紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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㉖ 事後処理と少女とそれはそれ

【城壁基地/病室 [現地時刻8:00]】 

 

アルコールの匂いと、白色がめだつ大部屋の病室です。

 

「むむむむ」

 

うなり声をあげるは、金髪少女(わたし)

 

目の前には、今日の分の食事が置かれています。

 

「トマトジュースなんて貴重品、残したら懲罰ものよ」

 

そう呟くは、ドアから入ってきた褐色大尉(レイニー)です。

 

「ですが、苦手なモノは苦手で……」

「食わなきゃ、元気にならないわよ」

 

「今のままでも元気ですが」

「横にも病人がいるのだから、さっさと退院することね」

 

褐色大尉の視線は、私の右側を向きます。

 

寝ているのはナット少女。寝息はすーすーいっています。

 

「不幸中の幸いかしら、気絶しているだけよ」

 

褐色大尉は、私を見ます。

 

「────状況、聞いてもいいかしら」

 

指で指されるは、病室のドア。

 

私と、褐色大尉は基地の休憩場所まで移動するのでした。

 

◇◆◇

【城壁基地・休憩場所/自販機前 [現地時刻8:30]】 

 

ベンチソファーに座るは、褐色大尉と金髪少女

 

褐色大尉の手には、メモ用紙と、サイダー瓶。

 

私の手には、オレンジジュースがありました。

 

「事故で露見した隠し通路から、敵が出現」

「続けてちょうだい」

「強襲されますが、六角ナットの奮戦もあり、敵を撃退に至ります」

 

私はふう、と一息つきながら、オレンジジュースを飲みます。

 

(大部分を要約していますが、大筋はこんな感じでいいですかね)

 

「まあ、流れは大体わかったわ」

 

褐色大尉もサイダー瓶を傾けます。

 

「それは急な接敵だったわけね」

「はい」

 

「それをナットと貴方が撃退した」

「はい」

 

「決して────貴方が()()()()()()()戦闘になったわけじゃないのね?」

「それは……」

 

褐色大尉はこちらを見ていますが、私は視線を合わせることができません。

 

「こっちを向きなさい」

 

頭を無理やり向けられ、強制的に視線を合わせられます。

 

褐色大尉の眼は、真剣です。

 

「本当の事を話しなさい」

 

私はベコッとオレンジジュース缶を凹まします。

 

「あの時は、戦うことしか考えていませんでした」

「それはアナタの戦鋼を守る為かしら」

 

「それは、よくわかりません」

「よく分からない? 戦う選択をしたのに?」

「敵がいたから倒さないと……そんな気持ちです」

 

なぜと言われると、適格な答えが見つかりません。

 

(戦場から逃げたくない、そんな気持ちもあったのでしょうか……)

 

褐色大尉は考えるような素振りをして、私を見ます。

 

「ナットの行動とか覚えているかしら」

「私に撤退の進言をして、断ると敵に向かっていきました」

 

褐色大尉は頭を抑えます。

 

その様子は怒る対象がもう一人増えたと言った感じでした。

 

「呆れた……、二人とも若さを通りこして、大馬鹿ね」

 

「私はあの時、撤退するべきでした」

「本当にそう思っているのかしら」

「はい」

 

撤退をして、上にいるみんなと力を合わせて敵を撃退するのが最善手です。

 

そうすればナット少女は怪我をせずに済みましたから。

 

「反省は結構────でも、それは実際に出来なきゃ意味がないわ」

 

褐色大尉の目は厳しいです。

 

まるで何か別の事に怒っている、そんな雰囲気です。

 

「今回、助かったのは運のおかげよ」

「そうですね」

 

「さっさと駆け付けた私たちに感謝しなさい」

「そう、ですね」

 

「治療が遅れていたら、ナットは意識が戻らない可能性もあったのよ」

「……そう、です、ね」

 

私はボロボロと泣き崩れます。

  

分っていたことですが、事実を告げられることがここまで苦しいことだとは思いませんでした。

 

「私のせいで、彼女が死ぬことが」

 

「────あ”あ”、もうッ、本当にッ、調子狂うわねッ」

 

褐色大尉に頭をつかまれます。

 

「あのッ、反抗的な態度はどこにいったのよッ」

「そ”れ”は”、あ”の”」

 

掴まれた頭にかかる力が強くなります。

 

「めそめそする暇があったら、ちょっとは言い返しなさいッ」

「あ”い”」

 

「なーに、はいはい頷いて、深刻な顔してんのよッ」

 

頭からはギリギリ音が鳴っている気がします。

 

「いい、アナタは偶然とはいえ、()()()()()()()()

 

 誰も気づいていない中、たった二人で守ったのよッ!

 

 それをッ。その活躍を馬鹿にされて悔しいと思いなさいッ!!」

 

褐色大尉の口から出るは、滅茶苦茶な話です。

 

ですが、泣きながら頭を掴まれている私には、頷くことしかできませんでした。

 

 「────ええ、ええ、よく頑張りました」

 

気付けば、頭は掴まれておらず、髪をゆっくりと撫でられていました。

 

ガシガシと乱雑ですが、優しい手でした。

 

「私たちが必死に警戒しても、気づいてすらいなかったわ」

 

ナデナデ。

 

「それを新人の二人に止められるなんて思ってもいなかったわ」

 

ナデナデ。

 

「やらかした? 上等よ。生きていりゃ、次なんてどうとでもなるわ」

 

なでなで。

 

「そろそろ、何か言ってちょうだい。私がつらいわ」

「あ”い”......」

 

気付けば、涙は止まっていました。

 

目元は腫れている感じがしますが、視線は真っすぐと褐色大尉を見ることができました。

 

「まっ。あなたに足りないモノは練度と経験と心構えよ」

「それ、だいたい足りてないじゃないですか......」

「ようやく調子が戻ってきたわね」

 

褐色大尉は撫でていた手を止めると、懐から封筒を出します。

 

「これは?」

「開けてみなさい」

 

封を開けると、推薦状の文字。

 

「戦鋼訓練学校?」

「まっ、おとなしく学びなおしてくることね」

 

推薦状の文字は、何度も書き直された形跡があります。

 

 ◇◆◇

 

【城壁基地・格納庫 [現地時刻10:00]】

 

走り回るは整備員達。

 

兵器の再チェック、崩れた荷物の積み直し、揺らいだ地面の補修。

 

彼らの仕事は沢山あります。

 

「大変そうね」

 

そこに現れるは、褐色大尉(わたし)です。

 

「今日も整備っすか、大尉」

「この後、地下探索の命令がおりそうなのよ」

 

格納庫内では、工事用のパワードスーツも準備中です。

 

「仕事が増えて面倒とはいえなくてね」

「そいつはお互いさまですな」

 

「こんなところで油売ってていいのかしら」

「先にコイツの調査がありまして」

 

整備員が視線を向けるは、ハンガーに鎖で吊り下げられた、戦鋼。

 

右腕は融解、装甲は凹み、全体は煤だらけでした。

 

「これは酷い状態ね」

「訓練生が乗ってた戦鋼っすよ」

 

「【SN-P1】……懐かしい戦鋼を引っ張りだしてきたものね」

「大尉も乗ったことがおありで」

 

「昔も、昔よ。お世辞にもいい戦鋼とは言えないわ」

「整備員には好評だったんですがね」

 

大尉は戦鋼を眺めます。

 

(乗っていたモノよりも、歪で継ぎ接ぎだらけね)

 

溶接は適当、(コード)はガムテープで固定してあります。

 

「……よく生きてたわね、彼女」

「全くです」

 

「運がいいのも戦場で必要なこと、ですか」

「どうしました。何か思い出すことでも」

「いえ、思い出しただけよ」

 

褐色大尉は戦鋼を一瞥して、自分の仕事を思い出します。

 

「まっ、エンジンとコアだけ分解して残りは廃棄で────」

 

「いや、それがですね、大尉……」

 

言いよどむ、整備員。

 

「どうしたのかしら。壊れていいたとか?」

「落ち着いて聞いてください」

 

整備員は決心したように、口を開きます。

 

「────動力《エンジン》と中枢《コア》がありません」

 

「何馬鹿な事、言ってるのよ?」

 

褐色大尉は、首を傾げます。

 

「エンジンとコアがない戦鋼があるわけないでしょ」

「ですが、動力室(エンジンルーム)は空っぽで、中枢室(コアルーム)は存在すらしてないです」

 

「あのー、これ、ただの鉄の鎧ってこと?」

「現状そうなりますね」

 

整備員はハキハキと答えます。

 

ですが眼はどこか遠いものを眺めていました。

 

「これ……本当に動いてたの?」

「脚部のエンジン用モータは、全部焼ききれていました」

 

「まあ、車用のモータで戦鋼が動くわけないわね」

「隊員曰く、自力で上に上がってきたらしいです」

 

褐色大尉は整備員の方を見ます。

 

整備員の眼は、全てを悟ったように閉じていました。

 

「ま、まあ、ナットと共闘で敵も退却でしょ。は、ハリボテでも十分よ」

「それが現場の荒れ方を見て、」

 

「────コイツ、初級どころか中級魔法を受けてます」

 

「冗談よね?」

「事実です」

 

褐色大尉は首をぐるんぐるんと傾げます。

 

(いやいや、【PN-K2】の装甲なんて銃弾ですら貫通するのよ)

 

初級魔法で消し炭にされてきた戦鋼なんて山ほど見てきたし。

 

なんなら、実際に、私が経験した話だし。

 

だとしても、もしそれが本当なら。

 

(コイツに乗っていた操縦者《パイロット》は────)

 

「今年の軍合同演習、何月よ」

「12月だったと記憶していますが」

「つまり、あと半年以上、あるわね」

 

褐色大尉は、持っている手荷物を全て、整備員に押し付けます。

 

「た、大尉殿?」

「ちょっと、急用思い出したわッ」

 

(さて、彼女がここに残っていればいいのだけども……)

 

 ◇◆◇

【城壁基地・隊員部屋 [現地時刻10:30]】

 

息を切らして辿り着くは、隊員用の部屋。

 

ドアには[ナット&ライライちゃん]と書かれていました。

 

「ここに居たのね、木色」

 

口を開くは褐色大尉(わたし)

 

「す、すみません。もうすぐに帰宅準備を終わらせますので」

 

そこには荷物が詰められた段ボールが一つ。

 

金髪少女は慌てて、姿勢をただします。

 

「封筒まだ持っているかしら」

「あっ、はい。ここに」

 

大事に取り出されるは、私が徹夜で書きあげた封筒。

 

中を確認すると、推薦状ごときちんと入っています。

 

「もったいないけど、仕方ないわね」

「えっと、どういうことで?」

「こういうことよ、ふんっ」

 

────真っ二つに引き裂かれるは、封筒。

 

「これで良し」

「は、はい?」

 

動揺からかえってきた、金髪少女はパクパクと口を開きます。

 

「あのー、これは、あのー」

「プランBよ」

 

「ど、どんなプランなんでしょうか」

「プランBは、無茶ぶりのBよ」

 

無茶ぶり(unreasonable)なら、プランはUだろ、というのは野暮なツッコミです。

 

褐色大尉は気にせず話続けます。

 

「現金な奴とでも、なんとでも言ってちょうだい」

 

金髪少女はオロオロと慌てるだけです。

 

「本来は、学校でメンタル面を治して欲しかったけど、なしよ、なしッ」

「へっ、何の話ですか?」

「こっちの話よ」

 

木色隊員の自力は十分。となれば荒治療、一択。

 

今すぐ現場でシバいて、心ごと鍛え上げる。

 

そして、目標は軍合同演習────

 

「アンタは、あのいけ好かない連中に、一泡吹かせるのよ」

 

ウチの部隊に足りない、エース級。

 

毎回、毎回、新入りをボコされて苦汁を飲んでたけど、それまで。

 

この子を、ふんぞり返っている女王艦隊のエースの連中をぶっ倒す切札にする。

 

「目指すは全基地トップ、そして追加予算ッ」

 

褐色大尉は意気込むように、腕をガッツポーズします。

 

「死ぬ気で頑張りなさい。明日からシバくわよ」

「えっ、えっ、地球に帰るお話は……」

 

「なしよ、なし。例え敵だろうと協力してもらうわ」

「あっ、はい」

 

流されるように、頷くしかない金髪少女でした。




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