紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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⑮ 少女と奇跡と選択

【前線基地/格納庫 [現地時間6:50]】

 

『────起きろ。まだ死んでないぞ』 

 

幻聴(ナビィ)の声で、気が戻ります。

少女(わたし)の体は、痛いです。

 

正面画面(メインモニター)は半壊。左腕は、エラーというか消失してますね。

 

炎の直撃は、腕一本のおかげで耐えたというところですか。

 

(左手の感覚がぼやてていますね、ナビィが動かしてくれましたか)

 

「助かりました、ナビィ」

『運が良かっただけだ』

「なら、運にはもう少し頑張って欲しいところです」

『相応の対価があれば頑張ってくれるさ』

 

正面装甲を開き、周囲を確認しようとしますが、開閉部品が溶けているのか、動きません。

 

しかたないので右画面に、状況を写します。

 

後ろには整備員達。

左には、瀕死の教官。戦鋼の反応は沈黙。

そして、前には化け物────鬼武者(おにむしゃ)

 

「無傷とは笑えますね」

『落ち込むな。生物としての格が違う』

「慰めるって知ってますか、ナビィ?」

 

戦鋼を動かし、目前に対して構えをとります。

 

「まだやるのか? 鉄の騎士(ゴーレム)

「当然です」

 

鬼武者は、戦鋼ではなく、私を見据えます。

 

見られている? そう思うと威圧が一段重くなった気がします。

 

「こちらの言語を解する鉄の騎士(ゴーレム)……もしや」

 

操縦棒を動かし、戦鋼をゆっくりと左に動かします。

 

怯えた整備員達を守るように、そして教官を救うために。

 

「貴様、砂利共に感化されたか」

「砂利? 彼らは仲間です」

 

このタイミングで会話をしてきた? 妙ですね。

 

先の戦いを見る限り、言葉で攻める相手ではない気がしますが。

 

(いや、時間を稼げるなら構いませんか)

 

体は満身創痍。腕のしびれを少しは回復したいところ。

 

ここは敢えて会話にのってみます、か。

 

(すか)されたも、ここまで来ると一興か」

「興が乗ったのなら、お引き取り願えませんか?」

「笑えぬ冗談を言う奴だ────」

 

話の意図が読めません。

 

「────そうだな、腹切りしろ(いのちをよこせ)。それで手打ちにしてやる」

「!?」

 

何を、言っているのでしょうか。

 

「ナビィ、意図が読めません」

『貴様の体にある魔石が欲しいと言ったところだ』

 

「ですが、なぜ自決を?」

『奴らは戦士には敬意を払う』

 

「私のどこが戦士に見えるんでしょうか」

『大方、言葉が通じたことで勘違いしたんだろ』

 

「そんな簡単なことなのでしょうか」

『深くは考えるな、ここは戦場だ』

 

幻聴(ナビィ)に咎められます。

 

鬼武者が約束を守る保証はありませんし。

私一人の命と他が釣り合うとも思いません。

ですが、それは、とても────魅力的に感じます。

 

(私は生き残りたいそう考えている、ハズなのですが)

 

なのに、どうしてでしょう。

 

脳はこれが正解だと、話を受け入れようとします。

 

「わ、私は『もし策があると言ったら』────えっ」

 

幻聴(ナビィ)は思考に割り込んできます。

 

『この現状を打開する策はある』

「なぜ、それを早くっ」

『だが生き残れるのは貴様だけだ』

 

「み、皆は」

『確実に、死ぬ』

 

『────選べ。皆と確実に死ぬか、貴様だけ生き残るか』

 

幻聴(ナビィ)は何を言っているんですか。

そんなの、どちらかを選ぶぐらいなら。

 

「わ、私が命を差し出せばいいじゃないですかッ!!」

 

全てそれで丸く収まるじゃないですかッ。

キイロ少女に託されてここに立っているんですよ。

私が教官を、整備員を、皆を守らないといけないんですよッ。

 

なのに、私は……

 

「そんなの一択しか、選べないじゃないですかっ」

 

『そうか。作業はこちらがやる。最善(ベスト)を尽くせ』

 

ポケットの宝球が一瞬光り始めます。

 

光は、徐々に体に吸い込まれていき、最終的に宝球は消えます。

 

冒険の記録(セーブデータ)を強制通信(ダウンロード)開────》

 

『馬鹿め。もう少し複雑な罠にしておくんだな』

 

冒険の記録(セーブデータ)が削除されました》

 

『もちろん、空いた場所は有難く使わせてもらう』

 

新しい冒険の記録(ニューデータ)を作成します》

 

無機質な音が脳に流れます。

覚悟は、覚悟は決まったハズです。

 

戦鋼《せんこう》は一歩前に踏み出します。

 

 ◇◆◇

【前線基地/格納庫 [現地時間6:55]】

 

「戦いをとるか」

 

鬼武者は動きません。

 

私は、操縦棒を前に倒します。

 

排気音とともに動き出すは、戦鋼。

 

揺れる機体を押さえつけ、奥歯を食いしばりながら進みます。

 

「────っ」

 

目標は既に定まっています。

 

操縦棒を引き絞り、ペダルを踏みこんで、戦鋼を加速させます。

 

「ああっ、うわあああああッ!!」

 

戦鋼《せんこう》の一歩を持って────鬼殺し教官を踏みつぶします。

 

ぐちゃり

 

踏み潰したのは、教官の戦鋼です。

ですがモニターは、残骸から流れる油ではない色を捉えます。

壊れた部品とともに生える腕が内部の惨状を伝えてくれます。

 

(何故なのかは考えたくもないです。)

 

ゴブリンでもなく、

鬼武者でもなく、

私が、私が、 

 

私が────

 

『まだ足らん。次ッ』

「ぐっ────ッ」

 

後方画面(サブモニター)を見ます。

 

そこにいる整備員達は、傷ついた者を治療をし、戦闘の経過を見守っていました。

 

(私は生きないといけないんですよっ)

 

生きないと、

皆を守れないから、

私が皆を守る為に────

 

「どうか、死んでくださいっ」

 

私は呪詛を吐き出すように、操縦棒(レバー)とペダルを踏みます。

 

戦鋼(せんこう)は反転し、整備員達に突進します。

 

「えっ」

 

整備員のにいちゃんに、

知り合いのおっちゃんに、

怪我した見知らぬ整備員達。

 

戦鋼(せんこう)で「やめろ」潰します。

 

確実に「助けてッ」、念入りに「死にたくない」踏みつぶします。

 

少女は、赤く染まります。 

 

《レベルが5になりました》

《一部魔法の制限を解除します》

《これで貴方も一人前の冒険者です。頑張ってください》 

 

無機質な音が、脳に届く。

 

『ギリギリだな。だが無いよりマシ、か』

「ナビィ、私はッ、どうすればッいい」

 

早く、早く指示をください。でなければ、私がおかしくなりそうです。

 

『……奴に肉薄して、1秒よこせ』

「ふっ、ふふははっ、間違いなく死にますよっ、それ」

『半分なら死んでも問題ない。行けッ!』

 

動力を回転させ、目標にカッ飛ばします。

 

制御なんて言葉は忘れました。

 

戦鋼は前に進めばいい。

 

◇◆◇

 

私の動きを見ても、行動一つしない鬼武者。

舐めているのか、遊んでいるのかはわかりません。

ですが、関係ありません。こちらから向かってやるまでです。

 

「背水か。いや、気でも狂ったか」

「あ”あ”ああああっッ!!」

 

押し込まれすぎたペダルは、既に意味をなしていません。

 

「まあいい。中級-火炎魔法」

 

魔法が直撃します。

 

「だからっ、どうしたッ」

 

頭部は消失。

全画面が暗転を起こします。

スロットルが機能しないあたり、操縦系の部品も溶けたようです。

 

ですが、戦鋼は前に進んでいます

 

制御を失った特攻が、狙いを歪めたか────どうでもいいですね。

 

(どうせ相手は避けもしない)

 

戦鋼は再び、盛大に激突します。

 

「────っッ」

 

体の骨が軋む。

 

戦鋼は静止、ついに右腕も操作不能(エラー)

 

「ならばッ」

 

蹴飛ばすように、切替機(スイッチ)を叩きます。

 

[正面装甲をパージ(Purge Frontal Armor)]

 

戦鋼を捨て、操縦席(コクピット)から飛び出します。

 

周囲は煙炎に包まれているが、見える必要などありません。

 

私達の敵は、鬼武者は、すぐそこ真正面にいるのですから

 

(さっきから、その笑った仮面が気に食わないんですよっ)

 

拳の構えなど知るか、狙いは顔面。

ふざけた顔にど真ん中のストレート。

奴もこちらを向くが、知った事ではないです。

 

「クソくらぇっ!!」

「甘い────ちっ、子供(がき)かッ」

 

(わたし)の拳は、小手でいなされる。

(てき)の拳は、腹に突き刺さる。

 

(安いですね。心臓の一つぐらいは覚悟していましたが)

 

死なないなら、結構っ。

 

「一秒、稼ぎましたよ────」『────任せろ』

 

左の手に、光彩が集まる。

 

色は────赤。全てを塗りつぶす、絶対の赤。

 

限定解除(リミットオーバー)────超級(Superklasse)-火魔法(Feuermagie)

 

灼熱を獲た拳は、存在を許しはしません。

 

一切の妥協を許さず。左手は振り下ろされます。

 

 「なっ、赤色(せきしょく)ッ!! 貴様ッ生きていたか」

 「久しぶりだな死にぞこない。そして、さようならだ」

 

紅蓮が視界を焼き尽くした後、私の意識は途切れます。




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