【ギルド総本山/コロシアム/貴賓席 [現地時刻 昼]】
「皆さま、本日も満員御礼ありがとうございますッ────野郎共、決勝戦観戦の準備は出来ているかあああァ!」
「「「うおおおおおおおおおおおおッ!!」」」
ガラス越しの壁がふるえます。
触ってみると自分の手にも伝わってきます。
コロシアムを見下ろすような貴賓席。
「いいんですか、私に手錠もしなくて」
背中のほうに聞こえる声で、独り言をしゃべります。
透明な壁にうつるのは、2人。赤髪の少女たちです。
「いいわけがないでちッ。キイロでちはガッチガチに固めて、ギルドの地下に放り込んでおくべきでちッ」
「いえいえ、私としては彼女と一緒に楽しみたいと思いまして~」
大きな少女が撫でようとしますが、小さな少女はその手を弾きます。
「かああ、甘い、甘いでちよ、クイーン」
「そんなに彼女のことが怖いんですか、マウスガール?」
「ち、違うでち。でちはただ逃げられることを心配しているでちッ」
「私としては彼女は逃げないと思いますよ」
「なら、その彼女に聞いてみるでちッ!」
マウスガールさんは、足音を鳴らしながら、私を後ろから指さします。
「いいでちか、へたな気でも起こしたら、一瞬で地面に這いつくばる事になるでちから」
「それは、ここに来るまで3回ぐらい言ってませんでした?」
「それは3回ぐらいキイロが逃げようとしたからでち」
「お腹が減ったんですから仕方ないじゃないですか」
「ほら、この様子でちよッ!!」
クイーンさんに近寄よるのは、足音を小さくしていく、マウスガールさんです。
「今すぐにでも、こんな遊戯を見てないで、このキイロを宝物庫にでもぶち込んでおくべきでちッ」
「だから、私としては「さあああてッ! まずは選手の入場ですッ!!」────ほら、大会が始まりますよ」
ガラス越しの壁が再びゆれます。
透明な壁の向こうには、立ち上がるほど沸いている観客たちです。
そして、その中には、ギルド主任と、娘娘猫さんの姿もありました。
◇
【ギルド総本山/コロシアム/一般席 [現地時刻 昼]】
一般席に座っている、ギルド主任は写真を見ていました。
魔導具で隠し撮りしていた、秘密の写真です。
赤金髪少女の写真が多いようですが、最近はゴンスさんや、娘娘猫さん、ツインテさんの写真もあります。
「やっぱり、最近はニャン子ちゃんよねえ」
旗を角材に巻きつけている写真。
意気揚々に工房のドアから出ている写真。
体より大きい旗をかつぎながら、階段をのぼる写真。
「おいアンタ、せっかくの決勝戦だぜ楽しまなきゃ」
「大丈夫よ、これでも楽しんでいるから」
「そうなのか、そりゃあ悪いことを言ったぜ」
左の観客は楽しそうに立ち上がって、獣王の応援を始めます
「────さて、どうなることやら」
ギルド主任の視線は、右下にむきます。
そこには、1人だけうずくまっている、猫がいました。
「ははは、飲んだ水の味がしないニャ」
手に持っているコップはぶるぶると震えており、水は零れています。
「んー」
そんな様子を見ながらも、呑気に、勇者バーガーを取り出すのはギルド主任です。
2つ買ってありますが、1つは自分の分とばかりに食べ始めます。
「────獣王選手、圧巻の無言入場ですっ」
「うおおおお、獣王流石だぜえ」
「しびれるうう、これだよ」
「獣王様ァ、こっちむいいてえええ」
全員が立ち上がる、観客たちです。
娘娘猫さんは、その様子をみてもっとおびえ始めます。
「ま、まわりが壁のように見えるニャ。悪魔ニャ、悪魔に囲まれているニャ」
「────続いてはくらげ選手。若い手ながらも決勝戦までやってきた実力は伊達ではありません」
「くらげええ、応援してるぞォ」
「おめーの魔法と、魔導具と魔法に賭けてんだからなあ」
「獣王の懐に入って、ガツンとくらわしたら、オメーでも勝てる、ぜってえ勝てるからよお」
遂には腕を乱舞させ始める、観客たち。
娘娘猫さんは、頭を抱え、耳を閉じ、石のように体を固くさせます。
「もうすぐ試合が始まり、そして終わる。終わる時には、やらないといけないと分かってるのに、肝心な時になってどうしようもないぐらいに震える……ニャ」
ですが、ギルド主任はなにもいいません。
彼女の性格なら、茶化したりしそうなものですが、何もいいません。
「やっ、やっぱり今からでも辞めてもいいかニャ……」
娘娘猫さんは、手に持っていた旗を見つめます
「キイロニャは捕まったし、ツインテニャは来ないし、ゴンスニャは音沙汰ないし……」
「そもそも、獣王ニャが負ける可能性だってあるのニャ……だからニャがここで頑張らなくても絶対に悪くないのニャ」
「そうニャ、だからニャが諦めても「くらげ選手、何やら発言があるそうですッ」────余計なことをしないで、ほしいニャ……」
「なんだァ、結婚報告かァ!」
「おいおい、そういうのは試合が終わった後で言うんだよッ」
「さっさと赤髪の少女とくっついちまいやがれ、マセガキがッ」
好き勝手にいっている観客たち。
娘娘猫さんは、恨めしそうに彼らを睨みます。
「こんな、こんな気持ちになるぐらいなら「みなさん、僕は降参します」────へ、ニャ?」
彼が言った言葉が理解できず、制止してしまう観客たち
唖然としている中、彼の二の句が告げられます
「ここには僕の負けを必要としている方が1人います────」
「たった1人のために、皆を裏切ってしまうことを許してください。でも、」
「その人は体が小さくて戦えないけど、それでも運命に立ち向かおうとすり凄い人なんです!」
「────僕にはできない生き方。だからこそ、僕はここで敗北を選びます!!」
観客の反応は、苛烈でした。
ふざけるなァ、金を返せェ、腰抜けがァ、そんな罵倒がくらげ少年に降りかかります。
ですが、彼は一歩も動くことなく、ただただ手を強く握りしめるだけでした。
「ニャン子ちゃん、今更だけど応援とかいるー?」
「いまさらすぎて、不要なのニャ」
娘娘猫さんは、角材を掴みますと、急いで会場の階段を下っていきます。
急ぎ過ぎて前に転びそうになるのも堪えて、最前列、そして障壁ギリギリへ。
「落ち着いてください、皆さんッ 落ち着けって言ってるんですッ! もうここで優勝を宣言しますからねッ!!」
「天上天下大会優勝は獣王「待ったニャァァ!!」────いや、今度は、迷惑客ですか」
最前列に、旗がはためきます。
「ニャはここに宣言をするのニャ────優勝は獣王にあらず、と」
彼女の鋭い声は、非難をきりさいて、獣王の顔を上にむかせます。
「子猫、たわごとか?」
「事実ニャ」
「俺の勝利のどこに疑いがあるという?」
「貴様は、ゴンスとの戦いで、力で勝っていないニャ」
「ならば何の差があったという」
「鎧の差ニャ。キイロニャの防具は……どうしようもなく鈍らだったのニャ」
獣王はバツの悪そうな顔をして、吐き出すようにいいます。
「────言いがかり、にすぎん」
「────なっ、ニャの言ったことが信じられないのかニャ」
「ああそうだ。部外者の子猫が言ったことなぞ、欺瞞にすぎんわッ」
「な、ニャだから、ニャだから信じないっというのかニャッ」
「そうだ。貴様ではなく、ゴンスが言っていたのなら信じてもよかったがな」
獣王は目線を逸らした後、娘娘猫さんに背中を向けます。
「ごめん、キイロニャ……ニャだったから無理だった────」
角材を握っている肉球に零れるのは、涙です。
雫はゆっくりと地面に落ちる、ことはありません。
[────いいえ、アナタだったからこそ、私が力を貸かそうと思えるのですよ]
あたたかな光が、落ちる雫を溶かします。
肉球を乾かし、めじりにたまった涙を消しさって、光はさらに強くなります。
「この輝き、まさか聖女の旗ッ! な、馬鹿なッ!!」
狼狽える獣王、唖然とするしかない観客、光のなかでひっしに旗を握る娘娘猫さんです。
光りは見るモノを圧倒して、いえ、わりと楽しんでいる獣人がここにいます。
「ふふふ、ははは、やるな猫の獣人ッ いいだろう、この戦いヤツとの決着なしで、優勝なぞは要らぬッ!!」
拳をかかげ、観客に意味をしめす獣王です。
呼応するように、アナウンスには不思議な声が入ります。
「────ならば、私も認めましょう」
「ほう、聖女が個人に寄るとはな」
「私としては旗を輝かされてしまっては、認めるしかありませんから」
「ならば決勝戦を越えた決勝戦、とでもいこうか」
「私としてはこうです、かね」
コロシアムの障壁に文字がきざまれます。
超・決勝戦。ほんらい決勝で終了の大会ルールすらかなぐり捨てたエキストラ戦です。
「みんな、ありがとう、ニャ」
娘娘猫さんはゆっくりと旗を降ろすのでした。
◇
【ギルド総本山/コロシアム/一般席 [現地時刻 昼]】
階段を下りてきたのは、紫美人のおねーさん、ことギルド主任です。
勲章とばかりに勇者バーガーが投げ渡されます。
そして、ついでとばかりに質問も投げられます。
「ところでなんだけどー? ニャンコちゃん誰が獣王と戦うの?」
「もぐ、も……はっ、たしかにニャッ!」
娘娘猫さんは、バーがをひと口ふくんだところで、事の重大性に気づきます。
赤金髪少女はいませんし、ゴンスさんや、ツインテさんもいません。
つまり、二人のうちどちらかが戦わなければなりません。
「ま、まずいニャ、何も考えてなかったニャ」
「だよねー」
ギルド主任は指をたてて、提案をします。
「じゃあ、お姉さんが鎧役やるから、ニャン子ちゃんが乗る」
「ニャ、ニャが操縦をするのかニャッ⁉」
「駄目なら、ニャン子ちゃんが鎧役をやって、私が乗る」
「もっと大変になったのニャッ!?」
娘娘猫さんは食べるのを諦めて、頭を抱えます。
実際、獣王は娘娘猫さんが頑張っても勝てませんし、ギルド主任単体でも無理です。
「他には観客を使って、肉塊ゴーレムを作るとかあるけど」
「それは色んな意味で駄目なのニャ・・・」
娘娘猫さんはくらくらする眉間をおさえて、考えます。
脳を回転させますが、妙案が思いつくわけもなく、結局は初期案に戻ります。
「思いつかないし、最初のプランでいくか、ニャ」
「じゃあ、ニャン子ちゃんが肉塊のゴーレムにのるプランね」
「にゃんかッ、なんか聞いてた話と違うのニャッ」
「よくよく考えたら、アイテムボックスにアクセスする権限取り上げられててー」
ギルド主任は、手をおおきく振り上げて、お手上げといった様子です。
「い、今からでも工房にもどって────ニャ、あの影は?」
猫の声に導かれて、皆が注目するはコロシアムの選手入場口。
「ニャ、なんであの鎧があそこにあるニャ⁉」
「ニャン子ちゃん、今度の鎧はゴーレムにしたって話」
「してないニャ。そもそもなんで腕が完全に治っているのニャ⁉」
晴天の空に照らされて、輪郭を輝かせるのは、ヘンテコな鎧です。
お手製の面影と、騎士の面影がまざっている鎧は────きっと、小さな巨人の彼なのでしょう。
「す、すでにッ、コロシアム内部にはゴンス選手の姿がッ!!」
甲高く響きわたる実況の解説。
コロシアムの歓声は、再び最高潮に達します。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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