【城壁基地・仮想訓練室/内部 [現地時間24:00]】
「無理です────私が馬鹿でした」
『さっきまでの威勢はどうした』
呆れたような声を出すのは、脳内の幻聴です。
「心がが、限界です……」
訓練を初めてすでに夜になり、食事をはさんだところで、時間は深夜。
1面(敵はだいたい味方)をクリアして、意気込むこと数時間前。
2面のモブ敵────ゴブリンのガキに心を破壊されました。
「アレ、誰が考えたんでしょうか……」
ゴブリンのガキ、通称ゴブガキ。
トチ狂った
「1面からの巻き戻しすら辛いのに、初手ゴブガキ遭遇からのワンパンは流石に……」
探知機で気づいたときには、時既に遅し。
子供故に、高倍率で設定された素早さは、探知機すら意味をなしません。
(画面全体に映るゴブガキは、夢にも出てきそうです)
「今日はもう寝ます」
『おいおい、一度口に出したことを曲げるのか?』
「いや……本当に勘弁してください」
今なら、モブ敵の姿を見ただけで発狂する自信があります。
『クリアするまで、なんと言ったかなぁ?』
「確かに、言いましたけど」
『こんな序盤で止めるのか?』
どうやら幻聴もクソゲーの影響を受けて、口が悪くなっているようです。
「明日の訓練もありますし」
『今日の訓練まで、まだ7時間もあるぞ?』
どうやら、よほど見ているのが楽しかったのか、
「────そこまで言うなら、ナビィがやればいいじゃないですか」
あと、7時間も
できれば明日もやりたくはない、そんな気持ちです。
『全く、私を誰だと思ってるんだ────体を貸せ』
「後悔しても知りませんよ」
とは言いましたが、
意外と、あっさりクリアしてくれるかもしれません。
(ちょっと悔しいですが、クリアできるなら、それでもいい気がします)
今日の私はもう駄目です。
◇◆◇
【城壁基地・仮想訓練室/内部 [現地時間03:00]】
時は進み、3時間後。
「カ、カスがッ」
『ナビィ、落ち着いてください』
私の体で、操縦席を台パンしないでください。
(壊して怒られるのは、私なんですよっ)
「魔力感知に引っ掛からない魔物が、いるわけが無いだろッ」
『ゲームなので仕方ないと言えば、それまでな気がします』
現実と違って、仮想の敵は魔力持っていません。
あくまで探知機の反応か、目視をもって発見することが出来ます。
(なるほど、だからですか)
敵の発見がいつもより遅いのは、魔力を感知できないからだったんですね。
「挙句、6本腕のゴブリンだと……馬鹿にするのもいい加減にしろ」
阿修羅ゴブリンでしたっけ?
6本の腕を飛ばして攻撃するゴブリン。
(全部の腕を躱したら、最終的に口からビーム吐いてくるとは……)
唖然とした幻聴が、一撃で消し飛ばされるのは見ていて面白かったです。
『ナビィ、まだやるんですか?』
「当然だッ」
現在、ステージは3面ボス。
数々の悪意の数を乗り越え、目の前にはボス────マザーゴブリン。
1面で止まっていた私に比べて、流石
「映像ごときに私が負けるなど「ピチューン」────へっ」
放たれるは、マザーゴブリンの所見殺しギミック。
戦鋼は一発で消し炭になるのでした。
「……」
『あのー、ナビィ大丈夫ですかー』
「……大丈夫だ、多分」
『あのー、3面まで行ったのは結構凄いと、お、思いますよ』
「大丈夫だ、大丈夫だから、肉体の操作を変わってくれ」
あっさりと返される肉体の操作権。
脳内でぶつぶつと文句をいう幻聴。
流石に
◇◆◇
【城壁基地・仮想訓練室/内部 [現地時間03:10]】
「冷たい風ですね」
『こんな時間だからだろ』
全てを諦めた金髪少女は、格納庫の外壁に寄りかかります。
そこから見える外の景色は────満点の星空。
今にも降ってきそうな、二つの大きな月。
輝く星々は宝石の如くといった感じです。
「あれもゴブリン、ゴブリン、ゴブリンですね」
『ゴブリン座は、向こうだぞ』
「じゃあ、アレは何座なんですか」
『エルフの神々座だ』
「凄く言いにくそうな名前ですね」
『それは名前を付けた連中に言ってくれ』
ボケーとすること、数十分。
夜の寒さで、指先が少し冷たくなった頃です。
「ナビィ、私は強くなったのでしょうか」
『なんだ急に』
今回の仮想訓練で実感しました。
(このままでは、いけないのは分かっています────)
「あの、その、ナビィ」
ですが、私の口は上手く回りません。
恥ずかしいという訳ではなく、気持ちとしては悔しい、でしょうか。
幻聴をいつか超えたいのに、幻聴に頼らないといけない現状が、私の口を重くさせます。
「えーと、ですね」
『どうした? 言いたいことがあるなら、ハッキリ言え』
「はっきり言えればどれほど楽なんでしょうか……」
『自分の“弱さ”なんぞ、さっさと認めたほうが楽だぞ』
「思っていることバレてましたか」
『誰の脳内に住み着いていると思っているんだ』
そんな幻聴《ナビィ》の軽口。
まるで魔法が解けたように、言葉の重さは消えていました。
「────魔法の練習というか、訓練法とか知っていますか」
私は相変わらず、弱いままです。
このままでは、また、誰かを失ってしまうかもしれません。
『魔法の練習? そんなもの無くても……』
『────いや、そうだな。まずは強化魔法を使いこなすというのはどうだ』
「強化魔法にそんな万能性は感じませんが」
『アレには基礎が詰まっている』
「初級魔法ですけど、そうなんですか?」
『簡易な魔法ながら、魔力の伝達、出力の調整、と意外と難しくて、だな』
「なんか、ナビィ私に隠してませんか?」
『私としても、貴様に強くなってほしいような、無いようなといった感じだ』
「どういう心境ですか、それ……」
『こっちも意外と複雑なんだ、察しろ』
しかし、そうアドバイスされても困った事が一つ。
強化魔法の練習方法です。
「練習の為に、戦鋼を動かすわけにもいきませんし」
戦鋼を動かすためには上官の許可がいります。
ですが現在は仮想訓練室での訓練中。とてもじゃないですが許可はおりません。
『その程度の練習なら人形で十分だろ』
「人形というと、ぬいぐるみみたいな?」
『ああ、まずは小さなものから始めるべきだ』
幻聴にしては真面目な発言。
「ぬいぐるみですか……」
少女趣味とかではないので、部屋にぬいぐるみも、人形もありません。
服を縫うことぐらいはできますが、作るとなると流石に無理な気がします。
「何か、いい手段は「ようっ、嬢ちゃん」────ひょっ」
首を捻れば、整備兵の顔。
夜風に乗って来るのは、油の匂いです。
「整備、まだしてたんですか?」
「なーに、いつものことだよ」
整備兵は手に、缶ジュースを持っています。
どうやら休憩の為、外に出てきたようです。
「すまねえな、嬢ちゃんの分はないんだ」
「いや、別に大丈夫ですよ」
「謙虚だなぁ。大尉殿とかなら、遠慮なくぶんどって来るぜ」
「えっ、いやそこまでは」
「この前も、秘蔵のタバコ吸ってたらよ、上官命令だ、つって取り上げてきてよ」
「なんというか、褐色大尉らしというか……」
「おかげで購買にまた走る羽目になったぜ」
「へえー、そうなんですね」
購買と言えば、食事場横に併設された店です。
基本的に金さえ払えば、何でも買える印象があります。
今まではお金が無くて、一切興味がありませんでしたが、今回は別です。
「あのー、購買に人形や、ぬいぐるみ、とかありますか?」
「どうした急に、趣味か?」
意外そうな顔をする、整備員。
「実は、魔法の練習に必要で」
「なるほど、人形かぁ。購買には無かった気がするぞ」
「流石にですか」
やっぱり、需要は無いですよね。
人形とか割と子ども寄りの趣味ですし、その手の人なら自分で作りますし。
「ほら、頼めば仕入れてくれると思うぞ」
「そんなもんですか?」
「ああ、俺の趣味のプラモとかもいけたし」
「本当に何でもアリですね」
異世界にある購買ですから、検閲は厳しいモノだと思っていましたが。
働く人のストレス軽減も兼ねているのでしょうか。
(しかし、プラモですか……)
懐かしいですね。自分も昔はよく作っていま────いや、プラモ?
「別に人型なら、人形にこだわる必要もないですよね」
「何をぶつぶつ言っているんだ、嬢ちゃん」
城のプラモデルとかでしたら、楽しく作るしかないですが。
打つ手がないのであれば、聞いてみる価値はあるハズです。
「すみません、今の話を詳しくお願いできますか?」
「まずは書類を配給部か、上司に渡してだな」
「いえ、そこではなく、プラモの方です」
「へっ? プラモの方?」
整備員は恥ずかしいのか、言葉を濁しながら喋ります。
「い、いやー、大した物じゃないぞ。普通の人型プラモだし、それがどうした?」
「なるほど」
私にとっては、十分すぎる情報です。
昔のロボット物なら、だいたい人体に近い形でしょうし。
「無理は承知でお願いします。そのプラモ一つ譲ってくれませんか?」
「ほ、ほう」
「あっ、もちろんお金は払います」
「いや、お金というかなんというか」
「やっぱり限定商品とかで譲れないとい話でしょうか?」
「正直積みプラになっているから、作ってくれる分には問題無い」
整備員は決心したように言います。
とても言いにくそうですが、拳を握りしめながら言ってくれます。
「だが、その、プラモが───美プラなんだ」
整備員の視線は、俺プラモ好きを増やしたいけど、美プラしかもってねェ、と叫んでいます。
「ええっと、美プラって、美少女プラモデルの略称ですよね」
「そうだ。よく知っているな」
急に眼に光が宿る、整備員。
「俺が頼んだのは、戦鋼女王艦隊歴戦隊長シリーズ3番、1/12スケール、夏だ水着だver」
「お、おう」
「変態企業の努力により、肌下の赤みさえも再現した一品だ」
「あっはい」
「────本当に、それでもいいんだな」
肩をがっちりと掴まれて聞かれますが、頷いておきます。
正直、動けばなんでもいいので、美プラだろうと構いません。
「ならば、任せておけ」
数時間後、ニッパー、艶消し、紙やすりとともに、包装された美プラが届けられるのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。