【監視カメラ(格納庫) [現地時刻7:00]】
カメラに映るは、洗浄される
手前には、ナット少女と、整備員がうつっています。
「にーちゃん、機体が思ったように動かないんだけどー」
灰色髪におおきな六角ナットをつけている、ナット少女は喋ります。
「具体的には?」
整備員は、黒く汚れた作業服で洗いながら答えます。
「ふらつくというかー、軸がズレているというかー?」
ナット少女は、ふらふらと揺れます。
「訓練前に整備は終わらしたはずだぜ」
「でも動かすときに違和感がー」
「なら部品の問題じゃねぇな」
整備員は頭をかきます。
その様子はまるで思いつくものは一つと言った顔です。
「何の問題なのー?」
「
ナット少女は首をかしげます。
「今の戦鋼の
「じゃあ、
「それは冗談で言ってるよな」
「いや、真面目だけどー」
整備員は額を押さえます。
「例えば、戦鋼が歩くために
「足を動かすことじゃないの?」
「簡単に言えばそうだ。だが、具体的にだと────」
足の角度、腰の捻り、腕を動かしての重量調整、etc
合計100個以上の関節
しかも、ただ
全部を調整しながら動かすことで“歩く”っていう動作は出来る。
「────お前さんにそれができるか?」
「いやー、複雑ですねー」
「つまり、人様に処理できる動作じゃないってことだ」
整備員は、歩いている足を指す。
「複雑だけど、俺たちがいつも歩いてる動作と変わりないんだぜ」
ナット少女は、同じように足を動かす。
「自分でやるのは簡単なんだけどねー」
「そりゃそうだ。それを自分の倍以上ある物で、やるのが大変なのさ」
整備員は、腕を腰に当て、戦鋼を見つめ直します。
「まっ、嬢ちゃんは戦鋼の教本の勉強からだな」
「むっー、そこまで馬鹿じゃないもん―」
「いや馬鹿にしたわけじゃないんだが」
「絶対馬鹿にしてるでしょー」
ナット少女はドンドンと床に足を叩きつけます。
あわせて床の水がびちゃびちゃと跳ねます。
「おいおい、そんなに足踏みしても「ドォンッ!!」────へっ?」
揺れる地面。注目されるナット少女。
唖然とする少女が、わなわなと慌て、
「えっ、いや、えっ、私は何もしてないよッー!!」
とだけ、叫ぶのでした。
【記録終了】
◇◆◇
【城壁基地/地下・廃棄場 [現地時刻7:20]】
砂埃が晴れ、散乱した機材の中にあるのは────横に倒れた鉄の鎧。
装甲は継ぎ接ぎだらけ、背中からはコードが見えています。
鎧の肩には、ペンキで【PN-K2】と殴り書き。
「いててて────」
正面装甲が取っ払われ、周囲から丸見えの
「ナビィ────」『────馬鹿者』
「『きちんと戦鋼を動かせ』してください」
「『......あっッ?』」
私も、脳内の
「ナビィがきちんと動かさないから転ぶんでしょっ」
『貴様がしっかり動かさないから、転ぶんだろうがッ』
「私が悪いって言うんですかっ」
『ああッ。そもそも。私は魔道具の調整は専門外だ』
「でも、私なら余裕だなって朝言ってましたよねっ」
『うっ────それは、私の負担が大きすぎるのが悪いッ』
『そもそも、この魔道具がだなッ。ポンコツの癖に操作が多い』
「そ、そんなわけないでしょっ」
『いや、そんなにだ。この歩くという動作に────』
魔力の伝達、雷魔法の発動、威力調整、発動時間をいじった挙句、それを同時に100以上で行う。
『────馬鹿だ。馬鹿が作った魔道具だッ』
プンプンと喚き散らす
(内容を聞く限り、かなり頑張っていたんですね)
歩くって普通の動作なので、補助さえあれば簡単にできると思ってたんですが。
「でもナビィが頑張ってくれないと動きませんよ、コレ」
『……分かってる。分かっているが、無理な物は無理だ』
ハッキリと言われ、沈黙すること数分。
脳内に
『Tāmāde......仕方ない、貴様に魔法を教えてやる』
「魔法ですか?」
『ああ、貴様は魔力を獲得しているからな。魔法の使用は可能なハズだ』
「それ、なんで教えてくれなかったんですか?」
幻聴はすごく嫌そうな声で言います。
『貴様に強くなられるのが、癪だったからだ』
「凄く子供っぽい理由ですね」
『うるさいッ』
幻聴《ナビィ》の気持ちを意訳すれば、『できる』と言った手前、どうやら引っ込みがつかないといった感じです。
「とりあえず、戦鋼起こすところからですか」
『まあ、そうだな』
この後2回ほど転んで、ようやく立ち上がることに成功します。
◇◆◇
【城壁基地/地下・廃棄場 [現地時刻7:50]】
操縦席の中で腕を組む、
独特の響きながらも、どこかそれは日本語に近いモノでした。
「
『本来は武具に使用するものだがな』
「これ戦鋼なんですけど、大丈夫なんですか?」
『中身がない
まあそれはそうかと思いながら、頷いておきます。
『よく聞け。この魔法は────』
馬鹿共はコレを硬くしかならない、雑魚魔法と思っているが、それは違う。
武具、装備品の先まで魔力を張り巡らし、自分の体の拡張として扱うこと。
『────それが、この魔法の神髄だ』
「えっと、つまりどういうことですか?」
『……上手く使えば、戦鋼を体のように動かせるという事だ」
幻聴は呆れた声で、そう言い直します。
なるほどと納得した私は、早速、魔法の準備に取り掛かります。
(息を吸いこんで、呼吸を整えて……)
「
しかし何も起こらず。
「言い方ですか?────
『なに馬鹿な事をやっている』
聞こえるのは幻聴の疲れた声だけです。
「いえ、魔法が発動しないので」
『当然だろ。魔力も出さずに魔法が発動するものか』
「……魔力を、出す?」
『そうだ。魔法を使うんだ。魔力は必要だろ』
私は首を左右に傾けます。
「魔法って唱えたら、発動するもんじゃないんですか」
『貴様、魔法の唱え方とか習っていないのか……』
「少なくとも学校では習ってませんね」
『親から教わるだろ、普通』
「ウチは一般的な家庭だったので」
『魔法を習わない家庭があってたまるか』
「うるさいですねっ。ウチは田舎だったんですよっ!!」
仕方ない、とばかりに
『最初、私が貴様の魔力を操作する』
「それでコツを掴めと」
『そうだ。貴様は呪文でも唱えてろ』
面倒だから早くしろ馬鹿者、といった思いが脳内に伝わってきます。
『ほら、魔力を出すぞ』
「あっ、はい」
体に感じるは、灯の感覚。
心臓と逆の位置が鼓動する不思議な感覚。
鼓動とともに生み出されるは、極彩色の粒。
粒子は、体から、腕を通り、手へと伝わっていきます。
(暖かいのに、体の内部から出血した気分です)
手から出た光は、操縦席に広がり、戦鋼に吸い込まれていきます。
『早くしろ』
「あっ────しょ、
瞬間、極彩色の光りが飛び散り、周囲がぼんやり発光します。
淡い光、ふれてもなにも感じない、不思議な光りです。
(う、上手くいったのでしょうか)
『ほら魔力を引っ張る感じで、動かして見ろ』
「ええと、手を「ギ、ギギッ」────えっ」
歪な音とともに動く、指の先。
ですが、
「ナビィ、見てください。指が、指が動きましたよっ」
『まあ、まだまだ、だな』
「もっと動かせますかねっ」
『頑張ればいけるんじゃないか?』
「なら、はやく続きを練習しましょうっ!!」
こうして
夜になっても不気味になる機械音。
期限までは後────1日。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。