紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

20 / 107
⑳ 少女と新型戦鋼と宣言

【城壁基地/隊員部屋 [現地時間6:05]】

 

金髪少女(わたし)はまどろみを感じます。

 

魔物が1匹、魔物が2匹、魔物が3匹……

 

「ライライ、起きてよー」

 

にじむ視界に映る少女。

 

大きなナットを頭に付けた、灰色髪の少女は私を揺さぶります。

 

「撤退はっ、許可されて「いや朝だよー」────ほえ?」

 

覚めた目に映るは、少女の顔。

 

「だから朝だよー」

「あ、朝? はっ、あ痛たっ」

 

ベットから転げ落ち、痛みで脳が完全に覚醒します。 

 

超プラスチックの床を肌に感じつつ、目に入る時計は、6時。

 

「起こして貰ってありがとうございます、ナット少女さん」

「ナットナット、昨日このあだ名に決めたでしょーッ」

「えっと、そうでしたっけ?」

 

私は額を抑えながら、立ち上がります。

 

確か────昨日ヘロヘロになりながら訓練生の部屋に着いて、

 

ナット少女がそこにいて、なにか会話をしている最中に……寝落ちしましたね。

 

「その、寝落ちしてしまってすみません」

「気にしてないよー。ライライちゃん、疲れていたしー」

 

手癖の様に、シワシワの布団を出来るだけ綺麗に畳み、この後の事を考えます。

 

「朝食どうしましょう」

「ちょっと食堂は混んでそうな時間だよねー」

 

「最悪、レーションという手が」

「ダメダメ、きちんと食べないと元気が出ないよー」

 

「ですが効率的、経済的な食事を考えると」

「合理性だけじゃ、得られないモノもあるのだー」 

 

そう言いながらナット少女は、自室の冷蔵庫を漁ります。

 

取り出されるは、あんパンとレモンジュース。

 

「これ、希少なモノでは……」

「だからこそ、無理を言って備蓄をしているのだー」

 

「いいんですか、私が食べても」

「食べ物は食べるために有るんだよー、ライライちゃん」

 

勧められるがままに、もぐもぐ。

 

口の中に広がったあんこに対して、レモンのさっぱりとしたジュースが効きます。

 

「それより、食べ終わったら最新型の戦鋼(せんこう)を見に行こー?」

「もぐもぐ(最新型?)」

「そうそう、私達の為に搬入されたらしいのー」

 

ナット少女は私にジュースを渡しながら、言葉を続けます。

 

「でも、ゆっくり食べ終わってからでも大丈夫だよー」

 

ナット少女は見かけによらず、元気旺盛、世話焼きマシマシ、計画的な少女なのでした。

 

 ◇◆◇

【城壁基地/格納庫 [現地時間6:45]】

 

戦鋼が保管されている格納庫は、今日も人が多いです。

 

ヘリや戦車を整備しているだけではなく、奥では巨大な鉄の塊をいじっている人たちも見えます。

 

ハンガーに立てかけられる、鋼鉄は3体。

 

「やはり、直立式のハンガーはいいですね」

『いや、戦鋼を座らしとけば不必要だろ』

「わかっていませんね、ナビィ」

 

地上における直立式ハンガーは一見不要に思えますが、利点はあります。

 

『お金がかかる以外にあるのか』

「戦鋼がかっこよく見えます」

 

『なら不必要だろ「あ”ぁ”」────喧嘩なら買うぞ?』

 

ソンナコンナで脳内の幻聴(ナビィ)と喧嘩をしていると、

 

ナット少女は整備兵に話しかけます。

 

「整備のおっちゃん、戦鋼あるー?」

「大尉のとこの新人か」

 

予想通りというか、直属の上官は褐色(レイニー)大尉の様です。

 

やはり戦鋼乗りの挨拶は一癖も二癖もあるようです。

 

「ライライちゃん、見てよ見てよ最新型だよォー」

「叫ばなくても聞こえています」

 

「これが新型ですか────」

 

流線形のフォルム。

 

頭部や肩も丸みを帯びており、いかにも空気抵抗を考えましたという、嫌いなデザインです。

 

(地上で戦う戦鋼が丸くても意味はないと思うんですが)

 

「ライライちゃんー」

「どうしました、ナットナット?」

 

「コレさ────とってもエッチだと思わないーッ!」

 

ナット少女は激しく眼を輝かせて、力説します。

 

「そ、そうでしょうか?」

「そうッ、間違いなくエッチだよーッ」

 

「具体的には」

「見てよ、肩の曲線美」

「整備兵泣かせにしか見えませんが」 

 

「分かってないなぁ、魔法や矢を逸らすための美しきアールッ、もうほれぼれしちゃうよッ」

 

「魔法なんてモノが当たったら、戦鋼消し飛びませんか?」

「だからこそ、装甲は積載式、コーティングはアンチマジックになっていてねー」

 

確かにピカピカと光ってる新型戦鋼。

 

私はそれをどうしても冷たい目で見てしまいます。

 

(でも私は無骨なデザインの方が好きですね。まあデザインは、ですが)

 

「しかも、私がお願いした通り拡張装備(オプション)が付けれるようになってるうううー」

 

新型戦鋼の背中には、フックのついた背面装備(バックパック)

 

流線形のデザインと反する、角ばった背面装備。

 

「いえっ、この程度では負けませんっ」

「何と戦ってるんだ、嬢ちゃん?」

「えっ、いや……」

 

声をかけてきたのは、輸送中(トラック)の時に居たお兄さん。

 

青い顔をして乗っていましたが、ここの追加の整備兵だったようです。

 

「追加武装ごときで、私は負けないと念じていました」

「まあ奥のに比べたら目立つ装備ではあるな」

 

「奥? あの青い塗装と、グレーの塗装の奴ですか」

「ああ、大尉用はグレードの向上のみ。グレーの奴は探査能力をあげてある」

 

「つまりこのグレーの奴が私の……」

「いや、そいつはサニー曹長のだ」

 

「へー、そうですか────うん?」

 

目の前にある戦鋼は3機。

 

私達戦鋼のパイロットは4人。

 

そして全ての戦鋼に空きはありません。

 

「すみません────私の機体は……?」

 

質問に対して、首を傾げる整備兵。

 

「えっ、嬢ちゃん、戦鋼乗りだったのか」

「そ、そうなんですけど、もう一機は」 

 

「もう1機? ああ、あったが予備パーツにしちまったよ」

「へっ?」

 

予備パーツにバラシタ?

 

「上も許可出してたし、新型の部品なんていくつあっても困らんし……」

「じょ、冗談ですよね」

「ところがどっこい現実だ」

 

いえいえ、まだあきらめてはいけません。

 

「他の戦鋼は無いんですか」

「上が新型と引き換えに全部持っていきやがった」

 

「ぶ、部品とかは」

「根こそぎって言葉をしっているか、嬢ちゃん」

 

「ど、どうすれば……?」

 

整備兵はどこか遠い目をしながら、語ります。

 

「一応、残った新型戦鋼(ざんがい)ならある。一応だが」

「それです、とりあえず“それ”を見せてくださいっ」

 

残骸と言えども、一応は戦鋼。

 

腕や足が欠損してるだけなら、多分動かせるはずです。

 

(研究所では欠損とか当たり前、赤アラームとは友達でしたし、意外と何とかなるハズです)

 

「────ただ後悔はしないでくれよ」

 

希望を胸にあるく私に、不穏な言葉をつぶやく、整備兵

 

「不穏な事は言わないでください」

「いや現実って結構非情だから」

 

そうして立ち止まった、場所にあったのは────

 

「ナニコレ」

 

それを────戦鋼(せんこう)と呼ぶには無理がありました。

 

腕もなく、足もなく、頭もなく、

 

そして、体には装甲すらありません、

 

しいていうなら操縦席(コクピット)だけでした。

 

「足と腕と頭は飾りです、ってことでしょうか」

「完成度は30%切ってると思うぜ、お嬢ちゃん」

 

遠い目をする、私。

 

「エンジンをつけたら、足とか生えてきません」

「生えてきたら俺達整備班もうれしいな、マジで」

 

同じく遠い目をする、整備兵。

 

「ら、ライライちゃん────」

 

コンコンと近づくは、ナット少女の影。

 

「これはこれで、エッチすぎない?」

「もはや、そういう次元ではありません」

 

「でも裸体だよ、裸体ーッ」

「体というか、胸だけというか……?」

 

がっくりと肩を落とす、私。

 

「ナットナット、こういう場合どうすればいいと思います?」

「うーん、私の戦鋼が貸せればいいんだけどー」

 

 ですが個人設定された戦鋼を、簡単に借りれるとは思いません。

 

「明らかに連絡の行き違いだな」

「そう、ですね」

「とりあえず、嬢ちゃんは上に報告したらどうだ」

 

妙案もありませんし、整備員の言う通りにするのが良さそうです。

 

私とナット少女は急ぎ、大尉の元に走るのでした。

 

 ◇◆◇

【城壁基地/会議室 [現地時間8:45]】

 

机と椅子が、隅に纏められた20人規模の会議室。

 

褐色(レイニー)大尉と帽子(サニー)曹長には、無理を言って集まってもらいました。

 

「えっ、機体がないッキュ?」「自分の機体の管理もできないとは呆れるわね」

 

褐色大尉と帽子曹長の反応は異なります。

 

「サニー次の配達日は何時かしら」

輸送車(トラック)は5日後にくるッキュけど、どうしたッキュか?」

 

褐色大尉は、私を見ます。

 

「ならば、5日後の輸送車(トラック)に乗って国に帰ってもらうわ」

「ちょっ、レイニー」

「そもそも、昨日やるべきことは基地の見学では無かったハズよ」

 

(正論です)

 

少なくとも、兵士であるならば自分の道具の確認が最優先のハズ。

 

なのに私は浮かれて基地の中を見ることを優先してしまいました。

 

「そ、それなら、連れまわした私にも責任があるッキュ」

「なら、あとで報告書でも上げといてもらうわ」

 

褐色大尉は厳しい目つきでこちらを見ます。

 

「いいかしら────自分の武器の確認を怠る、戦鋼乗りは信用ならないわ」

 

「……はい」

 

「本来は3日後から、本格的に全体訓練をするハズだったけど、それもパー」

 

「すみませんでした」

 

「自責の念を感じるなら、さっさと出ていくことね」

 

大尉は言いたいことを言い終わると、会議室の出口に歩き始めます。

 

「れ、レイニーッキュ」

「サニーは黙っていなさい」

 

大尉は足取りを止めることなく進めます。

 

『どうした、いいのか?』

 

脳内の幻聴からも声をかけられますが気にしません。

 

「(別に帰ってもいい────)」

 

これは命令で無理やり配属されただけで、私が望んだことではありません。

 

ですから、国に帰れてむしろ精々するっという所すらあります。

 

まあ────以前の私ならという条件が付きますが。

 

「待ってください」

「……文句なら自分に言う事ね」

 

「いえ、私が3日後に訓練に参加できればいいんですね」

「まあ、“できれば”の話だけどもね」

 

()()取りましたよ」

 

呆れたような様子で大尉は出口のドアを開きます

 

私がここでいう言葉は、一つ。

 

「────待っていてください。必ず3日以内に戦鋼(せんこう)を用意します」

 

これ以上、言葉は不要です。

 

まずは、熱くなった頭を覚ますため、シャワーでも浴びるところからです。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

誤字脱字報告があると作者が喜びます。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。