飲み薬で治せるようにと思ったのさ」
確かに、それはチョッパーも思っていた事だ治療の為とは言え、子供に注射をするのは気がひけるできる事ならと…
「それはわかるけど…
勝手な処方はやめてくれ
何かあれば俺に教えてくれれば一緒に考えるから」
ヒルルクの考えに、全てを否定できなくなったチョッパーはそう言って引き下がる
その姿をみて満足そうにヒルルクは笑った
「エッエッエッ
そうだな…
悪かった…」
ポンと頭に手を置かれる
その手を子供扱いするなとチョッパーは退けて午後の準備に取り掛かった
午後の診察の準備、薬の補充、診療所内の清掃を終わらせると、チョッパーが診療所の奥のキッチンでお昼ご飯を作る
と言っても、すぐにできるように作り置きのシチューを温め直し、パンをバケットに入れて完成だ
お昼を食べながら、チョッパーはヒルルクに念を押す様に薬の事を話す
もちろん、くれはも呆れながらその話を聞いている
「エッエッエッ、分かってるさDr.チョッパー
お前の言う通りだ
今度からは、ちゃんと相談するよ」
ドクターと呼ばれ、わかりやすく嬉しそうな顔をする
「ド、ドクターなんて呼んだって、許さねぇんだからなぁ」
浮かれるチョッパーを見てくれははヤレヤレとため息をつく…
そしてヒルルクにクギを刺す
「ヤブ医者!
午後の診察は勝手をするんじゃないよ
次やったら、あんたの息の根を止めるからね」
分かっているとヒルルクは少しビビリながら答え、シチューをたいらげ、残っていたパンを口に放り込み、いそいそと自分の診察室へと入っていった
「チョッパーも、アイツを甘やかすんじゃないよ」
チョッパーもクギを刺され、分かったよと言い、食事の後片付けを始めた
「ドクター、午後の分の薬置いておくよ」
ヒルルクの診察室に薬を持ってきたチョッパーは、部屋に入ったところで頭の中にノイズの様なものが走る
様子のおかしいチョッパーを見てヒルルクが大丈夫かと声をかける
「うん、大丈夫
ちょっと軽い頭痛があっだけだから」
そう答えヒルルクの方を見たチョッパーは、壁に貼り付けてあるドクロの旗に気がつく
「ドクター、その旗ってなんだっけ?」
尋ねられたヒルルクは、大きく手を広げながら答える
「コイツは、海賊旗‼︎
海を自由に生きる奴らが掲げる信念の象徴だ‼︎」
「海賊旗…」
またも、チョッパーの頭の中にノイズが走り、ルフィ達のことを思い出す
「ドクター‼︎
俺、行かなきゃいけないところがある‼︎」
急に何かを思い出した様子のチョッパーに疑問を持ちながらも、ヒルルクは言葉を遮ることなくしゃがみ込み、チョッパーの話の続きを聞く
「俺、約束したんだ!
俺が、ソイツらの怪我や病気を治してやるって‼︎
みんなと世界を見て回るって‼︎
だから…」
そこまで話をしたところで、入り口からくれはが入って来た
「どうしたんだい?
急に大きな声を出して…
また、ヤブ医者が何かをやったのかい?」
チョッパーはくれはにも同じ様に話をする
「冗談じゃないよ‼︎
このクソ忙しい時に…
馬鹿なことを言ってないでサッサと準備をしちまいな」
くれはは、チョッパーを睨みつけるが、チョッパーは負けずにくれはに強い視線を送る
その姿を見たヒルルクは奥からカバンを一つ持って来た
カバンを持ったヒルルクはチョッパーとくれはの間にドカッと座り、カバンを開ける
中から液体の入った瓶と、2つの盃を取り出すと、くれはに片方の盃を差し出す
「何やってんだい?
ヤブ医者‼︎」
ヒルルクの行動に苛立ちを見せるくれは、キッと睨みつけ大きな声を上げる
「息子の門出だ…
付き合えよ」
くれはは、ため息をつきながら2人を見る
決意の固まった目をした2人を見て、くれはは、盃を受け取る
ヒルルクは、くれはの盃に酒を注ぐ
その酒は、薄いピンク色をしていた
「とっておきだぜ?」
くれはの盃に酒を注ぎながらニヤリと笑い、酒の価値を伝える
「まったく………
たまには…
気がきくじゃないか…」
くれはは、ため息をついたがその後少しだけ笑みをこぼす
次にヒルルクは、自分の盃に酒を注ぐ
2人の姿を後ろにチョッパーは、診療所のドアを開ける
「じゃあ、俺行ってくる」
ドアを開けて出て行くチョッパーを見ながら、2人は盃を鳴らす
「行ってこい!バカ息子‼︎」
「行っといで!バカ息子‼︎」
診療所の外へと出たチョッパーは、光に包まれた