紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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102 猫と試される勇気と決勝戦

【ギルド総本山/コロシアム/貴賓席 [現地時刻 昼]】

 

「皆さま、本日も満員御礼ありがとうございますッ────野郎共、決勝戦観戦の準備は出来ているかあああァ!」

「「「うおおおおおおおおおおおおッ!!」」」

 

ガラス越しの壁がふるえます。

 

触ってみると自分の手にも伝わってきます。

 

コロシアムを見下ろすような貴賓席。赤金髪少女(わたし)は眺めることしかできませんでした。

 

「いいんですか、私に手錠もしなくて」

 

背中のほうに聞こえる声で、独り言をしゃべります。

 

透明な壁にうつるのは、2人。赤髪の少女たちです。

 

「いいわけがないでちッ。キイロでちはガッチガチに固めて、ギルドの地下に放り込んでおくべきでちッ」

「いえいえ、私としては彼女と一緒に楽しみたいと思いまして~」

 

大きな少女が撫でようとしますが、小さな少女はその手を弾きます。

 

「かああ、甘い、甘いでちよ、クイーン」

「そんなに彼女のことが怖いんですか、マウスガール?」

 

「ち、違うでち。でちはただ逃げられることを心配しているでちッ」

「私としては彼女は逃げないと思いますよ」

「なら、その彼女に聞いてみるでちッ!」

 

マウスガールさんは、足音を鳴らしながら、私を後ろから指さします。

 

「いいでちか、へたな気でも起こしたら、一瞬で地面に這いつくばる事になるでちから」

「それは、ここに来るまで3回ぐらい言ってませんでした?」

 

「それは3回ぐらいキイロが逃げようとしたからでち」

「お腹が減ったんですから仕方ないじゃないですか」

「ほら、この様子でちよッ!!」

 

クイーンさんに近寄よるのは、足音を小さくしていく、マウスガールさんです。

 

「今すぐにでも、こんな遊戯を見てないで、このキイロを宝物庫にでもぶち込んでおくべきでちッ」

「だから、私としては「さあああてッ! まずは選手の入場ですッ!!」────ほら、大会が始まりますよ」

 

ガラス越しの壁が再びゆれます。

 

透明な壁の向こうには、立ち上がるほど沸いている観客たちです。

 

そして、その中には、ギルド主任と、娘娘猫さんの姿もありました。

 

【ギルド総本山/コロシアム/一般席 [現地時刻 昼]】

 

一般席に座っている、ギルド主任は写真を見ていました。

 

魔導具で隠し撮りしていた、秘密の写真です。

 

赤金髪少女の写真が多いようですが、最近はゴンスさんや、娘娘猫さん、ツインテさんの写真もあります。

 

「やっぱり、最近はニャン子ちゃんよねえ」

 

旗を角材に巻きつけている写真。

 

意気揚々に工房のドアから出ている写真。

 

体より大きい旗をかつぎながら、階段をのぼる写真。

 

「おいアンタ、せっかくの決勝戦だぜ楽しまなきゃ」

「大丈夫よ、これでも楽しんでいるから」

「そうなのか、そりゃあ悪いことを言ったぜ」

 

左の観客は楽しそうに立ち上がって、獣王の応援を始めます

 

「────さて、どうなることやら」

 

ギルド主任の視線は、右下にむきます。

 

そこには、1人だけうずくまっている、猫がいました。

 

「ははは、飲んだ水の味がしないニャ」

 

手に持っているコップはぶるぶると震えており、水は零れています。

 

「んー」

 

そんな様子を見ながらも、呑気に、勇者バーガーを取り出すのはギルド主任です。

 

2つ買ってありますが、1つは自分の分とばかりに食べ始めます。

 

「────獣王選手、圧巻の無言入場ですっ」

 

「うおおおお、獣王流石だぜえ」

「しびれるうう、これだよ」

「獣王様ァ、こっちむいいてえええ」

 

全員が立ち上がる、観客たちです。

 

娘娘猫さんは、その様子をみてもっとおびえ始めます。

 

「ま、まわりが壁のように見えるニャ。悪魔ニャ、悪魔に囲まれているニャ」

 

「────続いてはくらげ選手。若い手ながらも決勝戦までやってきた実力は伊達ではありません」

 

「くらげええ、応援してるぞォ」

「おめーの魔法と、魔導具と魔法に賭けてんだからなあ」

「獣王の懐に入って、ガツンとくらわしたら、オメーでも勝てる、ぜってえ勝てるからよお」

 

遂には腕を乱舞させ始める、観客たち。

 

娘娘猫さんは、頭を抱え、耳を閉じ、石のように体を固くさせます。

 

「もうすぐ試合が始まり、そして終わる。終わる時には、やらないといけないと分かってるのに、肝心な時になってどうしようもないぐらいに震える……ニャ」

 

ですが、ギルド主任はなにもいいません。

 

彼女の性格なら、茶化したりしそうなものですが、何もいいません。

 

「やっ、やっぱり今からでも辞めてもいいかニャ……」

 

娘娘猫さんは、手に持っていた旗を見つめます

 

「キイロニャは捕まったし、ツインテニャは来ないし、ゴンスニャは音沙汰ないし……」

 

「そもそも、獣王ニャが負ける可能性だってあるのニャ……だからニャがここで頑張らなくても絶対に悪くないのニャ」

 

「そうニャ、だからニャが諦めても「くらげ選手、何やら発言があるそうですッ」────余計なことをしないで、ほしいニャ……」

 

「なんだァ、結婚報告かァ!」

「おいおい、そういうのは試合が終わった後で言うんだよッ」

「さっさと赤髪の少女とくっついちまいやがれ、マセガキがッ」

 

好き勝手にいっている観客たち。

 

娘娘猫さんは、恨めしそうに彼らを睨みます。

 

「こんな、こんな気持ちになるぐらいなら「みなさん、僕は降参します」────へ、ニャ?」

 

彼が言った言葉が理解できず、制止してしまう観客たち

 

唖然としている中、彼の二の句が告げられます

 

「ここには僕の負けを必要としている方が1人います────」

 

「たった1人のために、皆を裏切ってしまうことを許してください。でも、」

 

「その人は体が小さくて戦えないけど、それでも運命に立ち向かおうとすり凄い人なんです!」

 

「────僕にはできない生き方。だからこそ、僕はここで敗北を選びます!!」

 

観客の反応は、苛烈でした。

 

ふざけるなァ、金を返せェ、腰抜けがァ、そんな罵倒がくらげ少年に降りかかります。

 

ですが、彼は一歩も動くことなく、ただただ手を強く握りしめるだけでした。

 

「ニャン子ちゃん、今更だけど応援とかいるー?」

「いまさらすぎて、不要なのニャ」

 

娘娘猫さんは、角材を掴みますと、急いで会場の階段を下っていきます。

 

急ぎ過ぎて前に転びそうになるのも堪えて、最前列、そして障壁ギリギリへ。

 

「落ち着いてください、皆さんッ 落ち着けって言ってるんですッ! もうここで優勝を宣言しますからねッ!!」

 

「天上天下大会優勝は獣王「待ったニャァァ!!」────いや、今度は、迷惑客ですか」

 

最前列に、旗がはためきます。

 

「ニャはここに宣言をするのニャ────優勝は獣王にあらず、と」

 

彼女の鋭い声は、非難をきりさいて、獣王の顔を上にむかせます。

 

「子猫、たわごとか?」

「事実ニャ」

 

「俺の勝利のどこに疑いがあるという?」

「貴様は、ゴンスとの戦いで、力で勝っていないニャ」

 

「ならば何の差があったという」

「鎧の差ニャ。キイロニャの防具は……どうしようもなく鈍らだったのニャ」

 

獣王はバツの悪そうな顔をして、吐き出すようにいいます。

 

「────言いがかり、にすぎん」

 

「────なっ、ニャの言ったことが信じられないのかニャ」

 

「ああそうだ。部外者の子猫が言ったことなぞ、欺瞞にすぎんわッ」

「な、ニャだから、ニャだから信じないっというのかニャッ」

「そうだ。貴様ではなく、ゴンスが言っていたのなら信じてもよかったがな」

 

獣王は目線を逸らした後、娘娘猫さんに背中を向けます。

 

「ごめん、キイロニャ……ニャだったから無理だった────」

 

角材を握っている肉球に零れるのは、涙です。

 

雫はゆっくりと地面に落ちる、ことはありません。

 

[────いいえ、アナタだったからこそ、私が力を貸かそうと思えるのですよ]

 

あたたかな光が、落ちる雫を溶かします。

 

肉球を乾かし、めじりにたまった涙を消しさって、光はさらに強くなります。

 

「この輝き、まさか聖女の旗ッ! な、馬鹿なッ!!」

 

狼狽える獣王、唖然とするしかない観客、光のなかでひっしに旗を握る娘娘猫さんです。

 

光りは見るモノを圧倒して、いえ、わりと楽しんでいる獣人がここにいます。

 

「ふふふ、ははは、やるな猫の獣人ッ いいだろう、この戦いヤツとの決着なしで、優勝なぞは要らぬッ!!」

 

拳をかかげ、観客に意味をしめす獣王です。

 

呼応するように、アナウンスには不思議な声が入ります。

 

「────ならば、私も認めましょう」

 

「ほう、聖女が個人に寄るとはな」

「私としては旗を輝かされてしまっては、認めるしかありませんから」

「ならば決勝戦を越えた決勝戦、とでもいこうか」

「私としてはこうです、かね」

 

コロシアムの障壁に文字がきざまれます。

 

超・決勝戦。ほんらい決勝で終了の大会ルールすらかなぐり捨てたエキストラ戦です。

 

「みんな、ありがとう、ニャ」

 

娘娘猫さんはゆっくりと旗を降ろすのでした。

 

 

【ギルド総本山/コロシアム/一般席 [現地時刻 昼]】

 

階段を下りてきたのは、紫美人のおねーさん、ことギルド主任です。

 

勲章とばかりに勇者バーガーが投げ渡されます。

 

そして、ついでとばかりに質問も投げられます。

 

「ところでなんだけどー? ニャンコちゃん誰が獣王と戦うの?」

「もぐ、も……はっ、たしかにニャッ!」

 

娘娘猫さんは、バーがをひと口ふくんだところで、事の重大性に気づきます。

 

赤金髪少女はいませんし、ゴンスさんや、ツインテさんもいません。

 

つまり、二人のうちどちらかが戦わなければなりません。

 

「ま、まずいニャ、何も考えてなかったニャ」

「だよねー」

 

ギルド主任は指をたてて、提案をします。

 

「じゃあ、お姉さんが鎧役やるから、ニャン子ちゃんが乗る」

「ニャ、ニャが操縦をするのかニャッ⁉」

 

「駄目なら、ニャン子ちゃんが鎧役をやって、私が乗る」

「もっと大変になったのニャッ!?」

 

娘娘猫さんは食べるのを諦めて、頭を抱えます。

 

実際、獣王は娘娘猫さんが頑張っても勝てませんし、ギルド主任単体でも無理です。

 

「他には観客を使って、肉塊ゴーレムを作るとかあるけど」

「それは色んな意味で駄目なのニャ・・・」

 

娘娘猫さんはくらくらする眉間をおさえて、考えます。

 

脳を回転させますが、妙案が思いつくわけもなく、結局は初期案に戻ります。

 

「思いつかないし、最初のプランでいくか、ニャ」

「じゃあ、ニャン子ちゃんが肉塊のゴーレムにのるプランね」

 

「にゃんかッ、なんか聞いてた話と違うのニャッ」

「よくよく考えたら、アイテムボックスにアクセスする権限取り上げられててー」

 

ギルド主任は、手をおおきく振り上げて、お手上げといった様子です。

 

「い、今からでも工房にもどって────ニャ、あの影は?」

 

猫の声に導かれて、皆が注目するはコロシアムの選手入場口。

 

「ニャ、なんであの鎧があそこにあるニャ⁉」

「ニャン子ちゃん、今度の鎧はゴーレムにしたって話」

「してないニャ。そもそもなんで腕が完全に治っているのニャ⁉」

 

晴天の空に照らされて、輪郭を輝かせるのは、ヘンテコな鎧です。

 

お手製の面影と、騎士の面影がまざっている鎧は────きっと、小さな巨人の彼なのでしょう。

 

「す、すでにッ、コロシアム内部にはゴンス選手の姿がッ!!」

 

甲高く響きわたる実況の解説。

 

コロシアムの歓声は、再び最高潮に達します。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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