紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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⑪ 少女と任務と帰り道

【前線基地/キイロ&アオイ部屋 [現地時間3:00]】

 

黒髪少女(わたし)は重さを感じて起きます。

 

『ようやくお目覚めか』

 

目覚め一番の声は、脳内の幻聴(ナビィ)でした。

 

「早起きですね、ナビィ」

『嫌なほど月が大きいからな』

「月……まだそんな時間ですか」

 

首を動かし、左を見ます。

 

部屋の時計が示すは3時。

 

備え付けられた窓からは、月光が差し込みます。

 

「明るすぎますね」

『月一の満月だ。魔物共が凶暴になるぞ』

「ふぁィ……にしても、体が重く感じます」

 

首を動かし、右を見ます。

 

キイロ少女の顔。ヨダレを髪に垂らし、ほぼ裸で私に抱きついています。

 

上がはだけて寒かったので、湯たんぽの代わりにでもされたのでしょうか。

 

『ドラゴンの石代わりだな』

「なんですかそれ」

『貴様のいう、湯たんぽという奴だ』

 

彼女を横に動かして、自由を得ます。

 

周囲は少しだけ物が多い、兵士たちの自室といった感じ。

 

大きめの部屋なのは戦鋼のパイロット故なのでしょうか。

 

「とりあえず、キイロの服を探しますか」

『ずいぶん優しいことで』

「まさか」

 

部屋の隅に、脱ぎ捨てられたキイロ少女の制服。

 

彼女が何を入れているのか知りませんが、見かけよらず重たいです。

 

「確か、この中に」

『急いで漁れよ』

「分かってます」

 

服のポケットからは────鏡、縦長の機械、メモ帳......可愛いカードケース。

 

「ありました」

 

カードケースを開くと、木色 来来と書かれた基地パスがありました。

 

私のより上の権限パス。コレで開かなかった扉が、開くようになるハズです。

 

『意外と考えているな……』

「失礼なっ、いつも考えていますよ」

『本当か。冗談なら間に合ってるぞ』

「うるさいですっ」

 

そんなやり取りをしつつ、部屋のドアを開けます。

 

キイロ少女には、申し訳程度に布団と、畳まれた上着が添えてあるのでした。

 

 ◇◆◇

【前線基地/保管庫 [現地時間3:30]】

 

前回来た道を辿り、開かずの扉の前に来ます。 

 

まだ夜が明けていないからでしょうか、基地隊員の往来は皆無です。

 

「今のうちですか」

 

ゆっくりとキイロ少女のパスをかざします。

 

【Open】という文字と共に、扉が左右に割かれ、内部に入れるようになります。

 

「薄暗いですね」

 

窓がない部屋。廊下側の光りで照らされるは、剣や盾などの武具。

 

無造作に置かれたそれらは、埃を少し被っていました。

 

『まるでドロップ品の保管庫だな』

 「ドロップ品って、魔石とかのですか」

『他にも剣や鎧とかが残ってたりはする』

 

ドロップ品。魔物が死ぬときに魔石から放出される魔力によって、剣や鎧が形作られ、残るアイテムです。 

 

作られるモノは、魔石に記憶されていた記憶という説もありますし、偶然そうなったという説もあります。

 

「ちなみに宝玉の詳しい位置って分かりますか?」

『これだけ、アイテムがあると無理だな』

 

「こう、都合よく────あれ? 右奥のモノって」

『なるほどな、コイツを探していたのか』

 

写真で見たものと同じ、蒼穹の球。

 

神秘的な雰囲気を漂わせ、僅かな月明かりで極彩色の輝きを見せます。

 

思わず手をのばしそうになりますが────

 

『────迂闊に触れるな、馬鹿者が』

 

「えっ、そうなんですか」

『呪いの鑑定もせずに触れるのは三流だ』

 

数分間、ナビィが視覚と右手を使って、宝玉を観察します。

 

手をかざしたり、ぶつぶつ言ったりして、かなり怖いです。

 

『やはり呪われている、いや起動しているが正解か?』

「一人で納得しないでください、ナビィ」

『ううん、えーとだな、登録装置というか記憶装置が動いているだけだ』

「いや意味が分かりませんが」  

 

結局、布で拾い上げた宝玉を、厳重に包んで、ポケットにしまうことにしました。

 

安全面の問題は大ありですが、他に隠す場所もないので仕方ありません。

 

「では、頃合いを見て基地から抜け出しますか」 

『まあ、それが妥当だな』

 

期限までもう一日あるとはいえ、地球に送り返される荷物の調査も必要ですし、意外とやることは多いかもしれません。

 

いっその事、思い残しがないように食事場のメニューを頼んでみてもいいかもしれません。

 

「そうですよね、宝玉見つけたんですよね」

『運がよかったと、喜ばないのか』

「嬉しい気持ちな「ドオオオンッ」────へっ?」

 

体がぐらつくような振動、その後、

 

スピーカーから非常時としか思えないサイレンが鳴り響きます。

 

[基地に甚大な被害を確認。敵、ゴブリン。(WARNING襲撃!WARNING襲撃!)]

[警戒態勢をレベル5に引き上げます(WARNING襲撃!WARNING襲撃!)]

[非戦闘員は速やかに退避してください(WARNING襲撃!WARNING襲撃!)]

 

未だ基地を襲う振動は止みません。

 

「ふふふっ......大人しく帰らせてくれませんかね」

『帰るまでが、何とやらだぞ』

「べつに遠足気分でもないです」

 

私は保管庫の扉に近づきます。

 

 ◇◆◇

【前線基地/保管庫 [現地時間4:00]】

 

扉から周囲をうかがいますが、特に変わった様子はありません。

 

『で、どうするつもりだ────』

 

「外にでも逃げますか」

『止めておけ、どうせ外は戦闘中だ』

 

「ですが他に逃げる場所は」

『この基地には地下があっただろ』

 

「入り口を知らないんですが」

『食堂近くの階段だ。きちんと見ておけ』

 

ナビィに叱咤されながらも、今後のプランを考えます

 

「ナビィ、食堂までの道って」

『ここから通路を通った向こう側、だいたい10分ぐらいだ』

 

思い返してみると、距離は大したものでは有りませんし、急げば数分で着くはずです。

 

扉から一歩踏み出そうとしますが、ナビィの叱責がまた飛んできます。

 

『警戒を怠るなよ。先の爆発、メイジ系統のゴブリンがいるぞ』

「急に魔物の系統とか言われても、訳が分からないんですが」

()()()()()()だ』

「分かりやすくて結構です」

 

出来るだけ足音を立てずに進む中、あと少しといったところで、障害にぶち当たります。

 

「これは、壁ですね」

 

カンカン。叩いてみると金属にしては硬すぎる音が聞こえます。

 

『魔力を帯びた金属製だな』

「何か違いがあるんですか」

『魔物の攻撃でも壊れないって話だ』

 

押しても引いてもビクともせず、通り抜ける隙間もありません。

 

緊急警報の時に隔壁でも閉鎖したという話でしょうか。

 

『どうする、気合でぶち破るか?』

「いえ、おとなしく外に出ましょう」

 

廊下を歩いていても聞こえる、爆発、銃声、爆発音。

 

「戦闘があるという事は、どこか閉じていない箇所があるハズです」

『いい読みだが、どこだと予想する』

 

「大方、戦鋼の格納庫かと」

『その心は?』

 

「魔物を倒すためには戦鋼の出撃と整備が必須です」 

『私も同意だ。そしてそれがこの基地の弱点でもある』

 

「不穏な事言わないでください」

『事実だ。そして今回の黒幕はなかなかに慎重だぞ』

「黒幕? ただのゴブリンの襲撃ではないんですか」

『馬鹿か、下級のゴブリン共に夜間襲撃をされてたまるか』

 

幻聴は真面目に語ります。

 

『黒幕は数週間前からこの基地の戦力を確かめていた』

「そんな事、分かるんですか?」

『多種多様な手段で、戦鋼がボロボロになっていただろ』

「キイロ訓練生がドジを踏んだだけかと」

『まさか、東の連中の狩りの手法だ』

 

────戦鋼に、なんの攻撃が通りやすくて、何が通らないか、それをじっくりと調べられていた。

 

「なぜそんな回りくどい事を」

『奴らの狩りは基本一人で行われる』

「凄く詳しいですね」

『殺した連中のことぐらいは覚えている』

 

色々言いたいことはありますが、私はとりあえず深呼吸します。

 

「ナビィ、私がやることは、」

『地下まで走りきることだ、それ以外は考えるな』

 

廊下を見渡せば、壊れたランプが点滅する【非常口】

 

ロックに手をかけ、力一杯に、非常用ドアを開け―――――外に出ます。

 

「これは……」

『ほれぼれする手際の良さだな』

 

赤色が視界をおおいます。

炎の海という表現が合うような惨状。

爆発音に乗って来るのは、獣のうめき声。

 

月が輝いているにもかかわらず、周囲は昼の様に明るい、そんな光景。

 

「笑えませんね」

『ここで笑えれば一人前だぞ』

「次回までには笑えるように頑張っておきます」

 

気付かぬうちに、震える手を握りしめ、隠密行動を始めます。

 

目指すは、地下への入り口、格納庫の奥です。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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