【監視カメラ(車庫倉庫) [現地時刻6:00]】
映像に映るは並ぶは数台の中型運搬車。いわゆる魔力式電気エンジン搭載車である。
そして車の前で佇むは、二人の基地隊員である。
「隊長ッ」
「どうしたァ」
「車が動きませんッ」
呆れるような視線の隊長。
「なら他のを使わんかァ!!」
「いや、他もですッ」
「ふざけるなァ」
どうせサボるための口実だろ、という視線で見る隊長。
「なら隊長がやってみてくださいよッ」
「馬鹿野郎、この道十年の俺を舐めるなよォ」
車に乗り込む隊長。
粋よいよく鍵を突っ込み、すばやく回します。
「隊長ッ、やはりエンジンがかかっていませんッ!」
「ふざけるなッ、何かの間違いだァ」
今度は柔らかく回します。
「やっぱり、エンジンがかかっていませんッ!!」
「馬鹿な、この道十年の俺が」
敗北感に打ち震える、隊長。
車が動かなくて、てんやわんやする隊員。
車のボンネットは妙に風通しがよく、風でガタガタと震えるのでした。
【監視カメラ(第5廊下) [現地時刻7:00]】
「あれ、ここ停電中だっけ」
「どうせ基地の突発計画停電だろ」
「ホント止めてほしいよな」
「そういうなって電気だって貴重なんだぞ」
「魔力で幾らでも作れるだろ」
「その魔力が有限なんだ、バカ」
隊員たちが歩く天井から、垂れ下がるは、配線。
暗くなった場所の電灯は取り外されていました。
【盗撮カメラ(司令室) 記録[現地時刻10:00]】
指令室にいるのは、司令官と褐色大尉。
「なんか調度品減ってない?」
「気のせいじゃない」
「そんな事ないような」
司令官は、電子レンジと冷蔵庫は確かに
「俺ようの電子レンジと冷蔵庫があったような」
「いい身分ですわねー、私なんて共用なのに」
「それぐらい、いいだろ。自費だぜ」
褐色大尉はどうでもいい事の様に、書類を突き出します。
「はい、ハンコお願い」
「やけに分厚い書類だが、なんだコイツは」
「戦鋼関連の書類よ」
「つったく、人使い粗すぎるだろ」
「それは私に仕事を押し付けるのをやめてから、言ってちょうだい」
司令官は遠い目をします。
「ほら、偶には休みたいじゃん」
「隊員を口説くのを休みとは言わないわよッ」
司令官は青い顔をして慌てます。
「あー、わかった、わかったッ。後でやるからッ」
「後ォ? 今すぐよッ!!」
指令室からは、悲痛な叫びが聞こえるのでした。
◇◆◇
【城壁基地/地下・廃棄場 [現地時刻12:00]】
「意外と難しい……」
手製照明で照らされる廃材置き場の一角、机には様々な
「何をしているの―?」
灰色髪に今日も輝く六角ナットをつけた、少女の声が聞こえます。
「ナットナットですか」
「もうお昼の時間だよー」
「大丈夫です。緊急用のレーションは食べています」
ナット少女のまたそんなもんを食べて、という視線が刺さりますが、無視です。
昨日からざっと24時間、それでもやるべきことは終わっていません。
「飯よりも大事なものがあるってことー?」
「えっと、手製の電気炉がそろそろ」
「手製? 電気炉?」
「オーブンを無理やり弄り回した物なんですけど」
「そんなの作れるのー」
「昔よく作ってましたから」
他にも手製のボール盤と、人力プレス機、手動溶接機があります。
すべて手作りなので、安全性は度外視です。
「────そろそろですか、ね」
手製電気炉(オーブンだったもの)の内部には、ドロドロに融解した金属があります。
基地通路の配線から取り出したソレは、伝導帯としては非常に優秀です。
「ちょっと手伝ってくれませんか。手袋をはめて型を────」
「抑えてればいいのねー」
「助かります」
炉の中は熱いので、ペンチを使ってゆっくりと。
取り出した金属を、容器に注ぎます。
「なんか下からバケツに落ちてるけど」
「触るとやけどするので気をつけてください」
容器からバケツに落ちるは、赤熱しながらも糸の様に細い、金属。
「上手い具合に金属糸ができればいいんですが」
「そんな糸作ってどうするのー?」
「
車の電動機では戦鋼の関節は動かせますが、重すぎます。
指一つ一つに搭載していたら、腕ごともげる重さです。
「だから、掃除機とから小型の電動機をパクッたのですが────」
小さい
「仕方なく、小さい電動機のコイルを入れ替え、性能を向上させるところです」
「えぇ、もう一から作った方が早くないー」
「私もそう思っています」
バケツから引き揚げられた、金属糸はいい輝きです。
後で、巻き付け作業をしておきましょう。
◇◆◇
【城壁基地/地下・廃棄場 [現地時刻12:20]】
「それで、次はこいつです」
「これって、城壁防御用の……」
「そうですよ、対魔物用のミサイルです」
机の上には────弾頭が外されたミサイル。
城壁に設置されていたのを一つ頂いてきました。
「武器として付けるのー?」
「いえ、分解します」
弾頭は無いので、中に手を突っ込み、小型の機器を取り出します。
配線がだいぶもじゃもじゃしてますが、お目当てのモノは、と。
「なにそれー」
「慣性航法装置です」
「かんせい、こうほう、そうちー?」
「要は加速度計と修正装置ですよ」
俗に言う、バランサーのようなモノです。
付属しているジャイロ装置はくるくると回って、かわいらしいです。
「これ何につかうのー」
「姿勢制御の補助にでもなればと」
「なくても大丈夫じゃないー?」
ナット少女は首を傾げます。
「いいですか、戦鋼って腐っても4mの鉄鎧なんですよ」
私は思い出すようにいいます。
戦鋼を制御装置無しで動かすと、まず真っすぐ進めません。
挙句の果て、バランスを崩して、装甲に潰され、死にかけました。
「なので、最低限ですけど、この手の装置はいるんです」
「やけに実感がこもってるー」
「実際に事故ったので」
ナット少女はジャイロを眺めます。
「あれ? でもこれ動いてるときだけだよねー」
「まあ、ミサイル用ですから」
「じゃあ、動いてない時はー?」
「気合です」
「へっ?」
「気合と気合で立つしかありません」
制動時は、風はおろか、僅かな傾斜で確実に転びます。
「いいですか、ナットナット」
「な、なによー、ライライちゃん」
私はナット少女の肩をつかんで、発言します。
「転ぶのは前提です」
「それ駄目じゃないー?」
「大丈夫です。転んでも上手く転べば死にません」
「それ全然、いいこと言えてないよ、ライライちゃん……」
正論のような気がしますが、気にせず作業の続きを始めます。
あと1徹もすれば、なんとか戦鋼は完成するはずです。
「ナットナット、もう少し作業を手伝ってもらえますか?」
「いいけどー、ちゃんと寝ようねー」
「今日もきちんと寝てますよ」
「寝てる子はこんなに目に隈を作らないんだよー」
「うぐっ」
痛いところを突かれましたね。
元気にふるまっていても、目の下の隈までは消せませんか。
「で、ですが順調に進めば、明日は寝れるはずですから」
「それって今日は寝ないつもりでしょー」
首根っこを掴まれる、私。
「あっ、ちょっ、まだ作業がぁ」
「寝なきゃ駄目だよー、ライライちゃん」
少女は引きずられ、自室に連行されるのでした。
◇◆◇
【監視カメラ(隊員作業部屋) [現地時刻13:00]】
カメラに映るのは、
帽子曹長は、褐色大尉に手にもつ紙を見せつけます。
「戦鋼解体の指示だしたの、レイニーッキュね」
「何のことよ、サニー」
褐色大尉は書類を書く手を止めます。
「とぼけても無駄ッキュ」
帽子曹長が手に持った紙[戦鋼分解の許可書]。
サインは、司令と褐色大尉となっています。
「全く、どこで見つけてきたのかしら」
「ちょーっと、ね」
褐色大尉は呆れた視線を向けます。
「それが────彼女にとっても基地にとっても利があると思ったからよ」
「隊員が足りてないのにッキュか」
「人手不足は今に始まった事じゃないわ」
褐色大尉は、懐の拳銃を取り出します。
「彼女、銃弾を避けるどころか当りにいったわ」
「えっ、レイニーが狙って撃ったんじゃないッキュか?」
「まさか。本当は2人にギリギリ当たらないラインで撃ったわ」
褐色大尉は、分解された部品の汚れを取っていきます。
「でも、味方を庇うのは当然だッキュ」
「そんなんじゃないわよ、サニー」
褐色大尉は、木色来来という訓練生を思い出します。
「あれは信用していない眼、よ」
「信用? 彼女は私達のこと信じているッキュよ」
「そうじゃなくて、悲観的と言った方が確かかしら」
「悲観的ッキュか?」
「ええ、仲間は自分が守ってやらないと死んでしまう、そんな考えよ」
帽子曹長は首を傾げます。
「それは、ダメなことッキュか?」
「ダメダメね」
褐色大尉は、真っ向から否定します。
「普通ならしも、
「まあそうッキュけど」
「犯罪者だろうと、海軍のいけ好かない奴らだろうと、どんな奴でも背中を預ける必要がある」
「その時、飛んできた攻撃を後ろの奴の為に受ける? 冗談でしょ」
「後ろの奴は避けると信じて、自分も避けるべきッキュか」
「ええ、そうよ」
「その結果、後ろが死ぬことになっても」
「死ぬような連中は、女王の後ろに付いたりはしないわよ」
「それはレイニーだから言える事だッキュ」
帽子曹長は帽子を深く被ります。
「自分がどれだけ強くても、後ろは守るべきモノの場合だってあるッキュよ」
「それは割りきりよ」
「割り切って見棄てるッキュか」
「生憎、私は自分の事が一番ですから」
褐色大尉は、最後の部品を磨き上げます。
銃磨きの出来に、大尉は満足しているようです。
「────なら、その書類は誰の為ッキュか」
帽子曹長は、褐色大尉の手元の書類を取り上げます。
「ちょっと、返しなさいよッ」
「どれどれ、戦鋼育成学校の推薦状ッキュねェ」
推薦者の名前は褐色大尉、司令官。
そして、推薦状に書かれた名前は────木色来来。
「ち、違うわよ。兵士も足らないし、腐らしておくにはもったいないと思っただけよッ」
「ふーん、それでキュッ?」
褐色大尉は諦めたように、目を瞑ります。
「私が彼女の心配をしたら悪いってわけッ」
「なーら、本人にそういえばいいのにッキュ」
「うるさいわねェッ、銃弾を撃った手前そんな事出来る訳ないでしょォッ」
これだからレイニーは、という一瞥を残して、帽子曹長は出ていくのでした。
残された褐色大尉は、もちろんまだ唸っていました。
[映像記録終了]
ここまで読んでいただきありがとうございます。
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