【城壁基地/隊員部屋 [現地時間6:05]】
魔物が1匹、魔物が2匹、魔物が3匹……
「ライライ、起きてよー」
にじむ視界に映る少女。
大きなナットを頭に付けた、灰色髪の少女は私を揺さぶります。
「撤退はっ、許可されて「いや朝だよー」────ほえ?」
覚めた目に映るは、少女の顔。
「だから朝だよー」
「あ、朝? はっ、あ痛たっ」
ベットから転げ落ち、痛みで脳が完全に覚醒します。
超プラスチックの床を肌に感じつつ、目に入る時計は、6時。
「起こして貰ってありがとうございます、ナット少女さん」
「ナットナット、昨日このあだ名に決めたでしょーッ」
「えっと、そうでしたっけ?」
私は額を抑えながら、立ち上がります。
確か────昨日ヘロヘロになりながら訓練生の部屋に着いて、
ナット少女がそこにいて、なにか会話をしている最中に……寝落ちしましたね。
「その、寝落ちしてしまってすみません」
「気にしてないよー。ライライちゃん、疲れていたしー」
手癖の様に、シワシワの布団を出来るだけ綺麗に畳み、この後の事を考えます。
「朝食どうしましょう」
「ちょっと食堂は混んでそうな時間だよねー」
「最悪、レーションという手が」
「ダメダメ、きちんと食べないと元気が出ないよー」
「ですが効率的、経済的な食事を考えると」
「合理性だけじゃ、得られないモノもあるのだー」
そう言いながらナット少女は、自室の冷蔵庫を漁ります。
取り出されるは、あんパンとレモンジュース。
「これ、希少なモノでは……」
「だからこそ、無理を言って備蓄をしているのだー」
「いいんですか、私が食べても」
「食べ物は食べるために有るんだよー、ライライちゃん」
勧められるがままに、もぐもぐ。
口の中に広がったあんこに対して、レモンのさっぱりとしたジュースが効きます。
「それより、食べ終わったら最新型の
「もぐもぐ(最新型?)」
「そうそう、私達の為に搬入されたらしいのー」
ナット少女は私にジュースを渡しながら、言葉を続けます。
「でも、ゆっくり食べ終わってからでも大丈夫だよー」
ナット少女は見かけによらず、元気旺盛、世話焼きマシマシ、計画的な少女なのでした。
◇◆◇
【城壁基地/格納庫 [現地時間6:45]】
戦鋼が保管されている格納庫は、今日も人が多いです。
ヘリや戦車を整備しているだけではなく、奥では巨大な鉄の塊をいじっている人たちも見えます。
ハンガーに立てかけられる、鋼鉄は3体。
「やはり、直立式のハンガーはいいですね」
『いや、戦鋼を座らしとけば不必要だろ』
「わかっていませんね、ナビィ」
地上における直立式ハンガーは一見不要に思えますが、利点はあります。
『お金がかかる以外にあるのか』
「戦鋼がかっこよく見えます」
『なら不必要だろ「あ”ぁ”」────喧嘩なら買うぞ?』
ソンナコンナで脳内の
ナット少女は整備兵に話しかけます。
「整備のおっちゃん、戦鋼あるー?」
「大尉のとこの新人か」
予想通りというか、直属の上官は
やはり戦鋼乗りの挨拶は一癖も二癖もあるようです。
「ライライちゃん、見てよ見てよ最新型だよォー」
「叫ばなくても聞こえています」
「これが新型ですか────」
流線形のフォルム。
頭部や肩も丸みを帯びており、いかにも空気抵抗を考えましたという、嫌いなデザインです。
(地上で戦う戦鋼が丸くても意味はないと思うんですが)
「ライライちゃんー」
「どうしました、ナットナット?」
「コレさ────とってもエッチだと思わないーッ!」
ナット少女は激しく眼を輝かせて、力説します。
「そ、そうでしょうか?」
「そうッ、間違いなくエッチだよーッ」
「具体的には」
「見てよ、肩の曲線美」
「整備兵泣かせにしか見えませんが」
「分かってないなぁ、魔法や矢を逸らすための美しきアールッ、もうほれぼれしちゃうよッ」
「魔法なんてモノが当たったら、戦鋼消し飛びませんか?」
「だからこそ、装甲は積載式、コーティングはアンチマジックになっていてねー」
確かにピカピカと光ってる新型戦鋼。
私はそれをどうしても冷たい目で見てしまいます。
(でも私は無骨なデザインの方が好きですね。まあデザインは、ですが)
「しかも、私がお願いした通り
新型戦鋼の背中には、フックのついた
流線形のデザインと反する、角ばった背面装備。
「いえっ、この程度では負けませんっ」
「何と戦ってるんだ、嬢ちゃん?」
「えっ、いや……」
声をかけてきたのは、
青い顔をして乗っていましたが、ここの追加の整備兵だったようです。
「追加武装ごときで、私は負けないと念じていました」
「まあ奥のに比べたら目立つ装備ではあるな」
「奥? あの青い塗装と、グレーの塗装の奴ですか」
「ああ、大尉用はグレードの向上のみ。グレーの奴は探査能力をあげてある」
「つまりこのグレーの奴が私の……」
「いや、そいつはサニー曹長のだ」
「へー、そうですか────うん?」
目の前にある戦鋼は3機。
私達戦鋼のパイロットは4人。
そして全ての戦鋼に空きはありません。
「すみません────私の機体は……?」
質問に対して、首を傾げる整備兵。
「えっ、嬢ちゃん、戦鋼乗りだったのか」
「そ、そうなんですけど、もう一機は」
「もう1機? ああ、あったが予備パーツにしちまったよ」
「へっ?」
予備パーツにバラシタ?
「上も許可出してたし、新型の部品なんていくつあっても困らんし……」
「じょ、冗談ですよね」
「ところがどっこい現実だ」
いえいえ、まだあきらめてはいけません。
「他の戦鋼は無いんですか」
「上が新型と引き換えに全部持っていきやがった」
「ぶ、部品とかは」
「根こそぎって言葉をしっているか、嬢ちゃん」
「ど、どうすれば……?」
整備兵はどこか遠い目をしながら、語ります。
「一応、残った
「それです、とりあえず“それ”を見せてくださいっ」
残骸と言えども、一応は戦鋼。
腕や足が欠損してるだけなら、多分動かせるはずです。
(研究所では欠損とか当たり前、赤アラームとは友達でしたし、意外と何とかなるハズです)
「────ただ後悔はしないでくれよ」
希望を胸にあるく私に、不穏な言葉をつぶやく、整備兵
「不穏な事は言わないでください」
「いや現実って結構非情だから」
そうして立ち止まった、場所にあったのは────
「ナニコレ」
それを────
腕もなく、足もなく、頭もなく、
そして、体には装甲すらありません、
しいていうなら
「足と腕と頭は飾りです、ってことでしょうか」
「完成度は30%切ってると思うぜ、お嬢ちゃん」
遠い目をする、私。
「エンジンをつけたら、足とか生えてきません」
「生えてきたら俺達整備班もうれしいな、マジで」
同じく遠い目をする、整備兵。
「ら、ライライちゃん────」
コンコンと近づくは、ナット少女の影。
「これはこれで、エッチすぎない?」
「もはや、そういう次元ではありません」
「でも裸体だよ、裸体ーッ」
「体というか、胸だけというか……?」
がっくりと肩を落とす、私。
「ナットナット、こういう場合どうすればいいと思います?」
「うーん、私の戦鋼が貸せればいいんだけどー」
ですが個人設定された戦鋼を、簡単に借りれるとは思いません。
「明らかに連絡の行き違いだな」
「そう、ですね」
「とりあえず、嬢ちゃんは上に報告したらどうだ」
妙案もありませんし、整備員の言う通りにするのが良さそうです。
私とナット少女は急ぎ、大尉の元に走るのでした。
◇◆◇
【城壁基地/会議室 [現地時間8:45]】
机と椅子が、隅に纏められた20人規模の会議室。
「えっ、機体がないッキュ?」「自分の機体の管理もできないとは呆れるわね」
褐色大尉と帽子曹長の反応は異なります。
「サニー次の配達日は何時かしら」
「
褐色大尉は、私を見ます。
「ならば、5日後の
「ちょっ、レイニー」
「そもそも、昨日やるべきことは基地の見学では無かったハズよ」
(正論です)
少なくとも、兵士であるならば自分の道具の確認が最優先のハズ。
なのに私は浮かれて基地の中を見ることを優先してしまいました。
「そ、それなら、連れまわした私にも責任があるッキュ」
「なら、あとで報告書でも上げといてもらうわ」
褐色大尉は厳しい目つきでこちらを見ます。
「いいかしら────自分の武器の確認を怠る、戦鋼乗りは信用ならないわ」
「……はい」
「本来は3日後から、本格的に全体訓練をするハズだったけど、それもパー」
「すみませんでした」
「自責の念を感じるなら、さっさと出ていくことね」
大尉は言いたいことを言い終わると、会議室の出口に歩き始めます。
「れ、レイニーッキュ」
「サニーは黙っていなさい」
大尉は足取りを止めることなく進めます。
『どうした、いいのか?』
脳内の幻聴からも声をかけられますが気にしません。
「(別に帰ってもいい────)」
これは命令で無理やり配属されただけで、私が望んだことではありません。
ですから、国に帰れてむしろ精々するっという所すらあります。
まあ────以前の私ならという条件が付きますが。
「待ってください」
「……文句なら自分に言う事ね」
「いえ、私が3日後に訓練に参加できればいいんですね」
「まあ、“できれば”の話だけどもね」
「
呆れたような様子で大尉は出口のドアを開きます
私がここでいう言葉は、一つ。
「────待っていてください。必ず3日以内に
これ以上、言葉は不要です。
まずは、熱くなった頭を覚ますため、シャワーでも浴びるところからです。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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