【前線基地/食堂 [21:30]】
広い食堂内には、2人しかいません。
「というわけで、質問の件ですが」
「いいですよ、なんなりと」
いつも通り、目元に鉢巻をまき表情が読めない、アオイ一曹。
私は軽い質問からしていきます。
「えっと、ならば戦鋼の起動スイッチに────」
「ふむ、基地の内部にある宝玉について、とかではないんですか?」
沈黙。周囲の空間がやけに広く感じます。
「なぜ、そう思うんですか」
「貴方、がそう思ったからですよ」
思わず耳に手を当ててしまいます。
『ブラフだ、気にするな』
「(ナビィっ。ですが彼女は私の考えを)」
『私がいるんだぞ。読心などさせてたまるか』
脳内の幻聴は自信満々に言っていますが、私は気が気でありません。
「冗談はやめてほしいです」
「反応、を見れれば十分というところですね」
アオイ一曹は気にしない様子で言葉を続けます。
「正直、宝玉なんかはくれてやっても構いません」
「どういうことですか」
「あの、保存庫にあるモノって大半がゴミですから」
保管庫は大事なモノを守っているのではありません。
用途不明で危険だと思われる物が仕舞われているのです。
故に、置かれている大半の物がゴミと認識されています。
「────ですが、気に食わないのも一つ」
アオイ一曹の雰囲気が穏健から冷徹へと変わります。
それは、椅子ではなく、断頭台に座っているような冷たさでした。
「意思なき少女といいうのは、少々好みではありません」
アオイ一曹は手を動かし、極彩色の輝きを。
「この際、貴方が逃げたいのか、死にたいのか、ハッキリさせましょう」
私の首筋には、薄氷の刃が置かれるのでした。
◇◆◇
【前線基地/食堂 [21:35]】
周囲の気温は下がり、先程まで飲んでいたコップには霜がふっています。
「まず、貴方は潜入を隠す気はありますか?」
「私を疑っていると」
「疑念、ではありません、確信しているのです」
アオイ一曹は指を一本立てます。
「一点。戦鋼が動かせないのこと」
「あれは仕方ないこと、だったので」
「優しい教官は誤魔化してくれましたが、PNK-2を訓練機としている学校はありません」
戦鋼の訓練には膨大な時間がかかります。
軍隊に入隊してからすぐに乗れるわけではなく、戦車訓練期間を経て、戦鋼予備訓練生となります。
もちろん、この時の私が知る余地はありません。
「二点、食事ですね」
「栄養剤は食べていますが」
「一食、の栄養剤だけで動けるとはすばらしい体ですね」
どうやら朝に栄養食しか食べていないことは、把握されていたようです。
「貴方、の臓器は死んでいるのですね」
「そんなことはありませんよ」
「基地、トイレは水リサイクル方式なので、ゴミ捨ては感心できませんよ」
置かれるのは、数本のアンプル。
私が毎食の代わりに飲んでいる、アンプルです。
「そう、経口補給液アンプル」
「私の物と決まった訳では」
「軍隊でも取り扱わないレベルの劇薬ですよ」
経口魔力補給液アンプル。私が体内の魔力欠損を補うために渡されたモノです。
魔力不足による臓器不全。それが私たちの欠点でもあり、研究所に居た理由でもあります。
(アンプルだけで、食事が要らない弊害がここで出ましたか……)
「三点、言葉ですね」
最後にという頭文字をつけて、アオイ一曹は話します。
「言葉ですか? 訛りなどは無いと思いますが」
「コレ、何と言いますか」
アオイ一曹は手から極彩色の光りを見せる。
「
「はい、そうですね」
「それが何か?」
「教本、では魔粒子《マナ》と載っていたハズですね」
魔粒子と魔力の違い。どちらもおなじものを指す言葉です。
正確には魔力を発見した学者が気に食わないから、魔粒子と名付けただけです。
ですが、この言葉を使う者たちに明確な違いがあります。
「それは、方言みたいなモノです」
「この、世界の敵はこれを“魔力”と呼ぶそうです」
「教えた人が訛っていたので」
「是非、あってみたいですね、その異世界の方に」
体がずっしりと重くなります。
いえ、重くではなく、動かなくなっているが正解ですね。
既にコップの中身が凍るほど、周囲は冷えていました。
「さて、どうしますか────ここで死にますか、それとも逃げますか」
私は瞳を閉じます。
回答は既に、決まって、
『全く、先が思いやられるな』
「(いえっ、ナビィっ、私は)」
『いいから、変われポンコツッ』
脳内の幻聴《ナビィ》は勝手に体の主導権を持っていきます。
「では、回答は」
「────ここで貴様を殺す、というのはどうだ」
開けられた瞳には、赤が宿っています。
体は動かずとも、目で殺せそうなほど、威圧感があります。
「では、保護者はお帰りになってください」
えいっ。と可愛らしい声が響いたかと思うと、私の体に引き戻されます。
感じるは肉体の重さ。強制的に操作権を戻されたようです。
「げほっ、げほっ、戻った?」
「はい、回答を聞きたいのは貴方の口からなので」
そう視線を向けるは、アオイ一曹。
「(そう言われましても……)」
必死に頭をまわしますが、回答は変わらず。
ついでとばかりに思い出すのは、基地であった嫌な事や、大変だったことばかり。
そんな、ちょっとだけ長い沈黙を経て、私は口を開きます。
「回答は────私はここで死ぬことです」
「あら、そうですか」
首元の薄氷はキリキリと首に刺さります。
「理由はそうすれば、私は兄弟の元に行けると思うからです」
「では、兄弟たちによろしくと伝えておいてください」
赤い血がつーと流れるが、私は気にしません。
やっぱり、何となくですが、言いたい事は決まっていたからです。
「────ですが、それは今日じゃないかもしれません」
「よく分かりませんが、この基地にもう少しだけ居たい、と思ったから、です」
たった数日ですが、そんな気持ちになってしまう私は侵入者としては失格なのでしょうか。
そう、私の視線は天井を向いてしまいます。
「ふふ、ふふっ」
「何かおかしかったでしょうか」
目に映る、アオイ一曹は楽しそうに、満足そうに笑います。
「殺す、のは来週あたりにしておきましょう」
「では来週もまた精進したいと思います」
「では、来週も頑張ってください」
気付けば周囲の寒さは消えており、コップの中身は普段通りの液体でした。
「あのー、最後に一つ聞いていいですか」
「何でしょう、起動スイッチなら……」
そうではなく、と私は言葉を紡ぎます。
「────メイド服って容疑の炙り出しと関係あったんですか?」
一瞬、考え込むアオイ一曹。
ですが視線はすぐに私に向きます。
「ああ、アレですか」
「はいアレです」
「アレ、はタダの趣味です」
「それは本気で」
「善意、100%混じりっ気のない趣味です」
思わず冷たい視線を向けてしまう、私。
「ふふっ、そんな目で見ないでください、ちょっとコウフンシマス」
くねくねと動き出す、アオイ一曹。
「言訳、ですが、こんな仕事についているので、それなりのストレス発散も欲しいので」
「だから新規隊員にメイド服を着せていると」
「ええ、大丈夫です。鬼殺し教官も着たことがあります」
「別に誰が着たのかが問題ではありません」
「では、つまりチャイナ服の方が着たかった、と」
「別に服に不満があった訳でもありませんっ」
思わず大声で否定をする、私でした。
◇◆◇
【前線基地/食堂 [22:00]】
「────あら、キイロですか」
「あれ、エイチちゃんに、アオイさんまで」
泥で汚れたキイロ少女は、とたとたと走ってきます。
「折角だし、皆で風呂に行かないッ」
「私は疲れたので遠慮しておきます」
そうやって自室に帰ろうとしますが、
「駄目だよ、エイチちゃん。風呂は命の洗濯なんだから」
キイロ少女に背中をぐいっと掴まれます。
「あのー、風呂に行くのは任意では」
「エイチちゃんは強制に決まってるじゃんッ」
キイロ少女の腕の力は相変わらず化け物レベルです。
「風呂に皆で入る。親睦が深まる、戦力アップの算段だよ」
「そんなゲームじゃないんですからっ」
「むむッ、エイチちゃんは悪い子だなぁ」
こうなれば、と言った顔でキイロ少女は、別の人間に話題をふります。
この場には3人しかいませんから、民主義的にいきますと、最後の一人が大事ですね。
「そう思いますよね、アオイ先輩ッ」
「はいッ、そう思いますッ」
食い気味なアオイ一曹。
どうやらこの場に止めてくれる人間はいないようです。
結局、
『ところで任務は大丈夫か』
「場所は分かったのでなんとか」
『では、どうやって開けるんだ』
「……気合ですかね」
それは明日考えていきたいと思います。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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