紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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103 龍と美人なおねーさんと観戦雑談

【ギルド総本山/コロシアム/一般席 [現地時刻 昼]】

 

「オイオイ、珍妙な事を巻き込まれてんじゃねーか」

 

歓声が騒がしいなか、下駄を鳴らす音が聞こえます。

 

羽織る青い着物よりも、蒼い長髪をたずさえている女性は、龍姉です。

 

「わるいナ」

 

彼女は最前席で疲れ切っている娘娘猫さんを押しのけて、乱暴に座ります。

 

「はー、老害はおよびじゃないの、仕事に帰れ、馬鹿お龍」

 

ギルド主任は、乱暴者をけっとばして、娘娘猫さんに席を返します。

 

「あァ? お龍が座るのに文句があるってんのカ」

「文句大ありに決まってるでしょ。働かない者に席はないのよ」

 

「ところガ一仕事した後なんだな、これガ」

「どうりで汗臭いわけねー、服の煤を落として来たらー?」

 

「馬鹿ガ……ゴンスのヤローを見つけたら、言われなくても帰ってやるさ」

「ゴンス……ちょっと待ちなさい。お龍、彼に変なモンを売ってないでしょうね」

 

「ただ黄金騎士と同じ鎧を打った、それだけだ」

「はぁーあ、それで、こうなった訳、か」

「こうなったてのは、なるほどナ」

 

二人の視線は、コロシアムの中心部戦う、ヘンテコな鎧に。

 

線が黄金の騎士と似ていると言われるとそうかもしれませんが、とても伝説になりそうな形ではありません。

 

「黄金騎士の伝承。鎧をこさえた本人なら分かっているでしょ」

「彼は鎧があったから強かったのではない。彼が鎧自身だから強かったのだってカ?」

 

黄金の騎士。それは人物の名前をさすものではありません。

 

元となった巨人は、ギルドに流れ着いた時には死に体でした。

 

「本来は死ぬはずだった彼に、人ではない鍛冶師はこう提案した」

「動けるようにしてやるから、ちょっと体を貸セだったカ」

 

「今でも彼が慌ててギルドに来たときのことを覚えているわよ」

「体が鎧にナっただけだろ。そんぐらいデ慌てやがって」

 

動けるようになった彼の体は、鎧になっていました。

 

体をうごかせば、空洞に反響する音が、薄っぺらい金属に伝わります。

 

聞こえた、なぜ聞こえた、気持ち悪い、彼が最初に感じたことでした。

 

「魂を練り込んで鉄を打つ技法。龍が作りだしたなかで、最も素晴らしく、最も愚かだった技法」

「そうカ? ただの技の1つだろ」

 

顔を見合せても、意見がかみ合わない二人です。

 

ここに人間がいれば、どっちもどっちだろと言いそうですが、彼女達にはわかりません。

 

「そして鎧は旅を出て、様々な経験をした」

「アレばっかりは、予想外だったナ」

 

勇者たち一行に混じった彼は、強敵と戦い、最後は勇者の防具として知られることになります。

 

そして勇者亡き後、彼は己の死に場所をさがして動き始めることとなります。

 

「で、今度は死にかけてもいないゴンス君に同じことをしたわけ?」

「もう一度言うがナ────奴が鎧になる事を望んだんだ。鍛冶師に出来るのはそこから最高のモノを仕上げることだけだナ」

 

視線をコロシアムの中心に戻すのは、龍姉です。

 

ギルド主任もつられて、視線を中央にむけます。

 

「でも、最高のモノの割には防戦一方に見えるけどー」

「そりゃあ、アイツが中途半端なのと……ちょっとアレだな」

 

「なのとォ? 後半が声が小さくて聞こえないねー」

「時間がなくて鎧が完成しなかったのが、原因かもナぁ」

 

ギルド主任は立ち上がって上から、龍姉を見下します。

 

口に“く”の字にして、下から見上げるのは、龍姉です。

 

「言い訳をしていいカ……」

「どうぞご自由に。だけど端的にお願いするわねー」

 

思い出すは製造工程。炉を借りて、魔力をつぎ込み、金属を打った感触。

 

彼の魂は、硬い、柔らかいではなく、溶けやすく芯が残るといったモノでした。

 

「そのダ、素材はあるだけ最高のモノを使ったんだが」

「どっこにそんなモンがあったのかなー」

 

「妹のプレゼント用に、トカゲの王国から拝借してきた」

「おい、まて、お龍。竜の王国に喧嘩を売ってきたって事?」

 

「馬鹿ガ、宝物庫を荒らされてゴタゴタしてる隙に貰って来ただけダ」

「それが喧嘩を売っているって話なんだけど」

 

真実の銀(ミスリル)。銅のように打ち延ばせ、ガラスのように磨ける。銀のような美しさだが、曇ることがありません。

 

灰色に輝く金属は、今ではどこで採れるかすらわからない、幻の金属です。

 

「だガよ、ミスリルの気分がすぐれなくってな。中途半端な形になってやがる」

「それはきっと、彼が優しすぎるのよ」

 

ギルド主任は戦いを眺めながら、そう呟きます。

 

名工が打ったものは、山さえも消し飛ばしたとされるミスリルの武具。

 

その力を使わないのはきっと彼が臆病だからではなく、優しいからなのでしょう。

 

「ミスリルが変形するほどのやさしさなんて聞いたことがねえぞ」

「でも彼は私達に嬲られても文句の一つ言わなかったし、最後まで付き合ってくれたって話をする?」

「それはどこまでも巨人らしくない奴だナ」

 

全く、なんのために鎧を作ったんだかと、呆れる龍姉。

 

ギルド主任は、それでもいいじゃない、と楽しいそうにいいます。

 

「じゃあ、もし鎧を完全なモノにするためには何がいるのかしら」

「火だな。どんなことでも折れない強い意志でミスリルを叩き直すしかねえ」

 

「なら問題ないわね」

「どうして、そんなことガ言える?」

 

「そりゃあ、このコロシアム────いえ、この街自体が、小さな意志が起こした、大きな熱意に包まれているからって話よ」

 

ギルド主任は、確信をもって、楽しいそうに言うのでした。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。

補足
ミスリルは防具に特化した性能ですが、尾ひれがついて、武器として最強の位を得ています。
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