紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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106 少女&黄金の騎士=ゴンスと獣王と決着

ギルド総本山の歴史書にも、載る事になる“事件”。

 

コロシアムで遭遇し、伝説の目撃者となった観客の男性はこう語ります。

 

────あの日、俺は見たんだ。

 

岩が崩れ、出現したのは────白の細手、金色に輝く装甲。

 

装甲が岩石片を弾きながら、溢れていく金色の輝き。

 

稲妻に打ち抜かれたように、彼の脳裏にフラッシュバックするのは、伝説とよばれた騎士の姿。

 

「お、おぅ、黄金の騎士ッ!!」

 

指をさして、大きく口ひらくことでしか、表現することしかできない、驚き。

 

誰もが置き去りにして鳴り響く、高周波のエンジン音。甲高く、擦り切れるようにコロシアム全体に広がります。

 

腕部、脚部、そして────金色の頭部に、魔力が流入して、火が宿るようにツインアイが起動します。

 

黄金の騎士復活。後の書物には“そう”記されることになります

 

◆◇◆◇

 

岩を割ったら、眼が焼けそうになるぐらい、閃光に包まれた赤金髪少女(わたし)です。

 

カメラ光量が自動で切り替わるシステムが付いていなければ、未だに視力は回復していなかったでしょう。

 

メインモニターに映るは、獣王の姿。

 

身長2m野性的イケメンが、拡大されていきます。

 

「黄金────その鎧、虚仮脅しではなかろうなッ!」

 

獣王は拳に、力を溜め、ふり抜きます。

 

黄金の騎士に、胸元に突き刺さる一撃です。

 

地面がひび割れ、大気が揺れ、客席までも衝撃波が伝播します。

 

「────ありえん、なんだこの感触、は」

 

不動。黄金の騎士は一歩も動かず、揺れすらも起こりえません。

 

「えっと、私、今殴られましたよね」

『懐かしい感覚……この鎧は強いよ、お兄ちゃん』

 

気づけば、胸元にはペンダントがあります。

 

彼女は久しぶりとばかりに、大きく揺れます。

 

「ロリィ、いつの間に帰ってきてたんですか?」

『寝てたけど……ナビゲーションしろって呼び出されたから』

「呼び出されたって[ピピピ......]────急激な魔力反応っ」

 

サブモニタには、“危険”の文字。

 

メインモニタには、強調表示で映されている獣王の姿。

 

「腕力如きでは壊れぬか。いいぞおォ、もっとだッ! もっと見せてみろッ!!」

「マジですか。普通、ちょっとはビビったりしませんかねっ」

『お兄ちゃん……アレはマズいかもしれない』

 

高まりつづける魔力。足元から、大地が割れ、飛び散り、舞い上がる。

 

よくみれば、獣王の心臓が、青く輝いています。

 

サブモニターには、“判定不可”と表される惨状。

 

操縦球を握る手には、湿り気。かなりのヤバさを感じます。

 

「ロリィ、武器とかありませんかっ」

『武器はあるよ。彼が使ってたのに比べてはパチモンだけど』

 

「それはどこにっ⁉」

『ごめん……そこまではわからない』

 

足元のマニュアルを蹴り飛ばし、宙に舞ったページを、斜め読みで。

 

操縦球右ボタン。[B]の文字。モニターには[Blade]と光る部分。

 

「コレかっ」

『流石。お兄ちゃん……劣化勇者の剣、起動開始』

 

操縦球を回すと、騎士は腰部に手をまわします。

 

細手に握りこむのは、黄金の細筒。

 

甲高い音。下部から、大気を吸引し、内部の圧縮装置が動きはじめます。

 

「やられるぐらいならっ!」

 

操縦球ボタンを押し込み、戦鋼エンジンから→黄金の細筒までの魔力バイパスが形成。

 

筒からは、超高密度高ポテンシャル魔力。つまり2m弱のビーム刃が形成されます。

 

「────切り裂けえええっ!!」

 

大一閃。放たれた剣筋は三日月を描き、“すべて”を切断します。

 

獣王の左腕を切断。特製障壁を切断。空に浮かぶ雲海すらも、斜めにズレて。余波は上空魔力層に阻まれてようやく沈黙します。

 

「え……いや、はいっ⁉」

 

なんて間抜けな声をだしているのでしょうか。

 

いや、起こった事象を正しくとらえることができず、眼をパチクリとすることしかできません。

 

「お、オーバーパワーすぎるっ」

『でも……まだ40%しか出してないよ?』

「4割弱で街を消し飛ばすって、何を目的に作られているんですかっ」

 

今は運良く上空を切り裂きましたが、これがコロシアム水平であれば悲惨な事になっていた事でしょう。

 

「────よい、実に良いぞォ、ゴンスッ!!」

 

獣王は左腕を切られてなお、好戦的な笑みを絶やさない様子。

 

「貴様のような“強敵”を待っていたッ! 俺が俺であるッ!!」

 

獣王は、筋肉を膨張させ、出血を増加させながらも、魔力を高めます。

 

生物として意味不明です。魔力というものは限界があるもの。なのに彼からは、湯水のように、極彩色の輝きがあふれ出ています。

 

獣王に纏わりつくように、流れるソレは、陣などを用いない、純然たる魔力強化へと昇華します。

 

「そっちも馬鹿なんですかっ、普通怯むとこでしょっ」

「怯む? なぜ俺が怯む必要がある?」

 

拡張マイクでもonになっていたのか、獣王は返答を返します。

 

「怯むどころか震えている。貴様のような敵に出会えてな」

「腕一本もってかれてんですから、おとなしくしてくださいっ」

 

「安い。腕一本で貴様のような敵と戦い続けれるのだぞ」

「この戦闘狂がっ」

 

一段、二段、三段と溜められた攻撃。

 

極彩色を越えつつある拳は、色彩が揺らいでいます。

 

「魔力を込めた一撃────」「────ロリィ、絶対防御っ」

 

反射的に言ってしまった言葉。

 

無色透明の膜が展開され、火花と閃光を伴って、拳を受けきります 。

 

「ほう、ソレを切ったか」

「切ったというより、切ってしまったというべきか」

 

頬から滴り落ちるのは私の汗のみ。

 

それは熱量による汗ではなく、自分が使ったものへの恐怖を感じての汗です。

 

『うん……この試合はお兄ちゃんの勝ち』

 

黄金の騎士、いえミスリルによって強化された絶対防御は“不破”ともいえる防御。

 

制限時間も無ければ、熱量による問題もない。魔力が尽きることまで起動する聖域。

 

『起動したからには、もう彼に障壁を破る方法はないよ……あとは、お兄ちゃんが一方的に殴れば勝ち』

 

ロリィは当然のように話しかけてきます。

 

獣王は、沈黙する私に対して問いかけます。

 

「────どうした不満か?」

 

図星をピンポイントで指摘されます。

 

雰囲気から滲みでていたでしょうか。それとも彼の本能か。

 

私は気にせず、口を開きます。

 

「ええ────こんなにあっさりと勝つなんて気に食わない」

 

ここまで多くの困難に直面してきました。

 

ようやくここまで来ました。なのにその決着がコレでは、

 

私は、獣王は、救われない。

 

「勝つことへ不満か?」

「勝ち方に対しての不満です」

 

娘娘猫さんが言ったように、これでは鎧の性能で勝ったにすぎません。

 

私が望むのは、不正はあっても、公平で終われる勝敗。

 

強欲かもしれませんが、望めるのであるなら望んでおきます。

 

「全く、教授をするのは王としての役目ではないのだがな」

「教授ですか……?」

 

「たとえ貴様の障壁が硬かろうと、死ぬまで殴り続ければいいだけの話だ」

「タイマンで、この絶対障壁が突破できるとでも」

「“できる”と本能がいっている。だが、敵として認めたものがこうも情けなくては、拳の意味がない」

 

獣王は仁王立ちをして、片腕ながらも、こちらを睨みます。

 

「いいか、獣を狩るのは知恵をもった人間だ」

「それは、このまま暴力のまま押し潰せという意味ですか?」

「いいや違う。知恵とは人間が作った強力な武器や、魔法のことではない」

 

獣王は知っています。

 

獣には本能と呼ばれる種族に基づいた判断があると。

 

だが、人間には獣じみておりながら、種族を超えた判断があると。

 

「直感────知識によって絞り出される刹那の思考こそが知恵と呼ばれるものだ」

 

獣王の眼が訴えます“お前は人間かと”

 

人であるならば何故考えることを放棄して嘆いているんだ、と。

 

そんな眼を見て、つい自分を笑ってしまう、私。

 

「ロリィ、絶対防御を解除してください」

『それって……機体の魔力がなくなっちゃうよ、お兄ちゃん』

「構いません。私の直感は、獣をなぐるのに防御は不要と言ってますから」

 

振動はゆれて疑問を表しながら、絶対防御を解除をしてくれます。

 

無色透明の膜が剥げていく様子は、獣王から見ても分かるものだったのでしょう。

 

彼も楽しそうに笑います。

 

「さて、今の貴様はどちらの名をなのる?」

「もちろん、ゴンスを名乗っておきますよ」

 

「ここまで、盛り上げて、自らの名を名乗らないのか……あきれたものだ」

「私一人では、無様に殺されるのが関の山ですから」

 

「そうか────」「─────そうですともっ」

 

瞬きが一瞬。交わるは拳。

 

肉と鉄。リーチには差がありますが、獣王にはそれを補う腕力で、風圧の塊をぶつけてきます。

 

「ちい、初撃は互角か────」「────相変わらず馬鹿げている拳ですねっ!」

 

戦鋼の拳は、獣王の頬にクリーンヒット。

 

彼の拳は、操縦席の右脇をかすめます。

 

「どうしたァ、動きが生ぬるいぞォッ」

「うるさいですねっ、こっちは二倍ものある物体を動かしているんですよっ」

 

音をたてていく装甲。拳を打ち込まれてもびくともしなかった装甲が、軋んでいます。

 

「そっちこそ、戦鋼の装甲を抜ける自信はあるんですかねェっ」

「愚門だ。我を誰だと思っているッ」

 

気付けば魔力が限界値になっている私。

 

どうやら絶対防御を切ってごっそり持ってかれたのと、騎士自体の燃費はあまりよくないみたいです。

 

「更に動きが緩急になっている、ぞ」

「それはそっちもおなじことでしょ、う」

 

ミスリルの拳は、たやすく獣王の魔力層をブチ抜き、彼に多大なるダメージを与えています。

 

おそらく、彼が立っているのは気合という部分が大きいことでしょう。

 

「安心しろ、精神的状態は最高だッ」

「ならその精神ごと折ってやりますよっ」

 

お互い距離をとり、一息、再度構えます。

 

真銀の拳を、握りしめるのは私。

 

獣が握りしめるのは、血まみれの拳。

 

合図は、おだやかな風が、吹き込んで来たとき、

 

「死ねぇぇぇぇ─────」「─────ソッチこそおおォっ!!」

 

激突をめざす、2つの物体。

 

勝利条件は単純。先に殴った方が勝つ。

 

ならばと、互いに大地を踏み抜いて、速度を上げていきます。

 

「どうした、その程度かッ─────」「───質量ってモノを知らないんですかっ」

 

体格による差は歴然です。

 

残りの魔力をどれだけつぎ込んでも、1手ほど速い、獣王の拳。

 

魔力が失われつつあるミスリルの装甲では、防ぐことが出来ない、そんな予感がします。

 

「やはり殻にこもっていたほうがよかったかァ、キイロォッ────」「──なんのおおっ」

 

叫んでみますが、限りある魔力の限界を超えることはできません。

 

アレを使おうにも、熱量はありませんし、正直言って敗色濃厚。

 

ですが、叫ばず、進まないワケにはいきません。

 

『まったく、力を貸してやれ、キイロ』

『いいの? 彼女すごい頑張っているところなんだけど』

 

『貸さないと馬鹿が負けるのが明白だぞ』

『確かに。まったく、そういうところだよね、ちゃん』

 

左手から流れる、極彩色の輝き。

 

ささやかれた言葉は、雷魔法。中級、いえ上級でしょうか。

 

戦鋼から放出される数多の稲妻。大気を切り裂き、獣王にも到達しますが、

 

「短小な雷で阻めると───」「───いえ、それは超過分ですよっ」

 

まったく誰が唱えたかは知りませんが、クソッタレで、最高の手助けです。

 

雷魔法の対象は、戦鋼本体。

 

あふれんばかりの雷が、これでもかと、金属の機体に流れこんでいます。

 

おかげで、雷エネルギーの大半が、熱に変換されいます。

 

操縦球さえ、指を溶かさんとする熱量ですよ。笑えますね。

 

「ふははは、やはり俺を越えるか、キイロッ──」「────いいえ、皆で越えたんです! ???発動っ!!」

 

刹那、音速の壁が打ち破られます。

 

白い閃光を纏った拳は、獣王の胸に突き刺さり、

 

「見事────」

 

「────ありがとうございました」

 

抉りきったあとには、地面から1つ、音が聞こえました。

 

静寂。恐ろしいほどに静かで、思わず観客席を見てしまいたいほどです。

 

ぽつりぽつり。声が聞こえます。

 

「な、なあ、見えたか……」

「俺も全く見えなかった。だが感じた」

 

「甘えな、俺はハッキリと見えたぜ。マジでやべえ」

「うるせえ、こっちだって鳥肌立つぐらいには実感してんだよッ」

 

「なら最後の殴り合いの実況でもしてやろうか?」

「えっ、マジでめっちゃ聞きてえェ」

 

口々にあふれ始めた声は、だんだんと広がっていきます。

 

最終的に、コロシアムが揺れんばかりの歓声が、試合終了の合図となるのでした。




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