【森林地帯/輸送経路/中型輸送車・内部 [現地時間09:30]】
森を照らす2つの太陽。
布の隙間から差し込む光は多めです。
ガタゴト、ガタゴト。5台ほどの運送車が列をなしています。
「にしても、揺れますね」
テント張りの荷台に積まれた荷物は揺れます。
大小様々な段ボール。厳重に固定された金属箱。
自分の横の荷物は揺れすぎて落ちてきそうですね。
(見える道はかなりの悪路ですか)
襲われる心配をして、背筋を伸ばしているのは馬鹿らしいですね。
目の前で座っている兵士は休憩してますし。
私も寝たふりでもした方がいいのでしょうか。
暇つぶしの積荷の番号を足していく作業も疲れてきましたし。
『そんな貴様に朗報だ』
「それは本当に朗報ですか、ナビィ?」
『勿論。魔物の集団が狙っているぞ』
「どう考えても悲報の間違えでは?」
『暇つぶしには持ってこいだろ』
「そんな蛮族みたいな暇つぶしがあってたまりますかっ」
手持ちの無線は────服に入らないので置いてきましたね。
小柄な体に合う野戦服が無いのはどういうことなんでしょうか。
仕方ないですが、気持ちよく寝ている兵士には働いてもらいましょう。
「あのー」
「……悪いがクッションはこれ以上なくてな」
目の前の兵士は、眠そうに帽子をずらしません。
顔にだいぶ生気がありませんが、今は一大事です。
「いえ、そうではなく。魔物が接近しています」
「へっ?」
「えっと、『数は5』、『種類は多分虫』だそうです」
兵士《にいちゃん》の顔がどんどん青くなっていきます。
[連絡ッ、魔物接近、数5、多分虫ッ]
兵士の通信機が赤く光り、鳴り響きます。
[総員、運送車を止めて陣形を取れ。魔物を撃退する]
キュキキュウウッ────ガンッ
戦闘態勢ですね。
皆、
「おい、弾は込めたか」
「当然。おい、防壁よこせ」
「馬鹿が、円陣組むのには足りねえよ」
「そっちは車で守っとけばいいだろッ」
兵士の皆さんは、ワイワイガヤガヤしています。
「慌ただしい皆さんですね」
『全く、どこから襲われるか分からんというのに』
「嘘は良くないですよ、ナビィ」
『ほう?』
何となくですが、分かります。
接近する塊でしょうか。方向としては────
「皆さんッ、2時方向です」
「「「へっ、2時?」」」
皆が同じ方向を向きます。
目線の先には、木々が生えた森。
そして
[[[何、ぼさっとしてるッ、撃たんかッ!!]]]
全員の通信機が鳴り響きます。声の主は女性?
「キシャアア「ドドンッ」────ガッ!!」
突如、正面の巨大蜂が落ます。
とおくから金属が落ちる音が聞こえた後、兵士達は我に返ります。
「ふぁ、
ドドドドドドドドドッ────カランカランカラン
兵士たちの銃撃によって、巨大蜂は撃退することができました。
撃退は出来ましたが、疑問が残りますね。
兵士が射撃する前の発砲音。あの射撃はどこから?
辺りを見渡せど、森しかありませんし。
遠くに見えるのは、輪郭が分かる
◇◆◇
【城壁基地付近/輸送経路/中型輸送車 [現地時間10:03]】
「嬢ちゃん、助かったぜ」
「いえ、自分ができることをしたまでです」
対応が妙に優しくなっています。
乗る前の、のけ者のような対応が嘘みたいです。
「俺の代わりに運転席横に座っときな」
「功労者のケツを痛めるわけにはいかねぇからな」
「おらッ、もう少し食った方がいいんじゃねえの?」
(自分は荷台でも構わないんですが)
兵士達によって、あっという間に運転席に押し込まれてしまいました。
善意を無下にするのは申し訳ないので、おとなしく乗っておきます。
「嬢ちゃん殿、進路はこのままでよろしいですかな?」
「よろしいです」
「すみませんな、若い連中の悪ふざけに付き合ってもらって」
「構いませんよ、自分も年相応の方がうれしいです」
「すいぶん、くたびれていますな」
「そう見えますか」
ふと、彼らの事を重ねるように思い出します。短いながらも長くいた前線基地隊員のことを。
彼らも────気がいい人たちでした。
「嬢ちゃん殿、疲れていたら眠っていても」
「大丈夫です」
また、魔物が襲ってくるかもしれません。
先ほどは幻聴《ナビィ》が助言をくれた為、先に行動できましたが。
(気分屋のナビィのことです『ハックシュンッ、風邪か』────勝手に思考に入ってこないでくださいっ)
「安全の為にも、休憩だけにしておきます」
「そいつは働き者で結構ですな」
周囲を確認した後、ブレーキが外され、中型
遠くに見えていた城塞の輪郭は濃くなり、やがて周囲の姿を鮮明にさせます。
森を切り取った場所に立つ城壁。
周囲には建築物の残骸が存在し、外壁は石と鉄板を合わせたツギハギだらけです。
ですが────有無を言わせぬ貫禄、が感じられます。
「すごい」
「訓練生殿はここに来るのは初めてですかな」
見とれているのに気づかれたのか、運転手の兵士から声をかけられます。
「ここは元々
運転手は楽しそうに悲しそうに話します。
────激戦に次ぐ、激戦でして。
何人死んだとかいう話ではなく、屍を盾にして進んだというレベルです。
そして最後は我らが女王様達が魔物のボスを倒して、終わったわけです。
「見てきたように実感がこもっていますね」
「実際に見ていましたから」
「ポンコツみたいな機体を動かして戦友と共に戦ったものです」
「それは思いで深い経験ですね」
「なので、もし暇があれば城壁に祈っといてください」
「城壁にですか?」
「そこで戦友は寝ていますから」
彼もきっと喜びます、と兵士は言います。
「それは辛い思い出では無いんですか」
「辛いですよ。でも悲しむだけでは人は変われませんから」
ガタガタ。中型運搬車は石床を踏み、左右にゆれます。
大分酷い揺れですが、戦鋼に比べれば大したことはありません。
「すみません、しけた話しました」
「いえ、そんな事はないです」
窓の外に見えるは、中に入るための簡易的な検閲所。
この時代に木の城門を使っているのは、趣味なのでしょうか?
「あー、そういや、嬢ちゃん殿は車酔いはしていませんか?」
「車酔いですか」
特に気分が悪いと感じたことはありません。
なんなら、いつもより快適な移動と感じるまでです。
「なら賭けは俺の負けですか」
「賭けですか?」
「ええ、ここに来る新人は酔うのが定番でしてな」
そう言えば、最初に向かいに座っていた兵士は顔を青くしていましたね。
(てっきり眠たくて、顔を隠していると思いましたが)
ただただ酔っていただけですか。
確かに、敷くものもなければ、地面も凸凹でしたね。
ですが、戦鋼乗りとなれば、この程度で済む話でしょう。
「青い顔をしなかった奴は大体大物になれるってやつです」
妙なジンクスもできてますね。
(戦鋼乗りの適正として、揺れの耐性が必要なだけな気もしますが)
初期のころは戦鋼
結局、慣れたら何ともない揺れだと思います。
「それにしても────移動には車を使うものなんですね」
実は、軍用車での乗車輸送は初の経験です。
今まで、基本的に荷物として運ばれていましたので。
本当に体は痛くなりませんし、トイレを我慢しなくてもいいのですね。
「嬢ちゃん殿、そいつは場を和ませる冗談ですか」
「いえ、本心です」
────女王様の元にはクレイジーな奴しか集まらんのか。
兵士の呟きは陽気な風に乗って消えていくのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。