紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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105 少女と身一つの勝負とプレゼント

コロシアムには歓声がひびき、地は抉れたように裂けています。

 

赤金髪少女(わたし)は、口に入った砂を、唾液ごと吐き捨てます。

 

「逃げても、どうにもならんぞ、キイロォ」

「逃げなきゃ死ぬのでっ」

 

再度────頬を、髪を、かすめとるように拳圧が突き抜けていきます。

 

回避一択。いや、コレ避けきれていませんね。

 

頬から感じる、熱い感触。ぬぐった手には血がついています。

 

「どうした、勇ましくかかってこんかァッ!」

「馬鹿言わないでくださいっ!」

 

獅子のようなたてがみを唸らせて、怒鳴りつける獣王。

 

ただの咆哮すら、地が、私の身体が揺れる程です。

 

正面から挑む相手じゃない……

 

彼と正面切って戦った人たちが如何に化物かを思い知らされます。

 

コッチは10秒も持たずに、身体が消し飛ばされそうなんですけど。

 

せめて戦鋼さえあれば────

 

「────余所見、か?」

 

瞳が、獣王の瞳が、鼻先にありました。

 

右に視線をよせれば、すでに、放たれている拳。

 

まずい、回避は、無理か────なら手、いや足か。

 

左足を蹴り上げて、拳の間にねじ込みます。

 

折れるのが前提で。嫌な音がひびき、多大な血しぶきとともに、身体が吹っ飛びます。

 

「────が、ほ、ぐはっ」

 

くらむ視界。頭を抑えながらも、身体を、

 

ごつんと当たる感触。障壁? いえ、それ以上に硬いコレは。

 

「二人とも似たり寄ったりですね」

 

ヘンテコな鎧を支えにして、私は立ち上がります。

 

「期待した俺が馬鹿だったか」

「まだ隠し玉を持っているかもしれませんよ?」

「ほう、ならば期待して、」

 

獣王の姿が消えます。

 

まぶたを開く間に、再度、目と鼻のさきに、せまりくる拳です。

 

また避けないと────ですが、自分の足はひとつも動きません。

 

ぴくりとも動かない? 嫌な予感がして、視線を下に。

 

片足が、消し飛んでいることに気づきます。

 

「こんな簡単に足が⁉────」「────なら、そこが貴様の墓場だッ」

 

絶体絶命。思わず、眼を瞑ってしまいます。

 

奥歯を噛み、衝撃に備えても……まだ、衝撃が飛んでこない?

 

ゆっくりと、片目ずつひらいていきます。

 

暗い? 砂煙? 轟音? 

 

私を覆い被さるように守っているのは、ヘンテコな鎧でした。

 

「ゴンスさんっ────」「────デカブツが、邪魔だッ」

 

鎧に、拳が降りそそぎ、激しく揺れる振動は私に伝わります。

 

「ゴンスさんっ、もうっ……」

 

早く移動しようにも、片足が無いせいで、上手く移動できません。

 

そんな私を、彼は物言わず、守り続けます。

 

「もう、大丈夫っ、ですからっ!!」

 

そんな彼を止めようと、ゆっくりと伸ばした指先に当たるのは────スイッチ。

 

曲面をえがく鎧には、似つかわしくない、機械的なスイッチです。

 

「へっ、なんで、こんな場所に」

[前方ハッチをオープンします]

 

押し込むと、音声とともに開かれる、鎧の前方。

 

中から漏れている明かりは、こちらを導くようです。

 

わずかな隙間に手をのばし、身体を滑り込ませます。

 

「知っている……操縦席の感触。ここって鎧の中ですよね?」

[キーをお持ちの方は、スイッチを押す前に刺してください]

 

未だに振動は続きます。ですが、私の頭は疑問に包まれています。

 

疑問を晴らすように、操縦席に座り込んでしまうのは、なぜでしょうか。

 

「起動スイッチは、新型と同じ場所に、ある」]

 

ふるえた手で起動スイッチを────押しました。

 

◇◆◇

 

赤金髪少女は額をおさえます。

 

頭の痛みよりというより、現状の悩みによる問題。

 

外からは今なお、獣王の叫び声が聞こえてきます。

 

「ぬううう、この、硬いだけの鎧がァ」

 

各種センサーは真っ暗。サブモニターは点灯しておらず、エンジンすら動いていません。

 

ですが、鎧自体は動いている。いったいどういう仕組みなのか疑ってしまう、私。

 

「それよりも、起動したモニターにパスワードですか……」

 

6桁の記入欄。ヒントは“巨乳の末路”

 

なめ腐っています。こんな時間の無いときに、面倒なモノを。

 

「ちっ、こんなところで使わせられるとは思わなかったぞ────大地よ盛り上がれ」

 

獣王の声。叫び声とは違う、つむぐような声。

 

同時に、周囲が真っ暗になります。湿り気と土粉から、地面にでも覆われたのでしょうか。

 

「このまま潰す気ですか────」「────なぶるのにも飽きが来てなッ」

 

必死に思いつくものを打ち込みますが、全て“ERROR”

 

絶望で、視界も真っ暗になりかけた時、脳内に響くのは、

 

『────何ちんたらやってるのよッ!!』

 

ツインテさんの怒鳴り声でした。意訳すれば、さっさと獣王を倒せとのこと。

 

「ですが、ゴンスさんの中に戦鋼があって、しかも本体が動かない状態なんですよっ」

『まどろっこしい状況ね。問題点だけを話しなさい』

「新型戦鋼にかけられたパスワードが解除できませんっ」

 

言い争いをしている間にも、ガギゴギと削られていく音。

 

発生源は装甲から。大地に還すほどの力は、硬さだけではどうにもならないようです。

 

『ヒントとかないのッ』

「ヒントは巨乳の末路ですよ」

 

『なら殺しなさいッ、よ』

「へっ?」

 

『だから964731(ころしなさい)ッ』

「そんな安直なパスワードなわけ」

 

『────動くわよッ! ソレ、設定をしたのは私なんだからッ!!』

 

右手を動かし打ち込むは、6桁パスワード。

 

承認────エンジンに火がつき、各種モニター、スイッチが点灯を始めます。

 

「メータの上限が5倍ほど多い……」

 

全ての値において高めに設定されている、戦鋼。

 

チューニングの域を超えて、新造したかのレベルで性能が高い、新型戦鋼です。

 

「にしても、変わった操縦管……いえ、操縦球ですか」

 

黄色の球体は、握ればゴムのような弾力感。

 

やや微動させれば反応する右腕。感度良し、最終チェックよし。

 

「いける────キイロ来来、戦鋼、行きます」

 

岩を叩き割るが如く、操縦球を引っ張り、光がモニターを埋め尽くします。

 

 

「────さテ、妹は気に入ってくれるカな」

 

観客席のどこかで、龍は楽しそうに呟きます。

 




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