【出雲総合病院・病室201 [19:00]】
目が覚めます。
────天井の照明が眩しい。
目を閉じます。
────体が痒いです。消毒液の匂いが鼻につきます。頭はぼやけています
目を開きます。
────やるべきことはただ一つ。
「ナビィ、背中が、かゆいです」
『寝起き一番がそれか』
脳内の
声もスカスカですし。腹は妙に減っていません。
(体に力が入りませんね)
起きようとしても起こせませんし。
腕すらあがらない状態です。
腕につけられた太めの管は、点滴ですか。
ピ、ピと音を立てる機械に接続されています。
『すぐに動けるようになる』
「個人的は、早い、ほうがいい、です」
芋虫のように動き、ベッドに背中をこすりつけていると。
────窓の外の少女と目が合います。
病院服に身を包んだ少女。
顔も、
体つきも、
目線も同じ少女。
違和感があるとすれば1つ。
少女の髪が長く、
(私に髪はなかったはず、ですが)
いったい、なにが起こったんですか?
「ナビィ……私は、勝ったんですよね」
『勝ったさ。だから今は休め』
「そう、ですか」
視界が歪みます。
目がチクチクして痛いです。
キイロ少女のことを思いだし、自分の行為を思いだします。
(これからどうすればいいのでしょう)
答えは考えても出てきません。
考えても出てこないモノを探すのは不可能です。
(だって私には、大切な人を【────さんッ】)
「記憶にいるのは誰、なんですか……」
『どうした?』
「いえ」
なぜ私に友人を失った記憶があるのでしょう。
記憶の向こうにいる彼女は誰なのでしょう。
また、視界が歪んできました。
「ナビィ、私はどうすれば」
『知らん』
「です、よね」
『お前は自分の行いを後悔しているのか?』
「割と、かなり」
『全く、大馬鹿だな』
先生の真似事は嫌いなんだが、とこぼして、
『よく聞け馬鹿、一度しか言わんぞ────』
必要なのは何を成す、かだ。
死までの長さはさほど問題ではない。
死ぬまでに何を残すのかが問題なのだ。
意味もなく殺すなど悪人でもできる。
だがな、奴らの死には意味があった。
『────貴様が生き残るという道は、奴らの死でしか成せなかったのだ』
幻聴は思い出すように言葉を続けます。
『愚かというなら嘆けばいい。悲惨と思えば泣けばいい。だがな自身を笑うなよ』
「それは……」
『大海の中で蛙が一匹生き残るというのは、貴様が思っている以上に過酷だ』
「誰に言ってるんですか」
『舐め腐った“貴様の精神”に、だ』
ですが、おかげで気持ち元気にはなりました。
「まずは、動けるようになってからですね」
少女はもう一度、目を閉じるのでした。
◇◆◇
【出雲総合病院・病室201 [11:30]】
ベットの周りの点滴は消え、今は座りながら病院食ののった皿とにらめっこをしています。
目の前には、
軽やかに使えるようになったスプーンは、何故かピクリとも動きません。
「ナビィ、コレは強敵です」
『意外だな、好き嫌いがあるのか』
「いえ、気づいたら食べれなくなっていました」
どうしてでしょう。自分は行けると思っているのに、体は動いてくれません。
「これが
トマトの赤色を見ると、光景を思い出してしまうため。
トマトを食べれなくなっている。
だから、
「私は無理にトマトを食べなくてもいいと思うんですっ」
『その口元に付いている赤いソースはトマトではないのか?』
「これは違いますッ」
私がダメなのは元のトマトなのであって、加工品とか味付けが違うとか......
「私、どうしちゃったんでしょう」
『
「どういうことですか?」
『お前の
「やめておきます」
見ても意味わかんないでしょうし。
知って何になるんでしょうか?
(そもそも
世界の不思議を実感します。
「いやー、思ったより元気だね、キミ」
「────へっ?」
黒縁眼鏡の男。
見たことの有るような無いような、少しふくよかな体形の男性です。
(トマトに気を取られすぎて、警戒がおろそかになっていましたか……)
見るかんじどう見ても自分よりも階級の高い人そうですね。
「えっと、お見苦しいところを……」
「そのままでいいよ。動くのも大変だろ」
眼鏡男性は、手で会釈し、姿勢を正さなくてはいいと言ってくれます。
「なーに、ちょっとした宅配便でね」
眼鏡男性は脇の封筒を見ます。
脇とお腹にはさまれた封筒は、中の書類を取り出しにくそうです。
「いやー大活躍だったじゃない。キミ」
「あれー、こっちじゃなくて」
「あった、あった。悲劇を越えた少女様宛だ」
眼鏡男性は、ようやく封筒から書類を出します。
皺皺だったり、ちょっとインクがにじんでいるのは見なかったことにしましょう。
「という訳でキミには辞令がおりた」
────────────
2000年 5月 1日
辞令書
第13前線基地 訓練生
2000年5月1日をもって、第13前線基地 訓練生の任を解き、
同日付けを持って、第三
職務に励み、陸軍の戦果に貢献することを期待する.
日本陸軍中将
鰓意 三造
─────────────
「喜んでくれ、キミは女王艦隊に昇格だ」
私が憧れの遊撃部隊《クイーンズ・フォース》に。
そう、夢にまで見......ていましたっけ?
(別にそんなに憧れていないような……)
昔見たことの有る情報だと、女性のみの精鋭部隊で。
他に覚えていることは────
「とてもカッコいい名前ですね」
「まあ、ボクならもっといい名前を付けれるけどね」
『貴様らは子供か』
漢字に英語がふってあると、心が震えるんです。
|眼鏡男性の人も、“分かっているから”こその反応ですよ。
「そういえば、貴方に合った事がありませんか?」
「うーん、入隊式か何かかね」
眼鏡男性は、病室から出ていきました。
割と最近見た気がするんですが────気のせいですね。
◇◆◇
【出雲総合病院/外 [12:00]】
「おっと、コレはもう不要だな」
眼鏡男性は封筒からもう一枚の紙を出します。
「相変わらず、文字が小さいなぁ」
被検体
エイチ以下Hと称す。Hは、本来は異世界人の不明臓器獲得の為の実験体である。実験後、実践訓練を終えて削除する予定であったが、Hは生還。異世界スーアの第13前線基地において、
【[極秘]第13前線基地襲■作戦】においてHの生死は不明。異分子の排除と、実戦における魔法防壁のデータ収集が目的の本作戦は、極秘情報の為、発動時まで情報は伏せられていた。
作戦終了後、基地内部には多数の焼死体が確認され、その一部に少女と思われる死体を発見。Hを死亡したものと断定する。
「────全く、センスがない」
眼鏡男性に握られていた紙は、黒いチリとなっていた。
「彼らの眼は節穴すぎるよ」
眼鏡男性は病院の方に向く
「そう思わないかい、
外の日差しは、昨日よりもつよくなり。
夏の香りはすぐそこまで、やってきていました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
これにて一章が完結です。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。