紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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⑯ 少女と病院とトマト

【出雲総合病院・病室201 [19:00]】

 

目が覚めます。

 

────天井の照明が眩しい。

 

目を閉じます。

 

────体が痒いです。消毒液の匂いが鼻につきます。頭はぼやけています

 

目を開きます。

 

────やるべきことはただ一つ。

 

「ナビィ、背中が、かゆいです」

『寝起き一番がそれか』

 

脳内の幻聴(ナビィ)に文句を言われますが、私も大変なんです。

 

声もスカスカですし。腹は妙に減っていません。

 

(体に力が入りませんね)

 

起きようとしても起こせませんし。

腕すらあがらない状態です。

 

腕につけられた太めの管は、点滴ですか。

 

ピ、ピと音を立てる機械に接続されています。

 

『すぐに動けるようになる』

「個人的は、早い、ほうがいい、です」

 

芋虫のように動き、ベッドに背中をこすりつけていると。

 

────窓の外の少女と目が合います。

 

病院服に身を包んだ少女。

 

顔も、

体つきも、

目線も同じ少女。

 

違和感があるとすれば1つ。

 

少女の髪が長く、金髪(きんぱつ)であること。

 

(私に髪はなかったはず、ですが)

 

いったい、なにが起こったんですか?

 

「ナビィ……私は、勝ったんですよね」

『勝ったさ。だから今は休め』

「そう、ですか」

 

視界が歪みます。

目がチクチクして痛いです。

 

キイロ少女のことを思いだし、自分の行為を思いだします。

 

(これからどうすればいいのでしょう)

 

答えは考えても出てきません。

 

考えても出てこないモノを探すのは不可能です。

 

(だって私には、大切な人を【────さんッ】)

 

「記憶にいるのは誰、なんですか……」

『どうした?』

「いえ」

 

なぜ私に友人を失った記憶があるのでしょう。

 

記憶の向こうにいる彼女は誰なのでしょう。

 

また、視界が歪んできました。

 

「ナビィ、私はどうすれば」

『知らん』

「です、よね」

 

『お前は自分の行いを後悔しているのか?』

「割と、かなり」

『全く、大馬鹿だな』

 

先生の真似事は嫌いなんだが、とこぼして、

 

幻聴(ナビィ)は歯切れが悪く紡ぎます。

 

『よく聞け馬鹿、一度しか言わんぞ────』

 

必要なのは何を成す、かだ。

死までの長さはさほど問題ではない。

死ぬまでに何を残すのかが問題なのだ。

 

意味もなく殺すなど悪人でもできる。

 

だがな、奴らの死には意味があった。

 

『────貴様が生き残るという道は、奴らの死でしか成せなかったのだ』 

 

幻聴は思い出すように言葉を続けます。

 

『愚かというなら嘆けばいい。悲惨と思えば泣けばいい。だがな自身を笑うなよ』

「それは……」 

 

『大海の中で蛙が一匹生き残るというのは、貴様が思っている以上に過酷だ』 

 

「誰に言ってるんですか」

『舐め腐った“貴様の精神”に、だ』 

 

幻聴(ナビィ)はらしくないことをした、と静かになります。

 

ですが、おかげで気持ち元気にはなりました。

 

「まずは、動けるようになってからですね」

 

少女はもう一度、目を閉じるのでした。

 

 ◇◆◇

【出雲総合病院・病室201 [11:30]】

 

金髪少女(わたし)は頑張ります。

 

ベットの周りの点滴は消え、今は座りながら病院食ののった皿とにらめっこをしています。

 

目の前には、赤茄子(トマト)のペースト。

 

軽やかに使えるようになったスプーンは、何故かピクリとも動きません。

 

「ナビィ、コレは強敵です」

『意外だな、好き嫌いがあるのか』

「いえ、気づいたら食べれなくなっていました」

 

どうしてでしょう。自分は行けると思っているのに、体は動いてくれません。

 

「これがPTSD(トラウマ)ですか」

 

トマトの赤色を見ると、光景を思い出してしまうため。

 

トマトを食べれなくなっている。

 

だから、

 

「私は無理にトマトを食べなくてもいいと思うんですっ」

『その口元に付いている赤いソースはトマトではないのか?』

「これは違いますッ」

 

幻聴(ナビィ)は理解力が足りません。

 

私がダメなのは元のトマトなのであって、加工品とか味付けが違うとか......

 

「私、どうしちゃったんでしょう」

特技(スキル)、トマト嫌いとはこういうことか』

「どういうことですか?」

 

『お前の味方情報(ステータス)に表示されていた言葉だ。見てみるか?』

「やめておきます」

 

見ても意味わかんないでしょうし。

 

知って何になるんでしょうか?

 

(そもそも味方情報(ステータス)って現実で見れるものなのですね)

 

世界の不思議を実感します。

 

「いやー、思ったより元気だね、キミ」

「────へっ?」

 

黒縁眼鏡の男。

 

見たことの有るような無いような、少しふくよかな体形の男性です。

 

(トマトに気を取られすぎて、警戒がおろそかになっていましたか……)

 

見るかんじどう見ても自分よりも階級の高い人そうですね。

 

「えっと、お見苦しいところを……」

「そのままでいいよ。動くのも大変だろ」

 

眼鏡男性は、手で会釈し、姿勢を正さなくてはいいと言ってくれます。

 

「なーに、ちょっとした宅配便でね」

 

眼鏡男性は脇の封筒を見ます。

 

脇とお腹にはさまれた封筒は、中の書類を取り出しにくそうです。

 

「いやー大活躍だったじゃない。キミ」

 

 (わちゃわちゃ)

「あれー、こっちじゃなくて」

 

 (わちゃわちゃ、ピシッ)

「あった、あった。悲劇を越えた少女様宛だ」

 

眼鏡男性は、ようやく封筒から書類を出します。

 

皺皺だったり、ちょっとインクがにじんでいるのは見なかったことにしましょう。

 

「という訳でキミには辞令がおりた」

 

────────────

 

2000年 5月 1日

 

        辞令書

第13前線基地 訓練生

木色(キイロ) 来来(ライライ) 一等兵 殿

 

2000年5月1日をもって、第13前線基地 訓練生の任を解き、

同日付けを持って、第三 遊撃部隊(クイーンズ・フォース)予備隊員に任命する.

職務に励み、陸軍の戦果に貢献することを期待する.

 

日本陸軍中将

鰓意 三造 

 

─────────────

 

「喜んでくれ、キミは女王艦隊に昇格だ」

 

私が憧れの遊撃部隊《クイーンズ・フォース》に。

 

そう、夢にまで見......ていましたっけ?

 

(別にそんなに憧れていないような……)

 

昔見たことの有る情報だと、女性のみの精鋭部隊で。

 

他に覚えていることは────

 

「とてもカッコいい名前ですね」

「まあ、ボクならもっといい名前を付けれるけどね」

 

『貴様らは子供か』

 

幻聴(ナビィ)、うるさいです。

 

漢字に英語がふってあると、心が震えるんです。

 

|眼鏡男性の人も、“分かっているから”こその反応ですよ。

 

「そういえば、貴方に合った事がありませんか?」

「うーん、入隊式か何かかね」

 

眼鏡男性は、病室から出ていきました。

 

割と最近見た気がするんですが────気のせいですね。

 

 ◇◆◇

【出雲総合病院/外 [12:00]】

 

「おっと、コレはもう不要だな」

 

眼鏡男性は封筒からもう一枚の紙を出します。

 

「相変わらず、文字が小さいなぁ」

 

被検体 H(エイチ)における抹殺指令

 

 エイチ以下Hと称す。Hは、本来は異世界人の不明臓器獲得の為の実験体である。実験後、実践訓練を終えて削除する予定であったが、Hは生還。異世界スーアの第13前線基地において、宝玉(簡易セーブポイント)の奪取の命を受ける。

 

【[極秘]第13前線基地襲■作戦】においてHの生死は不明。異分子の排除と、実戦における魔法防壁のデータ収集が目的の本作戦は、極秘情報の為、発動時まで情報は伏せられていた。

 

作戦終了後、基地内部には多数の焼死体が確認され、その一部に少女と思われる死体を発見。Hを死亡したものと断定する。

 

「────全く、センスがない」

 

眼鏡男性に握られていた紙は、黒いチリとなっていた。

 

「彼らの眼は節穴すぎるよ」

 

眼鏡男性は病院の方に向く

 

「そう思わないかい、木色(キイロ) 来来(ライライ)いや、被検体H」

 

外の日差しは、昨日よりもつよくなり。

 

夏の香りはすぐそこまで、やってきていました。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

これにて一章が完結です。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。
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