【前線基地/格納庫 [現地時間5:35]】
捉えるは
戦鋼操縦席に座るは、少女は唾をのみます。
戦鋼《せんこう》の装甲は剥げ、外の景色が見え、
画面の光は半半で、左手の操縦管は折れていました。
『まずは回避と攻撃からだな』
「こっちは動かすのに精一杯ですよっ」
戦鋼の動きは機敏に欠けたと言わざるえません。
頭で考えた動きが戦鋼に伝わっているらしく、操作反応にムラがあります。
「大人しくレバーペダル式にすればいいものをっ」
『それは作った奴らに言え』
「しかも無駄に関節モータありますしっ」
『次、正面来るぞ』
画面に映るは、裸体の醜悪な悪鬼、ゴブリン。
手に持つ棍棒は、火と同じぐらい赤に染まっています。
(こちらの気持ちも知らないでっ、突撃ですか)
棍棒《こんぼう》は掲げられ、殺意が戦鋼のすぐそこまで迫っていました。
「ジェッアッ!」
「かい───」
「回
戦鋼を傾けるだけに終わるのでした。
「がはっ」
────歪む視界
一瞬、沈黙をはさんで意識が戻ります。
何が起こった。
いや、ぶつかった。
当たったのだ攻撃が。
────何と、魔物と
「ゴブリンはどこですかっ」
眼をはしらせますが、画面に影は無し。
代わりに耳に届くは、上から鳴る嫌な金属音。
にやりとゴブリンの顔が、空いた穴からのぞきます。
「すぐ上に取りつきたがりますねっ」
学んだのか、偶然なのか、装甲穴に差し込まれる棍棒。
「キシャァァッ!」
「ちぃッ────!」
右操縦棒を左に動かします。
戦鋼《せんこう》は左にカクつきます。
(ああクソ、上手く動かせませんねっ)
仕方ないと、操縦棒とペダル振り回し、ゴブリンを弾き飛ばします。
「シャッ、シャー」
ですが、鮮やかに着地され、ゴブリンはこちらを睨みます。
転げ落ちた傷も無ければ、悪質な笑みが存在するだけです。
「これが魔物です、か」
右操縦棒は硬いし、重いです。
頭も痛いですし、戦鋼は上手く動きませんし、敵は想像以上に素早いです。
地球で戦った魔物よりも何十倍も強そですし、武器だって持っています。
(なんで私……戦っているんでしょうか)
今の私は嗚咽だって出そうな体です。
『どうだ慣れたか?』
「全くです。腕を動かすのが限界、です、よ」
こっちは焦っているのに冗談じゃない、そんな気持ちさえ芽生えます。
『────そうか、もう一回攻撃が来るぞ?』
3mほどある距離を猪突猛進に駆けてきます。
(クソですよ。どうやって避ければいいんですかッ)
右に、いや左に操縦菅を倒すべきか。
『全く、頭で考えすぎだ。右手だけで行動をしろ』
「いや、どういうことです────あれ」
右手が気持ちいいほど、簡単に動きます。
頭は回避などを考えず、腕を動かすことを────
『だから、頭で考えすぎと言っただろ』
「そういう事ですか……」
ゴブリンの接近は1mを切りました。
ですが戦鋼は動かず、いえ動かす必要がないという事ですね。
『おいおい避けないのか』
「余計な思考を吹き込まないでください」
接近30cm。もはやスローモーションに見える突進をする、ゴブリン。
最後の一撃とばかりに、飛びあがり、棍棒を振り下ろす間際。
「────そこおおッっ!!」
右の
一突き。戦鋼の右手が貫くは、ゴブリンの体。
「終わりです」
機械の右手が握りつぶすは、ゴブリンの魔石です。
『まあ、私の劣化パクリだな』
「そこは素直に褒めてくださいっ」
体の核が貫かれたゴブリンはそのまま煙のように消えていきます。
額ににじむは大量の汗、手も力を込めすぎたのか痙攣しています。
(ははっ、これでようやく1体ですか)
最初から避ける必要はなかったんですね。
「これも経験の賜物、でしょうか」
『私に感謝してもいいぞ』
「まさか。倒したのは私ですよ」
魔物を一体討伐。地球にいた時よりも成長できたということでしょうか。
脳内の
(一発で魔石の場所を貫いていましたし)
どうみても、脳内の
『及第点といったところだ。あと3匹いけるか?』
「もちろんですっ」
少女は喝として言葉をいいます。
殺らなければ、殺られるだけ。
未だ揺れる戦鋼を、前に進めるます。
◇◆◇
【前線基地/格納庫 [現地時間6:00]】
燃え盛る炎の中に、
周囲には、ゴブリンの姿はありません。
「はぁはぁ、助かりました、ナビィ」
まさか、ゴブリン達があんなアクロバティックな戦い方をしてくるとは……でした。
後半は完全に幻聴の言いなりになる私でした。
『多人数戦はまだ早かったか』
「ナビィ、誰目線ですかそれは」
『もちろん、脳内師匠目線だ』
「いや、なんですかそれは」
『毎回貴様が弱いと、私が毎回働く必要があるだろ』
「うぐっ、精進します」
戦鋼を動かしますが、もはやギギギと嫌な音を立てるだけです。
操縦系統に異常はないので、どこか外部の部品が壊れたのでしょうか。
「でも、私生きています、ね」
あの、激戦から生き延びました。
動かないハズの戦鋼で魔物を倒して、ここに生きています。
「結局、キイロはどこに行ったのでしょうか」
『今、気にするようなことではない』
それは過去をくやくやと悩むなという事でしょうか。
『とりあえず、救った命にでも喜んでおけばいい』
半壊したモニターが映すは、奥で立ちあがる整備員達。
彼らは大小様々なケガをしていますが、確かに生き残っていました。
「私、守れたんですね」
『だがここが戦場ということを忘れるな』
「すみません。でも気が抜けてしまって────」
気持ちが止まりません。
あるれ出した思いは感情を越えて、涙となって現れます。
「あれっ、私はなんで泣けて、いるんですか……」
『お前の肉体も疲れているんだろ』
「そうなんですかね」
表情筋が、感情が死んでいるハズの肉体は、ぼろぼろと涙をこぼし続けます。
『それよりも、覚悟をしておけ』
「へっ、なんの覚悟をですか」
『────託されたモノに耐える覚悟だ』
モニターが映すは、駆け寄って来る整備員達。
周囲の安全確認が終わったのか、部品とスパナを持ち、戦鋼に近寄ってきます。
「キイロ、大丈夫かッ」
「へっ?」
私は今更になって思い出します。
この戦鋼はキイロ少女の機体。
(そうです、彼らはキイロ少女が死んだことをまだ知りません)
「本当にボロボロだな、正面装甲、開けるぞ」
「いや、私は────」
言葉が終わる間もなく、開閉音が鳴り響き、正面装甲が開いてきます、
整備員達に、私が彼女ではないと伝える間もなくです。
(ああ、彼らは絶望しますよね)
将来有望な彼女ではなく、ただの侵入者が生き残ってしまったことに。
「流石、期待の訓練生。体は無傷かよ」
「────はいっ?」
整備員は、何を言っているんでしょうか。
疲労のあまり、顔を間違えてる?
(そんな馬鹿なことがありますか)
「き、
操縦席から立ち上がろうとした時、ポケットから落ちる物があります。
宝玉以外に、私が持っているモノ────キイロ少女のパス。
「ひっ、何でッ、どうしてっ」
写っているパスの写真は─────私の顔。
『言っただろ。託された
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。