紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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⑭ 少女と敵と意志

【前線基地/格納庫 [現地時間6:25]】

 

周囲が燃えていても、整備員達はレンチとドリルをもって戦鋼の整備を行います。

 

黒髪少女は未だに思考の海の中。

 

その様子を呆然と見つめています。

 

「前面装甲が足りねぇよ」

「おい、壁引っ剥がしてこい」

「そんなので守れるわけねえだろ」

「無いよりマシだ、ボケがッ」

 

現実に思考が戻ってきたころには、戦鋼の整備は終わっていました。

 

正面装甲は塞がれ、左手は簡易的に修理され、機体のエラーも少なくなっています。

 

乗り込んだ操縦席には、応急処置で衝撃吸収材が貼られていました。

 

「いいか、戦鋼は動くが無茶はしないでくれ」

 

正面装甲を確認しながらも話す、整備員。

 

「でも、まだ敵はいますけど」

「なら、全部倒した時に壊れる感覚で動かしてくれ」

 

んな無茶な、と思いながらも頷いておきます。

 

左のレバーを引き、左手の動きを確認。

 

何よりはマシな動きです。

 

「それで、どうすれば?」

「外のゴブリン共の討伐を頼む」

「外ですか」

 

格納庫外。壊れたシャッター扉から覗く景色は、炎で明るく、黒い影が幾多も見えます。

 

ゴブリンの数は数十というところですか。

 

「安心しろ、鬼殺し教官も外にいる」

「いえ、別に怯えている訳では「ドガンッ」────ぐっ」

 

格納庫内の散乱物を突き破り、壁に激突することで、飛んできた飛翔物はその姿を見せます。

 

「攻撃ですかっ────」『────いや、戦鋼(せんこう)だ』

 

脳内の幻聴の冷静な声。

 

よく見ればそれは青く塗られた、教官仕様の戦鋼。 

 

「鬼殺し教官ッ!!」

「ちッ、退け。責任が取れんッ」

 

聞こえるは切羽詰まった、教官の声。

 

何があったは戦鋼の損傷が物語っています。

 

「そんな、ボロボロの機体で」

「少し焦げただけだ、心配ないッ」

 

全身いたるところが黒く焦げており、各部からは火花が飛び散る教官の戦鋼。

 

手に持っている、戦鋼用の剣は、刀身が真っ黒でした。

 

「鬼殺し教官が手こずるほどの魔物という事ですか……?」

 

基地内部まで、そんな魔物が────あれ、そういえば教官は外に行ったと。

 

(基地内部で戦闘を? それよりも格納庫の先は)

 

真っ赤。格納庫の先は赤く、黒く染まっていました。

 

無機質な壁も、普遍的な調度品も、何もかもが。

 

「修理はいい、ヤツがくる」

「大丈夫ですよ。そんな部品もないですから」

「なら下がっておけ」

「冗談を。後ろも地獄ですよ」

 

整備員と鬼殺し教官は愉快なやり取りをしていますが、それどころではありません。

 

私の目と、耳は、“奥に”囚われていました。 

 

漆黒。輝く黒。暗黒。例えはさまざまありますが、

  

適切なのは、その敵は“ドス黒い赤に染まったいた”でしょうか。

 

「ばけもの……」

 

黒い鬼が、奥から私を覗いていました。

 

 ◇◆◇

【前線基地/格納庫 [現地時間6:30]】

 

徐々に穴の奥から現れた、黒い鬼は明瞭になっていきます。

 

鬼にみえたのは、武者の甲冑。

角の生えた鬼仮面は、妖しく笑い。

手にもつ刀にはぽつぽつと液体が滴っています。

  

(戦場には似合わない装備ですね)

 

機械と魔法が戦場を支配する中、鬼の装備は古典的な格好に見えました。

 

鬼は仮面を揺らし、こちらを笑います。

 

「肉付《にくつ》きの群れか。大量だな」

 

不敵に喋りだすは、人の言葉。

 

(言葉を話した?)

 

『東方の鬼武者(おにむしゃ)……よりにもよってだな』

「これがナビィの言っていた黒幕ですか」

『ああ、予想の中でも“最悪”の部類だ』

「具体的にはどの辺が」

『私でも知っている()()()()()()()()()というところがだ』

 

幻聴曰く、大半の東の狩り人は滅んだそうです。

 

ですが生き汚い連中が逃げ、復讐の機会をうかがっているとか。

 

そんな事を語る幻聴はどこか軽蔑的です。

 

「ちなみに勝てそうですか」

『まだゴブリンシャーマンの方がマシなレベルだ』

 

あったら死ぬと言われた中級の方がマシなレベル、ですか。

 

「とはいっても」

 

後ろには退けません。整備員達は動けませんし、手負いの教官もいます。

 

「ここで殺るしか────」

『冗談よせ。いつからそんな善人になった』

「私は本気ですよ、ナビィ」

『思考も感化されている? いや乗っ取られているに近い、か』

 

私は最初から、彼らを守るために……あれ、なんで格納庫に来たんでしたっけ?

 

『深いことを考えるのは止めておけ。馬鹿になるぞ』

「うっ、分かりました」

 

鬼武者は、出方をうかがっているのか、視線を私に向けます。

 

「ほう、大玉か。砂利多しの肉付(にくつ)きにしては珍しい」

 

視線を向けられただけで操縦棒を持つ手が、震えます。

 

「後ろは任せた、キイロッ────」『────撤退しろ、死ぬぞ』

 

鬼殺し教官と幻聴の声は同時に届きます。

 

冷静な判断は幻聴《ナビィ》ですが、ここには退けない理由はあります。

 

『駄目だ、見捨てろ』

「断ります」

 

戦鋼で整備員を庇うように、動きます。

 

「────退路を奪っておくか。初級-火炎魔法」

 

鬼武者《おにむしゃ》が一言紡ぐと、周囲の炎が強くなり、私達を囲むように燃え盛ります。

 

『ちっ、逃がす気すらないとは』

「なら、どのみちですね」

 

整備員達は辛うじて残っている遮蔽物に避難して、私は戦鋼を構えさします。

 

「キイロ、整備員達を頼む」

 

一歩早く、動き出すは教官の戦鋼。

 

ドスンッと格納庫の床を踏み抜き、溜めの姿勢。

 

「やる気か? 肉付きの分際で────」

  「────も”ち”ろ”ん”、命を貰うッ」

 

閃光。入りすらも分からない跳躍は、光の如く。

 

異常な速度をもって、鬼武者に食いつかんとします。

 

「今回は逃げぬのか────」「────生憎ッ、退く道が無いからなァッ!!」

 

つばぜり合い。鬼武者の刀と戦鋼の剣が火花を散らします。

 

 ◇◆◇

【前線基地/格納庫 [現地時間6:40]】

 

『馬鹿が、何故突っ込んだッ』

 

幻聴《ナビィ》の声が響きます。 

 

「興ざめだな。中級-火魔法」

「甘い────ッ」

 

戦鋼での膝蹴り。零からの鋭利な一撃。

 

足一本で戦鋼を支え、死角から繰り出される一撃は、鬼武者に直撃。

 

「ぐッ、その程度で、止められるとでも」

 

ですが、攻撃は鬼武者の鎧に罅を入れるのみ。

 

勝負を決定つける一撃ともいかず、魔法の詠唱も健在。

 

「ちっ、魔法子(マナ)を使い過ぎたか」

「守るべきものが無ければ貴様の勝ちであったな」

 

魔法、は発動します。

 

「────死ね」

 

鬼殺し教官は無残にも、壁に打ち付けられるのでした。

 

地面には炎の残り火が、教官の戦鋼は動かなくなります。

 

「安心しろ、確実に三途に送ってやる」

 

鬼武者は、教官に近寄ります。

 

眺めているしかない私、脳に響くは幻聴(ナビィ)の声。

 

『仕掛けるなら今しかないぞ』

「通ると思いますか、ナビィ?」

『なら遺言でも残すか? 聞いてやるぞ』

 

幻聴(ナビィ)の言葉はもっともです。

 

格上を狩るには搦め手しかありません。ですが、簡単に搦め手が通じる相手とは思えません。

 

なにせ、鬼武者は未だにこちらに殺意を飛ばしてきています。

 

『早くしろ。極上の餌が死ぬぞ』

「分かっていますよっ、ナビィッ」

 

右手は、操縦管を握る手は、ピクリとも動きません。

 

(どうしたんですか、なんで動かないんですか)

 

今更、敵が強くてビビったっていっているんですかッ。

 

「はやく、はやく動かないと「カーンッ」────っ」

 

鬼武者に金属が当たる音。

 

格納庫の床に落ちるは、整備用のスパナ。

 

「オイ、こっち向けッ。クソ武者ッ」

「馬鹿、そんなことしてどうすんだよ」

「知るかッ! どうにかするんだよッ!!」

 

整備員達は、スパナ、オイル、ナットとありとあらゆる工具を投げつけます。

 

幾つかは床に外れ、幾つかは鎧に弾かれ、結果は鎧が汚れるだけ。

 

鎧に傷一つ付かず、無駄な行動です。ですが、

 

「砂利共が。吠えるな」

 

鬼武者は不快感を顕わにします。

 

虫に刺されるのが気に食わなかったのでしょうか。

 

整備員達に、殺意の視線をむけます。

 

つまるところ────私から注意が外れたということです。 

 

『勝機だな』 

 

体は動きます。

いえ、動かないといけません。

ここで動かなければ、整備員達に失礼です。

 

「ナビィ、動力を────」『────最大まで回してる』

 

左右の操縦棒(レバー)を倒し、フットペダルを全力で押し込みます。

 

(今日乗った戦鋼に細かい操作を期待してはいけません)

 

私はそんな凄い人間じゃありませんし、奇跡を起こせるわけではありません。

 

「ですけど────」

 

戦鋼をブチ当てるぐらいはできるんですよ。

 

(エンジン全開の、質量攻撃ッ) 

 

「────これでも食らっとけッ、って話ですっ」

 

「やる、な」

 

モニター向こう見た鬼武者は、虚を突かれたような様子。

 

刹那。

 

全身に痛みが、血流が一度止まり、視界が点滅します。

 

「どう、なりましたか?」

『見ての通りだ』

 

モニターの砂埃が晴れ、其処にいたのは、鬼武者。

 

一撃は、避けられることもなく、防がれることなく、直撃しました。

 

直撃は、しましたが、

 

「軽いな。威力も覚悟も足らん」

 

鬼武者は、動くことなく鎧だけで私の攻撃を止めていました。

 

(動きもせず、いや動く必要すらなかった……)

 

「そんな冗談みたいな『躱せッ、馬鹿!!』────っ」

 

「満足か? 中級(ちゅうきゅう)-火炎魔法(かえんまほう)

 

炎は戦鋼に直撃、操縦席は赤く包まれるのでした。




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