コロシアムには歓声がひびき、地は抉れたように裂けています。
「逃げても、どうにもならんぞ、キイロォ」
「逃げなきゃ死ぬのでっ」
再度────頬を、髪を、かすめとるように拳圧が突き抜けていきます。
回避一択。いや、コレ避けきれていませんね。
頬から感じる、熱い感触。ぬぐった手には血がついています。
「どうした、勇ましくかかってこんかァッ!」
「馬鹿言わないでくださいっ!」
獅子のようなたてがみを唸らせて、怒鳴りつける獣王。
ただの咆哮すら、地が、私の身体が揺れる程です。
正面から挑む相手じゃない……
彼と正面切って戦った人たちが如何に化物かを思い知らされます。
コッチは10秒も持たずに、身体が消し飛ばされそうなんですけど。
せめて戦鋼さえあれば────
「────余所見、か?」
瞳が、獣王の瞳が、鼻先にありました。
右に視線をよせれば、すでに、放たれている拳。
まずい、回避は、無理か────なら手、いや足か。
左足を蹴り上げて、拳の間にねじ込みます。
折れるのが前提で。嫌な音がひびき、多大な血しぶきとともに、身体が吹っ飛びます。
「────が、ほ、ぐはっ」
くらむ視界。頭を抑えながらも、身体を、
ごつんと当たる感触。障壁? いえ、それ以上に硬いコレは。
「二人とも似たり寄ったりですね」
ヘンテコな鎧を支えにして、私は立ち上がります。
「期待した俺が馬鹿だったか」
「まだ隠し玉を持っているかもしれませんよ?」
「ほう、ならば期待して、」
獣王の姿が消えます。
まぶたを開く間に、再度、目と鼻のさきに、せまりくる拳です。
また避けないと────ですが、自分の足はひとつも動きません。
ぴくりとも動かない? 嫌な予感がして、視線を下に。
片足が、消し飛んでいることに気づきます。
「こんな簡単に足が⁉────」「────なら、そこが貴様の墓場だッ」
絶体絶命。思わず、眼を瞑ってしまいます。
奥歯を噛み、衝撃に備えても……まだ、衝撃が飛んでこない?
ゆっくりと、片目ずつひらいていきます。
暗い? 砂煙? 轟音?
私を覆い被さるように守っているのは、ヘンテコな鎧でした。
「ゴンスさんっ────」「────デカブツが、邪魔だッ」
鎧に、拳が降りそそぎ、激しく揺れる振動は私に伝わります。
「ゴンスさんっ、もうっ……」
早く移動しようにも、片足が無いせいで、上手く移動できません。
そんな私を、彼は物言わず、守り続けます。
「もう、大丈夫っ、ですからっ!!」
そんな彼を止めようと、ゆっくりと伸ばした指先に当たるのは────スイッチ。
曲面をえがく鎧には、似つかわしくない、機械的なスイッチです。
「へっ、なんで、こんな場所に」
[前方ハッチをオープンします]
押し込むと、音声とともに開かれる、鎧の前方。
中から漏れている明かりは、こちらを導くようです。
わずかな隙間に手をのばし、身体を滑り込ませます。
「知っている……操縦席の感触。ここって鎧の中ですよね?」
[キーをお持ちの方は、スイッチを押す前に刺してください]
未だに振動は続きます。ですが、私の頭は疑問に包まれています。
疑問を晴らすように、操縦席に座り込んでしまうのは、なぜでしょうか。
「起動スイッチは、新型と同じ場所に、ある」]
ふるえた手で起動スイッチを────押しました。
◇◆◇
赤金髪少女は額をおさえます。
頭の痛みよりというより、現状の悩みによる問題。
外からは今なお、獣王の叫び声が聞こえてきます。
「ぬううう、この、硬いだけの鎧がァ」
各種センサーは真っ暗。サブモニターは点灯しておらず、エンジンすら動いていません。
ですが、鎧自体は動いている。いったいどういう仕組みなのか疑ってしまう、私。
「それよりも、起動したモニターにパスワードですか……」
6桁の記入欄。ヒントは“巨乳の末路”
なめ腐っています。こんな時間の無いときに、面倒なモノを。
「ちっ、こんなところで使わせられるとは思わなかったぞ────大地よ盛り上がれ」
獣王の声。叫び声とは違う、つむぐような声。
同時に、周囲が真っ暗になります。湿り気と土粉から、地面にでも覆われたのでしょうか。
「このまま潰す気ですか────」「────なぶるのにも飽きが来てなッ」
必死に思いつくものを打ち込みますが、全て“ERROR”
絶望で、視界も真っ暗になりかけた時、脳内に響くのは、
『────何ちんたらやってるのよッ!!』
ツインテさんの怒鳴り声でした。意訳すれば、さっさと獣王を倒せとのこと。
「ですが、ゴンスさんの中に戦鋼があって、しかも本体が動かない状態なんですよっ」
『まどろっこしい状況ね。問題点だけを話しなさい』
「新型戦鋼にかけられたパスワードが解除できませんっ」
言い争いをしている間にも、ガギゴギと削られていく音。
発生源は装甲から。大地に還すほどの力は、硬さだけではどうにもならないようです。
『ヒントとかないのッ』
「ヒントは巨乳の末路ですよ」
『なら殺しなさいッ、よ』
「へっ?」
『だから
「そんな安直なパスワードなわけ」
『────動くわよッ! ソレ、設定をしたのは私なんだからッ!!』
右手を動かし打ち込むは、6桁パスワード。
承認────エンジンに火がつき、各種モニター、スイッチが点灯を始めます。
「メータの上限が5倍ほど多い……」
全ての値において高めに設定されている、戦鋼。
チューニングの域を超えて、新造したかのレベルで性能が高い、新型戦鋼です。
「にしても、変わった操縦管……いえ、操縦球ですか」
黄色の球体は、握ればゴムのような弾力感。
やや微動させれば反応する右腕。感度良し、最終チェックよし。
「いける────キイロ来来、戦鋼、行きます」
岩を叩き割るが如く、操縦球を引っ張り、光がモニターを埋め尽くします。
「────さテ、妹は気に入ってくれるカな」
観客席のどこかで、龍は楽しそうに呟きます。
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