紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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⑰ 少女と輸送と銃撃

【森林地帯/輸送経路/中型輸送車・内部 [現地時間09:30]】

 

森を照らす2つの太陽。

布の隙間から差し込む光は多めです。

 

金髪少女(わたし)は中型運送車《トラック》の荷台から、外を感じます。

 

ガタゴト、ガタゴト。5台ほどの運送車が列をなしています。

 

「にしても、揺れますね」

 

テント張りの荷台に積まれた荷物は揺れます。

大小様々な段ボール。厳重に固定された金属箱。

自分の横の荷物は揺れすぎて落ちてきそうですね。

 

(見える道はかなりの悪路ですか)

 

襲われる心配をして、背筋を伸ばしているのは馬鹿らしいですね。

 

目の前で座っている兵士は休憩してますし。

私も寝たふりでもした方がいいのでしょうか。

 

暇つぶしの積荷の番号を足していく作業も疲れてきましたし。

 

『そんな貴様に朗報だ』

「それは本当に朗報ですか、ナビィ?」

 

『勿論。魔物の集団が狙っているぞ』

「どう考えても悲報の間違えでは?」

 

『暇つぶしには持ってこいだろ』

「そんな蛮族みたいな暇つぶしがあってたまりますかっ」

 

手持ちの無線は────服に入らないので置いてきましたね。

 

小柄な体に合う野戦服が無いのはどういうことなんでしょうか。

 

仕方ないですが、気持ちよく寝ている兵士には働いてもらいましょう。

 

「あのー」

「……悪いがクッションはこれ以上なくてな」

 

目の前の兵士は、眠そうに帽子をずらしません。

 

顔にだいぶ生気がありませんが、今は一大事です。

 

「いえ、そうではなく。魔物が接近しています」

「へっ?」

「えっと、『数は5』、『種類は多分虫』だそうです」

 

ブオオオオオンッ(風切り音)

 

兵士《にいちゃん》の顔がどんどん青くなっていきます。

 

[連絡ッ、魔物接近、数5、多分虫ッ]

 

兵士の通信機が赤く光り、鳴り響きます。

 

[総員、運送車を止めて陣形を取れ。魔物を撃退する]

 

キュキキュウウッ────ガンッ

 

戦闘態勢ですね。

皆、中型運送車(トラック)おりてきます。

 

「おい、弾は込めたか」

「当然。おい、防壁よこせ」

「馬鹿が、円陣組むのには足りねえよ」

「そっちは車で守っとけばいいだろッ」

 

 兵士の皆さんは、ワイワイガヤガヤしています。

 

「慌ただしい皆さんですね」

『全く、どこから襲われるか分からんというのに』

「嘘は良くないですよ、ナビィ」

『ほう?』

 

何となくですが、分かります。

接近する塊でしょうか。方向としては────

 

「皆さんッ、2時方向です」

「「「へっ、2時?」」」

 

皆が同じ方向を向きます。

 

目線の先には、木々が生えた森。

そして────(ブオオオオオンッ)巨大な蜂

 

[[[何、ぼさっとしてるッ、撃たんかッ!!]]]

 

全員の通信機が鳴り響きます。声の主は女性?

 

「キシャアア「ドドンッ」────ガッ!!」

 

突如、正面の巨大蜂が落ます。

 

とおくから金属が落ちる音が聞こえた後、兵士達は我に返ります。

 

「ふぁ、発射(ふぁいや)ッ」

 

ドドドドドドドドドッ────カランカランカラン

 

兵士たちの銃撃によって、巨大蜂は撃退することができました。

 

撃退は出来ましたが、疑問が残りますね。 

兵士が射撃する前の発砲音。あの射撃はどこから?

 

辺りを見渡せど、森しかありませんし。

遠くに見えるのは、輪郭が分かる城塞(じょうさい)のみです。

 

 ◇◆◇

【城壁基地付近/輸送経路/中型輸送車 [現地時間10:03]】

 

「嬢ちゃん、助かったぜ」

「いえ、自分ができることをしたまでです」

 

対応が妙に優しくなっています。

 

乗る前の、のけ者のような対応が嘘みたいです。

 

「俺の代わりに運転席横に座っときな」

「功労者のケツを痛めるわけにはいかねぇからな」

「おらッ、もう少し食った方がいいんじゃねえの?」

 

(自分は荷台でも構わないんですが)

 

兵士達によって、あっという間に運転席に押し込まれてしまいました。

 

善意を無下にするのは申し訳ないので、おとなしく乗っておきます。

 

「嬢ちゃん殿、進路はこのままでよろしいですかな?」

「よろしいです」

 

「すみませんな、若い連中の悪ふざけに付き合ってもらって」

「構いませんよ、自分も年相応の方がうれしいです」

 

「すいぶん、くたびれていますな」

「そう見えますか」

 

ふと、彼らの事を重ねるように思い出します。短いながらも長くいた前線基地隊員のことを。

 

彼らも────気がいい人たちでした。

 

「嬢ちゃん殿、疲れていたら眠っていても」

「大丈夫です」

 

また、魔物が襲ってくるかもしれません。

 

先ほどは幻聴《ナビィ》が助言をくれた為、先に行動できましたが。

 

(気分屋のナビィのことです『ハックシュンッ、風邪か』────勝手に思考に入ってこないでくださいっ)

 

「安全の為にも、休憩だけにしておきます」

「そいつは働き者で結構ですな」

 

周囲を確認した後、ブレーキが外され、中型運送車(トラック)は進みだします。

 

遠くに見えていた城塞の輪郭は濃くなり、やがて周囲の姿を鮮明にさせます。

 

森を切り取った場所に立つ城壁。

周囲には建築物の残骸が存在し、外壁は石と鉄板を合わせたツギハギだらけです。

 

ですが────有無を言わせぬ貫禄、が感じられます。

 

「すごい」

「訓練生殿はここに来るのは初めてですかな」

 

見とれているのに気づかれたのか、運転手の兵士から声をかけられます。

 

「ここは元々魔物(まもの)の要塞でして」

 

運転手は楽しそうに悲しそうに話します。

 

────激戦に次ぐ、激戦でして。

何人死んだとかいう話ではなく、屍を盾にして進んだというレベルです。

そして最後は我らが女王様達が魔物のボスを倒して、終わったわけです。

 

「見てきたように実感がこもっていますね」

「実際に見ていましたから」

 

「ポンコツみたいな機体を動かして戦友と共に戦ったものです」

「それは思いで深い経験ですね」

 

「なので、もし暇があれば城壁に祈っといてください」

「城壁にですか?」

「そこで戦友は寝ていますから」

 

彼もきっと喜びます、と兵士は言います。

 

「それは辛い思い出では無いんですか」

「辛いですよ。でも悲しむだけでは人は変われませんから」

  

ガタガタ。中型運搬車は石床を踏み、左右にゆれます。

 

大分酷い揺れですが、戦鋼に比べれば大したことはありません。

 

「すみません、しけた話しました」 

「いえ、そんな事はないです」

 

窓の外に見えるは、中に入るための簡易的な検閲所。

 

この時代に木の城門を使っているのは、趣味なのでしょうか?

 

「あー、そういや、嬢ちゃん殿は車酔いはしていませんか?」

「車酔いですか」

 

特に気分が悪いと感じたことはありません。

 

なんなら、いつもより快適な移動と感じるまでです。 

 

「なら賭けは俺の負けですか」

「賭けですか?」

「ええ、ここに来る新人は酔うのが定番でしてな」

 

そう言えば、最初に向かいに座っていた兵士は顔を青くしていましたね。

 

(てっきり眠たくて、顔を隠していると思いましたが)

 

ただただ酔っていただけですか。

確かに、敷くものもなければ、地面も凸凹でしたね。

ですが、戦鋼乗りとなれば、この程度で済む話でしょう。

 

「青い顔をしなかった奴は大体大物になれるってやつです」

 

妙なジンクスもできてますね。

 

(戦鋼乗りの適正として、揺れの耐性が必要なだけな気もしますが)

 

初期のころは戦鋼PN-K2(ピーエヌ ケーツー)に乗って、よく吐いてましたし。

 

結局、慣れたら何ともない揺れだと思います。

 

「それにしても────移動には車を使うものなんですね」

 

実は、軍用車での乗車輸送は初の経験です。

今まで、基本的に荷物として運ばれていましたので。

本当に体は痛くなりませんし、トイレを我慢しなくてもいいのですね。

 

「嬢ちゃん殿、そいつは場を和ませる冗談ですか」

「いえ、本心です」

 

────女王様の元にはクレイジーな奴しか集まらんのか。

 

兵士の呟きは陽気な風に乗って消えていくのでした。




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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