紅き戦鋼のTSガール's   作:上殻 点景

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③ 異世界と教官と少女

【異世界前線基地/倉庫 [地球時刻7:00]】

 

天井につるされたライトは節電の為、切られており、窓からの日差しのみが倉庫をてらします。

 

体育館程の内部には、鎮座する金属の塊、大小さまざまな木箱。

 

入り口近くには、数人の人影がありました。

 

「戦鋼整備員、集まれッ」

 

パック酒を咥えた女性は声を飛ばします。

 

「今日の連絡事項を伝えるッ」

 

黒スーツに、黒ポニー、パック酒を咥えていなければ、凛々しい女性と言ったところです。

 

そんな様子を見て、口を開くのは整備員達。

 

「今日もキレッキレですね、教官《きょうかん》殿」

「パック酒は捨ててくださいよ、教官《きょうかん》殿」

「ちなみに、寝癖ができてまっせ、教官《きょうかん》殿」

 

「へっ?」

 

教官とよばれた女性が咥える、パック酒が下に落ち────

 

「────なっ、髪は直したはずだッ」

 

右手でパック酒を受け止め、左手で髪を抑えます。

 

ですが寝癖には弾性がるようで、髪を抑えたところでもとに戻っていきます。

 

「うぐぐぐ……」

 

数回のねぐせ攻防戦をおえて、女性教官は諦めます。

 

「れ、連絡事項があるッ!!」

「「「イエスッ、マム!!!」」」

 

整備員の声はよく響きます。

 

彼らの一糸乱れぬ行動は、朝から満足、と言わんばかりの動きです。

 

「よろしい、今日は予備隊員が配属の予定だ。よしなに頼む」

「で、その予備隊員はどこですか?」

「到着する時刻、ではあるんだが」

 

女性教官は手に付けた時計を見ます。

 

「配送に遅延でも起きたか」

「でも搬入の荷物は時刻通りでっせ」

「リストの確認をきちんとしたか?」

 

女性教官が横を見ても、包装に包まれた塊と積み上げられた木箱のみ。

 

「ふむ、妙だな────」

 

ドンドンッ。重音が倉庫内に響きます。

 

「銃声? いや破砕音かッ」

 

即座に武器を構える、女性教官。

 

頭をよぎるのは、地面及び外壁からの魔物の侵入です。

 

「音源はどこからだッ」

「荷物ほうから聞こえていますっ」

 

整備員はスパナを構えながら、必死に叫びます。 

 

女性教官が耳を澄ませば、箱の一つから破砕音が響きます。

 

その箱のタグは[精密機器]。

 

「野性的な精密機械を注文した者は」

「まさか、俺達が好きなのは大人しい子ですよ」

 

「ならばこれは“荷物に紛れていた”と」

「ですな。いつもは数が少ないですが、今日は一つ多い」 

 

女性教官は整備員に指示をだし、荷物の周囲を取り囲ませます。

 

バキバキ。破砕音が変わり、箱耐久値は限界にのように聞こえます。

 

「気を付けろ、何が出てくるか分からんぞ」

「そんときゃ、そん時ですよ」

「頼もしいな────来るぞッ」

 

スドンッ。木箱は木片を散らして爆散します。

 

整備員、女性教官は構えをとりますが、

 

最初に、聞こえてきた音は魔物どもの叫び声ではなく、

 

─────少女の声。

 

「よ、ようやく出れました」

「えっ、いや、ナビィの案でしょう」

「そうですが……へっ、囲まれている?」

 

そこにいたのは、独り言をぶつぶつと話す少女でした。

 

「「「「……⁉」」」」

 

呆然とする女性教官と整備員。

 

少女も状況を飲みこめず沈黙をするのでした。

 

暫し沈黙へて────

 

「ほ、本日配属になりました。エイチです」

 

少女はぎこちない敬礼をおこなうのでした。

 

◇◆◇

 

少女こと、私は首をかしげます。

 

「おかしいですね、敬礼は完璧なハズ……」

 

上からの指示通り、荷物として異世界スーアまで輸送。

 

少々手こずりましたが、時刻通りに到着したと思います。

 

(なのに、何故私は注目されているのでしょうか?)

 

周りに集まるは整備員達です。

 

彼らは、あーだ、こーだと会話を始めます。

 

「黒髪短髪少女ですか」

「異世界に来る女だぞ。どうせ戦闘民族《ゴリラ》だ」

「ですが、無表情黒髪ロリッ子。評価値は高めですが」

 

「もしだ、ゴリラでは無かったら」

「拙者性癖にドストライクでござる」

「やはり初手は友達から言ってみるか?」

「馬鹿が、安パイを取るなら一週間様子見だろ」

 

「(────やはり妙に注目されてます)」

 

服装に不備はないはずです。

 

きちんと支給された服を着ていますし、靴も軍隊用のを揃えました。

 

「(変装用のカツラがズレているのでしょうか?)」

 

幻聴《ナビィ》曰く、“ハゲに人権はない”だそうですが。

 

そんな幻聴《ナビィ》からの呆れた声が届きます。

 

『いや箱を割った時点で注目の的だろ』

「ですが脱出の為には仕方なかったので」

『もう少し優雅に割る必要があったな』

「確かに皆さんを驚かせてしまったかもしれません」

 

ですが、箱輸送はいつものことで。

 

現地で、箱の扉が開かないことも、よくあることでした。

 

(まあ、個人的にはよく寝れて満足なんですけど)

 

呆れた馬鹿だ、とは脳内の幻聴《ナビィ》の感想です。

 

そんな雑談を脳内でしていると、女性教官の声が響きます。

 

 「静かにしろッ。疑問は最も。だが前線基地(ウチ)に来た以上、仲間(メンバー)だ」

 「「「サーイエスマムッ!」」」

 

 整備員達の視線が一斉に、女性教官に向きます。

 

 木の葉を散らすが如くとは正にこのこと、女性の発言はそれほどにまで重いものなのでしょう。

 

 「よろしい。ならば作業に戻れ」

 「「「了解しました教官殿」」」

 

 整備員達はバラバラになり各々の作業に戻ります。

 

 一人ちょこんと残された、私はどうすればいいのでしょうか。

 

 (とりあえず整備員達と似たような行動をとるべき、ですかね)

 

 そう思い一歩を踏み出そうとしますが、

 

 「────エイチ。貴様には追加の業務連絡だ」

 

女性教官に私は呼び止められるのでした。

 

◇◆◇

 

倉庫にうつる影は3つ。

 

1つは私、1つは女性教官、そして新たに来た人が1人 

 

「アオイ一曹、遅かったじゃないか」

「いえ、こんなに面白い事になってるとは知らなかったもので」

 

アオイ一曹と呼ばれた、青髪の女性は答えます。

 

ブルーオーシャンのような青髪ロングヘヤー。

線は細く、出るとこも出ていない、スレンダーな女性ですが。

 

目元に白くて、長い鉢巻を巻いています。

 

「差し支えなければ、なぜ鉢巻を」

「なら、差し支えるので答えません♪」

 

「あっ、いや、すみませんでした」

「冗談、ですよ」

 

アオイ一曹こと、鉢巻女性はゆるやかに答えてくれます。

 

「これ、は生まれつき必要なもので」

「目に鉢巻をまくことが、ですか?」

「まあ、アクセサリーのようなものだと思っていただければ」

 

現代のファッションアイテムという奴でしょうか。

 

アッハイっという感じで鉢巻女性と握手を交わします。

 

「もう1人はキイロ訓練生なのだが────目下、遅刻中だ」

「寝坊、ですね。死ぬほど訓練する誰かのせいです」

 

「昨日の訓練は夜中になる前には切り上げたんだが」

「訓練、は昼までの予定でしたよね?」

 

女性教官と鉢巻女性は睨み合い、笑い合います。

 

その様子は、息の合った二人といった感じで、信頼を感じます。

 

[[[────時報です。現地時刻7時になりました]]]

 

スピーカーからの声が響きます。

 

反響しているあたり、各処で同じ音声が流れているのでしょう。

 

「では、鬼殺し教官。私は用事があるので」

「鬼殺し、教官……?」

 

聞きなれない名です。

 

いえ検体番号Hだからエイチの私が言えたことではないんですけど。

 

『鬼......聞いたことがあるぞ』

「ナビィ、知っているのですか」

『ああ、鬼とはオーガという魔物の一種だ』

 

筋力に優れ、強靭な皮膚は魔法を弾く。また、知性も高く魔法を使うハイオーガも存在する。奴らの肉を食べる時は、魔力に酔いに気をつけることだ。

 

────真偽が分からない知識をペラペラと話す、幻聴《ナビィ》。

 

「あいかわらず物知りですね」

『当然だ。伊達に生きているわけではない』

「年の功といわけですか」

 

無駄話の感じもしますが、知らない話ゆえ聞き入ってしまいました。

 

結局話をまとめると、【鬼殺し】とは、オーガを屠った二つ名という事でしょうか。

 

「実は昔、鬼の化け物と対峙する羽目に────」

「冗談、を。いつも【鬼殺し】というパック酒を飲んでいるからでしょう」

 

「それは、諸説の一つでもある」

「いや、どうみても本説では?」

 

よく見れば、女性教官が飲んでいるパック酒には────【鬼殺し】

 

パック酒故に大量に購入できるのと、瓶に比べて検問をすり抜けやすい為、鬼殺し教官、愛用の酒らしいです。

 

「さっきの尊敬を返してくれませんか……」

「ほら、言われていますよ」

 

「が、頑張ればオーガだって倒せるからなッ」

「それ、ホントですか」

 

「シュミレータ上でならと前につくが」

「微妙、に反応に困る発言ですね」

 

鬼殺し教官は、盛大にわざとらしい咳を、一つ。

 

「とりあえず、コレを渡しておく」

 

渡されたのは、小さい板です。

 

掛かれている文字は[基地内専用仮ID]

 

「基地内用の仮パスだ。壊すなよ、部屋に入れなくなるぞ?」

「普通、は壊れませんので大丈夫です」

 

伝えたいことは伝えたばかりに、鬼殺し教官と、鉢巻女性はどこかに行ってしまいます。

 

彼女たちは彼女たちに、実は忙しいのかもしれません。

 

「部屋番号は304ですか」

 

地図も無ければ、土地勘もないので、部屋がどこにあるのかすらわかりません。

 

本来なら、第一に部屋を確保。次点で基地の探索というところですか。

 

「外でも眺めてみますか」

 

倉庫の巨大なシャッターを通り抜け、

 

ブオオオと少女の髪を揺らすは、乾いた風。

 

まぶしい。コンクリートの地面を焼くように、頭上の太陽は2つ。

 

「────ここで死んでも、兄弟の元に帰れるんでしょうか」

 

そんな疑問は、再び吹く乾いた風が、消し去っていくのでした。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。

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