戦鋼の通信機が揺れます。
[キイロ機、戦鋼はどうだ]
「エンジン安定、操作系統良し、異常ありません」
[そうか、なら寝ている整備員共にお疲れって言っておけ]
[キイロ機、出撃許可が出た。グッドラック]
「────キイロ機、戦鋼【PN-K2改】いきます」
◇◆◇
【城壁基地・外部/城壁外周 [現地時間13:00]】
探知機には、△(褐色大尉機戦鋼)の反応が。
画面を見れば、新型戦鋼らしい流線形の形状です。
「でも、あんな身軽で大丈夫なんでしょうか」
褐色大尉の武装は、大型拳銃が2丁。
37mmリボルバー────人用の拳銃をただ巨大化した拳銃です。
(褐色大尉は、いつも通りの装備と言っていましたが……)
自分は、突撃銃と大盾のガチガチ装備です。
『私は身軽な方が好きだがな』
そんな声は、脳内の幻聴から。
「せめて盾は持つべきです」
『要らんだろ。邪魔なだけだ』
「コレだから、盾軽視の人材が生まれるんですよ」
研究所時代でも盾はあれば真っ先にとっていましたし。
「いいですか、盾というのは防御以外にも使えまして」
『────先手必勝で殺せば問題なくないか?』
「全員が全員、脳金ではないんですっ」
そもそも、戦鋼の装甲が薄いので────むっ。
(後方の草むらですか……)
通信機のスイッチを入れて、連絡。
「ッ4時の方向、敵来ま「ドンッドンッ」────はいっ?」
戦鋼の頭上スレスレを通る、銃弾2発。
眼をパチクリさせた時には、探知機には味方青点のみが表示されていました。
「ナビィ、今、敵がいましたよね?」
『末恐ろしい反応速度だな』
珍しく唖然としている幻聴。
日ごろの褐色大尉を見ていると、私も現実を疑いたくなります。
(やはり大尉の名は伊達ではないということですか……)
通信機のランプは発光します。
[あー、大丈夫、大丈夫、反応できるから]
私たちの気も知らず、褐色大尉からは呑気な声が聞こえてくるのでした。
◇◆◇
【城壁基地・外部/城壁外周 [現地時間14:00]】
あれから数匹の魔物を、屠った後────
[分かってたけど、心配はなさそうね]
通信機越しの、褐色大尉から御墨付きを貰いました。
「あのー、私が倒したの2匹だけなんですが、大丈夫なのでしょうか?」
[大丈夫、訓練生でそこまで動ける奴はいないから]
「それ大丈夫なんでしょうか……」
[あー、うん。慣れれば、貴方も私みたいに出来るわよ]
褐色大尉の様にとは、探査機よりも、私の反応よりも、早く敵を仕留めるという事です。
(なんなら、ナビィの反応よりも早く魔物の反応が消えてましたし……)
感覚としては、下手なホラー映画より怖いかもしれません。
そんな私の気持ちも知らず、通信機は光ります。
[本来、この任務は2人か3人で行うものなのだけど]
「てっきり一人で行うものだと」
そう言えば、始める時も帽子曹長から引き継ぎを行いました。
[どこも、人手が足りなくてねー]
「ここ一応は女王艦隊の部隊だったような」
[元々は結構いたんだけど、ウチの戦鋼乗り、ここ半年で3人も病院送りにされちゃってね]
「そうなんですか」
[んで、大尉権限で人手が足りないって言ったら、訓練生送って来るし]
「なるほど、私が来た理由はそれですか」
[まあ貴方は訓練生の中でも大当たりだから、いいんだけど……]
褐色大尉の戦鋼は、森の手前で止まります。
[基本、森の中までは入らなくてもいいわよ]
「森で魔物が巣を作ったりしないんですか?」
[だから、定期的にチームを組んで“間引き”を行うわ]
「大変な作業ですね」
[ウチは半分絶壁だから、まだ楽な方よ]
森の境目が続く先に存在するのは、断崖絶壁。
光りさえも差し込まないのが、断崖の深さを教えてくれます。
(確かに、地上を歩く魔物なら来れませんが)
「鳥系の魔物とか、飛んできそうですけど」
[それが、警戒してたけど一向に来ないのよね────]
時間の無駄だから、自動防衛システム便りになってるわ。
基本、城壁の周りをぐるぐるして、時間まで見張るのが仕事。
面倒だったら、城壁の上から撃ち殺してもいいわよ。
「────私も、よくやってるし」
褐色大尉は簡単に言いますが、基地の城壁って見える以上に高いです。
戦鋼3個分、だいたい10mぐらいですかね。
(戦鋼を作る時に、ミサイルを盗むのも何気に大変でしたし)
流石に、あの距離からの狙撃は────
「ナビィ、来るときに撃ち殺された魔物いましたよね」
『いたな』
「アレ、森の中腹ぐらいだった気がするんですけど」
『ちなみに魔力はここから感じたぞ』
もしかして────拳銃であの距離を?
ですが、
「実はレイニー大尉って、結構ヤバい人だったりするんでしょうか」
『日ごろの行いから見て、危ない奴ではあるな』
通信機のランプが光ります。
[────貴方に言われたくないわよッ]
どうやら音声が入りっぱなしになっていたようです。
[じゃあ、私は業務に戻るから後はよろしく]
「あっ、はい」
画面に映るは、基地に戻っていく戦鋼。
アレ、通信機が光ってますね?
[忘れてた────人型耳付きの魔物を見たらすぐに連絡をよこしなさい]
「人型、耳付きですか?」
[そうよ、多分、貴方だけじゃ戦力不足になるから]
そんな不穏な発言と共に、戦鋼の通信は切られるのでした。
◇◆◇
【城壁基地・格納庫 [現地時間19:00]】
あの後、魔物らしい魔物を討伐するだけで、人型耳付きの魔物とも遭遇するとこもなく、警備は無事に終わりました。
「今までの事を考えると、一波乱ありそうと思っていましたが」
『確かに今までの事を考えるとな』
「明日は槍でも降るというやつでしょうか」
『身構えているときには、平穏という事だ』
(まあ偶には休憩も────いえいえ、緊張感を失うほうが駄目ですね)
慢心は死につながると、
「ぎりぎりー、間に合ったー」
そんな考え事をしていると、ナット少女の声が聞こえてきます。
完全に体が回復したのか、格納庫によく響く、元気な声です。
「どうしたんですか」
私は操縦席から出て、ナット少女を見ます。
灰色髪と髪留めのナットが乱れているあたり、かなり急いで来たようです。
「いやー、これを渡したくてねー」
「これは、飲み物ですか?」
見せられたのは、緑色の瓶。
瓶の中にはシュワシュワと揺れる液体が入ってます。
「今日、初実戦だったでしょー」
「はい、おかげで何事もなく終わりました」
「そうそう。だから────お疲れさまの、ジュースだよー」
渡された瓶のラベルは[シズオカお茶サイダー]
選択は何というかですが、ナット少女が選んだモノです、きっとおいしいハズです。
「じゃー、この後も予定あるからサラバー」
そう言い残し、嵐のようにナット少女は去っていきました。
わざわざ、飲み物を渡す為だけに来たのですか。
「ところで、これ飲まないといけませんかね、ナビィ」
『友から貰った物を、捨てるのか?』
「ナビィ、分かって言ってますね……」
『私は貴様が飲みたくない、と思っていることぐらいしか知らない』
「分かっているじゃないですかっ」
『全く、文句をいうな「へっ?」────右腕借りるぞ』
急に右腕の感覚がなくなります。
瓶の口はスパっと切られ、口に注がれるは、お茶サイダー。
「がぼぼぼぼ(ちょっとナビィ、何をするんですかっ)」
『飲んでみると意外といけるかもしれないだろ』
「がぼおぼぼ(じゃあナビィが飲めばいいじゃないですかっ)」
『生憎、私に飲むための口は無くてな』
口に感じるは炭酸の感覚。
喉に伝わるはお茶のさわやかな味。
ごくごくと飲んでも飽きない新感覚。
「うん、うまいっ」
お茶サイダー思った以上にいけますね。
また一つ、世界の神秘に近づいた気がします。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
誤字脱字報告があると作者が喜びます。