【ギルド総本山/コロシアム/一般席 [現地時刻 昼]】
「オイオイ、珍妙な事を巻き込まれてんじゃねーか」
歓声が騒がしいなか、下駄を鳴らす音が聞こえます。
羽織る青い着物よりも、蒼い長髪をたずさえている女性は、龍姉です。
「わるいナ」
彼女は最前席で疲れ切っている娘娘猫さんを押しのけて、乱暴に座ります。
「はー、老害はおよびじゃないの、仕事に帰れ、馬鹿お龍」
ギルド主任は、乱暴者をけっとばして、娘娘猫さんに席を返します。
「あァ? お龍が座るのに文句があるってんのカ」
「文句大ありに決まってるでしょ。働かない者に席はないのよ」
「ところガ一仕事した後なんだな、これガ」
「どうりで汗臭いわけねー、服の煤を落として来たらー?」
「馬鹿ガ……ゴンスのヤローを見つけたら、言われなくても帰ってやるさ」
「ゴンス……ちょっと待ちなさい。お龍、彼に変なモンを売ってないでしょうね」
「ただ黄金騎士と同じ鎧を打った、それだけだ」
「はぁーあ、それで、こうなった訳、か」
「こうなったてのは、なるほどナ」
二人の視線は、コロシアムの中心部戦う、ヘンテコな鎧に。
線が黄金の騎士と似ていると言われるとそうかもしれませんが、とても伝説になりそうな形ではありません。
「黄金騎士の伝承。鎧をこさえた本人なら分かっているでしょ」
「彼は鎧があったから強かったのではない。彼が鎧自身だから強かったのだってカ?」
黄金の騎士。それは人物の名前をさすものではありません。
元となった巨人は、ギルドに流れ着いた時には死に体でした。
「本来は死ぬはずだった彼に、人ではない鍛冶師はこう提案した」
「動けるようにしてやるから、ちょっと体を貸セだったカ」
「今でも彼が慌ててギルドに来たときのことを覚えているわよ」
「体が鎧にナっただけだろ。そんぐらいデ慌てやがって」
動けるようになった彼の体は、鎧になっていました。
体をうごかせば、空洞に反響する音が、薄っぺらい金属に伝わります。
聞こえた、なぜ聞こえた、気持ち悪い、彼が最初に感じたことでした。
「魂を練り込んで鉄を打つ技法。龍が作りだしたなかで、最も素晴らしく、最も愚かだった技法」
「そうカ? ただの技の1つだろ」
顔を見合せても、意見がかみ合わない二人です。
ここに人間がいれば、どっちもどっちだろと言いそうですが、彼女達にはわかりません。
「そして鎧は旅を出て、様々な経験をした」
「アレばっかりは、予想外だったナ」
勇者たち一行に混じった彼は、強敵と戦い、最後は勇者の防具として知られることになります。
そして勇者亡き後、彼は己の死に場所をさがして動き始めることとなります。
「で、今度は死にかけてもいないゴンス君に同じことをしたわけ?」
「もう一度言うがナ────奴が鎧になる事を望んだんだ。鍛冶師に出来るのはそこから最高のモノを仕上げることだけだナ」
視線をコロシアムの中心に戻すのは、龍姉です。
ギルド主任もつられて、視線を中央にむけます。
「でも、最高のモノの割には防戦一方に見えるけどー」
「そりゃあ、アイツが中途半端なのと……ちょっとアレだな」
「なのとォ? 後半が声が小さくて聞こえないねー」
「時間がなくて鎧が完成しなかったのが、原因かもナぁ」
ギルド主任は立ち上がって上から、龍姉を見下します。
口に“く”の字にして、下から見上げるのは、龍姉です。
「言い訳をしていいカ……」
「どうぞご自由に。だけど端的にお願いするわねー」
思い出すは製造工程。炉を借りて、魔力をつぎ込み、金属を打った感触。
彼の魂は、硬い、柔らかいではなく、溶けやすく芯が残るといったモノでした。
「そのダ、素材はあるだけ最高のモノを使ったんだが」
「どっこにそんなモンがあったのかなー」
「妹のプレゼント用に、トカゲの王国から拝借してきた」
「おい、まて、お龍。竜の王国に喧嘩を売ってきたって事?」
「馬鹿ガ、宝物庫を荒らされてゴタゴタしてる隙に貰って来ただけダ」
「それが喧嘩を売っているって話なんだけど」
灰色に輝く金属は、今ではどこで採れるかすらわからない、幻の金属です。
「だガよ、ミスリルの気分がすぐれなくってな。中途半端な形になってやがる」
「それはきっと、彼が優しすぎるのよ」
ギルド主任は戦いを眺めながら、そう呟きます。
名工が打ったものは、山さえも消し飛ばしたとされるミスリルの武具。
その力を使わないのはきっと彼が臆病だからではなく、優しいからなのでしょう。
「ミスリルが変形するほどのやさしさなんて聞いたことがねえぞ」
「でも彼は私達に嬲られても文句の一つ言わなかったし、最後まで付き合ってくれたって話をする?」
「それはどこまでも巨人らしくない奴だナ」
全く、なんのために鎧を作ったんだかと、呆れる龍姉。
ギルド主任は、それでもいいじゃない、と楽しいそうにいいます。
「じゃあ、もし鎧を完全なモノにするためには何がいるのかしら」
「火だな。どんなことでも折れない強い意志でミスリルを叩き直すしかねえ」
「なら問題ないわね」
「どうして、そんなことガ言える?」
「そりゃあ、このコロシアム────いえ、この街自体が、小さな意志が起こした、大きな熱意に包まれているからって話よ」
ギルド主任は、確信をもって、楽しいそうに言うのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。
補足
ミスリルは防具に特化した性能ですが、尾ひれがついて、武器として最強の位を得ています。