知らない間にGI7個獲ったことにされてた馬   作:タケノコランバス

5 / 8
耳のこと:トレンドのアンテナ代わり
尻尾のこと:先端のケアは欠かさない


デビュー戦の後に・胎動する時代

『まだ伸びるかチェンジオブエイジ! 伸びる伸びる、どうかあああああっ!』

 

 時代の先を往くにふさわしい脚を見せつけながら、エイジのデビュー戦は幕を閉じた。

 

「……ああ、駆け抜けていったのですね」

 

 隣で感慨深げに呟くジェニュインへ、静かに頷く。しかし振り返ってみれば、すでに彼女は姿を消していた。

 

「あれ、あの娘は……?」

 

 しばらく見回したものの手応えがなく、うろたえていたところに聞こえたエイジの叫び声でようやく現実へ引き戻される。

 

 やがて控え室に戻った彼女は、少々息を切らしながらも余裕げな表情を崩していなかった。

 

「デビューお疲れ様! いい走りだった!」

 

 月並みながらも賛辞の声を投げかけてやれば、エイジは愉快そうに笑う。

 

「ははは! ええ、ありがとうございます!」

 

 こうして彼女と初出走の余韻に浸っていたかったが、自分には訊いておかなければならないことがあった。

 デビュー戦から上々の成績を収めた彼女だが、もちろんまだ終わりではない。

 

「次走の予定は、帰ってから訊いてもいいか?」

 

 あえて遠回しに、そんな言葉を投げ掛けた。

 ああも笑っていられただけに、余力は残されてこそいるだろう。しかし、同時にまだ決断を急ぐことは望んでいないだろうとも推察したためだ。

 

「……そうですね。今の私では、気の大きいことを言ってしまいそうです」

 

 まだ興奮が残っているのだろう。そう賛同し頷いたエイジとは、これ以上言葉を交わすことはなかった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 ──そしてこのとき、エイジと同じく初出走を終えていたあるウマ娘に、世間の注目が集まっていた。

 

「さて、実に素晴らしい走りで勝利を飾りましたね! 今の気持ちを一言、お聞かせ願えますか?」

 

 新潟レース場にて、奇しくもエイジと同じ1200mの舞台で勝利を収めたそのウマ娘は、なんと後ろに8バ身の差をつける圧巻のワンマンショーを演じてみせた有望株だ。

 

「ありがとうございます! お楽しみいただけて光栄です」

 

 そう爽やかに返答する彼女の名は"フジキセキ"。

 甘いマスクとカリスマを以て栗東寮を束ねる寮長であり、エイジにとっても馴染み深いウマ娘だ。

 

「差し支えなければ、今後の予定をお伺いしても……?」

 

 探るように訊くインタビュアーに対し、悪戯な笑みを深めながらフジキセキは、自信げにこう告げたという。

 

「よくぞ聞いてくれました。私が目指すのは……『三冠ウマ娘』です!」

 

 ウマ娘が乞い願う栄光の中で最たる輝きを誇るそれを、手に入れて見せると彼女は宣言したのだ。

 

「あそこに眠る夢の続きを、キセキの先を、貴方に届けてご覧にいれましょう!」

 

 千両役者の如き煌めきを纏ったその言葉は、多くのメディアの筆を駆り立てた。

 

『フジキセキ、クラシック三冠達成宣言。今年のホープウマ娘の野望とは』

 

 デビューを終えた翌日、腰を落ち着けた自分たちは、ふと目に映った記事の見出しを眺めていた。

 

「……取り上げられなくて不満かな?」

 

 記事を前に考え込むようにしていたエイジへそう問いかけてみると、ふっと笑った彼女は首を振りながらこう口にした。

 

「いえ、トレンドの追求には競争相手がつきものです」

 

 そんなエイジの言葉からは、特段ライバルを恐れているように感じられなかった。

 

「……フジキセキは朝日杯FSを見据えてるらしい」

 

 記事に綴られている彼女のコメントは、ジュニア級を代表するGIのひとつへの出走表明を示すもの。

 三冠候補筆頭とぶつかる気はあるのか、と言外に問うてみれば、エイジは考え込んだのちにこう答えた。

 

「戦うのはやぶさかではありませんが……皐月賞の距離を見据えるローテーションが理想です」

 

 逃げではない、と前置いて口にされたのは、あくまでもクラシック三冠と近い条件での実戦経験を望むプランだった。

 中距離以上の長さが主戦場となるこの路線を歩むなら、確かにマイルで争うこのレースよりも重要視すべき目標はあるかもしれない。

 

「なら、ホープフルステークスはどうだ?」

 

 すぐに口を衝いて出た目標は、年末に行われる中山芝2000mのGIだ。

 ここを制することができれば、三冠競走における対フジキセキの大きな布石となりえるだろう。

 

「ええ、そのように……いや」

 

 すぐ賛同するかに思えたエイジだったが、ふと思慮深い表情へと変えた彼女はブツブツと言葉の羅列を呟き始めた。

 

「マイルから中距離はローテとしてMCが……負荷があるか? いや、ここを制したウマ娘はまだ……」

 

「ど、どうした? エイジ」

 

 こちらを思考の埒外へ追いやっているらしいエイジを前に、うろたえていると立ち上がった彼女はこう告げてきた。

 

「失礼。尋ねる人が出来たもので……ああ、ローテーションはホープフルを前提に。それでは」

 

 矢継ぎ早に繰り出される言葉に若干唖然としてしまったものの、曖昧ながら頷くとエイジはトレーナー室を後にしていった。

 口ぶりから、ひとまず目標に据えるべきレースは定かだった。フジキセキの待つ朝日杯FSへの出走は、彼女の調子を見て決めることにしよう。




ちょっと競走馬編とローテ諸々の乖離が出そうで悩み中。ウマ娘編はマルゼン姐さんみたくほぼ史実のif物語になるかも。
年またいでしばらくしましたが、一向に顔を見せませんね、ジェニュインさん……。
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