知らない間にGI7個獲ったことにされてた馬   作:タケノコランバス

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「常に先んじて駆け続ける──時代を変えるとはそういうこと」

一見冷静沈着ながら、時代に変革を巻き起こさんとする意志を秘めたウマ娘。
「最先端を歩むことこそ変革への最短経路」と捉え、流行をストイックに追求する性質を持つ。
先取りが行き過ぎるあまり損を被りやすいのが玉にキズ。
(公式ポータルサイトより)


ウマ娘編[Too Early, Too Cool]チェンジオブエイジ
誰よりも先へ


「時代を変えたいと思うトレーナーはいますか」

 

 それは選抜レースを勝ったチェンジオブエイジが、詰め寄せるトレーナー陣へ向かって放った言葉だった。

 

(──時代を、この娘と)

 

 昨日、これを聞いていた内のひとりであった新人トレーナーの脳裏には、あのレースの記憶が回想される。

 

『まだ脚を止めないぞチェンジオブエイジ! このまま先頭を維持できるか!』

 

 それは終盤、未だ逃げ足を鈍らさないエイジの姿だった。

 

「はああああっっっ!!」

 

 単なる強さだけではない、その気迫の鋭さを余すところなく示した彼女に、目も心も奪われたのは無理からぬことだったのだろう。

 

『意地を見せつけたチェンジオブエイジ! ゴールイン!』

 

 走りに見惚れて呆けていた自分がはっきりと意識を取り戻したのは、エイジの演説の途中だったろうか。

 

「──クラシック三冠、GI七冠、海外制覇……なんでも構いません、とにかく偉業を残して時代を変えたいと思う人間と、私は歩みたく思います」

 

 スラスラと並べられたその称号とともに告げられていた要求。回想に耽っていたのだ、上の空で聞いてしまっていたが、今考えれば幸運だったのかもしれない。

 

「な、七冠……それに海外……?」

 

「時代を、とは……大きく出ましたね」

 

 大言壮語ともとれるエイジの言葉に、周囲は尻込みしているようだった。

 

「お、俺と──」

 

 それをよそに、自らの口から脊髄反射かのように飛び出した声。

 気づいた頃には挙手をも行っていた自分の肉体に驚愕さえ覚えたが、嬉しそうに歪むエイジの口元を見れば後には引けなかった。

 

「俺と、時代を変えよう!」

 

 それはエイジの言葉を反復しただけの、月並みな言葉。しかし、彼女にとってはひどく好ましく映ったらしく──。

 

「……100点です。その思い切りを待っていました」

 

 ──こうして自分は、チェンジオブエイジのトレーナーとなった。

 

 契約書等のサインを済ませてから日を跨いだ今日は、トレーナー室での待ち合わせを打診していた。こうして彼女を待つ自分の心中には、ワクワクとした気分と共に不安も混ざっている。

 

(俺に務まるだろうか)

 

 ただ一番に手を挙げたから──。あのとき煮立ちきっていた頭もクールダウンした今、エイジが自分の手を取った理由はそれしかないという自認はあった。何せ新人の自分には、誇示できる経歴など未だ持ち合わせていなかったからだ。

 

「いや、務め上げるしかない」

 

 だからといって、今さら辞退する選択肢はなかった。若気の至りか偉大な英断となるか、この出会いの結末へ向けての賽はすでに投げられたのだから。

 

 決意を新たに、担当ウマ娘を待ち受ける自分にそのときが来るのはすぐのことだった。

 

「失礼。今日から世話になるウマ娘ですが」

 

 ドアの外より聞こえた声。入室を促すと、すぐさま彼女は姿を現した。

 

「……昨日ぶりではありますが、改めて。チェンジオブエイジです。これからよろしく頼みます」

 

 その言葉と共に差し出してきた掌を掴み、握手を交わすと、彼女と歩む旅路が始まりを告げた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ──挨拶もそこそこに、エイジへ最初に提案したのは目標のすり合わせを行うことだった。

 これは彼女が選抜レースの際に口にしていた「時代を変えること」への行程を、どう捉えているのか図りかねていた部分もあった故だったのだが。

 

「言ったはずです、偉業を残して時代を変革すること。どのような形でも構いません、そしてその結果へ向かうためなら、どのような苦労も惜しまぬ覚悟であります」

 

 なんでもいい、とすら言ってのけたあのときの演説に偽りはなかったらしく、力強い宣言を行った。

 

(──だったら、最初に目指すべきなのは)

 

 一番に思いついたのは、偉業と称される中で、最もシンプルかつ難関なものだ。

 

「なら、無敗のクラシック三冠を目指そう」

 

 それは、かつてシンボリルドルフが成し遂げて以降、誰も踏み入れていない領域。

 ここに名を連ね、世代最強の証明を済ませてしまおう。そんな無謀極まりない提案だったが、それが気にいったらしい彼女はくつくつと笑いながら答えてきた。

 

「フフフ……三冠を無敗で、と。二番手になるのは遺憾ですが、それもいい……!」

 

 初の担当に対し預ける夢として、大きすぎる気はした。

 

 しかし彼女となら、それすらも超えていける──! そんなイメージを選抜レースから見出した故の提案に、余裕げな反応をくれたエイジへ自信を深めると、もう一度想いを口にした。

 

「これから俺と、時代を変えていこう!」

 

「……もちろん!」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「──これからのトレーニングとかの計画なんだけど」

 

 目標を一致させたならば、次は具体的なプランニングへ移ろうとそう切り出した。

 

 トレーニングとその後のクールダウン法、また食事面など練習以外の場面での指導計画も記した資料を手に読み上げていく。

 経験がない分は若手故の先進性を以て補おうと決めていたため、トレーナー界隈で新たに注目されていた方法から選別したものを多く取り入れた、悪く言えば信頼性に欠けるものとなっていたが、エイジは意外にも難色を浮かべるどころか──。

 

 

 


 

 

 

「このトレーニング法は……確かフランスで新しく話題になっているものと似ているような」

 

 

 


 

 

 

「……ああ! この栄養管理論なら知っておりますよ。近々試すつもりだったのですが、トレーナーも精通しているというならアドバイスを頂ければ──」

 

「──いや詳しいな!?」

 

 飲み込むどころか、既に意見交換にすら持っていこうとしているエイジの博識ぶりに声を上げる。

 彼女の目に留まっていたのは、どれも世に出てから日の浅いものをベースとしたものばかりであり、学生身分である彼女には大元を辿ることすら並大抵でない嗅覚が必要となる情報だった。

 

「……はて?」

 

 しかし、驚愕混じりの賞賛は相手には通じなかったらしく、訝しげな様子でこちらを見つめるのみだった。

 

「結構、流行りをあれこれ取り入れた感じだったから」

 

 そう噛み砕いて弁明してみれば、一瞬難しい顔をしたのちエイジはこう答える。

 

「時代を変えようとするなら、今このときの流行を知り、血肉にしていく……それこそが最短の道であるゆえ、研鑽を積んでいるまでのことです」

 

 誇る様子もなく淡々と告げたエイジの姿からは、彼女の目標に対する執念が垣間見えた気がした。

 

(……だったら、俺も)

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 エイジの知識量もあり、予定よりも巻きで終えることができたミーティング。

 この空いた時間でさえも、エイジは研鑽に励んでいるのだろう──。そう考えていると、足は独りでにある場所へ向かっていた。

 

「──ふっ!!」

 

 ふらりと訪れたのは、学園の練習コース。日が暮れかけている中ではあったが、ギャラリーを集めながら鍛錬に明け暮れているウマ娘を見つけて観察していると、それはエイジにとって最大のライバルになると目していた対象だった。

 

「はぁ……はぁ……、みんなに”キセキ”を見せるには、こんなものじゃまだ不足かな」

 

 そう零すともう一本、と走り込んでいった彼女の名は、フジキセキ。栗東寮を束ねる寮長にして、至高のエンターテイナーを目指すウマ娘だ。

 デビュー時期を想定すると、エイジと同世代となるだろうウマ娘であり、彼女と同じくクラシック三冠を目指すライバルでもあった。

 

「……失礼、トレーナー」

 

 突然隣から聞こえた声に振り向くと、そこにはエイジがいた。

 

「驚かなくてもよろしいではありませんか。我らが寮長がコースへ向かったと聞いて、一目見ようと駆けつけてきたまでですよ」

 

「……君のことだ、考えなしの訪問じゃないんだろ?」

 

 本心ではあるまい、とアタリをつけて開口一番にそう訊いた。

 まだ数日の付き合いだが、エイジがふらりとライバルのトレーニングに姿を現すタチではないことは察せられていた。

 

「失敬な、私とて誰かに焦がれることもあります……と言いたいところですが、その通りですね」

 

 はぐらかすようにおどけるも、結局本音を口にした彼女は、フジキセキを指すとこう口にした。

 

「あの人は、今最も三冠に近いと目される方ですから」

 

「……そうだな」

 

 多くの視線を惹きつけるカリスマに、十二分な素質の両方を備えるのがフジキセキというウマ娘だ。

 トレーナー陣の中でも「走れば二冠は堅い」とまで称されていた彼女への評判を思い返しそう返すと、エイジは感心するように微笑んだ。

 

「やはり、トレーナーもその理由でやってきたのですね」

 

 その言葉に頷いて返せば笑みを深めた彼女に、こう続けてやることにした。

 

「ライバルは誰よりも早く知らなければね」

 

 最新のトレンドを追いかけることを是とする、チェンジオブエイジというウマ娘のトレーナーとして、という矜持を込めた意味合いもあったその言葉に、彼女は心底愉快そうに笑った。

 

「ふふふ……あはははは! そうです! それでこそです!」

 

 今までの冷静な態度とは異なる言動に気圧されながらも、エイジは構わずに続ける。

 

「真新しいものにも躊躇なく飛びつき、挑み、モノにしようとするそのスタイル……! それこそ、私が求めていたトレーナー像です!」

 

 感極まって語る彼女の姿には未だ呆気に取られていたが、その言葉に自らをパートナーとして認めてくれたという意味も込められていたことは、容易に読み取ることができた。

 

「改めて誓ってくださりますか? この時代の変革のため、私と最先端を追い続けてくださることを」

 

 再び差し出されたその掌の意味は、一度目と異なるものであろうことは伝わってくる。

 

「……さっきぶりだけど、改めてよろしく!」

 

 先ほどのエイジの台詞をそう捩りながら返す。

 

 こうして自分は、チェンジオブエイジのトレーナーとなった──。

 

「……さて、飛びついたあとは挑むまで。ジャージに着替えて寮長と併走を──!」

 

「えっ──」

 

 ──誰よりもせっかちで、誰よりも一生懸命なウマ娘のトレーナーに。




これは七冠待ったなし()

遠回しに世代を示唆していくスタイル。後の「幻の○冠馬」が二頭いる世代とか唆るじゃないか……という感じですが、諸々のタイミングを考えたらこうなっただけでほとんど偶然だったり。

とりあえず育成ウマ娘ストーリーを意識しながら書きましたが、諸事情でトレーナーの性別は男性固定です。女性トレーナーの方々にはご理解のほどよろしくお願いします。

ストーリーの投稿に関するアンケートを実施中です。今話投稿から一週間をめどに切り上げようと思いますので、よろしければそれまでにご協力を(ちなみに競走馬編完結→ウマ娘編の場合に、今話が削除されることはありません)。

追記
誤字報告くださった方、ありがとうございます。
お気に入り・評価等を付けてくださった方々にも、ここで重ねてお礼申し上げます。

再追記
アンケート終了いたしました。
これより競走馬編→ウマ娘編→……と交互に投稿してゆきます。
それでは次の競走馬編第1話まで、しばしお待ちを。

投稿ストーリーの順序

  • 競走馬編とウマ娘編を交互に
  • ウマ娘編完結→競走馬編
  • 競走馬編完結→ウマ娘編
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