知らない間にGI7個獲ったことにされてた馬 作:タケノコランバス
七冠の後に
──トレセン学園生徒会室。
生徒会長・シンボリルドルフがデスクを構えるその部屋に、ひとりのウマ娘が招かれていた。
「紅茶でどうだろう」
備え付けのポットから注いだそれを差し出すルドルフの顔には、若干の高揚が表れているように見える。
──それは目の前の相手が、自らと同じGI七冠の称号を手にした存在であるからだろうか。
「……ありがとうございます」
口数少なめにカップを受け取ったその客人は、前述の通り幾多のGIを制した異彩の天才。
不振の時期も多々ありながら、幅広い舞台に顔を出しては勝利をもぎ取る実力者として鳴らしたそのウマ娘の名は、『チェンジオブエイジ』。レジェンドが集まる『ドリームトロフィーリーグ』への招集も決まっている精鋭だ。
まさしく名の通り世を変えた彼女に、ルドルフが注目するのは無理からぬことだった。
「君のトゥインクルシリーズでの活躍は素晴らしいものだった。これから君とドリームトロフィーリーグで戦えるのが楽しみで仕方がないよ」
「……過分なお言葉なれば」
月並みながら賞賛の声をかけると、そう返して紅茶に口をつけたエイジ。すると、すぐさまこう続けられた。
「この結果はあくまで多くの幸運に恵まれたゆえ。まだまだ満足いくものではありません」
本懐を遂げておらぬ身に賞賛など不要、と告げながら砂糖をスプーンへ運ぶエイジに、思わずルドルフは苦笑を浮かべてしまう。
「君ほど強欲な七冠バというのも珍しいな」
そう慇懃無礼にも聞こえる言動を皮肉ったルドルフに対し、エイジは自嘲気味に口を開く。
「私ほど挫折した七冠も、そういないですから」
そう言うと紅茶に砂糖を溶かし始めた彼女の脳裏には、今までのキャリアが回想されていた。
世代最強の証明を掲げ、トゥインクルシリーズへ飛び込み苦節五年。こうして七冠ウマ娘の末席へ連なるまでに紆余曲折の日々を送ったエイジ。
「だが、君ほど人を惹きつける七冠の取り方もそうない」
その誰もが羨む称号を掴むまでに、泥臭く足掻いてきた彼女の姿を知るルドルフはそう評する。
「たとえ誰も……君自身が認めないのだとしても、私が認めよう。チェンジオブエイジという名バがいたことを」
そこまで言うと、再び口をつけていたカップを離したエイジの表情には、僅かな笑みが浮かんでいるように映った。
──何だか最近、よく人が来るな。
202X年。とある牧場にて余生を過ごしていた元競走馬・チェンジオブエイジは、以前の飼い主と話している記者らしい人間を前にそのようなことを考えていた。
今の自分の住み処が、観光スポット紛いの場所となっていることは知っていた。
動物園よろしく訪れてはエサの人参スティックを差し出してくる者もいれば、キャッキャと喜んで写真を撮る者もいる。それ自体は結構だが、ここしばらくは頻度が爆発的に跳ね上がったと彼は感じていたし、こうして誰かが取材にやってくるようにもなったのもそれからだと訝しんでいた。
(……もしかして、あのことがバレたのか)
抱えている最大の秘密を頭に浮かべ、いやそんな訳はないと首を振るエイジ。
その秘密とは再三に渡るエサの盗み食い……では断じてなく、人の身から転生して第二の生涯を送っている身分であることだ。
無論、今までに頭の中身を疑われたことは何度かあったが、言語という絶対的な壁がある動物と人間とでは、その結論に至るほどの意志疎通など故意でなければ不可能であるし、その想定はすぐさま切り捨てられた。
心当たりのない彼は、せめてヒントを得んと記者たちの会話に聞き入る。
「──しかし、この馬も来ましたか」
「ええ、本当に。他の顔ぶれを考えるとちょっと意外ですよね」
記者たち自身も驚いているような口ぶりに、エイジはますます迷う。何らかのイベントへの招集があるにしても聞いていないし、齢20を超えた老馬に今さらレースなんて話が舞い込むとも思えなかった。
「まあ、これほど奇妙な縁のある馬も珍しいですからね」
「ははは。今なら七つGI獲れてたことになる、なんてあの頃の自分も考えちゃいませんし」
GIというのはエイジが競走馬として現役のときに走っていたレースの中で、最上位に位置するクラスの呼称だ。
そこで勝った覚えは彼になかったが、これはどういうことだろう。
「しかしそんな
「うーむ……私としては、まだそこまで感情が追い付いていないところなんですが」
聞いてみれば自分はゲームに出るらしかった。成程、それなら自分が預かり知らぬところで話が進んでいるのも無理はない。
「……チェンジオブエイジの名が広く知られるというのは、嬉しい限りですね」
ここまで聞いて、客が多かった理由に合点がいったところで、二人はなにやらスマートフォンの操作を始めた。
「ほら、これがお前だぞ」
冗談めいたように笑いながら見せられたその画面には、自らの名を添えて表示される美少女の姿が映っていた。
(はああああ!?)
驚愕のあまり思わず激しい鳴き声を上げる彼に、二人が驚くのはすぐのことだった。
──これは運命に踊らされる、幻の七冠馬の物語。
ちなみにオリ主くんはウマ娘のことも競馬のこともよく知らんまま転生してきてる模様。
勝ち鞍はまた後ほど順々に明かしていく方針で。