【異世界前線基地/倉庫 [地球時刻7:00]】
天井につるされたライトは節電の為、切られており、窓からの日差しのみが倉庫をてらします。
体育館程の内部には、鎮座する金属の塊、大小さまざまな木箱。
入り口近くには、数人の人影がありました。
「戦鋼整備員、集まれッ」
パック酒を咥えた女性は声を飛ばします。
「今日の連絡事項を伝えるッ」
黒スーツに、黒ポニー、パック酒を咥えていなければ、凛々しい女性と言ったところです。
そんな様子を見て、口を開くのは整備員達。
「今日もキレッキレですね、教官《きょうかん》殿」
「パック酒は捨ててくださいよ、教官《きょうかん》殿」
「ちなみに、寝癖ができてまっせ、教官《きょうかん》殿」
「へっ?」
教官とよばれた女性が咥える、パック酒が下に落ち────
「────なっ、髪は直したはずだッ」
右手でパック酒を受け止め、左手で髪を抑えます。
ですが寝癖には弾性がるようで、髪を抑えたところでもとに戻っていきます。
「うぐぐぐ……」
数回のねぐせ攻防戦をおえて、女性教官は諦めます。
「れ、連絡事項があるッ!!」
「「「イエスッ、マム!!!」」」
整備員の声はよく響きます。
彼らの一糸乱れぬ行動は、朝から満足、と言わんばかりの動きです。
「よろしい、今日は予備隊員が配属の予定だ。よしなに頼む」
「で、その予備隊員はどこですか?」
「到着する時刻、ではあるんだが」
女性教官は手に付けた時計を見ます。
「配送に遅延でも起きたか」
「でも搬入の荷物は時刻通りでっせ」
「リストの確認をきちんとしたか?」
女性教官が横を見ても、包装に包まれた塊と積み上げられた木箱のみ。
「ふむ、妙だな────」
ドンドンッ。重音が倉庫内に響きます。
「銃声? いや破砕音かッ」
即座に武器を構える、女性教官。
頭をよぎるのは、地面及び外壁からの魔物の侵入です。
「音源はどこからだッ」
「荷物ほうから聞こえていますっ」
整備員はスパナを構えながら、必死に叫びます。
女性教官が耳を澄ませば、箱の一つから破砕音が響きます。
その箱のタグは[精密機器]。
「野性的な精密機械を注文した者は」
「まさか、俺達が好きなのは大人しい子ですよ」
「ならばこれは“荷物に紛れていた”と」
「ですな。いつもは数が少ないですが、今日は一つ多い」
女性教官は整備員に指示をだし、荷物の周囲を取り囲ませます。
バキバキ。破砕音が変わり、箱耐久値は限界にのように聞こえます。
「気を付けろ、何が出てくるか分からんぞ」
「そんときゃ、そん時ですよ」
「頼もしいな────来るぞッ」
スドンッ。木箱は木片を散らして爆散します。
整備員、女性教官は構えをとりますが、
最初に、聞こえてきた音は魔物どもの叫び声ではなく、
─────少女の声。
「よ、ようやく出れました」
「えっ、いや、ナビィの案でしょう」
「そうですが……へっ、囲まれている?」
そこにいたのは、独り言をぶつぶつと話す少女でした。
「「「「……⁉」」」」
呆然とする女性教官と整備員。
少女も状況を飲みこめず沈黙をするのでした。
暫し沈黙へて────
「ほ、本日配属になりました。エイチです」
少女はぎこちない敬礼をおこなうのでした。
◇◆◇
少女こと、私は首をかしげます。
「おかしいですね、敬礼は完璧なハズ……」
上からの指示通り、荷物として異世界スーアまで輸送。
少々手こずりましたが、時刻通りに到着したと思います。
(なのに、何故私は注目されているのでしょうか?)
周りに集まるは整備員達です。
彼らは、あーだ、こーだと会話を始めます。
「黒髪短髪少女ですか」
「異世界に来る女だぞ。どうせ戦闘民族《ゴリラ》だ」
「ですが、無表情黒髪ロリッ子。評価値は高めですが」
「もしだ、ゴリラでは無かったら」
「拙者性癖にドストライクでござる」
「やはり初手は友達から言ってみるか?」
「馬鹿が、安パイを取るなら一週間様子見だろ」
「(────やはり妙に注目されてます)」
服装に不備はないはずです。
きちんと支給された服を着ていますし、靴も軍隊用のを揃えました。
「(変装用のカツラがズレているのでしょうか?)」
幻聴《ナビィ》曰く、“ハゲに人権はない”だそうですが。
そんな幻聴《ナビィ》からの呆れた声が届きます。
『いや箱を割った時点で注目の的だろ』
「ですが脱出の為には仕方なかったので」
『もう少し優雅に割る必要があったな』
「確かに皆さんを驚かせてしまったかもしれません」
ですが、箱輸送はいつものことで。
現地で、箱の扉が開かないことも、よくあることでした。
(まあ、個人的にはよく寝れて満足なんですけど)
呆れた馬鹿だ、とは脳内の幻聴《ナビィ》の感想です。
そんな雑談を脳内でしていると、女性教官の声が響きます。
「静かにしろッ。疑問は最も。だが
「「「サーイエスマムッ!」」」
整備員達の視線が一斉に、女性教官に向きます。
木の葉を散らすが如くとは正にこのこと、女性の発言はそれほどにまで重いものなのでしょう。
「よろしい。ならば作業に戻れ」
「「「了解しました教官殿」」」
整備員達はバラバラになり各々の作業に戻ります。
一人ちょこんと残された、私はどうすればいいのでしょうか。
(とりあえず整備員達と似たような行動をとるべき、ですかね)
そう思い一歩を踏み出そうとしますが、
「────エイチ。貴様には追加の業務連絡だ」
女性教官に私は呼び止められるのでした。
◇◆◇
倉庫にうつる影は3つ。
1つは私、1つは女性教官、そして新たに来た人が1人
「アオイ一曹、遅かったじゃないか」
「いえ、こんなに面白い事になってるとは知らなかったもので」
アオイ一曹と呼ばれた、青髪の女性は答えます。
ブルーオーシャンのような青髪ロングヘヤー。
線は細く、出るとこも出ていない、スレンダーな女性ですが。
目元に白くて、長い鉢巻を巻いています。
「差し支えなければ、なぜ鉢巻を」
「なら、差し支えるので答えません♪」
「あっ、いや、すみませんでした」
「冗談、ですよ」
アオイ一曹こと、鉢巻女性はゆるやかに答えてくれます。
「これ、は生まれつき必要なもので」
「目に鉢巻をまくことが、ですか?」
「まあ、アクセサリーのようなものだと思っていただければ」
現代のファッションアイテムという奴でしょうか。
アッハイっという感じで鉢巻女性と握手を交わします。
「もう1人はキイロ訓練生なのだが────目下、遅刻中だ」
「寝坊、ですね。死ぬほど訓練する誰かのせいです」
「昨日の訓練は夜中になる前には切り上げたんだが」
「訓練、は昼までの予定でしたよね?」
女性教官と鉢巻女性は睨み合い、笑い合います。
その様子は、息の合った二人といった感じで、信頼を感じます。
[[[────時報です。現地時刻7時になりました]]]
スピーカーからの声が響きます。
反響しているあたり、各処で同じ音声が流れているのでしょう。
「では、鬼殺し教官。私は用事があるので」
「鬼殺し、教官……?」
聞きなれない名です。
いえ検体番号Hだからエイチの私が言えたことではないんですけど。
『鬼......聞いたことがあるぞ』
「ナビィ、知っているのですか」
『ああ、鬼とはオーガという魔物の一種だ』
筋力に優れ、強靭な皮膚は魔法を弾く。また、知性も高く魔法を使うハイオーガも存在する。奴らの肉を食べる時は、魔力に酔いに気をつけることだ。
────真偽が分からない知識をペラペラと話す、幻聴《ナビィ》。
「あいかわらず物知りですね」
『当然だ。伊達に生きているわけではない』
「年の功といわけですか」
無駄話の感じもしますが、知らない話ゆえ聞き入ってしまいました。
結局話をまとめると、【鬼殺し】とは、オーガを屠った二つ名という事でしょうか。
「実は昔、鬼の化け物と対峙する羽目に────」
「冗談、を。いつも【鬼殺し】というパック酒を飲んでいるからでしょう」
「それは、諸説の一つでもある」
「いや、どうみても本説では?」
よく見れば、女性教官が飲んでいるパック酒には────【鬼殺し】
パック酒故に大量に購入できるのと、瓶に比べて検問をすり抜けやすい為、鬼殺し教官、愛用の酒らしいです。
「さっきの尊敬を返してくれませんか……」
「ほら、言われていますよ」
「が、頑張ればオーガだって倒せるからなッ」
「それ、ホントですか」
「シュミレータ上でならと前につくが」
「微妙、に反応に困る発言ですね」
鬼殺し教官は、盛大にわざとらしい咳を、一つ。
「とりあえず、コレを渡しておく」
渡されたのは、小さい板です。
掛かれている文字は[基地内専用仮ID]
「基地内用の仮パスだ。壊すなよ、部屋に入れなくなるぞ?」
「普通、は壊れませんので大丈夫です」
伝えたいことは伝えたばかりに、鬼殺し教官と、鉢巻女性はどこかに行ってしまいます。
彼女たちは彼女たちに、実は忙しいのかもしれません。
「部屋番号は304ですか」
地図も無ければ、土地勘もないので、部屋がどこにあるのかすらわかりません。
本来なら、第一に部屋を確保。次点で基地の探索というところですか。
「外でも眺めてみますか」
倉庫の巨大なシャッターを通り抜け、
ブオオオと少女の髪を揺らすは、乾いた風。
まぶしい。コンクリートの地面を焼くように、頭上の太陽は2つ。
「────ここで死んでも、兄弟の元に帰れるんでしょうか」
そんな疑問は、再び吹く乾いた風が、消し去っていくのでした。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告がありますと、作者が喜びます。