紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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104 少女と壁と舞台への復帰

【ギルド総本山/コロシアム/一般席 [現地時刻 昼]】

 

試合場と観客席には、魔法障壁があります。

 

前回の獣王戦で破壊されて、修復された障壁は、揺るがないモノへと生まれ変わりました。

 

聖女様のお墨付きもありますし、徹夜で仕上げたギルド技術部もニッコリ。

 

観客席で勇者バーガーをたらふく食い、明日の休暇を考えて────

 

「────こ、これはァ! 思わず耳を塞いでしまいそうな轟音ッ!!」

 

そんな障壁が、激しく揺れています

 

観客は青ざめ、眼を覆い、見るのを諦めた観客もいます。

 

「────もはや、一方的な蹂躙といってもいいでしょう」

 

障壁内部で残念そうな顔をしているのは、獣王。

 

ヘンテコな鎧のゴンスさんは、壁に叩きつけられ、沈黙しています。

 

【ギルド総本山/コロシアム/貴賓席 [現地時刻 昼]】

 

戦場を、障壁だけではなく、最上階の窓ガラスを通して見ている、少女2人がいました。

 

遠くから見てますから、彼女達の言葉もどこか、他人事のように聞こえます。

 

「一方的でちね」

「あら? 私はそうは思いません」

 

ガラスに映っているのは、小さな少女と、大きな少女。

 

小さな少女こと、マウスガールさんは、試合を見しています。

 

大きな少女こと、クイーンさんは、試合の後のことを見ています。

 

「ふーん、ならクイーンはどう見るでちか」

「私としては、早く試合を始めて欲しい、といった感じですね」

 

「それ、どういういみでちか」

「私としてはそのままの意味です」

 

「ちっ……いつもみたいにもったいぶらずに言うでち」

「なら私的には、彼女に聞くといいですよ」

 

クイーンさんの手は、離れた位置にいる赤金髪少女(わたし)を指します。

 

マウスガールさんは、歯を食いしばっている私に、あきれた視線をむけてくれます。

 

「なら、どう思うでちか。そもそも試合を見れていないキイロでちは」

「どうもこうも、こんなの────」

 

ゴンスさんは障壁に、再三叩きつけられます。

 

獣王は、息をつくことなく、拳圧を飛ばし、障壁に四度目の衝撃を鳴らします。

 

一方的な蹂躙。誰もが悲観的になり、下をむく観客が多かろうとも、それを応援する猫がいます。

 

彼女は、すでに輝きが失われた旗をふり、なおも声を出すことを止めません。

 

「────見て、られませんよ」

 

頬に涙がながれます。

 

己の無力さが悔しい。私が思うことはただそれだけです。

 

「当然でち。奇跡を起こそうとも、キイロがいなければ何も成しえないのは、見えてたでち」

「それは私としてはそれでは少しだけ困ってしまいますね」

 

私に1歩分だけ距離をつめるのは、クイーンさんです。

 

「平穏に終わるのは構いませんが、私としては停滞されるのが一番困るのです」

 

星の余命は短いですから、と小さく呟きながら、彼女は2歩目を踏みだしています。

 

「掲げられた旗は、彼の為だけではありません」

「クイーンはこちら側の人間でちよね......」

「あなたにも届いたハズですよ」

 

3歩目にして、私の真横に立っている、クイーンさんです。

 

「なら......囚われている私にどうしろって言うんですかっ⁉」

「私としては、それは勝手にあなたが思っているだけ、でしょうか」

 

「私が、思っているだけ?」

「ええ、走ることも、止まることも必要ですが、重要なのはどう知恵を使うかですよ」

 

私は、私の足に視線を向けます。

 

足への魔力はうまく回らず、いつものように快足とはいきません。

 

「ちょッ、クイーンッ、ようやく効き始めた意志を縛る命令を破らないで欲しいのでちッ!」

「私としては、こっちの方が面白いと思うんですが」

「面白さで私達の計画をひっくり返さないで欲しいでちッ!!」

 

ですが、私の足はまだ動けることに気づきます。

 

腕だって、動くのに私はなぜ弱気になっていたのでしょうか。

 

「ならば、いかねば────いけませんよね」

 

気づけば、拳を振り上げていました。

 

「────馬鹿なことは止めるでち、魔力を禁じる」

 

同時に蹴り飛ばすのは地面。

 

ただ拳を力ませ、おもいのまま叩きつけるのは、正面のガラスです。

 

「んでちっ! ガラスとは言え、ただの拳で砕くでちか!!」

「うーん、私としても見事としか」

「クイーン、感心している場合ではないでちッ!」

 

外へ飛び出していく私を、止めようとするのはマウスガールさんです。

 

手は間に合わず、ならばと彼女は命令を口にします。

 

「ちッ、キイロ────動くことを禁じる」

「視界がまたですかっ!」

 

契約による命令。

 

意思があればある程度は反発できますが、ある程度しかできません。

 

着地すら危うい私の足。そんな足を無茶苦茶に動かして、障壁に向かおうとします。

 

「私はいかないと、いけないんです、よ」

「いけないでちよ。そこで大人しく這いつくばって、結末でもみまもるでち」

 

上から降りかかる声も気にせず、足を────足が動きません。

 

ならばと身体をひねり、這いつくばって進みます。

 

「クソ、クソ、クソっ」

「どうした嬢ちゃん、こんな所に落ちてきて」

「お願いです、見知らぬ冒険者さん────私を、どうか、あの場所にっ」

 

既に動くのは口のみ。

 

身体の感覚もあやしくなってきましたが、まだ動く部位はあります。

 

「あの場所って、嬢ちゃん一人がいってどうにかなる試合でもねえだろ」

「してみせますよ、今度こそは」

 

「今度こそは? いや待て、アンタその顔は」

「ですから、早く「どうにもできないでいちよ────意識を禁じる」────く、頭が」

 

命令が脳に響きます。

 

私の身体は、糸が切れたように倒れ込み、意識は闇に。

 

にもかかわらず、彼女の手は、未だに前に進もうとしていました。

 

「まだ動くとか、気色悪いでちね」

 

そんな手を踏みつけるのは、マウスガールさんの足です。

 

「そこの冒険者、彼女を運ぶのを手伝ってほしいでち」

「それはいいんだが、その嬢ちゃんはゴンスの嫁というか……」

「気にすることはないでち。今ではただの借金まみれの奴隷でちから」

 

早くしろと言わんばかりのマウスガールさんの顔です。

 

ですが冒険者は、手伝うどころか、じっとしたまま動きません。

 

喉元がごくりとうなり、手が震えている様子。まるで宝物を発見したかのようです。

 

「────じゃあ、もしかして、この子が本物の、ゴンス」

 

「────はァ? そうでちうけど、そんなことはいいから早く運ぶでち」

 

余計な一言をいいましたね、彼女。

 

これだから未来を見ている連中は、今に足元をすくわれるのです。

 

だって、なぜ冒険者が止まっていたのか。そして彼らが何を求めているのかを理解しようと、すらしないのですから。

 

「やっぱりそうだ。ギルド闇派閥の連中が血眼になって探している少女はコイツだ」

「アイツら下級の俺らにも聞き回ってたからな」

「マジかよ。ホントにあの鎧を少女が動かしてたのか」

「マジだって、俺は地下で見てたんだからな」

 

小さな騒ぎは、気づけば会場内に大きく広まっていました。

 

同じように倒れている私の周りにも、冒険者が集まってきています。

 

「悪いが赤髪の嬢ちゃん、この少女はもらっていくぜ」

「なにをいっているでち、この奴隷の所有者は私でちよ」

 

「見りゃ分かる。だからこうするのさ────」

 

彼のポケットから取り出され、弾き飛ばされるのは、輝く硬貨。

 

「────ゴンスに銀貨1枚」

 

銀貨は、気絶した私の手元にゆっくりと転がります。

 

そしてそれはチャリンという音と共に、虚空に消えていきます。

 

「借金がわずかに、減った、でちか」

「まっ、俺一人ならこんなモンだろうな」

 

満足した冒険者は、お前らはどうするとばかりに、周囲の冒険者に笑いかけます。

 

周囲の冒険者は、もちろんとばかりに、ポケットに手を突っ込みます。

 

「なら、あっしは銅貨2枚」

「おいおいシケてんな、俺は銀貨3枚は出すぜッ」

「なら俺は金貨1枚だな」

「正気か? なら俺だって金貨1枚だ」

 

続々と投げ込まれていく、硬貨たち。

 

ひとつひとつはたいしたことの無い額。

 

ですがそう簡単には止むことのない、輝く硬貨の雨が降り注ぎます。

 

「な、なんのつもりでちか」

「どうもこうも、ただの掛け金だよ」

 

最初に投げた冒険者は、当然の口ぶりでいいます。

 

「いいか俺達はな、この会場で塩試合を見に来たんじゃねえ────魂が揺さぶれるような戦いを見に来たんだ」

 

本心は簡単です。

 

大会の決勝戦は早期の降参で終わり、その後のリターンマッチですら、この一方的な試合です。

 

満足できない。

 

別に戦場に立っているのが俺でなくてもいい。

 

だからせめて、俺らが出来ないような、そんな戦いを望む。

 

そんな気持ちが、冒険者達を突き動かしたのでしょうか。

 

「だから奴隷の少女を解放するでちか……正気ではないでちね」

「構わねえよ。俺が満足できるなら、悪魔だろうと戦わして見せるさ」

「だから、この手の連中は信用できなのでち」

 

すでに命令の効力が薄くなっているのを感じ取る、マウスガールさん。

 

もちろん、後ろでゆっくりと、私が立ち上がるのも気づいていることでしょう。

 

「あとはまかせたぞ、ゴンスの嬢ちゃん」

「いいか、お前のせいで散々負けちまったんだから、最後まで勝てよ」

「別に負けてくれてもスッキリするが、そんときゃ金は返して貰うからな、絶対踏み倒せよ」

 

皮肉が混じった声援がだんだんと遠くなっているのも、彼女には分かっているハズです。

 

ですから、最後に彼女は負け惜しみと分かっていても、こう言わざるおえません。

 

「む、無駄でち。もう試合は始まっているのでち、障壁が、」

 

ええ、そうですね。コロシアムの障壁は、試合開始とおなじく何人を阻むモノとなります。

 

それは奇しくも“絶対障壁”と似たような性質を持ったモノです。

 

「例え奴隷から解放されても、例え動けるようになったとしても、その障壁1枚だけはッ「だからアタシがいるんでしょうが」────うッ」

 

ですので彼女が、ツインテをゆらした少女が、障壁の前にいます。

 

「ふふっ、今回は手伝ってくれるんですか?」

「言ったでしょ、今回はきっちり協力してやるって」

 

「にしては登場が遅かったりしません?」

「うっさいわね。こっちはこっちで、魔粒子をあつめるのに必死だったのよッ」

 

黒髪のツインテールを束ねていた、ひもが解かれます。

 

髪に蓄積されていた魔力があふれ出し、空間をゆらします。

 

空間さえも塗り替える魔力は、禁止されているルールすら破り、一瞬だけの奇跡を起こします。

 

「───時空魔法、発動」

 

障壁が破られるのではなく、障壁を無視して、隔てた1点が繋がるのは一瞬。

 

ですが、一瞬あれば、私にとっては十分すぎるぐらいです。

 

「勝ってきなさいよ、馬鹿」

「もちろんですよ、ツインテさん」

 

私は障壁を越えて、戦場に転がり込みます。

 

正面には、それを待ちわびたように、満開の笑みを浮かべる、獣王。

 

「第二ラウンドのゴングとか必要ですかね?」

「不要だ。貴様と俺の仲だろ」

 

数秒後、障壁を貫くような暴力的な轟音が、開戦の合図となりました。

 

観客は固唾をのんで見守り、ようやく始まりましたかとクイーンさんは笑っているのでした。




余談(ギルド主任&龍ねえ)

「あららー、会わなくていいのー、お姉ちゃんは」
「バカ、こういう時に人外が出しゃばってみろ、風情とかが台無しだろ」

「そんなことを言って、金貨100枚も投げちゃってー」
「うるセえ、お前モ似たような額を入れてただろ、アホ主任が」

「私のは見物料よ、けんぶつ、りょう♡」
「どこが見物だ、ゴリゴリに手を加えてたダろ、どうせ」

「いいじゃない、闇派閥が動いたって、そしてそれを彼女が知らなくても」
「聖女の守護連中にも顔が利クとは、これだから腹黒は」

「まっさかー、今回は、私以外も頑張ったって話じゃないのかしら」
「本当かヨ?」
「本当よ、って言っても信じないでしょうけど」

「信じるサ、ウチの妹が関わっているからナ」




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