知らない間にGI7個獲ったことにされてた馬 作:タケノコランバス
ってな感じで投げつける第5話。
段落作りなどサイレント修正もちょこちょこやってます。
まだお気に入り登録してくださっていた皆様には、格別の感謝を……。
(おいやめろ! 動物相手に正気か!)
晴れて目覚めたサラブレッドへ、ピンチが迫っていた。
およそ一年あまりを過ごし、馬の肉体での生活に慣れきったある日、突然連れてこられた競り場で新たな飼い主を決めるオークションに出されるという地下送り待ったなしの憂き目に遭った彼は、移動に次ぐ移動の末に何やらつま先のケアを受けていたのだが、問題となったのはその後だった。
(絶対それ焼印かなんかだろ! どっかしらに一生モノのやけど負わすアレ!)
思いきり蒸気を纏いながら近づけられた円弧型の鉄製を、元人間の彼が警戒しないワケもなく、いよいよどす黒い世界がすぐそこまで迫っていると疑念を確信に変えたこの馬は、抵抗の限りを尽くしていた。
「な、なんだ急に暴れて!?」
「生産元は『おとなしい気性だ』って──!」
四肢を踏み鳴らす暴挙を前に、周囲は混乱に包まれる。
本当なら誰かしらを一発
「さすがにこれでは無理です!」
「クソ、そんな慌てられる場面でもないってのに──!」
タイミングを捉えあぐねているらしい人間たちを前にほくそ笑む暇もなく、ひたすらに地団駄を踏んでいたのだが、さすがにそう長く体力が保つはずもないことは悟っていた。
そして若干疲労感を覚え始めたタイミングで、状況は動く。
「すいません! これをひとまず──!」
「お、おう!」
するとこちらをなだめようとしていた人間が、何かを受け取るとそれを目の前に差し出してきた。
(え、にんじんだ、ウメェウメェ……ってバカヤロー!)
唐突に餌で釣ろうとしてくる安易さを前に、思わず食いついてノリツッコミに走ってしまう彼だったが、人間らはその隙を逃す凡愚ではなかった。
微妙にかじったにんじんを突き返そうとした矢先、ジュー、と小君良い音が足元から聞こえ、思考が真っ白に染まる。
(あああぁぁーっ……あぁ?)
肉体を反り返らせて甲高い鳴き声を上げながらも、思いのほか伝導された熱が小さかったことに肩透かしを食らった彼は、熱源である後ろ足へ今一度意識を向けると──。
(……あぁ、そんなに熱くないや)
確かに例の鉄製を足裏へ押し付けている様は認められたが、それによる苦痛は一切生まれなかった。せいぜい「物越しに何か温かい物を押し当てられている程度」が関の山な感覚に、とんでもない徒労感を感じ取った彼は一切の動作を停止させてしまった。
「止まった……?」
「おいおい、さっきまでの暴れようは何だったんだよ」
一度事を済ませれば、あとは慣れた顔で整然とする様に唖然とする周囲。
ちなみにこれは装蹄と呼ばれる作業であり、蹄の保護という競走馬にとって重要な役割を持つ蹄鉄を着けるための手順だったのだが、この馬にとっては知る由もなかった。
(ヒィッ、ヒィッ……!)
そして間もなくレースのためであろう訓練に身を投じることになった彼であったが、事はそう易々と運んでくれなかった。
(マジで誰この人!? なんかやたら引っ張ってくるし走りづらいんだって!)
上に人間が跨った中での走行は想像以上に神経を使わされるし、何やら咥えさせられている金具にて頭を後ろへ引っ張られるので、ろくに全力で走ることができなかった。
(くそ〜、なんでアイツら平然と走れるんだよ)
他に走っている馬の様子を伺えば、特段邪魔を意識することなく走れているように映るため、元人間ゆえに乗馬の概念を持っていたのが仇となったのだろう。
(このままじゃ、マジで地下行きだぞ)
勝手の異なるこの肉体では、ストレッチ等義務教育の一環で培った知識はほとんど役に立たない。
ならばスタミナ配分であるとか、動物に扱いきれない概念を活かすことで差をつける他ない訳だが、それが肝心の騎手に阻まれるようではやってられない。
(どうすりゃいいんだ、痛いのも御免だ)
しかしそれを伝える術のない彼は、鞍上を降りた人間が、近くにいた別の人間のもとへ駆け寄っていく様を恨めしげに見送る他なかった。
「どうだ、新顔の調子は」
当日分の調教を終えた馬を見守っていた調教師が、駆け寄ってきた騎手へ声をかける。
「ああ、親父。随分なじゃじゃ馬だよ、こいつは……」
調教師にとって息子にあたる彼は、くたびれたようにそう告げる。
近頃珍しくもなくなった競馬親子と呼ばれる部類の二人は、どちらも現在の職には今年から就いている新参だった。
「だろうな。返事がそれ以外だったら、相当のバカと笑うか勘当するかしてたとこだ」
「冗談はよしてくれよ親父……」
苦笑気味に頭を掻く息子とのやり取りに一通り興じたあと、件の馬へもう一度視線を向ける。
「ま、預かっちまったもんは仕方ない。やれるところまでやるだけだ」
食い扶持はこいつに掛かってるしな、と内心で吐き捨てながら決意を新たにする調教師。
すると、ふと思いついたように彼は息子にこう口にした。
「……そうだ。統制が取れんなら、いっそ馬なりにさせるのはどうだ?」
手綱等による操縦を放棄する。それは気性の荒い馬にはよく用いられる騎乗法であり、この男が騎手として現役であった頃の経験も手伝ってすぐさま弾き出された一手だ。
「あ、あぁ。試すくらい別にいいけどよ」
やや躊躇うような息子へ、調教師はやや苦笑を見せる。
馬の思うがままにさせたとしても、無論うまく事が運ぶとは限らない。
ならば、せめて拙くとも自分の制御下に置いておきたいというのが、偽らざる本音なのだろう。
「なに、これからそんな馬は何百何千だって相手にしなきゃならんのだ、早めに腹くくるこったな」
そう告げて背中を叩いてやると、どこか忌々しげに頭を掻いている息子を横目に他のスタッフのもとへ向かう。
早々に背を向けたのは、指示を急いだためか、かつての自分を重ねて緩んだ表情を隠すためか。
──彼らが厩舎へ迎え入れたサラブレッドとの行く末は、まだ誰も知る由もなかった。
出したからって続くとは限らんからな!
ちなみにこの競馬親子さんは無からPOPした存在なので元ネタはないです。
なにやらぱかライブでも新ウマ娘が来るというし、ああ供給の恐ろしや恐ろしや……。