【前線基地/格納庫 [現地時間6:50]】
『────起きろ。まだ死んでないぞ』
炎の直撃は、腕一本のおかげで耐えたというところですか。
(左手の感覚がぼやてていますね、ナビィが動かしてくれましたか)
「助かりました、ナビィ」
『運が良かっただけだ』
「なら、運にはもう少し頑張って欲しいところです」
『相応の対価があれば頑張ってくれるさ』
正面装甲を開き、周囲を確認しようとしますが、開閉部品が溶けているのか、動きません。
しかたないので右画面に、状況を写します。
後ろには整備員達。
左には、瀕死の教官。戦鋼の反応は沈黙。
そして、前には化け物────
「無傷とは笑えますね」
『落ち込むな。生物としての格が違う』
「慰めるって知ってますか、ナビィ?」
戦鋼を動かし、目前に対して構えをとります。
「まだやるのか?
「当然です」
鬼武者は、戦鋼ではなく、私を見据えます。
見られている? そう思うと威圧が一段重くなった気がします。
「こちらの言語を解する
操縦棒を動かし、戦鋼をゆっくりと左に動かします。
怯えた整備員達を守るように、そして教官を救うために。
「貴様、砂利共に感化されたか」
「砂利? 彼らは仲間です」
このタイミングで会話をしてきた? 妙ですね。
先の戦いを見る限り、言葉で攻める相手ではない気がしますが。
(いや、時間を稼げるなら構いませんか)
体は満身創痍。腕のしびれを少しは回復したいところ。
ここは敢えて会話にのってみます、か。
「
「興が乗ったのなら、お引き取り願えませんか?」
「笑えぬ冗談を言う奴だ────」
話の意図が読めません。
「────そうだな、
「!?」
何を、言っているのでしょうか。
「ナビィ、意図が読めません」
『貴様の体にある魔石が欲しいと言ったところだ』
「ですが、なぜ自決を?」
『奴らは戦士には敬意を払う』
「私のどこが戦士に見えるんでしょうか」
『大方、言葉が通じたことで勘違いしたんだろ』
「そんな簡単なことなのでしょうか」
『深くは考えるな、ここは戦場だ』
鬼武者が約束を守る保証はありませんし。
私一人の命と他が釣り合うとも思いません。
ですが、それは、とても────魅力的に感じます。
(私は生き残りたいそう考えている、ハズなのですが)
なのに、どうしてでしょう。
脳はこれが正解だと、話を受け入れようとします。
「わ、私は『もし策があると言ったら』────えっ」
『この現状を打開する策はある』
「なぜ、それを早くっ」
『だが生き残れるのは貴様だけだ』
「み、皆は」
『確実に、死ぬ』
『────選べ。皆と確実に死ぬか、貴様だけ生き残るか』
そんなの、どちらかを選ぶぐらいなら。
「わ、私が命を差し出せばいいじゃないですかッ!!」
全てそれで丸く収まるじゃないですかッ。
キイロ少女に託されてここに立っているんですよ。
私が教官を、整備員を、皆を守らないといけないんですよッ。
なのに、私は……
「そんなの一択しか、選べないじゃないですかっ」
『そうか。作業はこちらがやる。
ポケットの宝球が一瞬光り始めます。
光は、徐々に体に吸い込まれていき、最終的に宝球は消えます。
《
『馬鹿め。もう少し複雑な罠にしておくんだな』
《
『もちろん、空いた場所は有難く使わせてもらう』
《
無機質な音が脳に流れます。
覚悟は、覚悟は決まったハズです。
戦鋼《せんこう》は一歩前に踏み出します。
◇◆◇
【前線基地/格納庫 [現地時間6:55]】
「戦いをとるか」
鬼武者は動きません。
私は、操縦棒を前に倒します。
排気音とともに動き出すは、戦鋼。
揺れる機体を押さえつけ、奥歯を食いしばりながら進みます。
「────っ」
目標は既に定まっています。
操縦棒を引き絞り、ペダルを踏みこんで、戦鋼を加速させます。
「ああっ、うわあああああッ!!」
戦鋼《せんこう》の一歩を持って────鬼殺し教官を踏みつぶします。
ぐちゃり
踏み潰したのは、教官の戦鋼です。
ですがモニターは、残骸から流れる油ではない色を捉えます。
壊れた部品とともに生える腕が内部の惨状を伝えてくれます。
(何故なのかは考えたくもないです。)
ゴブリンでもなく、
鬼武者でもなく、
私が、私が、
私が────
『まだ足らん。次ッ』
「ぐっ────ッ」
そこにいる整備員達は、傷ついた者を治療をし、戦闘の経過を見守っていました。
(私は生きないといけないんですよっ)
生きないと、
皆を守れないから、
私が皆を守る為に────
「どうか、死んでくださいっ」
私は呪詛を吐き出すように、
「えっ」
整備員のにいちゃんに、
知り合いのおっちゃんに、
怪我した見知らぬ整備員達。
確実に「助けてッ」、念入りに「死にたくない」踏みつぶします。
少女は、赤く染まります。
《レベルが5になりました》
《一部魔法の制限を解除します》
《これで貴方も一人前の冒険者です。頑張ってください》
無機質な音が、脳に届く。
『ギリギリだな。だが無いよりマシ、か』
「ナビィ、私はッ、どうすればッいい」
早く、早く指示をください。でなければ、私がおかしくなりそうです。
『……奴に肉薄して、1秒よこせ』
「ふっ、ふふははっ、間違いなく死にますよっ、それ」
『半分なら死んでも問題ない。行けッ!』
動力を回転させ、目標にカッ飛ばします。
制御なんて言葉は忘れました。
戦鋼は前に進めばいい。
◇◆◇
私の動きを見ても、行動一つしない鬼武者。
舐めているのか、遊んでいるのかはわかりません。
ですが、関係ありません。こちらから向かってやるまでです。
「背水か。いや、気でも狂ったか」
「あ”あ”ああああっッ!!」
押し込まれすぎたペダルは、既に意味をなしていません。
「まあいい。中級-火炎魔法」
魔法が直撃します。
「だからっ、どうしたッ」
頭部は消失。
全画面が暗転を起こします。
スロットルが機能しないあたり、操縦系の部品も溶けたようです。
ですが、戦鋼は前に進んでいます
制御を失った特攻が、狙いを歪めたか────どうでもいいですね。
(どうせ相手は避けもしない)
戦鋼は再び、盛大に激突します。
「────っッ」
体の骨が軋む。
戦鋼は静止、ついに右腕も
「ならばッ」
蹴飛ばすように、
[
戦鋼を捨て、
周囲は煙炎に包まれているが、見える必要などありません。
私達の敵は、鬼武者は、すぐそこ真正面にいるのですから
(さっきから、その笑った仮面が気に食わないんですよっ)
拳の構えなど知るか、狙いは顔面。
ふざけた顔にど真ん中のストレート。
奴もこちらを向くが、知った事ではないです。
「クソくらぇっ!!」
「甘い────ちっ、
(安いですね。心臓の一つぐらいは覚悟していましたが)
死なないなら、結構っ。
「一秒、稼ぎましたよ────」『────任せろ』
左の手に、光彩が集まる。
色は────赤。全てを塗りつぶす、絶対の赤。
「
灼熱を獲た拳は、存在を許しはしません。
一切の妥協を許さず。左手は振り下ろされます。
「なっ、
「久しぶりだな死にぞこない。そして、さようならだ」
紅蓮が視界を焼き尽くした後、私の意識は途切れます。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。