【前線基地/キイロ&アオイ部屋 [現地時間3:00]】
『ようやくお目覚めか』
目覚め一番の声は、
「早起きですね、ナビィ」
『嫌なほど月が大きいからな』
「月……まだそんな時間ですか」
首を動かし、左を見ます。
部屋の時計が示すは3時。
備え付けられた窓からは、月光が差し込みます。
「明るすぎますね」
『月一の満月だ。魔物共が凶暴になるぞ』
「ふぁィ……にしても、体が重く感じます」
首を動かし、右を見ます。
キイロ少女の顔。ヨダレを髪に垂らし、ほぼ裸で私に抱きついています。
上がはだけて寒かったので、湯たんぽの代わりにでもされたのでしょうか。
『ドラゴンの石代わりだな』
「なんですかそれ」
『貴様のいう、湯たんぽという奴だ』
彼女を横に動かして、自由を得ます。
周囲は少しだけ物が多い、兵士たちの自室といった感じ。
大きめの部屋なのは戦鋼のパイロット故なのでしょうか。
「とりあえず、キイロの服を探しますか」
『ずいぶん優しいことで』
「まさか」
部屋の隅に、脱ぎ捨てられたキイロ少女の制服。
彼女が何を入れているのか知りませんが、見かけよらず重たいです。
「確か、この中に」
『急いで漁れよ』
「分かってます」
服のポケットからは────鏡、縦長の機械、メモ帳......可愛いカードケース。
「ありました」
カードケースを開くと、木色 来来と書かれた基地パスがありました。
私のより上の権限パス。コレで開かなかった扉が、開くようになるハズです。
『意外と考えているな……』
「失礼なっ、いつも考えていますよ」
『本当か。冗談なら間に合ってるぞ』
「うるさいですっ」
そんなやり取りをしつつ、部屋のドアを開けます。
キイロ少女には、申し訳程度に布団と、畳まれた上着が添えてあるのでした。
◇◆◇
【前線基地/保管庫 [現地時間3:30]】
前回来た道を辿り、開かずの扉の前に来ます。
まだ夜が明けていないからでしょうか、基地隊員の往来は皆無です。
「今のうちですか」
ゆっくりとキイロ少女のパスをかざします。
【Open】という文字と共に、扉が左右に割かれ、内部に入れるようになります。
「薄暗いですね」
窓がない部屋。廊下側の光りで照らされるは、剣や盾などの武具。
無造作に置かれたそれらは、埃を少し被っていました。
『まるでドロップ品の保管庫だな』
「ドロップ品って、魔石とかのですか」
『他にも剣や鎧とかが残ってたりはする』
ドロップ品。魔物が死ぬときに魔石から放出される魔力によって、剣や鎧が形作られ、残るアイテムです。
作られるモノは、魔石に記憶されていた記憶という説もありますし、偶然そうなったという説もあります。
「ちなみに宝玉の詳しい位置って分かりますか?」
『これだけ、アイテムがあると無理だな』
「こう、都合よく────あれ? 右奥のモノって」
『なるほどな、コイツを探していたのか』
写真で見たものと同じ、蒼穹の球。
神秘的な雰囲気を漂わせ、僅かな月明かりで極彩色の輝きを見せます。
思わず手をのばしそうになりますが────
『────迂闊に触れるな、馬鹿者が』
「えっ、そうなんですか」
『呪いの鑑定もせずに触れるのは三流だ』
数分間、ナビィが視覚と右手を使って、宝玉を観察します。
手をかざしたり、ぶつぶつ言ったりして、かなり怖いです。
『やはり呪われている、いや起動しているが正解か?』
「一人で納得しないでください、ナビィ」
『ううん、えーとだな、登録装置というか記憶装置が動いているだけだ』
「いや意味が分かりませんが」
結局、布で拾い上げた宝玉を、厳重に包んで、ポケットにしまうことにしました。
安全面の問題は大ありですが、他に隠す場所もないので仕方ありません。
「では、頃合いを見て基地から抜け出しますか」
『まあ、それが妥当だな』
期限までもう一日あるとはいえ、地球に送り返される荷物の調査も必要ですし、意外とやることは多いかもしれません。
いっその事、思い残しがないように食事場のメニューを頼んでみてもいいかもしれません。
「そうですよね、宝玉見つけたんですよね」
『運がよかったと、喜ばないのか』
「嬉しい気持ちな「ドオオオンッ」────へっ?」
体がぐらつくような振動、その後、
スピーカーから非常時としか思えないサイレンが鳴り響きます。
[
[
[
未だ基地を襲う振動は止みません。
「ふふふっ......大人しく帰らせてくれませんかね」
『帰るまでが、何とやらだぞ』
「べつに遠足気分でもないです」
私は保管庫の扉に近づきます。
◇◆◇
【前線基地/保管庫 [現地時間4:00]】
扉から周囲をうかがいますが、特に変わった様子はありません。
『で、どうするつもりだ────』
「外にでも逃げますか」
『止めておけ、どうせ外は戦闘中だ』
「ですが他に逃げる場所は」
『この基地には地下があっただろ』
「入り口を知らないんですが」
『食堂近くの階段だ。きちんと見ておけ』
ナビィに叱咤されながらも、今後のプランを考えます
「ナビィ、食堂までの道って」
『ここから通路を通った向こう側、だいたい10分ぐらいだ』
思い返してみると、距離は大したものでは有りませんし、急げば数分で着くはずです。
扉から一歩踏み出そうとしますが、ナビィの叱責がまた飛んできます。
『警戒を怠るなよ。先の爆発、メイジ系統のゴブリンがいるぞ』
「急に魔物の系統とか言われても、訳が分からないんですが」
『
「分かりやすくて結構です」
出来るだけ足音を立てずに進む中、あと少しといったところで、障害にぶち当たります。
「これは、壁ですね」
カンカン。叩いてみると金属にしては硬すぎる音が聞こえます。
『魔力を帯びた金属製だな』
「何か違いがあるんですか」
『魔物の攻撃でも壊れないって話だ』
押しても引いてもビクともせず、通り抜ける隙間もありません。
緊急警報の時に隔壁でも閉鎖したという話でしょうか。
『どうする、気合でぶち破るか?』
「いえ、おとなしく外に出ましょう」
廊下を歩いていても聞こえる、爆発、銃声、爆発音。
「戦闘があるという事は、どこか閉じていない箇所があるハズです」
『いい読みだが、どこだと予想する』
「大方、戦鋼の格納庫かと」
『その心は?』
「魔物を倒すためには戦鋼の出撃と整備が必須です」
『私も同意だ。そしてそれがこの基地の弱点でもある』
「不穏な事言わないでください」
『事実だ。そして今回の黒幕はなかなかに慎重だぞ』
「黒幕? ただのゴブリンの襲撃ではないんですか」
『馬鹿か、下級のゴブリン共に夜間襲撃をされてたまるか』
幻聴は真面目に語ります。
『黒幕は数週間前からこの基地の戦力を確かめていた』
「そんな事、分かるんですか?」
『多種多様な手段で、戦鋼がボロボロになっていただろ』
「キイロ訓練生がドジを踏んだだけかと」
『まさか、東の連中の狩りの手法だ』
────戦鋼に、なんの攻撃が通りやすくて、何が通らないか、それをじっくりと調べられていた。
「なぜそんな回りくどい事を」
『奴らの狩りは基本一人で行われる』
「凄く詳しいですね」
『殺した連中のことぐらいは覚えている』
色々言いたいことはありますが、私はとりあえず深呼吸します。
「ナビィ、私がやることは、」
『地下まで走りきることだ、それ以外は考えるな』
廊下を見渡せば、壊れたランプが点滅する【非常口】
ロックに手をかけ、力一杯に、非常用ドアを開け―――――外に出ます。
「これは……」
『ほれぼれする手際の良さだな』
赤色が視界をおおいます。
炎の海という表現が合うような惨状。
爆発音に乗って来るのは、獣のうめき声。
月が輝いているにもかかわらず、周囲は昼の様に明るい、そんな光景。
「笑えませんね」
『ここで笑えれば一人前だぞ』
「次回までには笑えるように頑張っておきます」
気付かぬうちに、震える手を握りしめ、隠密行動を始めます。
目指すは、地下への入り口、格納庫の奥です。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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