“獣王の勝利”への異議は通り、私達の勝ちが権利によって認められた後。
少女と、猫と、巨人たちが────工房にあつまり、雑談をしながら、祝賀会の準備をしている中。
会話のなかに、赤金髪少女の姿はありませんでした。
◇
【ギルド総本山/教会・地下通路】
両面ステンドグラスがならぶ通路には、光が降りそそぎます。
照らされるのは白の床。一瞬、真銀に見間違えるほど輝くと、白色に戻ります。
不思議な通路です。まるで脈打っているかのように。
そんな場所には、2人分の足音が聞こえるのでした。
「なんか、ビビるぐらい神聖な場所なんですが」
「わかるわー、やっぱり落ち着かないわよねー、総本山の地下」
二人の声が反響して、大きな天井で広がります。
私が顔をあげれば、弧を描いた幾何学的な模様。
我々の知っている魔法っぽいですけど、なんというか乱雑です。
意味はあるのだろうか。頭に疑問符をうかべながら、口をひらきます。
「この天井のラクガキには、何の意味があるのでしょう」
「あー、いや、まあ、ラクガキに見えなくもないけど、こう、もうちょっと手心というか」
視界をかすめるのは、紫の髪です
隣を見れば、髪のながいおねーさんが胸をおさえ、浅い息をついています。
どうやらギルド主任が作るのに関わっていた様子。
「ギルド主任には、コレは何に見えるんですか?」
「頑張った結果というか、魔改造されすぎて誰にも触れなくなったブラックボックスというか」
彼女は白い眼をしながら、天井を眺めています。
「えっと、つまりこれはギルド主任が描いた、と」
「私じゃないわよ。ただ、友との思い出ってなだけかなー」
瞳をとじるギルド主任。
おそらくですが、過去を思い出しているのでしょう。ならばこれ以上話しかけるのは無粋な気がしてきます。
私も上ばっかり見ているのではなく、前を向いて歩くことにしましょう。
「にしても、やっぱり眩しいですね……」
ギルド本部:最奥とよばれる場所。
神聖な場所と評したとおりに、各色ステンドグラスを通してさす光は神々しく、白の通路がより際立っています。
「なんだか無性に緊張してきますし、これは……空間に飲まれていますね」
「別にそんなに気を張らなくてもいいと思うけどねー」
気づけば、隣から回答が返ってきます。
「ですけど、大会優勝者はこんな場所で、聖女様と面会するとか聞いてないんですが」
「ほら、お願い事をいう必要があるじゃない」
「個人的には、偉い人にお願いして伝わると思っていたんですが」
「ギルドは基本的に、聖女以下は平等って感じだからそうもいかないのよ」
「大丈夫ですかね。その、粗相とかしないでしょうか」
「うーん、その心配は今更だと思うんだけど、妹ちゃん」
呆れた顔をしているのはギルド主任です。
どういうことですか、と聞き返すと、今更失礼をしても怒られないって事、と返されてしまいます。
答えになっていません。深く追求しようとすると、頬を揉まれてしまいます。
「しっかし、妹ちゃんはころころ雰囲気が変わるわねー」
「もっ、もにゅもにゅ(急に、ほっぺをさわりながら言わないでくださいっ)」
「いやー、いまさらこんな事にビビるんだーって感じで。大会の時みたいに、殺意MAXでいいのに」
「もひゅもひゅ(大事な時になるとスイッチが入るといいますか……)」
「本当にそういうところは子供みたいよねー」
「もにゅぅ(いや、まだ子供なんですが……)」
「あれー、そうだっけ」
ふざけ合いながらも、歩みは続いていきます。
足が止まった時、見上げるほどの、赤い両扉がのぞいていました。
豪華な装飾の隅には、警備兵が1人。槍を構えて、扉を阻みます。
「────おい、貴様の入出許可はでていない」
「だってさ、妹ちゃん」
「えっ、そ、そうなんですかっ⁉」
「馬鹿か、ギルド主任。貴様に決まっているだろッ」
「あれー、私は入っちゃだめなパターン?」
ギルド主任は、指先を唇にあてて、いたずらっぽく口をひらきます。
これは、アレですね。あわよくば入ろうとしている感じがヒシヒシと伝わります。
見てください彼女の眼を。細めた眼からは“いいから中に入れろ”という無言の圧力を感じます。
「駄目だ」
「えー、ここまで妹ちゃんを案内したじゃーん」
「ならばその報酬に、今回の始末書の追加だ」
「いや、流石にほら、もう報告書はいいかなって?」
「少女に対する過剰な肩入れ、重要事項の報告忘れ、聖女の旗の情報漏洩、好きなのが選べるぞ」
「いやいやいや、ほら、結果的にハッピーエンドな感じになったじゃない」
「そうだな、獣王の引き入れ、鍵の発見、は確かに予定になかった報酬だ」
「なら、それでチャラにするってのはー」
「それはそれ、これはこれ、が聖女様からの伝言だ」
「あっはい」
どうやらギルド主任であっても、聖女様の言う事は聞くようで。
私が扉の奥にすすむのを、涙ぐみながら、
「妹ちゃーん、私の始末書をチャラにする、ってお願いをしてもいいからねー!」────無視して先に行ってもよさそうですね。
私は両扉の奥に、足を踏み入れるのでした。
◆◇◆◇
【ギルド総本山/教会・最奥】
入口から、光りの粒子が、辿りつく大広間です。
銀の床を、線となって、光りが駆け抜けていきます。
「────よく来ましたね、キイロ」
赤金髪少女が視線をあげると、椅子が3つ置かれているだけ。
2つは空席。1つには少女が座っていました。
「貴方は……」
「まずは同じ目線に立った方がいいでしょうか」
立ち上がると、鮮やかな赤髪。背もたれから零れるほどの、長さです。
彼女は人とは何かが違う。なぜか、そう感じてしまいます。
「これが、聖女……」
「そうです。意味もなく、ですけど動いてしまう聖女です」
「それってどういう意味ですか?」
「それは、あなた自身で考えてください」
彼女は両瞼を閉じます。
答える気はない。雰囲気が物語っています。
「ちょっとギルド主任の言っていた気持ちが判るかもしれません」
「あらあら、彼女から何かを吹き込まれたのですか?」
「別に礼を欠いてもいい、と言われましたね」
「まあ、彼女らしい発言ですね」
つかみどころがない、と表現するのが適正でしょうか。
言葉を交わしていると、
聖女様は、楽しそうに笑ったり、悲しそうな顔をしたりと、次々と表情を変えていきます。
「そろそろ、お願いを話してもいいでしょうか」
「いいですが、その前に私のお願いも聞いてはくれないでしょうか?」
聖女様は表情を無くして、唇をひらきます。
先程までのおふざけはどこにやら。厳格な雰囲気といいますでしょうか、つい背筋を立たしてしまうような感覚です。
「────キイロよ、この世界を救ってはくれませんか?」
凛と沁み込んでいく彼女の言葉。
ハッキリと聞こえ、言葉を理解した上での、私の返答は一つ。
「────えっ、いがっ、いや、どうゆこと⁉」
超絶テンパって、噛んでしまったのは許して欲しいところです。
「あらあら、そう慌てなくても大丈夫です」
「急に世界を救えって言われてもドッキリか冗談か、の二択しかないんですが……」
「大丈夫です。今回は冗談でもドッキリのどちらでもありませんから」
聖女様は微笑みながらも、眼からは真剣をおびた視線が伝わってきます。
おもわずゴクリと喉をならしてしまう私。あまり、お硬い雰囲気には慣れていない証拠です。
「簡単に説明しましょう────前提として、この世界は星の魔力が枯渇しかけ、滅びゆく運命にあります」
「前提が理解不能です」
「そうですね、ならば大気に放出された魔力が、大地に戻らなくなったという方が分かりやすいでしょうか?」
「まぁ、それなら、ギリギリで」
なんか龍姉(自称、姉)がそんな事を言っていた気もします。
大地に魔力が戻らなくなって、循環がどーだこーだと。
「でも、それと私が世界を救うことになんの関係が?」
「あなたには敵を倒すための先導者となって欲しいのです」
「敵? これは悪者によって引き起こされた事象ということですか」
「いいえ、敵が引き起こしたのではありません。生きるために敵を倒す必要があるのです」
言葉の意味がよくわからず首をかしげる私。
聖女様はそんな私にも分かりやすいように一言で、要約してくれます。
「────あなたには地球にはびこる
ここまで読んでいただきありがとうございます
誤字脱字報告があると作者が喜びます