【前線基地/外・保管庫非常口 [現地時間4:10]】
基地外は火の海、割れたコンクリートに映るは異形の影。
幸いなのは、抉れたコンクリートと転がっている瓦礫が遮蔽物として機能しているところでしょうか。
「ナビィ、案内お願いできますか?」
『次回からは有料だぞ』
脳内の
指の先に火の粉が降りかかります、それでも叫び声は出せません
近くからは異形の唸り声が聞こえるのですから。
『後方3接近! 走れッ!!』
脳内から
息を切らしながら、次の障害物まで走ります。
『前方2戦闘中、物陰だ』
粗い呼吸を無理やり押さえつけ、隠れます。
何度か、何度も、同じような事をして、ようやく格納庫にたどり着きます。
「結構ありましたね」
『気を抜くなよ、まだ半分だ』
「それも、そうです」
はあはあと息を切らしながら、格納庫を見つめます。
シャッター扉は、熱と衝撃で曲がり、内部からは悲鳴も聞こえます。
『休んでもいいんだぞ』
「いえ、行きま、しょう」
『なら息ぐらいは整えろ』
「そう、ですね」
深呼吸とばかりに空気を吸い込みます。
苦いような辛いような嫌な空気が肺を満たすのでした。
◇◆◇
【前線基地/格納庫 [現地時間5:00]】
壊れたシャッター扉から、内部を確認します。
崩れた荷物と燃えさかる炎が視界を悪くしています。
奥の方では悲鳴に似た声がしますが、よく見えません。
『格納庫内にも魔力反応多数、死ぬなよ』
「死にませんよ、ナビィもいますから」
『私もお前も戦闘能力は皆無だぞ』
「それは分かってます」
私達には戦鋼も無ければ、魔力も、武器もないので戦うことは出来ません。
つまり先程と同じように、接敵を避けるしかないという訳です。
「敵影は無しで、音のみですか」
確認の後、内部に入り込みます。
『飛び出してきてもビビるなよ』
幻聴《ナビィ》が忠告してきますが、接敵=死です。
実際に飛び出してきたら、おとなしく辞世の句を考えましょう。
「なら出来るだけ探知を頑張ってください」
『そうしたいんだが、格納庫内は魔力が濃すぎてな』
「正確な事は分からないと」
『まあ、そういう事だ』
荷物に張り付くように進んでいきます。
隠ぺい率が変わるわけではありませんが、私自身の気持ちが落ち着きます。
『運がいいな』
「確かに運がいいですね」
格納庫から基地内部につづく扉は、目視できる距離です。
ですが、激戦があったのか、扉までは身を隠せそうな遮蔽物はなく、燃え盛る炎のみ。
「炎で身を隠せたりしませんかね」
『止めておけ、眼をごまかすには不十分だ』
「人間の眼なら余裕で誤魔化せそうですが」
『ゴブリン共の眼は魔力も捉えている、それだけだ』
幻聴は真面目に語ります。
「そういえば、格納庫内のゴブリンはどこに行ったのでしょうか?」
『他のエサと戯れてるんだろ』
幻聴は炎の向こうは見るなと教えてくれます。
見るも何も、私の眼は扉を見るのが精一杯です。
「さて、行きますか」
『走る抜けろよ。止まったらゴブリンに急襲されるぞ』
「分かってますよ────」
遮蔽物の影から抜け出し、扉に向かいます。
戦闘音は横から聞こえます。私の心臓の鼓動も大きくなります。
扉は、目の前。
(中に入ってしまえば、後は食堂まで走り抜けて────)
「整備員さん達は、私が守るッ」
迂闊。という言葉が脳裏によぎります。
視線は吸いこまれるように、声の方向へ。
炎の切れ目から見えるは────悪鬼如きゴブリン、襲われる整備員、戦う戦鋼。
『馬鹿が、みるなと言っただろッ』
戦闘が目に────襲うゴブリン達、守る戦鋼。
戦鋼と目が────
「あ────」
一瞬が命取りでした。
隙が出来た戦鋼は、飛んできた火球によって吹き飛びます。
真横の壁に激突し、私の顔には破片と血が、
戦鋼はギギギと嫌な音を立てて沈黙します。
「あっ、あ……」
『いいからッ足を止めるなッ! 大馬鹿者ッ!!』
「そうです、私は今、逃げている最中で「ギャオ♪」────あっ」
目前、ゴブリン。
悪鬼如き面は、私を笑うようにそこにいました。
ゴブリンの振りかぶる棍棒はゆっくりと私の脳天を「ズドンッ」
「────いやぁ、あぶな、かった、ねぇ」
ゴブリンは、ザクロが散る如く、破裂しました。
壁に倒れ掛かった戦鋼からは、カラカラと一発の空薬莢が転がります。
「キイロ────ッ」
走り、近づき、飛びのった戦鋼の操縦席の中には、
「さっさと、にげなよ。しんじゃうよ、かほッ」
どうしようもなく体が曲がった、キイロ少女がそこには居ました。
モニターの破片は皮膚に突き刺さっており、腹部にはとめどなく流れ出る血が。
「「「キッシャッーアッ!!!」」」
「こっちに来るなぁッ」
「ケガ人共を守るんだよッ」
「ふざけるな、止めろォッ」
背後からは、ゴブリンの雄たけびと、整備員達の悲鳴。
振り向けば、まるで遊ばれるように棍棒で殴られる、整備員達。
「エイチちゃん……むいてないよ。ほんとう、に、スパイとか」
一人、一人と起きなくなっていく、整備員達。
彼らは工具を持ってでも抵抗しているのに、私は何をしているのでしょう。
「ああ、もう。みてられないな――――」
「えっ?」
キイロ少女の手が、私の顔に触れます。
ぐっちょりとした血液が頬に付きます。
「あげるよ、わたし、を」
「何、をっ」
温かい。極彩色の輝きが体に流れ込んできます。
キイロ少女の手から、頬を伝い、私の脳に届く、輝き。
「あとは、キミのがんばりしだぃ..だから....」
「何を言って────がはっ」
脳に鈍器をぶち込まれるような感覚。
母、父、姉、風景────知らない記憶が奔る。
誰、誰、誰.....? 私は、誰────目が覚める。
「私は、何をしていたッ、のですか?」
起き上がった場所にあるのは、壊れた
◇◆◇
【前線基地/格納庫 [現地時間5:30]】
周囲には血かオイルか分からない液体が散らばり、戦鋼の操縦席はぽっかりと空いていました。
「キイロはどこに?」
そんな疑問の回答すら思いつかないままに、戦場は襲ってきます。
「キシャアアアアッ────」『────来るぞ』
幻聴《ナビィ》の声で振り返ると、こちらに向かってるゴブリン。
「危なっ」
戦鋼によじ登り、何とか躱す一撃。
「どうすればっ」
とりあえずで滑りこむは、戦鋼の操縦席。
モニターは割れ、左の操縦管は曲がっていますが、大破はしていません。
(機体こそは動かせませんが、操縦席の前装甲を閉じる事ぐらいなら……)
「ナビィッ、前装甲閉開スイッチどこですかっ」
『知るか、自分で探せッ』
「こっちは今一杯一杯なんですよっ」
『私も体を調べるので忙しいッ』
ガンガンと戦鋼によじ登られる音。
ゴブリンの足音はすぐそこまで迫っています。
(早く、装甲を閉じないとっ)
「ええいっ、運よく当たってくださいっ」
適当に倒されたスイッチで装甲は閉まらず────代わりに付くは、モニターの灯り。
[Stand up main system────OK ]
[ Date check────Complete]
[Hallow──BATTLE STEEL ]
機械の音が溢れ、各部分に光が宿ります。
「戦鋼が起動した......?」
『やはり、か』
「いやナビィっ、一人で納得しないでくださいっ」
『今の貴様には魔力が宿っている』
操縦席のエネルギーゲージに表示されるは、既定値を突破する値。
『────しかも常人の比ではない、化物級だ』
「コイツを“動かせますか”、ナビィ!」
『当然《とうぜん》だ。歯を食いしばっておけよ』
正面装甲が前を覆い、半壊したモニターに正面の画像がうつる。
モニターに映るは装甲を殴るゴブリンの姿。
空いた隙間からは削れる装甲の破片が落ちてきます。
「ナビィっ! 早くしてくださいっ!!」
『魔力はあるが、戦鋼の出力が上昇していない……』
「何ぶつぶつ言っているんですかっ」
『なるほど、戦鋼動力までの本線は破断寸前か。迂回路で直につなぐぞッ』
「ちょっ、どういう『
体に再度、電流が走る。
「ナニコレ、です。腕が増えたみたいな、気持ち悪さです」
『意識を持て、所詮は意識が拡張されただけだ』
「簡単に、言ってくれますね」
『だが動いただろ?』
そうですね、と言い返す気力もなく、ふらつく頭を押さえます。
流れ出る鼻血は指で拭い捨て、握りこむは操縦桿。
『寝てる暇はないぞ、敵が来る』
「分かってますよっ」
スロットルを踏み込み、レバーを下げ、機体を無理やり立ち上がらします。
戦鋼胸部から転がり落ちるゴブリン。それでも殺意の意志は消えていません。
「エイチ────
少女は戦鋼を駆り、ゴブリンと戦闘を開始します。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。