【ギルド総本山/教会・最奥】
「それは地球を……欲しいということですか」
赤金髪少女は、言葉を濁します。
濁した言葉は“裏切る”という発言。言えば、地球の人間と名乗るようなものです。
「そうですね。正確には地球の星の魔力が必要といったところです」
「ちなみにさっきから出てくる星の魔力って?」
「星を動かす力、程度に考えてもらえれば十分です」
「デカい例えをしてほしいわけではないんですが」
私の頭が熱くなってきました。
星の魔力やら、地球に攻めるやら、難しい事が脳内にのしかかります。
反射的に、私の手はおもわず、耳に。
聖女様のほほえみ声がすべりこみます。
「別にキイロに難しいことを考えてほしいわけではありません。ただ戦ってほしいのです」
「言っている意味が理解できないのですが」
「嫌悪する必要はありません。害虫を潰すと考えればいいのです」
「それは私である必要があるんですか?」
私の目が細められます。
別に戦うだけなら、獣王さんでも、ギルドの主任、でもいいとんじゃないでしょうか。
私より、殺しに長けた人はいくらでもいるハズです。
「いいえ、この世界の人間では駄目なのです」
「まるで、私がこの世界の人間ではないかのように……」
「身構えなくても大丈夫ですよ。あなたが、地球人であることは承知の上ですから」
“地球人”聖女様の口から聞こえた言葉には、ずいぶん棘があります。
まるで、ゴミか、虫としか、おもっていないような声色です。
「ずいぶん軽蔑的ですね。耳ぐらいしか違わないのに」
「いいえ。魔力を吸う、我々人類と、地球人とでは大きく違うのですよ」
「だから、地球で戦えないと」
「ええ、ですから私は貴方が欲しいと言ったのです」
ハッキリというものをいう聖女様の言葉に、私は頭が痛くなってきました。
「そんな話をして、私が戦うと?」
「戦ってくれますよ」
「何を根拠に」
「貴方はすでに冒険者ですから」
真顔で答えてくれる聖女様。
それはまるで、冒険者だから、貴方は地球に敵対する、と言われている様です。
「それが従う理由とでも」
「したがってくれますよ。だって冒険者というものは────私の魔法にすぎませんから」
勇者が、竜王を討ち滅ぼすためにつくった原初の魔法。
勇者が1人しかいないのなら、後から作ればいいと考案された魔法。
足りない人間に、後から付けたしを可能にする、そういう魔法です。
「現在の使用者である、私がいなくなれば、機能しなくなる、その程度の奇跡です」
「それがどうしたんですか。魔法を使っているのだから、異世界に協力しろとでもいいたいのですかっ」
声を荒げるのは、ささやかな抵抗です。
聖女様がいいたい事は分かっています。ですから、有耶無耶にしようと荒げるのです。
ゆえに、彼女はいたずらっぽく告げてくれます。
「────なら貴方はそれを捨てれますか?」
冒険者になった貴方の生き方は輝かしいものでした。
人を助け、友を救い、龍と冒険した。
それは貴方の、付け足された力、があってのモノではないのでしょうか。
「それは────」
何かを言わなければ、屈してしまう。
予感とともに、口から僅かな言葉は出ていました。
核心をつかれた以上、意味あるモノを紡げるとは思いません。
ですが、身体に潜むナニカが“言い切れ”と命ずるのです。
「それでもっ「私としては、そういう回答は駄目です」────もごもご」
細い聖女様の指が、私の唇にあわされます。
「いいですか。私としては中途半端な回答は駄目です。自分の意思で言ってください」
「もごもご(じゃあ、ここまでの問答はなんだったんですかっ)」
「まあ、私としても、意志とは違えど、役割は果たさないといけませんから」
「もごごご(最初から最後までつかみどころがない人ですね)」
「なので、私としては先ほどの話は“問い”としてしまっておいてください────いつか答えが紡げる、その日まで」
唇から指が離されると、身体が、吸いこまれるように扉に飛んでいきます。
「ほえ?」
「私としては、帰りは聖女っぽいことをしてみたいので」
聖女様の声はすぐに聞こえなくなり。
扉から締め出されるように、放り出されます。
宙で一回転。着地すると、目前には豪華な装飾。
「放り投げられましたか……」
私の呟きは、閉まり切った扉に吸いこまれます。
それは、聖女様との面会終了を告げているのでした。
◆◇◆◇
【ギルド総本山/教会・地下通路】
赤金髪少女は、天井をながめて、指先で額をたたきます。
何か大事なことを忘れている気がしますね。
思考が頭を埋めそうなとき、背後から声がひびきます。
「いやー、面白い退出方法だったわねー」
「あれ? ギルド主任。まだ居たのですか」
「いやー、妹ちゃんが心配でねー」
紫髪のおねーさんは、えっへん、と豊満な胸をはります。
「────気にするな。当然のように聞き耳をたてていただけだ」
呆れた声。扉を守っていた門番さんが教えてくれます。
「失礼な、情報収集って言ってちょうだい」
「それで、貴様が扉に吹き飛ばされるのはお笑いだったな」
「なによ、ちょーっと開くのに反応できなかっただけじゃない」
「それだけ、貴様も甘くなったということだ」
門番さんは、重いため息をつきます。
長々と息をこぼしきった後、視線を私の方に。
「ところでだ。聖女様に願いは聞き届けてもらえたのか?」
「願い……えっ、あっ!?」
私は、やってしまった、という顔になっていることでしょう。
口があんぐりと広がって、元に戻りません。
まずいですね。肝心なことを忘れていました。
「あのー、妹ちゃん……」
「まったく、揃いも揃って腑抜けているな」
鉄鎧を抑える、門番さん。
沈黙を数秒しますが、足を動かし、門に手をかけます。
「まったく……仕方ない。もう一回行って来い」
「いいんですか?」
「いいわけないが、本当に謁見だけして帰る奴がいるかと、言いたい気持ちだ」
いや勝手に追い出されたんですよ。
そんなふくれっ面をしながら、再度、扉をくぐるのでした。
◇
【ギルド総本山/教会・最奥】
「あら、私の場所に忘れ物でもありましたか?」
足を運んだ赤金髪少女を、笑顔ででむかえる聖女様。
絶対、わざと追い出しましたね……いや、勝手に断定するのは良くないですね。
首をふり、気持ちを切り替え、口をひらきます。
「えっと、ですね、非常に申し上げにくいんですが」
「あらあら、私はキイロが借金だらけでもいいんですよ」
はい、確信犯です。
まだ一言もしゃべってないのに、コレですよ。
「それは私がよくないんですが」
「大丈夫です。私の元でいい仕事紹介しますから」
聖女様はキラキラした笑顔を向けてきます。
視界を侵食してきたキラキラとしたものを押し返して、私は話を進めます。
「では、お願いというのは」
「借金の方は明日にでも無くしておきますよ」
「いえ────ゴンスさんを元に戻してくれませんか?」
急に真顔になる、聖女様。
「それ、意味を分かって言っていますか?」
「もちろん、分かって言っているつもりです」
「では、仮にそれが出来たとしても、借金の方はどうするつもりですか」
「ちょうど稼ぎのいい仕事を紹介してくださる人がいたので、それにでも頼りましょうか」
「なるほど、では地球人を全て────」
私の顔をじっとみる、聖女様。
表情の変化でも伺っているのでしょうか? 別に変わることはないですけど。
ゴンスさんに比べたら、借金なんて軽いモノですし。
ため息を1つついた後、聖女様は表情を変えます。
「────なんて命令したら、私が悪者みたいじゃないですか」
“まだ未熟か”そんな顔をしてくれる聖女様です。
「……」
どういう反応を返したら良かったんでしょうか。
やはり地球人虐殺の提案をしてきた時点で、もう悪役だろ、というツッコミが欲しかったんでしょうか。
「今、私はそもそも悪者だろって思いましたね」
「思ってません」
「いいや。絶対思ってました。私のしっている彼とそっくりな顔してました」
「他者との経験を押しつけるのはよくないと思います」
なぜか。プンプンと怒っている聖女様。
私はわけもわからず、苦笑いです。
「いいですか、今回は特例として、私の力で、借金も巨人族の方も、両方どうにかしてあげます」
「それは貸しという事です?」
「この、私の頑張りをどう捉えるかは、キイロ次第です」
「なら聖女様の気まぐれと言うことで」
「言ってくれますね……私、こうみえても、この世界の聖女なんですよ」
「ソレハスゴイナー」
私は、めんどくさいので、背中をむけます。
うごきだす踵、扉にむかって歩きます。
「え……も、もう、帰ってしまうのですか。こう、もう少し、私の感謝に報いるとかは……ないのでしょうか」
背後からは、聖女様の慌てた声が。
なんか言ってますが、長居しても悪いですし、帰りましょう。
別に言いたいことは、これ以上は……
そう────扉に手をかけたとき、足を止めます。
「ああ、確かに忘れていました、ね」
キュッ、180度反対を向いて、彼女に”忘れた事”を言っておきます。
「あの、聖女様っ」
「なんでしょうか。今さら私のお金が欲しいとかは聞けませんよ」
「いえ、そういうことではありません」
「なら本当は私が欲しいとかですか。残念ですが、あなたの聖女様は非売品となっています」
聖女様は、支離滅裂な言葉を吐いています。
壊れた機械といいますか、相反する感情がごちゃごちゃになったロボットみたいですね。
まあ、目前にいるのが壊れかけのロボットだとしても、やることは変わりませんが。
「────ありがとうございました」
私は、頭を軽くさげます。
深くは下げれません、彼女はたぶん敵ですから。
「それは……“何に”対しての感謝ですか?」
「この街で出会いをくれたこと、そして手助けをしてくれた事に、対してです」
不自然なほど事件に巻き込まれ、偶然のように全てが綱渡りできた今回。
その裏には赤髪の少女たちと、ギルドの影響があったように感じます。
「これは手助けというには、私欲まじりだったと記憶していますが」
「ですが、この結果は貴方達がいなければ、有り得なかった」
ですが時間は長々とかけて。
それは、彼女に誠意を伝えるために。
「────行動に、敬意と感謝を」
足を動かし、再び前を向いて歩き始める私。
扉は開き、外に出ると「痛ッ」「貴様、俺に倒れかかるな」────ギルド主任と門番さんが、床に倒れていました
「いや、何やってるんですか」
「いやー、ちょっと気になってねー」
「貴様が聖女様に不埒な文言を吐いていないかの確認だ」
「いや、そんなこと言うわけが……」
「うーん、これはどう思う、門番くん」
「これは限りなく白に近い黒ですな、ギルド主任」
聖女様の部屋をつなぐ、扉はすでに締まりきっています。
ですが、もし扉に耳をつけている者がいれば、こんな会話が聞こえたことでしょう。
「やっぱり勇者の方々って、どうしてこう────いえいえッ、私は何を考えているんですかッ」
年相応の少女として顔をあかめらせ、左右にブンブンする聖女様。
それは警備兵ですら知らない彼女の一面なのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます
誤字脱字報告があると作者が喜びます
余談
「ところで最後のキイロの台詞は誰に言ったモノだとおもうでち?」
「もちろん、私ですね」
「いや、どうみても、これは暗躍を頑張ったでちこうに対してでち」
「いえ、これは裏で糸をひいていた私に対してですね」
「シナリオの都合上、ギルドの地下でぐーたらしてた人物のどこに頑張った要素があるでちか?」
「私としては、皆で頑張ったところに水をさした、貴方に感謝する必要はないと感じますが」
「自分も輪に混ざりたくなった結果、さらに借金をふっかけた人物がいうと、すごく説得力があるでち」
「そもそも、私は破綻しかけた計画を修正するために、わざわざ出張ったわけですけど?」
「世界よがりの計画なんて、壊れるのが当然でち」
「言ったはずですよ、1人はみんなのために。聖女は、世界のために、と」
そんな2人のなかに、プラカードが差し込まれます。
文字には────
「(ねえねえ、実は私とかはない?)」
「「それはない」でち」
喧嘩をするのは、耳をつかさどる少女、口をつかさどる少女、ギルドの女王。
床はドンドンと踏みならされ、振動は、ギシギシと扉をゆらします
「声がこちら側まで聞こえている、と彼女たちに伝えたほうがいいのだろうか……」
門番は、扉の前で、1人頭をかかえるのでした。