【城壁基地・仮想訓練室/内部 [現地時刻13:00]】
『────そういえば、涙はもう収まったか?』
楽しそうに語るは、脳内の
末代までプラモのネタを擦ってやろうという、魂胆が伺えます。
「な、泣いてませんからっ」
そう、頭に!マークをつけて反論するは、
現在座っているのは、仮想訓練室の操縦席。
つまるところ、気を取り直して訓練再開となります。
「休憩もできたので、やる気も戻りましたよ」
『全く、手間のかかる奴だ』
「なんかいいました、ナビィ」
『いや、何でもない』
ふんすっ、と意気込む私に対して、脳内の
「────では、今日こそクリアをして見せます」
金髪奥の瞳に、“本気”の光が宿ります。
──
─────
───────
「無理です」
『いや、まだ開始30分だが……』
初手ゴブガキガキガキ────おもわず、目から光が消えました。
「いやいや、クソ敵エンカウント、3体ですよ、3体っ」
別に、ゴブガキに
初日のトラウマが数秒で蘇りました。
『アレぐらい、躱して見せろ』
「無茶言わないでくださいっ」
ゴブガキを目視した時には、手遅れなんですよ。
眼からの信号が脳に送られ、手が動くまでだいたい1秒。
その1秒の間に、だいたいゴブガキに狩られます。
「しいていうなら……もう少し体が動ければワンチャン、ですかね」
『まあそうでもあるな』
なにか含みがありそうな、幻聴の発言。
もしかして今の私の言葉は、現状の打開につながるのかもしれません。
(体を早く動かす方法、ホウホウ、ほうほう……)
「そうですッ、強化魔法で自分を操ればいいのでは?」
『ふふっ────いや、やってみれば分かるか』
言いたいことがあるなら、言って欲しいのですが。
「まあ、いいです────
極彩色の輝きが放たれ、自分の体に淡い光が宿ります。
自分の体を自分で動かすのは変な感覚です。
「では早速、右手を上げ────ガハッ」
盛大に操縦席に頭をぶつけました。
操縦席に座っていたのが、不幸中の幸いですね。
(てか、あれ? どうして頭をぶつけました)
私、腕を上げようとしただけですよね?
『内外の魔力同士が影響しあって、意図していない力が働くというのが定説だ』
「ど、どういうことですか?」
『体内の魔力との摩擦みたいなもんだろ』
「その、どういうことですか?」
『つまり、貴様が未熟ということだ』
「そんなヤケクソな回答でいいんですか……」
打ちつけた頭は、まだ痛いです。
操縦席から見上げた天井には、チカチカと光る無数のスイッチと電灯。
(あーあ、こんな場所にあるせいで、スイッチ押すのも大変なんですよねー)
身長が低いのもありますが、避けるために天井スイッチでパラメータをいじったりと、ツイスターゲームをやっている気分になります。
せめて、もう近くにあれば、楽なのですが────
「いや、逆ですか」
わざわざ、近づいて素早く押そうするのが、間違い。
「つまり、操縦席に強化魔法をかければいいんですねっ」
『いや頭大丈夫か?』
「ナビィっ、私は真剣なんですよっ」
『そもそも、そんな場所に魔法をかけてどうするんだ?』
「────スイッチを押す動作が短縮されます」
『普通に押すのと1秒ぐらいしか変わらんだろ』
「ですが、
『やってみればいい。もっと根本的な問題があると思うがな』
「もちろんです」
痛くなければ覚えませぬの精神でいきたいと思います。
◇◆◇
【城壁基地・仮想訓練室/内部 [現地時刻14:00]】
「ぐぬぬっ」
『ほら見たことか』
数分後、操縦席で頭をかかえるは、金髪少女。
「妙案だと思ったのですが……こ、こんな、落とし穴があるとは」
考えは自体は良かったです。実際、スイッチを押すのは早くなりました。
ですが、戦闘状態に置いて、任意のスイッチを押すことが────不可能です。
(右に躱すときと、後ろに躱すとき、必要なのは別のスイッチですからね……)
『つまるところ、思考能力の問題だ』
「考える速さって事ですか」
『そうだ。判断が早いほど、有利になるのは基本だ』
と、言われましても私の判断能力は普通です。
アニメの様に超スピードでの反応とか無理なんですが……
「どうにかなりませんかね、ナビィ」
『思考分割の魔法は、貴様には早すぎる』
「そんな魔法もあるんですか」
『私レベルになって使いこなせる魔法だが、な』
教えてください、という前に幻聴には釘を刺されてしまいました。
『全く────馬鹿は大人しく倒されておけ』
「なっ」
『本来は、倒されて経験を積んで、判断能力は上げるモノだ』
幻聴はまるで自分の経験を話すように語ります。
『そうやって頭打ちした時、魔法に頼るのが基本中の基本だ』
「でも現状、魔法も判断能力も頭打ちしてますしー」
『魔法がか? 私に言わせれば魔法を口に出しているところで3流だな』
「ぐぬぬぬ、そこまで言わなくても────いや、口に出す?」
私は手を動かしながら、パクパクと口を動かします。
(そうです、わざわざ頭で考える必要なんてないじゃないですかっ)
────発言して、動きと、結びつける。
毎回考えてスイッチを押そうとするから思考がパンクするのです。
ならば、先に動きを決めて、口に出せばいい。
という訳で、
「ナビィ、私の頭は大丈夫なので、これからやる事に心配しないでください」
『ふっ、誰が貴様の心配なぞするものか』
という幻聴の言葉も頂けたので、練習です。
強化魔法をつかって、脳内でボタンを押すイメージをしながら、
「回避っ」
合わせて、操縦管も左右に動かします。
(まだ、ボタンを押す感覚と、操縦管を捻るのにラグがある気がします)
もう少し、反応を早くして、
「────回避、回避、回避」
ガチャガチャ操縦管を動かし、脳内でボタン。
この作業を発言と同時に、反射的に出来るようになるまで。
「────回避、回避、回避、回避、回避っ!!」
『あのー、だな。頭、大丈夫か?』
「大丈夫ですっ、回避っ」
幻聴《ナビィ》に心配されながらも、1000回以上の練習を越え、なんとか感覚を掴みました。
(あとは、実践あるのみですね)
体を屈ませ、操縦席したの電源を入れます。
[戦闘システムスタンバイ────
無機質な音と共に、画面に表示される仮想戦場。
相変わらずのグラフィックとともに、2面が始まります。
(探知機に敵の反応は無し────ですが)
画面に映るは、ゴブリンのガキ。
振り上げられた細い両手は、幾度も見た光景です。
(あいかわらず探知機にも映らず、襲ってきますかっ)
「いつもなら、ここで死んでますけど────」
今回は、そのいつもじゃないって事ですっ!
「────回避っ!!」
反射的に辿られるは、幾多の練習行動。
右の操縦棒を押し。
左の操縦棒を引く。
頭部2つ目のボタンを押し、推力の切替。
斜め横のスイッチを押して、腰部分の連結を緩和。
右のペダルを軽く。
左のペダルを重く。
(ゴブガキの攻撃は────当たってないようですね)
顕在するは、無傷の戦鋼。
画面に映るは、攻撃が外れて無防備な背中。
「貰いましたァっ!!」
今までの恨みを込めて、一撃。
直撃するのは
ゴブガキは、ポリゴンになって飛散します。
『────やるな』
脳内から聞こえるは、幻聴の賞賛。
珍しくナビィがほめてくれています。
「へへっ、もっと褒めてもいいんですよ、ナビィ」
『これ以上は過剰だろ』
「またまたー、そんな事いってー」
『早く、私より画面に集中した方がいいぞ』
「────えっ?」
画面に映るは、ゴブガキの2体目。
すでに腕は振り下ろされており、戦鋼のゲージは一瞬で0に。
「あれ? 私の初勝利は……」
『だから過剰といっただろ、馬鹿者』
ふぎゅーと再び魂が抜けそうになる、
静かになった仮想訓練室には、戦鋼が大破したことを伝えるメッセージだけが力強く映っていました。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。