知らない間にGI7個獲ったことにされてた馬 作:タケノコランバス
タから始まるダービー馬のそっくりさんがスタブロに出てきたので投稿。
「トレーナーさん、会っていただきたい方がおりまして」
ある日、練習コースに現れたエイジにそう切り出された。どうぞ、と彼女に促され姿を現したのは、はっきりいって意外な顔だった。
「カツラギエースだ! よろしくな!」
威風堂々と名乗りを上げたのは、かつて三冠ウマ娘・ミスターシービーと同じ世代でクラシックを争ったウマ娘だった。日本勢にとって初のジャパンカップ制覇を成し遂げ、エイジと同じく逃げを得意とする名バだ。
「さて、時にトレーナー。MCローテというものをご存知でしょうか」
ビッグネームの登場に驚いている暇もなく、エイジはそう問いかけてきた。言及されたのはクラシック級のローテーションの中で、『NHKマイルカップ』と『日本ダービー』を連続して出走する特徴を以て知られるものだ。開催期間が近いGIレースを続けて出走することになるそれは、マイル戦と中距離戦を制す総合的な強さが必要な苛烈極まるローテーションといえた。
「アイドルウマ娘と呼ばれたあのハイセイコーさんや、ここにいるエース先輩も走ったローテーション……私は三冠路線を志すにあたって、その道を征くつもりでいます」
右に握り拳を作りながら宣言するエイジの瞳には、すでにギラギラとした熱がこもっている。だが、彼女が望んでいるのはただそれ
「でも、それだけでは時代を変える偉業としてはまだ足りない……そうだろう?」
「ええ。その通りです」
抱いた疑問をそのままぶつければ、エイジはそう笑んでみせた。
「私はこの上に、菊花賞という一冠も添える」
続けて彼女は、クラシック三冠最後の砦である長距離走の名を告げた。『NHKマイルカップ』のおよそ倍となる距離を誇るかのレースを、エイジは獲ろうというのだ。
「変則四冠……いや、クラシックのすべてを手に入れるつもりか」
そう投げかければ、エイジは頷いて応えた。彼女が口にしているのは、三冠路線を歩むにあたって挑み得るGIを全勝するというのとほぼ同義だ。確かに、そんな勝ち方をしたウマ娘は聞いたことがない。
「そりゃあ……シービーやルドルフでもそこまでは言わなかったな」
かつて対戦した三冠ウマ娘たちの名を挙げながら驚いているらしいエース。だが、未来あるウマ娘を預かる身分としては、どうしても訊いておかなければならないことがあった。
「でも、その道は君の脚をとんでもなく酷使することになる」
それは何も、彼女だからという意味ではない。そもそも一ヶ月のうちに『NHKマイルカップ』と『日本ダービー』というふたつのレースに挑むことになるローテーションは、下手をすれば競走寿命を大きく縮ませることにもなりかねないものだ。想像はしたくないが、ひとつもタイトルを獲れないまま消耗だけして自滅、といったシナリオも十分に考えられる。
「心得ています。もし走りきれたとて、四つのうち一度でも敗北を喫せば、そこで私の夢は終わる」
エイジが言う通り、クラシック級のウマ娘しか挑むことができない三冠競走は、望む通りにいかなかったとてやり直しがきかない。そもそも一冠を望むことすら狭き門であるその道ですべてを手中に収めるには、相当なプレッシャーに晒される覚悟も必要だ。
「ですが、逆にそれぐらいがいいのです。でなければ、勝利はおぼつかない」
そう口にすると再び笑みを浮かべた彼女は、少し考え込むようにしたあとこう告げた。
「私の持論ですが……失うものがはっきりしない戦いというのは、たいてい敗北してしまうものですから」
脳みその奥から引っ張り出してきたらしいその言葉を受け、兎にも角にも意思を変えるつもりがないのがわかった。茨の道であることも承知しているはずだ。ならば実行に移そう。
「わかった。ならホープフルステークス……そして皐月賞に集中してトレーニングを積んでいこう」
改めて明確になったプランを告げると、エイジは強く頷いて頭を下げた。続けて彼女は、呼び出したきりのエースへ同じようにお辞儀をするとこう請う。
「というわけで先輩。今日は併走、よろしくお願いします。あなたの逃げを……私に学ばせていただきたい」
「へへっ、そうこなくっちゃな!」
エイジの申し出に、エースは意気揚々と応えた。
──こうして、史上初のクラシック級GI四冠に挑む試みは始まった!
ウマ娘編はアプリの育成シナリオというていで書いておりますので、レース名は2026年現在のものとしております。
史実のエース、ならびにハイセイコーの時代ではNHKマイルカップの前身にあたるレースは名前のみならず、グレードや条件ともに別物だったのですが、この世界線では先述の通り歴史改竄がなされています。そのせいでMCローテ走ってるウマ娘がとんでもない数になってるんですが、それはまた別のお話。