【ギルド総本山/中腹/工房街 [現地時刻:昼すぎ]】
街一番の工房はどこだと聞かれたら、数多くの鍛冶師が、自分の所だ、と答えるでしょう。
ですが、中には他人の工房を教えてくれる鍛冶師たちもいます。
それは彼らが負けを認めた訳ではなく、敬意をもっているからです。
工房名“ツインベロス”。
ギルド総本山で上位にはいる、大きな工房です。
ですが、今日は閉店中の看板がかかり────入口は盛大に蹴破られていました。
「あの、そので、ごんす」
「なんだ。興味があるって言ったのはお前ダろ」
工房内部では、魔法陣が光りつづけ、歯車が回り、溶けた鉄が流れでます。
「いや、そうでごんす……が」
「なら、つべこべ言わずついてくりゃいいんだ」
大鍋は、赤色に染まっており、内部は泡立っています。
ボコボコ。湯気とともに吐き出される熱は、室内に充満していきます。
赤タイルを越えて、機具を越えて、赤レンガの壁でゆらめくのは、座っている影と、立っている影です
「まずハ、黄金騎士の説明につイて────」
座っているのは、青の着物よりも蒼い、長髪をたらしている龍姉。
座り心地が悪いのか、持っているキセルで、定期的に椅子を叩きます。
「オイ、揺れるナ」
「馬鹿ッ、叩くな、叩くんじゃねえェ」
「弟、無理に反論するな。俺に振動が伝わるぅうう」
下にひかれているのは、柴犬、豆柴とかかれた服を着ている人間達です。
柴柴犬コンビこと、彼らに生えている犬耳は、力無く萎れています。
「このアマ……急に入ってきたら、いきなり工房をよこせだとォ。兄貴ふざけていると思いませんかッ」
「龍は欲しいモノは、そうやって手に入れるカラナ」
「俺達を泣く子も恐れるツインベロスだと知っての狼藉かァ。兄貴やっちゃいましょうよッ」
「二頭の犬は骨が多くて食いにくいんだなア」
「馬鹿弟……だから、俺が下にひかれていることを、忘れやがって」
「あっ、すみませんした、兄貴ィ」
「余計に動くな……」
下の様子を見て、カカカと喉をふるわす龍姉。
手遊びでキセルを回し、思いついたように、彼らの首にあてます。
「いいやア。それとも────お前たちも食ってやろうカ、な」
「な、食えるもんなら食ってみろ。俺達は最近、油ものの取りすぎでしつこいぞ」
「いいから弟、あまり龍を刺激するようなことを言うな」
「兄貴も、兄貴っすよ。急にしおらしくなっちゃって」
「馬鹿、重いってのもあるがな、相手は青い龍だ、ギルドを破壊した化物だぞ……」
「でも青い竜ってもっとデカい奴じゃなかったですっけ」
「人型にもなれんだよ。あの、バケモンは」
兄貴の言葉に、急に体をふるさせてしまう、柴柴犬コンビの片割れです。
「あの、大丈夫でごんすか……」
立ったまま心配しているのは、ゴンスさんとなっています。
「巨人族の兄ちゃん、気持ちは有難いが今だけは椅子として扱ってくれ」
「間違っても皆に言いふらすんじゃねーぞ。そしたらオメー巨人族でもアレだからなァ」
「おい、動くナって言っただろ」
「「はいいいッ」」
悲鳴が聞こえる工房で、ゴンスさんがオロオロとしている間にも、龍姉の説明はつづき、一端の区切りをみせます。
「────どうだ、分カったか?」
「────だいたいは分かったでごんす」
彼が聞いた内容は、あまりにも人を馬鹿にしたものでした。
人をモノのように扱う技術といえばいいのでしょうか。
これが龍にとっては、おもしろ半分で生み出した技にすぎないのですから、なおさら質が悪いですね。
「で、聞いた上でオメーがどうするか、だ」
「やるでごんす」
「渋ったりはしねーノか」
「それで彼女が勝てるなら────やるでごんす」
ゴンスさんは、龍姉が忠告とばかりに止めてくれますが、頷き続けます。
「一途ナこった」
「いや、これはそういう感情じゃあないでごんす」
「じゃあ、オメーさんが頑張るのはなンでだ」
「これは憧れとか、焦燥とか、そんなどうしようもならない気持ち……でごんす」
「理解できねー気持ちダな」
と、立ち上がるのは龍姉です。
右手で髪をすくって、くるっと、髪を纏めますと、
「────まっ、だがらこそ気ニ入った」
左手にいつの間にか持っていたかんざしで、髪を綺麗に留めます。
雰囲気が変わります。いつもの酔っぱらいではなく、古流な職人がたたずんでいるようでした。
「じゃあ、テメーらの素材を使うぞ」
「あァ、なめとんのかワレぇ」
どうやら椅子にされていた柴柴犬コンビは、力は無くとも、譲る気はない様子。
「元気な連中ダな」
「あったりめーだ。こっちはドワーフの頑固おやじ仕込み」
「例え、体がボコされようとも、工房の一切に触れさせる気はねェッ!!」
タイルを握りつぶすように掴み、ふらつく体を無理やり起こしていきます。
そんな彼らを楽しそうに見守る龍姉。今の彼女にとっては誰であろうと愛おしくみえる存在です。
「馬鹿ガ、買い取るって言ってんダよ」
ドスン。彼女のアイテムボックスが開かれ、
「「あひゅ?」」
ジャラジャラ。崩れ落ちるのは金色の硬貨。
積み上がっているのは、すべて金貨の山という、度肝を抜く光景です。
「ちょっと少ないガな、カカ」
「「いえいえ、滅相もありませんッ!!」」
さっきまでの反抗的な態度はどこにいったという、柴柴犬コンビです。
丁寧にお辞儀をして、急にコネコネとし始めるあたり、彼らもお金には勝てないようです。
「じゃあ、アイテムボックスを片っ端から見せてもらおうか」
「へい、どれからいきますか、姉さん」
「まずはこっちの武器からいきましょう」
わかればよし、とばかりに物色を始める龍姉。
そんな様子をゴンスさんは、あぜんと見ていることしかできませんでした。
「中々に良質な鉱石がそろってんじゃネーか」
「へへっ、そりゃあ一流の店ですから」
「そうですよ、どんな鉱石だってありますよ」
ドアを開け、大型のアイテムボックスを漁り、積み上げられていく鉱石たち。
ようやく我に返ったゴンスさんは、鉱石を炉まで運んでいきます。
「だガ、肝心な物が見当たらねエな」
「肝心なモノでごんすか?」
龍姉の呟きを聞いて、足を止めるゴンスさんです。
「そうダ、できればいい感じに想いが詰まった一品があると楽なんだガな」
「一級品の武具ならありまっせ」
「悪イな、今回は初心者が作るような贋作の方がイい」
「オイオイオイ、龍の姉さん。俺達の一級品が贋作に劣るってんのか」
「違ウ。魂を込める武具ってのはな、魂になじまねーといけねえんだ」
「つまるところ、どういうことでごんすか?」
「作り手が死ぬほど苦労しているほど、いいってコった」
頭をかいている龍姉。
ふと目に留まるのは、工房の奥に配置されている普通の倉庫ドアです。
「おい、あそこには何があるんだ」
「あそこはジャンク品の置き場所だ。気にしないでくれ」
「なんダ、ちょうどいいじゃネーか」
ドアが開け放たれ、工房の灯りが、室内を照らします。
一冊しか入ってない本棚、ボロボロになっている机、油まみれのカーペット、どちらかと言えば、狭い部屋を再現しているようです。
「おまえらナあ、実際の倉庫ぐらいは整理してくれ」
「うるせー、それが綺麗な状態なんだよ」
「どこがだヨな」
部屋の中央には、大きな布がかかっており、膨らんでいます
「なんダ、これは」
「バカ猫が毎日飽きもせず、触っていた人形だよ」
「まったくだ。動きもしねーのに、体油まみれにして……こっちの身にもなりやがれ」
捲られていく布、下から転がってくるのは、ボルトや、ナット。
「ほウ」
「また転がったよ、これ」
「いつも通りに後で片づけときゃいいのさ」
つづいて出てくるのは、毛むくじゃらになっている脚部の配線。
それを見た龍姉は、ついついニヤリと笑ってしまいます。
「────なんだ、あるじゃネーか」
白日の下にさらされるのは、鋼鉄の機体。
鎧は原型がとどめていないほど変えられており、頭はありません。
ですが肩にはPNK2の文字。そして乱雑な筆跡で“娘娘猫の物ニャ”と書かれていました。
◇◆◇
決勝戦が始まるまでざっと12時間。はたして鎧は完成するのか。
答えは────もちろん、完成しません。
魂を込めた一品を作るのですから、龍姉でも24時間は欲しいところ。
夜を越えて、朝になっても工房から槌を振り下ろす音が止むことはありませんでした。
ここまでよんでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。